本庁と乃木家襲撃から数日後、大赦書史部記録課はしばらくの休暇に入った。理由は調査隊への同行がそれである。普通なら休みだと喜べるのだが...学生でもある緋月昇と陽本楓花には関係ない。
「いいのか楓花。ここからだとお前の行ってた中学校は遠いぞ...?それに...」
「いいんです。友達がいますから。でも...そうですね。もし3日経っても帰ってこなかったらこの紙に書いてある住所の所まで来てください。私の家です。」
「......それでも向き合うのか。強いな楓花は。...わかった。行ってこい。」
「いってきます、先輩。」
昼、俺と夏凜は部室で喋る。
「それで楓花は実家に帰ったのね。」
「まぁそんなとこだな。」
「そんなとこって...あんたねぇ、浮かない顔してるわよ。まさか可愛い後輩に浮気でもしたとか言わないでしょうね。」
「言うかよ...ただ、楓花を親と会わせていいのか、俺はそれが不安なだけさ。」
讃州第一高校勇者部。部員6名の今年発足した部活である。設立者は風先輩で、去年までは有志の助っ人活動をよくやっていたようだ。
「はー、しかし緋月も立派に上司やってるわねー。しばらく見ないうちになんかもっと大人になってない?」
「かもしれない。」
「雑ね!?久々なんだからちゃんと会話しなさいよ!友奈!次の話題!」
「えぇぇ!?えっと...ひーくん英語教えてー!」
「自分でやれ自分で...というか夏凜と園子がいるだろ...ちゃんと毎日学校行ってるんだからさ...」
「わっしーは私とにぼっしー二人がかりじゃないと教科書すら開かないんよ〜、ごめんねゆーゆ、わっしーの赤点回避はわっしーのためだからね〜」
「なるほど...それでその東郷は?」
「東郷さんは...英語の補習...」
「あぁ...わかったよ友奈。状況が状況だしな...ついでに理科基礎科目と数学もだろ。」
「すごい、なんでわかったの!?」
「顔に出てた。...さてと、どうにも嫌な予感がするんだよな...」
脳裏にこびりついている楓花の物憂げな顔。その中にあった何かしらの期待。
「楓花のこと?親と会わせて云々言ってたわね。どういうことなのよ。」
「...虐待。」
勇者部全員が息をのむ。
「虐待って...まさか緋月それわかっててその子を送り出したとか言わないでしょうね...」
「いや、先輩。これは楓花本人の意思なんです。だから行くなとは言えない。でも...去り際に楓花はこの紙を、楓花の家の住所を書いた紙をくれたんです。3日経っても書史部に戻ってこなかったらここに来て欲しいって。」
「助けてほしいって、ことだよね...」
「だろうなぁ...」
部室全体が少し重苦しい空気になる。
そんなとき、部室の戸がガラリと音を立てて開いた。
「うひゃー、辛気臭いったらありゃしないよ。ぼるくんの仕業かにゃ?」
「あぁ、雪花、遅かったわね。」
「俺のせいにするんじゃないっての...いや俺のせいだけれどもさ......てか、雪花もここにいたのか。まさか勇者部に?」
「まぁね。知らなかったの?」
「なんせ学校来たのが3か月ぶりだからな...って、友奈と先輩は何をそんなに驚いてる?」
「いや、なんで雪花を知ってるのかって話よ...」
「私たちも会ってまだ数日なんだよ?」
あー。それもそうか。
「まぁ細かいことは気にするな。というかそろそろ昼休みが終わるぞ。東郷の補習は難航してそうだな...」
はははと笑ってたらメールの着信が来ていた。楓花からだ。
「楓花...?って、なんだこれ...全く読めねぇ...」
本文にはただ『縺帙s縺ア縺??√◆縺吶¢縺ヲ縺上□縺輔>』とだけ書かれていた。
確かこれ文字化けとかいうやつだよな...東郷に直してもらわない限りは読めない...だが、なぜ楓花は文字化けのメールを送った?メールにおける文字コードは同一のはず。わざわざ文字化けさせたとしか考えられない。それはつまり文字化けさせることによって送信済みメールから内容を読み取られないようにした、ともとれる。まさか。
「楓花や俺の想定の上の事態か...逆探知...って東郷がいねぇ...くそ、タイミングが悪い...なんだ、この文字化けは何を表している、何が起こっている...!」
「昇...何かあったの?」
「東郷を必要としてるってことはパソコン案件ってところだね。文字化けとも言ってるし...ほれ、貸してみ。」
雪花に言われるがまま端末を貸し、数分後雪花は眉間にしわを寄せて言った。
「読めたよぼるくん。極めて単純、ひらがなだけの文字列。一か所だけ復元できなかったけどあの楓花ちゃんならこれであってる。あの文字化けの内容は、『せんぱい、たすけてください』だよ。」
背筋に悪寒が走る。今度は楓花か。
「3日どころか、6時間しか経ってねぇっての...冗談きついぜ...」
緋月昇はまだ、休むことを許されなかった。
次回、第18話「蓄積された痛みの渦」
感想、評価等、お待ちしております。