陽本楓花は両親と3人家族、父は大赦の神官であり、母は書史部に所属していた。だが楓花は両親の意向で大赦に所属することはなく、普通の中学生として過ごしていた。だが、神樹の消滅と時を同じくして両親は砂と化し、楓花は天涯孤独となってしまった。幸い楓花には父方の伯父夫婦がいたためそこに引き取られたのだが、そこで仕事のストレスや神樹の消滅による混乱を原因として楓花は伯父から暴行を受けたのであった。それに耐えること数ヶ月、楓花は自らの意思で大赦へ入ることを決意した。楓花の学業成績がずば抜けているのは暴行から逃げるための口実だったがそれは意味をなさなかった。だから楓花は逃避することしか選べなかったのだ。
事情を包み隠さず話した楓花は上層部、つまりは三好春信の判断で書史部へ配属された。
「陽本楓花です、よろしくお願いします。」
「よろしくー、書史部臨時部長、緋月昇だ。机そこだから好きに物置いてなー。」
「え、あの部長仕事は...」
「仕事ってもんはひとつひとつコツコツやるものだ。覚えることを覚える。覚えたことをする。そしたらまた新しいことを覚える。勉強と同じだ。だがまぁ楓花。仕事の前にひとつ聞かせてくれ。」
「なん、ですか...?」
「いつから、心に壁を作った?」
その一言が陽本楓花を闇からすくい上げた。陽本楓花を全て見抜いたのは緋月昇が初めてであった。そう、緋月昇との出会いは楓花にとって救いであったのだ。
「...っ!?」
「...その反応...そうか、春信さんが言ってた通り...でも根本は想定よりも深かったというわけか...なるほど。だとするなら俺がまず楓花にすべきことは、心の壁と闇をできる限り取り払うこと、か。」
異常なまでの観察力と推察能力は楓花の心の奥底まで容赦なく突き進んでいく。普通なら拒絶される領域まで真っ直ぐに。
「部長は...どうしてそこまでわかるんですか?」
「得意だからだよ、目で見て、耳で聞くことがね。あと、部長ってのはやめてくれ。堅苦しくて嫌だってのと俺というか勇者部にとっての部長が脳裏にチラつくからな。それに歳もひとつしか違わない、そうだろう?」
「じゃあ...先輩、で...」
「いいね。じゃあ楓花、一番最初の仕事だ。この紙に自分の感情、心が思っていることを思いっきり書きなぐれ。誰も止めやしない。なんならあと4枚くらいあげよう。30分後に戻ってくるから一人でじっくり自分の心に向き合ってみてくれ。」
「え、一人で、ですか!?」
「おうよ。邪魔がない方がいいだろ。書史部は一旦受付止めるから安心してくれ。今、周りに怯える必要なんてないから。」
緋月昇の一言一言は楓花の心を見透かしていて、そこに一筋の光を際限なく降り注ぎ続けていく。
「それじゃまた30分後にな。」
──これが、陽本楓花と緋月昇の一番最初の出会いであった。
その時から陽本楓花にとって緋月昇という存在は太陽のように眩く暖かく、そして同時に触れられず届かない存在になった。
陽本楓花にとっての太陽、緋月昇。だが皮肉なことに、緋月昇は太陽、すなわち天の神由来の力を呼び起こしてしまった。
人歴2年、人の暦に顕れた人ならざる力。
それはまた繰り返される歴史の前触れか、それとも人が完全に神から離れるための最後の試練か。
次回、第14話「十字架は俺だけで」
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