仮面ライダーカブト外伝 仮面ライダースターク〈MASKEDRIDER STU-CK〉   作:ひがつち

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はい。ようやく2話です。
1ヶ月もかかってこの体たらく……!
ザビー時代の矢車さんのキャラが違うと言われるのが一番怖い……。
いくつかネットで部分的には見ているのですが、それでも不安……。
通販で取り寄せている2巻で確認する予定では有ります。
どうか、ご容赦を……!


第2話

――ZECT。

帝が所属している組織であり、ワームから人類を守り、殲滅を旗印に掲げた超法規的組織。ライダーシステムの開発もまたこの組織が主導しており、警察省庁と連携を取り、徹底した秘密主義と実力主義によってその全貌を構成員すら把握できていないという云うなれば現代日本の裏世界を牛耳る大組織。

 

その、本部。

輸送車に乗り、ある薬の副作用で睡眠状態にいた帝が運ばれた先、無名の高層ビルの下界を一望出来る一室。白髪交じりの眼鏡をかけた不敵ながらも老獪さを醸し出す壮年の男とその側に控えている神経質そうな男と相対していた。傍らの男は少々距離を放し、意図的に壮年の男と同じ視界に入らないように位置を調節して控えている。なにを隠そう、この老人こそがZECTを統べている最高権力者、総帥・加賀美陸であった。

 

「うん、いつもながら君はよく働いてくれているよ、藤堂院君。積極的にワームを狩ってくれているのは私達ZECTとしても―――」

 

「……虫が、いるんですか?」

 

今回の戦闘の報告書を読し、労を労おうとした陸の言葉を遮り、帝がぼそりと呟き、しきりに目を見開き、恐怖を孕みながらギョロリと一切の隅すらも見逃がさないとばかりに首すらも動かしながら部屋の中を見回し、居ないことに安心し、自分が今何処にいて何をしていたのかを認識をすると、顔を引きつらせただでさえ白い顔を青くさせ、尻もちをつく。頭を抱えるようにしてブツブツと支離滅裂なことを徐に喋りだす。いや、喋る出すというよりも零れだす、という方が正しい。既に帝は陸のことを認識しておらず、纏まらない思考と彼女にしか見えないナニカに埋没しているのだから。

 

「………ごめんなさい。ごめんなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。虫、たおさないと。ごめんなさい。ごめんなさい。あぁ、きたない。きたない。矢車さん。ごめんなさい。やだ。やだ。見ないで。そんな目でわたしを責めないで。ヒュッ、ァ、ァ、ィィ……」

 

「……三島」

 

「は」

 

陸が控えていた男――三島正人に合図を出すと即座に対応した三島が過呼吸を起こしうめき声を上げながら頭を掻きむしっていた帝の首根っこを掴んで無理やり立たせると懐から取り出した錠剤を口に含ませ飲用させる。すると、咀嚼しながら飲み込んでいた帝の瞳孔が次第に元に戻っていく。

 

「気が付いたかね?」

 

正気――元より正気と呼ぶには余りにもひび割れており強い衝撃を受ければ粉々に砕け散ってしまうものであるが――を取り戻した帝は陸の言葉に頷き、応答する。

 

(……言葉の選択を誤ったかな。)

 

頭を揉むように疲れをほぐし、陸は沼尻を少し下げると話題を変えるように、別の事柄について切り出す。

 

「では、これで最後にしよう。帝君、いつもの事だけれど、スケッチブックの提出をお願いできるかね」

 

「…………ぃ、ァ、ぃ?」

 

ビクッと怯えるように身を震わせ、スケッチブックという陸の強い語調の中で辛うじて認識したものを拾い上げ、帝はほんの少しだけ眉を上げ、何を言われたのか分からないかのように顔を歪ませながらもブック……、ブック……と口の中で噛み締め吟味するように繰り返すと、あっと何かを思い出したかのようにたいしたものが入っていないカバンを漁るとたどたどしい手草で取り出し、睦に差し出す。

 

「は、い、睦さん。こちら、です」

 

「うん。ありがとう」

 

受け取った陸はスケッチブックをめくりつつ、芸術を鑑賞する観客のように頷くと閉じたそれを机の上に置き、締めの言葉を話す。

 

「いつもよく描けているよ。君の絵のおかげで助かっているよ。空回りになるかもしれないが、対象を絞れるというのは探し回るよりも効率的に人員を割ける」

 

もう下がっていい、という声を聞き、帝は涎の垂れた口もそのままに首をこくんと下げ、ふらふらとおぼつかない足取りで扉が開かれたままの部屋を去っていく。

 

「君は、申命書の28章を知っているかね?」

 

「は……?」

 

突然の陸からの問いかけに戸惑いながらも対応をする三島を気にすることなく、陸は独り言のように言葉の続きを語りだす。

 

「積み重なった悲劇はいつまでも影を落とし、無限無尽の苦しみとなる。抑圧された狂気は望まぬ路への誘いとなる。哀しいことだ―――」

 

「……矢車に伝え、今まで以上に藤堂院の身の観察とケアに気を付けるよう、命じます。」

 

抽象的な言葉から陸の真意を読み取り、三島は深く頭を下げた。

 

 

陸の部屋から退出した帝は側の窓枠に捕まり、“この後”の事を考える。

 

(この後、この、あと……)

 

精神安定剤(トランキライザー)の副作用で遅い来る睡魔に耐えながら何とか頭から絞り出す。

自分に求められているのは虫を倒すこと。それ以外は何も求められていない。

ならば、再び外に出向き目につく虫を倒すべきか……?

