翌朝、仕事を始めるかと思った矢先に楓花から呼び出しの連絡がきた。
「せんぱーい、技術部と人事部の方が来てますよー、なんでも先輩に要件があるそうで。」
「通してくれ、こっち今書類振り分けてるから。それよりなんで人事部が...」
「知りませんよ、通しますね。どうぞー」
楓花と軽いやり取りをした後、技術部の職員がアタッシュケースと医療用ギプスを持ってきた。
「...完成したんですか。」
「えぇ、試作品ですが。」
「試作品といえどあの園子様監修の義手ですよ。慣れてきたとはいえ、やっぱり不便ですから助かります。」
「本当ならちゃんと腕としての機能を持たせたい、と。」
「園子様らしいです。」
アタッシュケースの中にある金属製の義手。
園子が俺に必要と思われる機能を詰めたもの。
「あれ、これは追加パーツ的な何かですか?」
「さすが鋭い。これは義手の拡張パーツで、外出時のもしものためにアンカー、ライト、そして電磁石を切り替えできる装着型アタッチメントです。」
「義手に書類整理モジュールあるのだけでありがたいのにそんなものまでつけたんですか...?」
「園子様のご意向です。」
「何考えてんだあの子は...」
乃木園子の思考回路は読めない。
いくら俺が観察すること、それをもとに考えることを得意としていても、乃木園子の考えはわからない。だから寄せられた好意にも、内に秘められた悲しみも、読み取ることができなかった。
「考えたところで無駄か...で、こっちの医療用ギプスは義手を隠す用...もといアタッチメントをつけた時の重量を支えるため、ですかね。」
「その通りだ。」
「てことは両方受領した旨の書類にサインしなきゃですね。」
「全く...君はどこまで読んでるんだい?」
「まぁ、おおよそですね。」
「じゃあ、これを。」
「はい、受け取りました。」
受領書にサインをして技術部の人は帰っていった。
次は人事部の人であった。
「緋月昇様ですね、辞令をお持ちしました。」
「はい。」
辞令...なんだろ。俺を書史部から動かすとは考えがたい...
だとしたら...思いつくのは一つしかない。
「貴方は本日より一週間後、記録者として本州調査隊に配属されます。」
「...わかりました。」
一度芽吹に否定された調査隊参入。
このタイミングでもう一度、ということはやはり義手の完成が一番の要因か。
確かにアンカーやライトは未開の地に赴くには必須の装備だ。となると園子は知っていたのか。俺が配属変更になることを。てことは夏凜にいろいろ言わんとだな...
「先輩、異動ですか?」
「そうらしい。しかも場所は本州調査隊...つまりは元防人隊というわけだ。」
「報告書によると今調査隊は北海道と呼ばれていたところにいるようです。」
「文献で少し読んだことがある。四国よりもずっと北、海峡を越えた先にある大きな島。それが北海道だ。」
「一週間で間に合うんですか?」
「高知から船で向かうらしい。一応往復できる燃料はあるっぽいしな。」
「へぇ...って、それどころじゃないんだった、それじゃあ書史部はどうなるんですか!?私だけじゃどうしようもありませんよ!?」
「あー...そこは園子に聞いてみる...とりあえず仕事だ。憂うのはまだあとでいい。」
「そんなぁ...」
「なんて話があってだな。」
仕事を終え、乃木家一室で夏凜と園子に話をする。
「はぁ!?ってことは昇、しばらく帰ってこないってことじゃない!」
「おお~、にぼっしーデレだねぇ~」
「違うわよ!べ、別に昇がいなくてもなんとかできるわよ。」
「へいへい...真偽はさておくとして、俺がいないと大変だとほざく楓花のほうが俺は心配なんだ。書史部は今俺と楓花しかいないからな。」
「...のぼるんのタスク処理能力があるから今の書史部は成り立っている...それは大赦全体の見解なんよ。それでものぼるんを本州調査隊に送った方が向こうの調査がはかどると判断した...その理由はね。北海道には、
「...なんらおかしいことはないだろ。壁の外は時間が止まっていたんだから。」
「私も最初そう思ったんよ。でも、不自然なの。調査隊の報告書、のぼるんも最初期のほうは読んだことがあるはず。」
「あぁ、バーテックスに殺された人間の遺体が散乱していたと、あった。」
「それが、旭川...今調査隊がいるところにはないんよ。」
「...それはおかしいな。」
「なんでよ、殺される前に逃げたとかもありえるじゃない。」
園子は首を振る。
「そうだったらよかったんだけどね...少し離れたところに、つい最近できたような簡易的なお墓があった。それが最新の報告。だから、のぼるんの目と耳がほしいんよ。」
「俺は探偵か...けど、なるほどな。確かにそれはこの目で見ないとな。もしかしたら、生存者がいるのかもしれないし。」
「そうだね...」
「というわけだ、夏凜。まぁ俺はこれっぽっちも心配はしていないが...楓花は心配だ。園子、書史部への追加配属とかないのか?」
「晴信さんが行くって言ってるんよ~」
「兄貴が!?」
衝撃的だが緋月昇の穴を埋めるという点で三好晴信以上の適任はいない。
園子は学業があるのだし。
「なるほどなぁ...さすれば書史部は回ると、そう踏んだのか。」
とするなら楓花に回すタスクの量を今から少しずつ増やすか。
「安心して次の仕事へ行けそうだ。ありがとう園子。」
左遷じゃないのかなとも思ったが思えば今の大赦の長は乃木園子なのだ。
適材適所を見抜く力は俺以上だろう。だから俺はその信頼に応えるべく、北に向かうことにした。
次回、第3話「白い冷たい世界の中に」
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