狂騒の花束   作:YOTUYA

4 / 6
第四話

 

 

 表参道地下での激闘後、俺はシノア隊の一時間後に表参道を出発した。

 歩けど歩けど変わり映えのしない荒廃世界。本当に進んでいるのかさえ分からなくなりそうになる。

 気を紛らわせる話し相手もいない。少し前まで三葉たちがいたせいで、妙に静かに感じた。

 任務はあくまであいつらの残党処理。一緒に行動するのは命令違反だ。

 それに、必要以上に三葉やシノアの近くにいるのは気が進まなかった。

 

「あー、考えただけで焼けてくる……」

 

 あの二人の姿を思い出すだけで、再び俺の手が桜色の炎に包まれた。

 

 ━━はしゃぎすぎたわね。しばらくあの感覚は忘れられないわよ。

「はぁー、好きな奴を満足に抱きしめることもできねぇのかよ……」

 ━━気にせず抱きしめればいいじゃない。そして、焼き焦がせばいい。

 

 馬鹿な事を言う。

 そんな振り切れたら、今頃俺は殺されてる。 

 

 ━━だったら、あの時はなんだったのかしら。

「やめろ」

 

 鬼の言葉を引き金に溢れ出しそうになる記憶を掻き消す。

 

 ━━そうして逃げるのよ。あの日のあんたたちは最高だったわよ? 見る人によっては精神を壊すかもしれないけれど、少なくとも私は好きだったわ。

「いつの事だかわかんねぇわ」

 ━━とぼけても無駄よ、ほら。

 

 なにがほらだと困惑する俺の鼻孔に、焦げ臭い匂いが入り込む。向けば、前方で大型の四輪車が黒煙を発しながら佇んでいた。

 それに微かな戦闘の形跡も刻まれている。ここで何かあったことには間違いなさそうだ。

 

「なにしてんだ、あい━━」

 

 その匂いに思考が辿り着くより先に、俺の身体を桜色の炎が纏わりついた。蛇のようにとぐろを巻きながら、足先から頭上までを包み込む。

 気づいた時にはもう手遅れ。掻き消した筈の三年前の記憶が扉をこじ開けて溢れ出る。

 

 彼女特有の甘い香り。

 

 忘れようにも忘れられない、心の深奥に刻み込まれたあの姿。

 あの日、あの瞬間、俺が眼球、舌、透けて見える血管、そこに流れる血の一滴まで(あい)そうとした女。

 

 そして追いついた思考が確信する。

 

 彼女がここにいた、と。

 

「あ、ああああ……ッ!」

 

 溶けてしまっても不思議ではないと思える程に、身体が芯から熱くなっていく。

 

 ━━あははははははッ!! そうよそれでいいのッ!!

 

 鬼の狂気に満ちた笑い声が理性に噛みつく。

 

「ここにいたんだな━━」

 

 ━━さあ! 自我を燃やして咲き誇りましょうッッ!!

 

「━━チェスッッ!!」

 

 

    ★    ★    ★    ★

 

 

「━━ッ!」

 

 荒廃した世界を飛び舞う第十七位始祖━━チェス・ベルは、不意に名を呼ばれた気がして後ろを振り向いた。

 しかし、そこにあるのは果てしない世界の断片と仲間であるホーン・スクルドの姿だけ。

 

「どうかしましたか、チェス」

「いやぁ、なんでもなぁい♪」

「……?」

 

 チェスは確たる答えをひた隠しにしたまま再び前を向く。そこには主であるクローリー・ユースフォードの勇ましい背中がある。

 しかし、彼女は二年前、眼前の男を凌駕するほどの存在感を放つ人間に出逢ったしまった。

 名を藜稜花。彼女が唯一覚えた人間の名である。

 思い出すだけで身体が疼き、喉が渇く。

 

 忘れようにも忘れられない、心の深奥に刻み込まれたあの姿。

 あの日、あの瞬間、私が眼球、舌、透けて見える血管、そこに流れる血の一滴まで(おか)そうとした男。

 

「あはは!」

 

 思わず声が出た。

 すると、いままでずっと前を見ていた主が横目で見つめてくる。

 

「どうしたの、チェス。随分楽しそうだ」

「ごめんなさい、クローリー様ぁ。私、喉が渇いてきちゃいましたぁ」

「そっか。もうすぐいっぱい飲めるから、それまで我慢しとくといいよ」

「はぁい」

 

 そうだ、目一杯喉を乾かして待っておこう。

 

 きっともうすぐ会えるのだから。

 

「稜花ぁ、早く会いたいよぉ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。