敵は約10人。さすがにしんどい。
だが、引き下がるわけにはいかない。
もう、この手は血に濡れているのだから。
「てめぇらで終わりか?価値なき命を捨てに来たのは。面倒だから一瞬で終わらせてやるよ...」
ぞろぞろとやってくる10人の男。
右の壁にアンカーを刺し、1番左の男に針を撃ち込んで倒す。そしてアンカーを中心とした円運動の要領で左の壁を蹴りながら男たちの背後に回る。
「散れ」
ワイヤーに男達の首にが引っかかる。それはつまり、アンカーを巻けば首が斬れるということだ。
「ぐおぉぉぉ...」
「...呆気ない、記録する価値もない。」
倒れていく敵。床に流れる鮮紅色の液体。もはや一面真っ赤であった。緋月昇の身体も返り血だらけである。それでも緋月昇に見えるそれはまだ血に飢えていた。それはまるで獲物を狩る狩人の如く。
「...おい、いねぇのか。」
地下に突入する前に奪ったトランシーバーに向けて、いつもより格段に低い声で話す。
「誰か死んでねぇやつはいねぇのかぁ!?」
この手の問いならば『生きているやつはいないのか』と聞くのが普通である。問いかけの先の存在が反応しやすいからだ。だが、先の昇の声は『死んでないやつはいないのか』と言った。それが何を意味するか。問いかけの先の存在はこれを聞いて『全滅したに等しい状態になった』あるいは『全滅し敵にトランシーバーを取られた』という2つの解釈ができる。
だから、トランシーバーからは声は聞こえない。ただ呼吸が聞こえるだけ。そして緋月昇のような何かにとって呼吸さえ聞こえればそれで十分だった。
「2人、園子と夏凜以外に2人か...とっとと消すか...」
ゆっくりと、さっきまで生きていたものを踏みつけていきながら昇であり、昇でないそれは進んでいく。だが数歩進んだところで歩みは止まった。そこに敵はいたのだから。
「ちょうど2人...価値なき人間が2人か...」
「ひぃ...」
緋月昇の左目は紅く光っていた。その上そこには友奈と昇が受けたタタリの紋様が浮かんでいる。そう、この緋月昇であって緋月昇でない部分は、緋月昇に刻み込まれていた天の神の因子であり、それが"人間への"激しい憎悪で励起したのだ。
「散れ」
それは対人戦闘において躊躇の欠片も見せない悪魔に成り下がるものである。
「......はっ」
緋月昇は乃木家突入から15分で敵を殲滅した。それには全く無駄がなく、果たして人の心があったのかはいささか不明である。
天の神の因子の励起が収まったのは敵の全滅を確認してからだ。入念に息の根が止まっているか確認し、全員呼吸をしていないことを確認してからシェルターを開けた。
「のぼるん...」
「昇...」
そこにいたのは2人の少女。緋月昇が守りたかった少女たちだ。
「...ただいま。...武装解除なんてぬるいこと、俺にはできなかったよ。」
それだけで言わんとしてることは通じた。
返り血だらけの全身で、絞り出すような一言。ただそれだけでいい。
三好夏凜は目を背けて。
乃木園子は目をそらさず。
2人は口を揃えて言った。
『ごめん...』
次回、第13話「私の太陽は」
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