三好昇は理解者でありたい   作:Feldelt

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乃木さんちの今日のごはん
第1話 緋月昇のこだわりラーメン


緋月昇。表向きは大赦書史部記録課課長、内々示によってもう一つの役職ができているが、それが緋月昇の裏の顔である。だが、今回から紡がれる彼の物語はそれとは全く関係がない。

 

──始まりは、彼の携帯に舞い込んできた一本の電話からだった。

 

 


 

 

7月中旬、陽本楓花も退院し、書史部の仕事が多いことを除けば彼らは非常にゆったりとした日々を過ごしていた。

 

「暑いですねー、先輩...」

「そうだな...でもここは年中温度と湿度が管理されている書史部。エアコンの風が寒いということ以外はまったくもって快適だろうて。」

「寒いんですか!?あの雪国だと全く動じてなかった先輩が!?」

「自然の寒さと人工的な寒さってのは違うんだよ...まぁいい。そのために薄手のパーカーがあるしな。」

「だから先輩長袖なんですね...私なんてまず来たら着替えますもん。」

「大変なんだな、楓花も...」

「汗は女の子の大敵ですから。覗かれる心配がない以上そっちをケアしますよ。」

「言いきっちゃうのか...いやまぁそうだけど先輩としてそこは不安...っと、電話だ。珍しいな、芽吹からだ。もしもし?」

『もしもし昇君?ちょっといいかしら。』

「どうした芽吹。珍しいな。」

『いきなりで悪いのだけど、しずくがラーメン発作を起こしたわ。』

「...は?」

『そうね、私もそんな反応をしたわ。けど事態は深刻で、徳島ラーメンじゃないと受け付けないらしくって...今から徳島に行くより昇君に作ってもらう方が早いと思って。』

「おいおい芽吹...本庁からゴールドタワーはそこそこ時間かかるぞ...まぁでもそうか。確か雪花もそこにいるよな?」

『えぇ...引越しが面倒だからってずっとここにいるけど...それがどうかしたの?』

「いや、聞いただけだ。食材のリストを送る。後で交通費往復二人分請求するからな。」

『交通費...そうね、わかったわ。』

 

電話を切る。やれやれ参った。

ラーメンか...麺から作るから小麦粉と、スープは味噌ベースに魚介系の味を足して...でも熟成の時間はないから...昆布と鰹で代用効かせるか...野菜はネギと人参ともやしとキャベツ。海苔とチャーシューは買ってきてもらって...よし、だいたい見えてきたな。

 

「これでよし。」

 

必要な食材のリストを芽吹に送り、ゴールドタワーへ向かう準備を整える。

 

「楓花、仕事は終えたか。」

「えっと、今日割り振られたぶんの8割は。」

「おっけ。それなら明日俺が持つからちょっと付き合ってくれ。今からゴールドタワーに行く。」

「え...ってここからだと少し距離ありません?ちょっとお財布が...」

「安心しろ、芽吹から二人分徴収するさ。行きの分は俺が出すし安心しろ。その代わり...向こうで色々手伝って貰うからそこら辺だけよろしく。んじゃ行くぞー」

「...はい!」

 

 


 

 

「というわけで特急フル活用でやってきたぞ、で...リストは揃えてくれたか?」

「えぇ、それで昇君...」

「わかっている。残念ながら二人分だけだ。多分雪花も発症してるだろ、ラーメン発作。」

「しずくほど重篤ではないけどね。」

「おっけ...2時間くれ。0から作る。楓花は米といで炊飯、ネギと人参の千切りとキャベツを適当な大きさに切ってくれ。怪我するなよ。」

「...はい!」

「昇君、それぐらいなら私も...」

「楓花にやらせることに意味がある。...あの子はああ見えて傷だらけなんだ。目を離したくない。それに、芽吹にはもしもの時に備えて追加で買ってきてもらう可能性があるからな、そっちを任せたいんだよ、隊長。」

「はぁ、わかったわ。雀!」

「は、はい!何用ですかっ!?」

「弥勒さんとその他数人連れてスーパー近くに待機してて。何かあったら連絡するわ。」

「えぇー、めんどくさいよ~」

「つべこべ言わない。シズクが暴れてもいいの?」

「すぐ行きます。」

 

全く見事に掌握しておる...さてこっちもそろそろ...

