秋原雪花の発見から一月が経った。
北海道は広大なためそろそろ四国への帰還が視野に入って来る頃だ。幸い食料は雪花が備蓄していたものがあったおかげでまだしばらくは持つが...のっぴきならない事情のせいで俺はもう戻りたい。
「かーりーんー...かーりーんー!」
「先輩!うなされてないで起きてください!芽吹隊長が呼んでますよ!雪も溶けて来たのでそろそろ帰還のために移動するって言ってましたよ!」
「...なんだ楓花か...」
「なんだってなんですかー!」
「楓花は楓花で夏凜じゃないだろ!今俺には夏凜が必要なんだよ!一月も見てなきゃもうニボニウム欠乏症だ!まもなく俺は死ぬ!」
「んな直球な...」
「あちゃー、こりゃ重症だねー。」
「雪花さん...!?あぁもうこの際雪花さんでも隊長でもしずくさんでも誰でもいいから先輩を引きずり出してください!もう私じゃ手に負えない...」
「さいですか。それじゃあここに置いてくしかないねー。ぼるくんの味噌汁、美味しかったんだけどにゃー。」
「えぇ!?置いてくんですか!?待ってくださいよ雪花さん!」
雪花と楓花が去っていく。おのれ、俺の扱いを一月で覚えたな...
「身体に力が入らん...ニボニウム...」
起き上がろうとするも力は出ない。
が、きっかけさえあれば人は動ける。
「きゃぁぁぁぁぁっーーーーー!!!」
「悲鳴...!?楓花か!?」
上着だけ来て急いで外に出る。
雪はもうほとんど溶けている。それでも太陽は眩しい。が、それどころではない。即座に楓花を見つけ、駆け寄る。
「どうした、楓花!」
「楓花ちゃん!?」
芽吹をはじめとした調査隊の面々もこぞってやってくる。
「せんぱい...!」
「ぐおっふ...どうした...いや、言わんでいい...」
楓花は俺を見るなり抱きついてきた。震えている。これは恐怖か。楓花の背の向こう、雪が溶けてあらわになった地面には、人の骨と思しきものがいくつもあった。
「死屍累々の山の上に立っているということか...楓花、落ち着け。泣くなら泣いていい。さて...踏みつけるというのもいささか気が引けるな...かと言ってそうしない選択肢もない...丁寧に埋めていくにしても時間が...」
どうする、ここにいられるのもそう長くはない。俺はまだ断食できるが、楓花は...
「...人の尊厳は最期まで守られるべきですわ。」
「弥勒さん...」
「...珍しくいいことを言う...雪花、あと何日分なら大丈夫そうかわかるか?ついでに列車までの最短距離の方向を教えてくれ。」
「ちょうどこの方向だよ。食料とかはフルであと3日くらいかにゃ。」
「じゃあ帰還船が来る日までは持つな。帰還船は待ってはくれるが運転手のためにも...よし、埋葬作業を始めよう。芽吹、いいか?」
「えぇ、けど...」
「無理なやつもいる、か...楓花もそうだ。休ませるのがいいと思うから...俺が見てるよ。」
「わかったわ。」
そこからさらに数日経った。行程の半分まで来たが皆精神的な限界がきている。その上食料もそんなにない。ジリ貧だ。
「降りれば降りるだけ骨は増える、か...だが...いややめよう...最初はできてても今は参ってる子の方が多い...嫌だな、この空気は。」
今では作業をしているのは芽吹、雪花、俺、シズク、弥勒、雀、その他数名だけである。
「メブー、いつになったら帰れるのー!」
「目の前の骨を全部埋めてからよ、口より、手を動かしなさい!」
「とはいえ、多すぎますわ!」
「そうだねぇ...みんな最後は逃げ場がなくても逃げ出すしかなかったから...」
「...そうか...」
視界が揺らぐ。
最後になんか食ったのはいつだっけ。
シャベルを持つ左手も震える。
「おい緋月、まさかてめぇもダウンしたとか言うんじゃねぇよな。」
「それは問題ない...問題ないが...」
「その震え方...まさか昇君、食料を口にしていないとか言わないでしょうね。」
「だったらなんだ、1日でも伸ばすにはこれが手っ取り早い。そろそろなんか食べなきゃなとは思うけどな...」
「馬鹿なの!?...雀!」
「はいっ!?」
「昇君に無理やりにでもなにか食べさせなさい!そして楓花ちゃんに見張らせて!」
「おい芽吹それじゃあ!」
「私の隊で死人は出さないわ。それに昇君。1日作業を終えたあと、あなたが作った味噌汁を飲む。だんだん薄くなってたとしても、私たちはそれが楽しみなのよ。わかったら休んで料理の準備をしなさい。隊長命令よ。」
「......あいよ。」
流石にバレたか...お粗末だったかな、これは...
雀に肩を支えられて歩くはいいが、油断して目を瞑ったが最後、意識が途切れた。
次回、第8話「狂気の正気」
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