あぁ、そうすべきだ。一刻も早く。より多くの虫を倒す。そうすればきっと自分が今ここにいる存在意義(価値)が――。

 

「――本当に役にたててると思ってるの?どこまでも愚かで愚鈍な貴女なのに」

 

明かな悪意を滲ませた言葉が投げ抱えられる。

意識が瞬時に覚醒する。思わず首元のアザに手を添える。後ろを振り返らずに鏡を利用してそこに居るモノの姿を確認し、ヒッ、と嗚咽を漏らす。

 

「また迷惑をかけて。いつ正気が飛ぶかも分からない道具なんて使いにくいにも程があるものね。今はまだ貴女以外に居ないだけ。代わりが見つかれば貴女はもうお払い箱。自分が一番可愛くていざとなったら隠れて見捨てる人間が信用されている訳がないでしょう?ふふ、可哀そう」

 

帝は耳をふさぐように手を合わせ、俯きながら逃げ去るように足早に一点に向かって移動を開始する。

声は一定の距離をつかず離れず保ちながら嘲るように矢継ぎ早に言葉を投げつける。

 

「人はどんなに表向き優しい言葉を投げかけていても腹の中では何を考えているか分からない。悪意こそ雄弁にその人間の本音を語るって院長先生から教えられなかったのかしらぁ。

ほら、きっと皆心の中で思ってるわ。あの子供、早く消えてくれないかなぁ、って」

 

「…………ッ」

違う、とは言えなかった。何があれば本当は正しいのか。今の自分は証明を出来ているのか。答えのない焦燥感を抱えながら――、今の自分はある。藤堂院帝といニンゲンは存在を赦されてる。必ず答えを見つけなければならないものだったとしても、いや、先の問いは違うと 言えるはずだ。

そうでなかったら。

もしも、本当に誰からも価値を求められていないなら。これまでの全てが無為だとしたのなら。

 

「そんなことは、ない」

 

取り繕うように言葉を捻りだす。

 

――側をすれ違ったZECT職員がまるで奇妙なものを見るかのように怪訝な顔をする。

 

 

「嘘。だったらどうして――」

 

声がまるで瞬間移動をしたかのように自身の直ぐそばから聞こえ――。

 

「どうして、いつまでもわたしを引きづっているの?人殺し」

 

黒々と深い闇の色を称えた幾分か小さい、子供の藤堂院帝がこちらの顔を覗き込んでいた。

 

「っ………」

 

「ねぇ、答えて。わたし。わたしはなんでも知ってるわ。わたしの口から聞きたいの。貴女、本当に―――」

 

《藤堂院帝》が帝をさらに詰問しようとした時。

 

「―――帝!」

 

声が響いた。

 

何かにぶつかる衝撃と共に受け止められる感覚を覚え、意識を上に向ける。そこには帝を慮る表情で見つめるスーツに黄金色のネクタイを身に付けた真面目そうな男。

 

「矢車、さん?」

 

何故、どうしてという思いで矢車と呼ばれた男に疑問を投げかける。

 

「お前がシャドウの訓練室とは別の方向に向かっていったと連絡があったからな。最短ルートを逆算して飛んできた。お前、階段から落ちそうになっていたんだぞ。」

 

そう言われて帝は自分が今矢車に抱えられており、緩慢に背後を振り返ると階段があることに気づく。

 

「私、陸さんの部屋からずっと廊下を歩いてました」

 

「また幻覚を見ていたんだろう。……立てるか?」

 

矢車は屈みこんで、帝を降ろし、その身を案じる。

 

「……ありがとう、ございました。――わふっ」

 

立ち上がった帝がかしこまったように礼を述べると同年代の子供と比べても背が小さい帝に矢車は目線を合わせ、労わるように頭を撫でる。

 

「そう、固くなるな。3年もずっと一緒にいるんだ。何かあったら存分に俺をたよってくれていい。俺たちは―――」

 

「…………矢車さん?」

 

何か躊躇うように言葉を詰まらせる矢車に帝が疑問の声を上げると。

 

「――――――――俺たちは、一緒に暮らしてるんだからな」

 

詰まらせた言葉を誤魔化すように話を続けた矢車は体制を直し、手を差し伸べる。

 

「さぁ、一緒に行こうか」

 

「……はい」

 

差し伸べられる手を取り、帝が矢車と歩を揃え進めているとすぐに声をあげる。

 

「あ、あの!

……聞いていましたか……?」

 

「聞いていた?何を?」

 

「い、いえ。何でもないんです。なんでも……」

 

言外に先の話を聞いていたのかと不安を乗せて問いを投げかけるもそうではないという返答を受けて内心ほっとする帝は何でもないかのように話題を打ち切り、繋いだ手を放さないように握りしめながら心の奥底で独りごちる。

 

(頼れる訳、ない。だって、矢車さんは私の―――)




仮面ライダースターク、第2話いかかだったでしょうか。
かなりネガネガしい感じですが、少しでも主人公である帝に興味を持ってくだったのならば幸いです。

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