三好昇は理解者でありたい   作:Feldelt

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緋月昇:杉山紀彰
陽本楓花:石原夏織
でお送りします(敬称略)


第18話 蓄積された痛みの渦

午後の授業を抜け出す訳にもいかず、16時を回ってついに紙に書かれた楓花の家に向かうことができた。出来たのだが...

 

「人気が全くない...」

 

アパートの一室。その扉の向こうには生命を感じない。生活音や人の気配もなく、また電気や水道のメーターも動いていない。

 

「そこの人は引っ越したよ。」

「...え?」

 

不意に声をかけられて、また同時に事実を突きつけられる。なんでもここに住んでいた楓花の親は数日前に忽然とどこかにいったそうだ。

 

「そう、ですか。ありがとうございました。」

「陽本さんだっけ?あの人達愛想悪いし夕方から夜にかけてすっごいうるさいのよ。それにここだけの話、女の人の方にはいくつかアザがあったのよ。関わるもんじゃないわ。」

「...だったらなおさら、優秀な頼れる後輩をそいつらから守らないといけない。」

「そう...優しいのね。」

「人として当然のことです。困った人がいたら手を差し伸べる。讃州第一高校勇者部のモットーですよ。」

 

一礼をしてその場を去る。とんだ無駄足だったけどやるべきことは見えた。だが...だとしたら楓花は一体どこにいるんだ...?

 

 


 

 

それから2日後、楓花からの連絡はなにもなく勇者部活動も身が入らず、部室で針金を変形させる作業をすることで思考を必要最小限にしていた。

 

「緋月君、いつにもまして難しい顔をしているわね。ここ数日ずっと...」

「なんでも楓花ちゃん...ぼるくんの後輩からSOSが来たのに手をうちあぐねてるんだよ。」

「...なるほど...」

 

部室には俺と東郷と雪花。三人寄れば文殊の知恵とか言うが今この状況で思いつく知恵なんて...いや待てよ。

 

「東郷!」

「なに!?いきなり大声出して...」

「楓花のスマホをハッキングして場所割り出すことできるか?」

「えぇ...できるけど...電源が入ってなかったらどうしようもないわよ?」

「それでも頼む東郷...やってくれ。」

 

万に一つの可能性、スマホの電源が切れてないという可能性。最後の一手。東郷美森に全て賭ける。

 

「位置情報だけでいいのね?」

「あぁ、わかればすぐに飛んでいく。」

「ぼるくんの場合飛んでいくは物理的だからにゃあ...それで、場所わかった?」

「急かさないで、雪花。けどこれぐらいなら、御茶の子さいさいよ。」

 

弾き出された座標。それは道路の上だった。つまり、楓花は車の中にいる...?

 

「自動車の中ね。それに場所は大橋の近くよ。ここからだとかなり遠いわ。幸い電池残量はあるから追跡はできるけれど...」

「十分だ。ありがとう東郷。」

 

骨折と偽装するギプスを外し、アンカー、バレット、新造したブーストアタッチメントをつける。

 

「はぁ...行ってくる。追跡は任せた!」

 

まず下駄箱に向かい、外靴に変えてから緋月昇は夕焼けの空に躍り出たのだった。

 

 


 

 

夕焼けの中を疾駆して約30分。ようやく大橋市についた。東郷から送られてきた座標はここ数分ある所から動いていない。そこが楓花の居場所だろう。もちろん破棄されてそこにあるという可能性もあるが、それを気にしてはいられない。

 

「目標位置直上現着...ただ3階建て小規模マンションだから上から行くのは迷惑かける可能性が高い...ちゃんと正規のルートを取るしかないな...」

 

マンションの中に入り込み、座標の部屋に向かう。が...存外すぐに見つかった。

 

203号室。決して薄くはない壁の向こうから聞こえる叫び声。この声を俺は聞き間違えるはずがない。これは陽本楓花の声だ。

 

「......!」

 

まずインターホンを鳴らす。だが反応はない。その後数回鳴らすも、やはり反応はない。冷静になればここまで聞こえる叫び声だ。インターホンが聞こえるはずもない。

 

「...やるしかない...」

 

作業の時に持っていた針金でピッキングをし、一呼吸置いて突入する。廊下と閉じた扉が視界に入るが、なによりも耳をつんざく楓花の叫び声が一番異質。

 

痛いという声、やめてという声、そして声にならない叫び。それはまた再び俺の中にある俺ではない何かを呼び起こすには十分だった。

何も聞こえず、何も見えない。ただひたすらに続く闇に俺は呑まれ...刹那、扉を蹴破り楓花以外の存在二人を視界に捉える。

 

「痛みってもんが何か...教えてやるよ。」

 

俺はそう言った。

 

「せんぱい......?」

 

楓花が俺を認識した時には、またあの時と同じように紅い液体があたり一面に散らばっていた。

 

「悪い、楓花...遅くなった。」

 

3日。そんなに長くないはずなのに、楓花は見違えるほどにやつれていた。服はボロボロで半裸状態。髪もボサボサで、手入れも何も出来ていない。アザも火傷も切り傷も擦り傷もある。

 

「3日です...何も、何も遅くなんてないです...私こそ、ごめんなさい...先輩の忠告...ちゃんと聞いていればよかった...」

 

楓花は泣き始める。痛みの涙ではない、安堵の涙だ。こんな方法、状況で楓花は安心している。

 

「...頑張ったな、楓花。いいよ。痛み苦しみ全部ぶちまけて泣き叫んでいい。全部受け止めてやる。全部。」

「うぅ...せんぱぁぁぁい!!」

 

ズタズタのボロボロで、それでも楓花は3日を、地獄のような3日を過ごした。

 

「強いよ...楓花は...」

 

月が昇る前の夜のはじめの救出劇はこれで幕を下ろした。この事件もまた、大赦上層によってもみ消されたというのは別の話だ。

 

 

 

 




次回、第19話「幸せの資格」

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