俺達は学校前で追試を受ける裕太を待っていた。
昨日はあんな騒ぎがあったにも関わらず街や学校は元通りになっていたため通常通り学校は登校日になった。
当然、この世界に新条さんはおらず世界の人々は昨日の事件を覚えている。黒いグリッドマンやアノシラス、グリッドマン、グリッドナイトにグリッドマンシグマ……。
学校中がグリッドマン達の話題で溢れかえっていた。まさかその正体を知っているのはこの学校で俺達だけとはみんな思わないだろうな。
「裕太、どうなんだろうな」
「俺より勉強出来るのに追試で進級怪しいとか厳しいな、この世界の学校は」
「……僕達の世界も厳しいからね、二人とも」
「そうよ。直人も一平も勉強しないと進級出来ないくらいの成績だって自覚あんの?」
他の世界から来た四人も裕太の事を心配しているようだ。そして人の心配をしてる場合じゃないといった感じで言った井上さんの言葉に直人と一平は「うへぇ」と声を漏らしていた。
直人は武史と井上さんと同じ学校へ行ったためその分周りのレベルが高く問題も難しいのでいつも赤点ギリギリらしい。
一平は三人と同じ学校へは行けなかったもののそれでも俺達と同じくらいの偏差値みたいだ。
まあ赤点を連発して裕太以上に進級の危機が迫っているらしいけど。
あちゃこちゃとしているうちに 裕太が昇降口から出てきた。
「お疲れ、裕太!」
「テストどうだった?」
「……今までで一番自信あるよ」
その言葉を聞いて俺達は安堵する。
裕太のテストという不安要素は無くなり本格的にトレギア対策へ乗り出すことが出来る。
「六花ー!はっすの追試お疲れ様記念にカラオケ行かなーい?……あれれ?何時もに増して大所帯じゃないですか六花さーん!?」
「えっと……これには深いワケが……」
裕太に続いて六花さん軍団も現れた。
……またターボ先輩といじられてしまうかもしれないと思い武史の後ろに隠れてみる俺。
「かわいいーーー!!」
耳をつんざくような大きすぎる声に驚く俺達。
どうやらその声の主は一平みたいだ。
「かわいいね君、今からデートしない?俺の奢りだからさ」
「あっ、あたしぃ!?え~と、いきなりすぎて困ったなぁ……たはは」
積極的にナンパし始める一平。口説かれてるほうも体をクネクネさせながら満更でもない感じに見える。
「また始まったよ一平の恋が」
「すぐ冷める癖にね」
直人とゆかは見慣れた光景だと言わんばかりに呆れている。
「……あんななみこ初めて見たかも」
六花は珍しいものを見た、といった感じだ。
「へぇー、意外と慣れてそうなのに」
裕太の言葉に六花は「なみこは純情なの!前だって……」と、裕太に対してなみこがいかに純情ないい子なのかと説き始めた。
裕太は裕太で真剣に「そうなんだ」と素直に聞き入れているのを見て思わず笑いそうになってしまう。
「頑張った主役のあたしを置いてけぼりってひどいと思わない?ねぇ内海?」
裕太と一緒で追試を受けていたはっす。ターボ先輩といじられると思い身構えてた俺は突然の内海呼びに少し拍子抜けしてしまった。
「……元はと言えば勉強してなかったのが悪いだろ?裕太と違って記憶喪失してたとかじゃないのにさ。……まあ、お疲れ様」
「あ、ありがと。まさか内海から労いの言葉を貰えるなんて思わなかった」
俺の言葉に目が少し見開いているように見えた。マスクで表情はよくわからないが多分笑っていたと思う。
「……昨日さ、怪獣現れた時に六花とどっか行ったじゃん。どこ行ってた?」
「そ、それは……」
俺は思わず口ごもってしまう。
「ごめん、ちょっと意地悪な質問だったかも。……
これから言うこと、あんま本気にしないでよ?」
何だろう?頷いてはみたけど彼女がこれから何を言うのかと少し緊張してしまう。
「六花も内海もさ、あの怪獣見た途端すぐに行動してたじゃん。どっかで見たことのある光景だったのに思い出せなくてさ。なみこと避難している時も二人であの既視感は何だったんだろうって話してたんだ」
「………」
「響もだけど、ずっと私達の知らないところで頑張ってくれてたんだろうなって。ずっと守ってくれてたんだろうなって感謝してたんだ。なんか気持ち悪いかもしんないけどさ」
俺達と距離の近い彼女達は感じていたのだろう。俺達がグリッドマン同盟としてこの世界を守っていた事を。
「……気持ち悪いなんてことないさ」
「え?」
「俺達は今までこの世界を守ってきて、また新しい脅威が現れて。誰にも気付かれないことだけどお前達みたいに感謝してくれる人達がいる。それだけで嬉しいし余計負けられないって思えるしさ」
「内海、それって……」
「……ま、冗談だけどな!なーに本気にしてんだよ!」
「おま……、はぁ。やっぱターボ先輩ってクソだわ」
