女性不信なのにガールズバンドの面倒を見る事になってしまった 作:ひろぽん168
「……皆1番じゃダメかな?」
「「「ダメです」」」
どうしてダメなんだ。皆違って皆いい。それで世界は平和になるっていうのに。
しかしどうしたものか。曖昧な回答では彼女たちは絶対に満足しないだろう。だが僕は別にどのバンドが好きとかない。皆それぞれ良い所があり、決して優劣は付けられないのだ。
「パスパレが1番ですよね?」
「確かに白鷺さんたちのバンドには華があるよね」
この中で唯一プロと言っていいのがパスパレだ。演奏してお金を貰っているわけで、必然的にレッスンも苛烈なものへと変わる。事務所のサポートもあり、この中で最もCiRCLEの使用頻度が少ないのも彼女達で、それゆえに交流が浅いのも彼女達だ。
「貴方たち、そもそも此処を使用した回数が少なすぎるでしょう」
「湊さんの言う通りです。その点で言えば、1番は私たちRoseliaでしょう」
「あら? 回数だけ重ねても愛は深まらないわよ?」
確かに彼女達の言う通り、Roseliaはお得意様だ。他のライブハウスも使っているようだけど、最近は此処を使ってくれているようで、ほぼ毎日見かけている。
まりなも喜んでくれているみたいだし、貢献度で言えば1番と言ってもいいかもしれない。
「いや、それならあたしらも同じくらい来てますよ」
「確かに美竹さんたちAfterglowも結構来てくれるよね」
「そ・れ・に! 私たちは秘密を共有してるじゃありませんか!!」
「上原さん、その話はちょっと……」
張り合うようにして湊さんを睨みつける美竹さん。彼女たちは仲が悪いのか知らないけれど、いつも言い争いをしている気がする。そして上原さんは、何故かあの相談をしてから心の距離をぐっと縮めてきたのだ。
圧倒的な弱みを握られている以上、僕には彼女達に従うしか残された道は無い。加えて此処の使用頻度もロゼリアに匹敵するだろう。もう彼女達でいいんじゃないかな。
「なら、優勝はアフターグ」
「ちょっと待って」
もう面倒だからアフターグロウを1番に決めようと思ったけど、ポピパの花園さんが割って入った。突然の乱入者に他の皆の目もそちらに向かっている。
この子は何を考えているか分からないから苦手だ。嫌いというわけではないけど、積極的に関わりたくはない。
勘違いしてしまうのだ。嫌悪感を表に出してくれれば分かりやすいけれど、内心が読めないからこそ希望的観測を抱いてしまう。
あれ? この子俺の事好きなんじゃね? みたいなアレだよ。モテない男子が誰しも通る道だろう。
「私、魁人さんのこと好き」
「はいぃ?」
「この間皆でシタ時、すっごく気持ちよかった」
「魁人さん!?」
うーん、弦巻さんを核弾頭と称するなら、花園さんはクレイモアに近いかな。触れれば起爆する殺人兵器。彼女は正しくそれだろう。
当然僕にそんな記憶はない。おそらくこの間、市ヶ谷さんの家でセッションしたことを言っているのだろう。随分長い事お邪魔していたし、その間何度も花園さんから質問された。
「魁人さんのって、太くて、ごつごつしてて、触ってると安心するんだ」
「お、大人だ……」
勿論彼女が言っているのは僕の指だ。正直ボディータッチは心臓に悪いのでやめて欲しいが、花園さんはまるで子供のような無垢さで僕の指に触ってきたのだ。
「魁人さん? 少しお話を聞かせてもらえるかしら?」
万力のような握力を発揮する白鷺さん。流石女優と言うべきか、ゴリラの演技もできるなんて幅が広いなあ。
「お、おたえ? いつの間にそんな関係に……」
「沙綾も一緒だったでしょ? すっごい気持ちよかったって言ってた」
「山吹さんも?」
「してません!!」
当然困惑はポピパ全体に伝わる。哀れなことに山吹さんは、花園さんに問いを投げてしまったがために犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな……
恐ろしい顔をして振り向いた白鷺さんだが、彼女はどうやら公序良俗に厳しいらしい。
女子高生と致すことは犯罪だし、こうして僕に詰め寄るのもそういった面を危惧してのことだろう。芸能界ってコンプライアンスに厳しいって言うし、そこをきっちりしてるのは好感が持てる。
やった、やってないの不毛な争いが続く中、僕は一種の悟りを開いていた。
―――これはもう、手に負えない。
「もしもしまりな? ちょっと会議室に来てくれない?」
