「どうにか、無理やり予定通りと言ったところか...」
緋月昇が倒れた数日後、調査隊は無事苫小牧に到着し、四国への帰還船に乗り込んでいた。数日もすれば四国に戻れる。家の布団で眠れる。これは間違いなく安心をもたらした。
「ええ...船に乗ってる分の人数の水も食料もある...安心して帰れるけど...貴方の義手のアンカーユニットそしてもう一個不明なユニット...四国に戻る際に必要とは思えない...」
「間違えて積んじゃった、とかじゃにゃいの?」
「だといいのだが...このアンカーユニット、構造が少し違う...巻きが早い上にワイヤーが鋭利だ...まるで鞭と剣を内包してるかのように...それによくわからん方は...直径3mmで長さ3.5cmの針が数十本...この構造だと致命傷は与えられないようになってるな...そして...おあつらえ向きに手紙がある。ユニット内部に入れたということは、漏洩をできる限り伏せたかったのだろうな...つまり、この装備を俺に差し向けた理由があるってことだ。」
手紙の封を開ける。だがさらに入念に文章は暗号化されていた。
「これ全部数字...25114152151821112114...一行目だけでこれだ、よほど重要な内容らしい...解読するのも一苦労だろうな...」
「やあのぼるくん...ですね。」
全て数字で書かれた暗号を見て苦労しそうと、そう言った先に楓花は解読していた。
「楓花ちゃん、これ読めたの...!?」
「はい。これはアルファベットを順に数字と対応させたものです。Aは1、Bは2というように。境目が消されてますが読めなくなるほどの弊害ではないですね...全文を読みます。」
「『やあ昇君。突然こんな暗号の紙と帰ってくるというのに武器ともとれる追加ユニットを送り付けたのには当然わけがある。単刀直入に言うと、大赦の弱体化を狙って大赦を転覆させようとする集団が大赦本庁を包囲したからだ。彼らはかつて赤嶺と弥勒の両家が使っていた武装を探しているらしい。その情報の出処は不明だがきっと内通者を入れられたのだろう。話はそれたがその武装は現在乃木家地下の封印の間にある。運の悪いことに大赦のトップは園子様だ。連中は園子様をどうするのかはわからないが、乃木家も危ない。君が四国に着くまで園子様、そして夏凜を保護することに全力を尽くすが連中は人数も装備も不明だ。乃木家地下シェルターももしかしたら破られるかもしれない。だから我々は君に全てをかけることにした。そのユニットは武装解除に重点を置いている。すまないが、よろしく頼む。 三好 春信』...以上です。」
「...どう考えても着くまであと1日かかるじゃないか...おいマジかよ...くそっ...!」
現状、地獄だ。夏凜も園子も無事かわからない。なんだ、どうしてそんな集団がいる。
「先輩...この船にはモーターボートが一隻あります。さっき確認しました。」
「楓花...そうか。さすれば今すぐ出れば明朝には着くか...」
「待ってください先輩!今出ても...ろくに食べてない先輩が出たら着く頃には空腹で動けませんし何より眠気が酷くなるはず...ダメですよ!」
「だったらなんだ...カフェインとブドウ糖でなんとでもなる...どうにでもしてやるよ...」
緋月昇は楓花を見ているようで見ていない。その瞳は虚空を見つめている。
「昇君...はぁ...何言ってもダメそうね...」
「心がもうここにない感じかにゃあ...」
「嫌だ...行かないで昇さん...行かないで...!見てよ、楓花を見てよ...ねぇ...!」
楓花は後ろから昇の服の裾を掴む。
昇は振り返らない。楓花を見ない。
果たしてここに『緋月昇』はいるのだろうか。
「ねぇ...ねぇってば...!」
楓花の悲痛な叫びだけが太平洋にこだましている。
次回、第10話「それは人に在らざる」
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