「た、ターボ先輩って言うなって!」
裕太と一緒でたとえ記憶がなくてもこの世界の人達にもグリッドマンの戦いが体に刻み込まれているかもしれない。
戦いの間で俺は改めてあの悪魔からこの世界を守るんだという強い意志を持つことが出来た。
「なみこ~、みんな忙しそうだしあたし達だけで行こ~」
「う、うん!じゃあね六花」
「じゃあね」
一平だけが名残惜しそうに二人を見送った後、俺達はジャンクの部品を探すために街の電気屋を巡ることにした。
正直この分野では俺達三人は見ているだけになってしまったが。
しかし、四人ともプログラミングだけでなくコンピューターも組み立てられるとは。
グリッドマンも彼らに何度も助けられたと語っていたがどうやらそれは本当の事らしい。
巨大化プログラムもアシストウェポンも彼らの手によって作られたものだ。それは俺達の戦いにも欠かせないものであった。
そんなことを思っていると武史と直人とゆかはそれぞれ部品をアップデートするため買ってきてくれた。
「そう言えば一平は?」
裕太が武史に言うと武史が指をさした。そこには店員と交渉してる一平がいた。
「頼むよおじさん、どうせ使わなくなったものばかりなんだろ?金出すだけでもすごくいいと思わない?安くしてよ」
店長と思われる人は高校生に値切りの圧をかけられて困惑している。
しかし、一平のこういう時の面の皮の厚さは見習いたいところがある。
「ま、まぁ確かに使わないものばかりだしなんならタダでもいい「本当!?」ヒッ!?」
一平の喰いぎみの返答に軽い悲鳴をあげる店長。
「ありがとうおじさん!全部もらっていくね!みんな、ずらかるぞ!」
一平はそう言うと一目散に俺達を連れて電気屋を後にした。
……「ちょっと坊や!?全部とは言ってないよ~!!」と、涙声が聴こえたような……気のせいだろう、うん。
「すごいじゃん一平!」
「へへーん、まあな!能ある鷹は爪をかじるって言うだろ?」
天然なのかわからないが裕太が一平に感心し、一平は得意気になる。
「それを言うなら能ある鷹は爪隠すでしょ」
「今のって……いいのかな……」
良心を痛めてる六花とまたやったと言わんばかりに呆れる井上さん。
なにはともあれ一平の機転でグリッドマンが強化されると思えば……。
世界を救うためという大義が無ければ俺も良心を痛めていたかもしれない。
ぐぅぅぅ~~……
誰かの腹の虫が鳴った。
「わりぃ、さっきからお腹ペコペコなんだよ」
音の発生源である直人が空腹を訴える。
「そう言えばお腹へったなぁ」
「とりあえずパーツは手に入ったんだし飯にしようぜ!」
武史と一平の言葉もあってか皆で食事に行くことになった。
まあ、俺はともかく裕太は追試が終わったばっかでなにも食べてないだろうし。
「場所は……あっ!あそこの中華屋は!?」
「あそこにしようぜみんな!」
直人と一平が見つけた中華屋は問川のお父さんがやっているお店だった。
「どうしたの六花ちゃん?」
「ううん、なんでもない」
裕太は記憶が無いから知らないだろうがかつて新条アカネによって犠牲になった同級生がいた。
まあ、話をすれば長くなるし別に裕太や四人にわざわざ説明しなくてもいいだろう。
俺達は中華料理店『龍亭』へと入店した。
「いらっしゃい!テーブル席が空いてるからそっちへ座ってよ」
問川のお父さん……前ここに来た時は俺達がこの世界の仕組みを知らなかったとはいえ悪いことしたよな。
でも前来た時よりも凄く明るくなったというか元気になった印象がある。
最後に会ったときは生気が失われていたしな。
「どれも美味しそうだよなぁ。お、これ安いな」
「取り敢えずチャーハンと餃子は先に頼むとして……」
「どうせ頼むならゆっくり選ぼうかな」
各々が自分の好きなものをマイペースで選ぶ。
俺も何を選ぼうかな……どうせなら腹が膨れる量は食べたいなとぼんやり思っていたが、次の瞬間、俺の全神経を持ってかれる事が起こる。
「お父さーん、じゃ行ってくるね~!」
「おう。最近物騒な事ばかりだから気を付けろよ」
「大丈夫!すぐ近くのといこん家行くだけだし」
問川さきるが今ここにいる。
思わず六花と顔を見合わせたが、六花も驚愕している。
問川さきるが生き返っていたのだ。
新条アカネに他の同級生もろとも殺されてしまった悲劇の少女。
今日学校にはいなかったはずなのに。
「お、六花に響くんと内海君もいるじゃん。お父さんの料理安くて美味しいから是非常連になってよね!」
「ちょ、ちょっと待って!トンカワ、なんでここに……?」
「あっ、言ってなかったっけ?ここの中華料理店あたしん家なんだ」
「そ、そういうことじゃなくて……」
「あっ!ちょっと時間ヤバいからまた学校でね!ゆっくりしてってね~!」