混迷とした場は、絵具をぶちまけたようなマーブル模様を描いていた。
そして無力な僕には、それを真っ白に戻すことも手直しすることもできない。だから備え付けの内線で、受付に居るはずのまりなに救援要請を送った。
『え? 何かあったの?』
「君には聞こえないのかい? この部屋に飛び交う怒号が」
『確かにちょっと騒がしいとは思うけど……』
「この場を収めるためには、まりなが此処に来ることが最善なんだ」
『ええ…… でも私、今手が離せなくて……』
スケープゴートを用意しようと思ったけど、まりなの返答は芳しくない。だが僕もここで引き下がるわけにはいかないのだ。何せ命がかかっている。
「頼む。僕には君が必要なんだ」
『っ! わかった! 今から行くね!!』
よし、これでどうにかなりそうだ。
がちゃりと慌ただしく切られた電話を置いて、僕は言い争いを続ける彼女たちを遠巻きに見つめるのだった。
「で、魁人君はどうするんですか」
「……まりな、怒ってる?」
「怒ってません」
いや明らかに怒っているだろう。事の経緯を話している間から、どんどん不機嫌になっていったのだ。
「気に障ったのなら謝るよ。確かに無理矢理呼び出したのは申し訳なく思ってる」
「まあ確かに? 仕事をほっぽりだして駆け付けたと思ったら、まさかガールズバンドに言い寄られてるとは思いもしませんでしたよ、ええ」
「言い寄られてたって……」
絶対違うだろ。あれは獲物を見定める獣の目だった。
そして彼女たちは依然、やったやってないの口論を続けている。曰く、ご飯を奢ってもらっただの、マッサージをしてくれただの、明らかに僕ではない誰かにやってもらった事を自慢げに話していた。
このままじゃ打ち合わせどころじゃない。
「頼むよまりな。君ならどうにかできるだろ?」
「あのね魁人君、私はそんなに都合のいい女じゃないの。自分の身を切らずに場を収めようなんて、考えが甘いんじゃない?」
そう言われると何も言い返せないな。まりなのいう事は正論で、間違っているのは僕だ。そんなこと百も承知だとも。
だからもう、覚悟は決めた。
嫌々とはいえ、与えられた仕事を最後までこなさないのは僕の流儀に反する。
「僕はどうなってもいい。どうにかしてこの場を収めてくれ」
「ふーん?」
罵声を浴びせられようとも構わない。この世は結果が全て。過程を見てくれる人間は少数なのだ。
「わかったよん。そこまで言うなら何とかしてくれる」
「ありがとう」
よかった、これで当面の危機は去っただろう。後でまりなに何かを要求されるだろうが、とりあえず今を凌ぐことができた。
「みんな! ちょっと聞いてもらっていい?」
「あれ? まりなさん?」
声を張り上げるまりなに皆の注目が集まった。
そう、もはや悲劇は幕を閉じた――
さあ刮目せよ、いざ讃えん。その姿に民は希望を見るがいい。
「今日から1バンドずつ、魁人君を貸し出します!!」
さすがはまりなだ、あれだけ騒がしかった室内が一気に静まり返っ―――
はい? 今なんとおっしゃいましたか?
「それじゃあ今日は解散!!」
「ちょ、ちょっ、まっ……!」
僕の叫びが聞き届けられることはなく、皆はどこか納得したような表情で部屋を後にした。
新しく高評価をいただいた方々
☆10
よーた 様
ありがとうございます。感謝します。
シンプルな褒め言葉ありがとうございます。
タルト 様
ありがとうございます。感謝します。
その言葉がどれだけ励みになるか、書いている側にしかわからないと思います。
これからもお付き合いしていただけると嬉しいです。
魁人 様
ありがとうございます。感謝します。
まさか主人公と同じ名前とは驚きました。作中では扱いが悪いと思いますが、どうか気を悪くしないでいただきたいです。
クロメ 様
ありがとうございます。感謝します。
簡単な言葉でも、言ってもらえるだけでとても嬉しいです。どうかこのまま、一緒に作品を作り上げられればな、と思います。
ひょい三郎 様
ありがとうございます。感謝します。
次も読んでもらえる、ということは、非常にモチベーションの向上につながります。
飽きさせないよう頑張っていきますので、温かい目で見守ってくれるとうれしいです。
☆9
伊咲濤 様
カプ・テテフ 様
苺ノ恵 様
〇わ. 様
Morita 様
積怨正寶 様
ありがとうございます。感謝します。
☆8
音々リン 様
零崎罪識 様
ありがとうございます。感謝します。