 

「んじゃやるか。割と時間との戦いだけど焦るなよ。」

「はい。包丁とかはここにありますね。」

「だな。よし、お料理の時間だ。」

 

 


 

 

緋月昇と陽本楓花が調理を開始して二時間、特に問題もなく無事にラーメンは完成した。したのだが、ここからが緋月昇の本領だ。

 

「楓花は米をついでくれ。こっちはしずく用と雪花用の味付けをしておくから。」

「ラーメンに米って...正気ですか?」

「しずく用だ、徳島ラーメンというものは往々にして米とともに食べるものなのさ。で、雪花用の味付けならスープにさらにラードを垂らすのさ。」

「今度はこってりですね...そんなことしていいんですか?」

「北海道に行った時回収した文献にはそう書いてあったのさ。それを信じるだけだよ。できた。あとは野菜を乗っけて...完成だ。」

「すごい...」

「よーし先しずく用のお盆に茶碗乗っけて持ってってー。はい次雪花用ー、間違えるなよー」

 

完成したラーメンをカウンターから出す。

さて、こちらとしても腹が減ったな...米は余ってるしまかないみたいな何かでも作るか。野菜も味噌もあるもんだし。

 

「んじゃもう一品いきますか。」

「先輩?まだ作るんですか?」

「おう、ちょっと待ってろ...」

 

フライパンに水を通した米と卵、味噌と刻んだネギ、人参、キャベツ、そしてもやしを入れて炒める。そうチャーハンだ。

 

「手伝ってくれてありがとな、楓花。」

 

二つの皿に少なめではあるがチャーハンを盛りつける。

 

「先輩のごはん...いただきますっ!」

「おいおい、はやるなよ。しずくと雪花のとこいくぞ、食事は人数が多いほうがいいってもんだ。」

「はいっ!」

 

自分たち用のお盆を持ってしずくと雪花のいるテーブルに向かう。

 

「おいしい...これ、徳島ラーメンの味がする...」

「多分これスープは同じだよね...でも旭川の味がする...ぼるくんこれホントにぼるくんが作ったの?」

「まぁな。文献の記憶を頼りにしている感じだけれども。」

「それでここまでの再現度...恐ろしい子...」

「そりゃどうも。」

「うめぇよ緋月!しずくも俺も久々に満足したぜ!......すごく、おいしい。」

「急いだかいありましたね、先輩。」

「そうだな。あぁ、ほんとにそのとおりだ。」

 

はじめ一人で過ごすことになったから独学で料理を覚えた。それが今や他人にふるまう側になるとはね。思えば初めて自分以外のために作ったのは夏凜が初めてだったな。それも一年前なのか...月日の経つのは早いものだ。

 

「先輩...?」

「あぁ、少し物思いにふけっていたよ。...うれしいな、おいしいって言ってもらえるのは。」

「そうですね。」

「あとは片付けさえ終われば撤収だ。とんだ行軍だった。で、芽吹、交通費だが。」

「えぇ、雀と弥勒さんに帰りの切符と特急券を買わせているわ。現地で受け取って。行きの分は今渡すわ。最後に...片付けはもうすでに亜耶ちゃんがやってるわ。」

「まじかよ早いな。んじゃ任せるよ。ついでにこの皿も任せていいんだよな?」

「えぇ。片付けや掃除に関して、亜耶ちゃんの右に出るものはいないわ。」

「なら安心だ。ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした、先輩。」

『ごちそうさまでした。』

「おそまつさま。んじゃ...俺は帰って夏凜と園子と楓花の分を作るとしますかね。」

「もう帰るの?」

「名残惜しいが今から帰らないと特急に間に合わないのでね。楓花、行くぞ。」

「はい。荷物は...あ、手ぶらでしたね。」

 

芽吹から封筒を受け取りゴールドタワーのエレベーターのボタンを押す。

 

「緋月。」

「んにゃ、どうしたしずく。」

「また、作ってくれる?」

「...そうだな、また呼ばれたらな。」

「じゃあ、待ってる。」

「...そうかい。」

 

それだけ言って、緋月昇と陽本楓花はゴールドタワーを去った。

余談だが、その日の乃木家の夕飯は焼き魚を主食にした和食だったそうな。

 

 

 




次回、第2話「乃木園子と野菜餃子」

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