問川さきるはそのまま外へ出ていってしまった。
また学校で……?まるで今まで学校に行ってたような口振りだ。
裕太も記憶が無いせいか見知らぬ人に名前を知られてておかしいなぁと呟いている。
俺は堪らず問川のお父さんに質問する。
「あ、あの!娘さん今日学校に来てました!?」
「……おかしな事を言うね、君。さきるはね、三学期は一度も学校を休んでないんだよ?」
「え……?」
問川のお父さんの言い方はまるで今までも学校に行ってたかのように話している。
「……あ!突然で悪いんだけど今日はお店はもう終わりなんだ。用事があったのをすっかり忘れてたよ」
話をそらすかのように問川のお父さんはいきなり店を閉めようとした。
「えーー!まだ何もくってねぇのに!」
「ごめんねぇ。お詫びに持ち帰りの餃子をタダであげるからさ」
「本当!?おじさん、太っ腹!」
直人と一平は掌を返すように餃子を持ち帰る。
結局、俺達はそのまま店を追い出されるように外へ出た。
「六花、問川さんなんてウチのクラスにいなかったよね?」
「いなかった……、というよりいなくなったはずだったんだけどね……」
「そもそもなんで生きてんだ!?」
「いなくなった?生きてる?一体どういうことなの?」
井上さんはある種当然の疑問をぶつけてくる。
戦いの間で既に事態は動いているのかもしれない。
俺はここにいる全員に問川さきるについて説明する事にした。
「危なかったな。だが甘い。君の娘が生きている事に疑問を持つものを生かしてはならない。何故なら彼女は自分が既に死んでいると認識してしまえばそのまま消えてしまうのだからな」
「………」
「それに彼らは君の娘を殺した人間の友達だ。放置していれば必ず娘に危害が加えられるだろう。せっかく生き返った娘を失いたくないだろう?心配するな、私の言う通りにすれば全て上手くいく……」
問川の父は悪魔を受け入れているかのように大きく頷いた。
新条アカネのコンピューターにいるアンチことグリッドナイト。
新条アカネは恐らく自分がこのコンピューターにいることを気づいている。ただ、彼に会うことで自分の決意が崩れる事を恐れているのだとグリッドナイトは理解していた。
ただ自分に出来るのは新条アカネが向き合うまでひたすら声をかけ続けること。
アカネの歪んだ心から怪獣として生み出された自分がグリッドナイトになったということは、新条アカネの心が前向きになった今、新条アカネも必ずグリッドマンのようなヒーローになれるはずだと。
ただ一人、いや仲間たちの思いを受けて待ち続けていた。
しかし、自身の野生のカンが辺り一面の空気が張り詰め始めていることに気づく。
アンチはまさかと思い振り返ると突然現れた禍々しい闇の空間からトレギアが出てくる。
「やあ、どうせ来もしないご主人様を待ってるのかい?」
顔の仮面に胸には何かを抑えつけるかのようにプロテクターを付けている。
赤く光る眼は何を見ているのか想像もつかない。
「……何をしに来た?」
「なあに、私も君のご主人様に会いに来ただけさ」
「それを聞いて会わせると思うか?」
グリッドナイトは戦闘態勢に入る。
「オイオイ、血の気が多いな。アーンチ」
言葉尻に音符が付きそうなくらい人を小馬鹿にする物言いをするトレギア。
「俺はグリッドナイトだ!」
トレギアはグリッドナイトのキックを軽くいなし、続く連続攻撃も全て最小限の動きで避ける。
グリッドナイトは自分の攻撃をまるで読まれているかのような身のこなしに苦戦する。
「どうした、アンチ?」
トレギアは煽るようにグリッドナイトの顔の前で自分の指を動かす。
「くらえ!」
グリッドナイトは距離を取りグリッドナイトサーキュラーに加えてグリッドナイトストームを同時にトレギアにぶつける。
二つの攻撃は防がれることなくトレギアに直撃した。
新条アカネのコンピューター内でとてつもない爆発が起こりあたり一面が煙に覆われる。
しかし、煙が晴れて出た来たのはまったくダメージを負ってないトレギアだった。
今度はナイト爆裂光破弾を撃とうとするがその前にトレギアが後ろに回り込み首を掴む。
「ぐっ……放せ!」
「君は目障りだから消えてもらうよ」
トレギアが淡々と口から出した言葉通り、トレギアは手にエネルギーを集めるとそれが黒い稲妻になりグリッドナイトの身体を一瞬にして巡る。
「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!!」
グリッドナイトはそのまま爆散して粒子になり消えてしまった。
「ククク……。君達の悲劇はまだ始まったばかりだぞ、グリッドマン達よ……」
禍々しい闇を出現させトレギアはそのままどこかへと消えてしまった。