「報告と……状況を確認します。現在は先輩はICUでの治療中。急所は外れていますが出血量が多く予断を許さぬ状況です。また、園子様を襲って先輩を大怪我させた女は大赦警察によって確保済み。現場となった丸亀城は清掃と破損確認のためしばらくは公開をとりやめとなってます。園子様と夏凜さんは病院で先輩のそばにいます。以上、報告終わります。」
ふぅ、と一息つく。樹ちゃんの家で勇者部の先輩方に向けての報告だから緊張もする。休みだからってのんびり買い物をしていたらこんなことになるなんて……先輩、大丈夫ですよね……
「そう、ありがとう楓花。緋月の所に行ってきていいわよ。」
「……ありがとうございます、風先輩。ですが、それはもう少し後です。先輩はちょっと前に大赦を崩壊させようとした武装組織から園子様や大赦本庁を守るために戦っていました。今回はその名残と考えられます。だから、調べないといけないんです。今の世界で、どうしてそんな組織がいるのか……」
先輩なら絶対そうする。納得がいくまで書史部のすべての記録を読み漁る。食事も水分補給もせずにただひたすらに読み続ける。
「……だめよ。休みなさい。」
「なんで止めるんですか!」
「楓花ちゃん、その、言いにくいんだけど……」
「緋月君の、真似してはいけない部分まであなたはまねようとしているわ。」
「っ……!」
「いちばんぼるくんを見てる楓花ちゃんなら、その危なさもわかってるんじゃにゃい?」
「そう、ですけど……」
確かに先輩が書架で倒れてることが何回かあった。自分のことに全く興味を示さないというか、必要性を感じていないように見える挙動はあまりにも危なっかしい。
「そんな先輩だから、こんなことになっちゃってるんじゃないですか……」
「ひーくんは、そういう人だから……」
「……はぁ、私も病院に行ってきます。文句の一つや二つ言わないと割に合いません。」
「そうね、行ってきなさい。緋月によろしく言っておいて。」
「はい。」
先輩風に言うなら……やれやれ、かな。本当に、やれやれです。
それから46時間が経過した。
「っ……」
見知らぬ……いや、ちょくちょく見た天井だ。ここは大赦の病院……ということしかわからない。何があったんだっけか……園子を蹴飛ばして、刺されたのか……確実に園子は無事だし、今こうして思考できているということは俺もしぶとく生きているというわけだが……周りの機材とかを鑑みるに、集中治療室か?
「今は、いつだ……?」
という懸念をよそに、脳波の観測がなされたからか病院の先生たちがやってきて容態を確かめに来たのであった。聞かれたのは意識がはっきりしているかどうか、記憶の継続性があるかどうかなど。次に来たのは忍さんだった。
「お手柄だよ昇くん。身を挺して園子様を護り残党も捕まえた。公安部としてはもう手放しで喜びたいくらいかな。君の治療費以外は。」
「そんな話は退院後にでもしてください。本題は別にあるでしょう。」
「まぁねん。病床の若者に聞きたいことがあるのさ。いったいどうやって、彼女は君たちに接触してきたんだい?」
「勇者部の依頼人として、ですね。」
「なるほどねぇ、となるとその勇者部というのは今後もまたいろいろと厄介ごとに巻き込まれるかもしれないね。」
「年端もいかぬ少女たちを勇者として祀り上げ、理論上半永久的に戦わせていた我々大赦の人間が、今更それを言うんですか。」
「樹海の中での戦い、確かにそれ以上の厄介ごとはないねぇ、見てきた記録者の言葉は重い。」
「……寝ます。まだ起き上がれないんでしょう?俺は。」
「そうだね。お医者さんいわく、しばらく車いすだ。運動能力に支障はないにしろ、体内の傷が完全にふさがるままでは……本当に、しばらく車いすだね。」
「公安部本部は思いっきり車いすで行ける場所じゃないですよね、そういえば……」
「そうとも。まぁしばらくは園子ちゃんをはじめとしてみんなに甘えるといい。春信くんも言ったと思うけど、君は自分のことを全く見れていない。それで周りが傷つくかもしれないということを、もう少し考えてみたらいいんじゃないかな。」
「はぁ、そう、ですか。」
「こりゃ重症だ。ふふっ、でも君はそれぐらいがちょうどよさそうだ。神は二物を与えないのだから。」
ふらふらと場を去る忍さんであった。やれやれ。一体何なんだ。
「自分の事、ねぇ。」
興味のかけらも存在しない。しないのだが……だったらどうして今俺はここにいる?どうして生きている?自分を見ないでどうして生きてこられた?それは、人のおかげだろう。俺は人を見て、声を聞いて、考えていることを読み取ったりしてきた。それで、自分で考えてきて……
「結局帰着するのは他人だ。人間は他人がいなきゃ生きていくことなんてできない……」
思考はループに入った。寝よう。まだ腹は痛い。
「またあるのだろうか、こんなことが……」
ふと、脳裏によぎったこの考えは、嫌に脳裏にこびりついて離れそうにもなかった。おかげで全く眠れなかったというのが、今回のオチである。
次回、第5話「車いす紀行、日常編」
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