三好昇は理解者でありたい   作:Feldelt

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第4話 銀と世界と銀世界

目覚めると列車は止まっていた。

かけられていたのは毛布。

思えばかなり寒い。動いていた時は機関室が隣にあって、その排熱が暖房替わりになってたからな...

 

「起きましたか、先輩。」

「楓花か...状況は?」

「そんな物騒なことにはなってません。しいて言うとするなら、お腹がすきました。」

「おーらい。聡い楓花のことだ、すでに調理場云々の話は芽吹にしてあるんだろう?」

「それが、もうすでにできていました。あとは料理人たる先輩を待つだけです。」

「それもう俺である必要性よ...まぁいい。水は?」

「持ってきた分と雪解け水をろ過したものがあります。」

「読み通り...それじゃあ後者を使う。まな板とかの調理器具の準備は任せた。」

「すでにできてます。」

「材料は?」

「それはまだ保存状態にあります。」

「そうか...味噌汁を作る。具は多くできないと伝えてくれ。」

「...はい!」

 

いつからここは料理番組になったんだ...なんて思いながら調理場に立つ。

そもそもなんでこの歳でマイ包丁なんて持ってるんだ問題が発生したりするわけだが。

 

「起きたのね昇君。」

「芽吹か。」

「様になってるわね、その立ち姿は。」

「褒めてもなんも出ないぞ。味噌汁は出るが。」

「それはうれしいことを聞いたわ。それじゃあそのあとにでも、会議をするわよ。」

 

会議のくだりから声のトーンが下がっている。

事は重大なのだろうか。

 

「せんぱーい、手伝いましょうかー?」

「そうだな...火をおこしてくれ。それで、あと必要なのは...水か。そこの!えっと...ポンコツ設定しかない残念かつ中途半端な防人番号だった人!」

「酷くありません!?わたくしは弥勒夕海子ですわよ!?」

「すまん、記録者といえどなんでもかんでもは覚えられないんだ...で、だ。水をこの鍋の大体7割くらいまでいれてくれ。そこにいるチュン助はその補佐をやってくれ。」

「えぇ!?気づいてたの!?」

「そりゃそうだ。手伝ったらあったかいものが手に入って生き残れるぞー。」

「喜んで手伝わせていただきます。」

 

わかりやすいな...いや、俺も大概か。

緋月昇は三好夏凜がいなければ何かおかしくなるのはもはや自明なのだ。

現に、今も少し何かしらのずれが俺の中にはある。

 

「全く園子め...帰ったら一日とは言わず一週間は夏凜を独り占めしてやる...」

「先輩...それは私でも引きますよ...」

「うっさい、死活問題だ。」

「はぁ...水が鍋に入りました。具材入れますか?」

「あぁ。味噌は俺が入れるとして...」

 

その後なんやかんやもなく無事に味噌汁は完成した。

寒い土地での休憩に温かい味噌汁はしみる。

しかし、会議とは何を話すんだ...?

 

 


 

 

「それで、昇君。あなたはここら一帯を見て、どう思う?」

「どうって...そうだな、辺り一面が雪に覆われているさまのことを銀世界というらしい。」

「それがどうかしたの?」

「いや、園子が見たら、と思うとね。」

「三ノ輪銀を思い出す、か。」

「見せたかったと、園子は言うよ。だから写真だけ撮っておく。でだ...芽吹。どうして俺に辺り一帯を見せる。変なところは何も...何も...」

 

何もない。そう、何もないのだ。だがしかし、何か、記録者としての勘なのかどうかはわからないが、この一面真っ白な世界がどこかしら異様に見える。

 

「楓花、お前はどう思う。ここを見て。」

「...どう、と言われましても...寒いとしかいいようがないです。ですが、四国は今春真っ盛りなんです。いくら北といってもこんなに寒いなんてことあるんですか?雪も融ける様子もないですし...」

 

楓花の疑問は環境条件と言ってしまえばそれで終わり。それで終わりなのだ。

だが、わざわざ楓花がそれで終わりな情報を出すとは思えない。陽本楓花はそういう少女だ。俺より学力が高いこの少女がそういう。

 

「楓花ちゃん、でもそれは気象条件じゃないかしら。」

「やっぱりそうですよね...でもそれしか思うところは...」

「いや...お手柄だ楓花。」

 

一つ、結論が出た。

 

「え...?」

「何かわかったの昇君。」

 

ここに来る前もらった園子からの報告。今のこの雪の量。

間違いない、とまでの確証はないが、確かめる価値はある。

 

「あぁ...ここら辺の近く、生存者がいる。」

「...それは私も思ったわ。でも、どこを探してもいないわよ。」

「探してない場所...まさか。この雪の下ですか。」

「そうだ楓花。この季節、雪が融け始めないのは文献情報によるとおかしいことなんだ。だが、それは人間が生きていて、あらゆるところで文明を使っていた頃の情報だ。当時とは人間の量はもちろん、文明、例えば車の排気ガスなんかがそうだ。それも少なくなっている。雪が文献より多く残るのはそれが原因とみるのが一番自然だ。」

「待って、じゃあ今私たちがここで焚火や調理なんてしたら...」

「そうか...この仮説が正しいとするなら...雪崩が起きかねないのか。」

 

瞬間、地を這うような轟音が鳴り響く。

 

「こういうのフラグ回収って言うんですか!?」

「らしい...文献によると雪崩に巻き込まれた場合...生きてることを祈れ!」

 

右腕の義手からアンカーを放つと同時に崩れる足元。

芽吹と楓花はアンカーを刺した木に登り事なきを得てるが俺はそういうわけにもいかず、というかむしろアンカーがよくなかった。どうにか上半身は脱出できたが、腿より下には雪というよりむしろ氷のような冷たく痛い波が絶えず襲い掛かっている。

 

 

「先輩!」

「昇君!」

 

もう足の感覚はない。こうなりゃイチかバチか...!

 

「15分...雪崩に巻き込まれた人間の生存可能時間らしい。」

「いきなり何を...!?」

 

芽吹の言葉を最後まで聞かぬまま、アンカーユニットを外し雪崩に身を任せる。

すぐに木が見えなくなって、白く冷たい世界に身体が投げ込まれていった。

 

「せんぱぁぁぁぁぁい!!!!!」

 

楓花の悲痛な叫びだけは、聞こえた。

 

 

 

 




次回、第5話「洞窟の主」

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