目が覚めるとそこは洞窟の中であった。
全身、こと足元には湯たんぽと毛布がある。周囲には...家具...?
「人が住んでいる形跡...しかもつい最近...」
雪崩に巻き込まれた人間の対処方法を知っているあたり...ここらに住んでいた人間という認識で間違いないだろう。いや、生きているのだから住んでいるという認識のほうが正しいか。
「およ、目が覚めたかにゃ?」
人間の声だ。太陽の届かぬ洞窟の中で、人間の声がしている。
「あぁ、覚めたよ...助かった。だが、それよりも...」
「なんでここに洞窟があって、なんでここに人間がいるのか、ね。はいはい。」
読まれた...!?いや、落ち着け。
この洞窟の構造、はたから見た感じの推察でしかないが、すべてこの少女に合わせて作られている。つまり、この洞窟はこの少女が作ったものに他ならない。そして、見た感じ華奢な腕をしているこの少女がここまでの広さの洞窟を作る場合は誰かの助けが必要になるはずだ。しかもどう考えても一日程度では作れない。だが、ひとつだけこの洞窟に対してつじつまを合わせることのできるものを俺は知っている。
「勇者だったから、か...」
少女は背を向けたまま固まる。
図星だったのは間違いなさそうなのだが、だとしたら...
この少女は、星屑から人間を見捨てたのか...?
「...勇者の存在を知っている...君は...何者?」
「何者、か...元大赦書史部記録課勇者様付樹海内状況記録者、現大赦書史部部長兼本州及び北海道調査隊付状況記録者、緋月昇。」
我ながらよく噛まずに言えたものだ...
「ご丁寧にどうも。名乗られたのなら名乗り返さなきゃだね。私は秋原雪花。一応16歳。元勇者で今はたった一人地下生活を謳歌してるよ。」
「謳歌、か。もう太陽は見ないのか。」
「勇者の力がなくなっても、ね。嫌なんだよ。」
かつて文献で見た天空恐怖症候群...それと似たような何かか...
「なるほどねぇ...」
「けど、君の腕...星屑に食われたの?」
「そうだ。なぁ、雪花。天空恐怖症候群ってやつか?」
「違うよ、でもその言い方...」
「察しがいいな...これは300年の前の文献によるものだ。」
「さんびゃ...何を言っているのかにゃ?」
一応という文言から時間が停止していたことを認識していたのかとも思ったが...そういうわけでもなさそうだ。ということは...壁の外の炎が時間を止めていたことは知らない...それ以前に壁の外に炎があったことすら...
「事実だよ。そして君は目覚めた。300年の眠りを認知していないから目覚めたというのは少し違うのかもしれないけれど、ね。」
次回、第6話「雪と花と木と」
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