響君の再試験まで後二日に迫った放課後。
今日は響君はどうしても外せない用事があるらしいとの事で勉強会は中止になった。内海君は日直で残り、なみこもはっすも予定が合わなかったので今日は一人で帰っている。
響君の試験まで時間がないから心配ではあるがこれまでも継続して努力していたし、これで駄目でも追試や再追試があるので大丈夫だと思う。
亀傘公園を通るとこの世界の守護者であるアンチ君と怪獣少女であるアノシラスちゃんがベンチで佇んでいた。
「ちゃんとご飯食べてる二人とも?」
私は呑気に佇んでいる二人に声を掛けた。アノシラスちゃんの方は少し元気がないようにも見える。
「む、宝多六花か」
「六花ちゃん……」
この二人はグリッドマンが去った後、常に一緒に行動しているみたい。ただ、二人とも人の姿をしている割には人の慣習などがまだ分かっていないみたいだからお風呂と夜食にはなるべく招待している。
アンチ君は名前を覚えてくれたが、私達の中で未だに内海君の名前は覚えられていない。
「宝多六花、変わったことはないか?」
「変わったこと?どうしたのいきなり」
「この世界に何者かが侵入した」
「え!?」
この世界に侵入者が!?またアレクシスのような奴が来たら……。
かつてのように怪獣が現れ町が再び破壊されるような事が起きてしまうのかと思うといてもたってもいられない。
「正体はわかってるの?」
「いや……わからない。どうやって侵入したのかすらもな」
「ならどうやって侵入したのに気が付けたの?」
「それは……わたしのお父さんがいなくなっちゃったからだよ」
アノシラスちゃんは小さな声で言う。
「お父さんって……」
「アタシは二代目だって知ってるよね?悪い奴が現れたから退治しに行くって……。そのまま帰ってこないんだ」
「そんな……」
まさか私達の知らない内にそんなことが起こっていたなんて。それに敵は怪獣よりも強い存在だということもわかる。
「敵はどこにいるかわからない……気をつけて帰れ。俺はしばらくこいつの側にいたい」
そう言いながらアンチ君はアノシラスちゃんの肩に手を伸ばす。彼は傷ついた心に寄り添える優しい心を持つまでに成長したみたいだ。
「………わかった。何かわかったら連絡してね」
私は駆け足で家へ向かう。取り敢えず内海君に相談して何か対策を練るべきだろうか。
響君は……今までずっとグリッドマンとして危険な戦いをしてきた。
グリッドマンは彼の体に今までの戦いの記憶が刻まれていると言っていたが、彼の記憶は戻っていない。
命の危険と常に隣り合わせの事に無闇に巻き込むべきでないだろう。
そんな思考を巡らせている内に私は家に着いていた。携帯で内海君に連絡し、取り敢えずここに来て貰うことにした。
「あれ?」
ジャンクに電源がついてる事に気付く。
グリッドマンがいなくなってから一度も電源を入れていないはずなのにどうして?
ジャンクの画面を覗き込むと、画面が今まで見たことのないような黒いオーラに包まれ始め赤い眼が私を見つめていた。
まるで悪魔のように。
「ククク……」
不敵に笑い始めたかと思うとそいつはグリッドマンのように画面から私に語りかけてきた。
「初めまして、宝多六花。わたしの事は彼らから聞いているだろう?」
画面に映る悪魔は私の名前を知っている。それにこいつがアンチ君達の言っていた侵入者であることはすぐにわかった。
「あなたが侵入者……!」
「そんな物騒な言い方はよしてくれ。私は遊びに来た『お客さん』だよ」
知っていたのかわからないけど、アレクシスと同じ『お客さん』という言葉を使っている。
アレクシスのような存在であった場合、私だけでなくこの世界が危険に晒される。私は腹を括ってこの悪魔と対峙する。
「ここに侵入するときいた怪獣はどうしたの?」
「何の事かな?そんなものはいなかったよ」
恐らく嘘をついているのだがはぐらかされる以上こちらとしては追求し辛い。なので他の事から攻めてみる。
「何者なの?この世界に何をする気?」
「私はトレギア……この世界に遊びに来たのさ」
「ふざけないで!」
「ククク……」
まるで私をおちょくるような態度に憤りを感じる。
するとトレギアから私の気になっていることを喋り始めた。
「私はこの世界を監視していたのさ。新条アカネやアレクシス・ケリヴよりももっと俯瞰してね。当然、君達グリッドマン同盟の活躍も見ていたさ」
「監視……」
アカネもアレクシスだけでなく私達の事も知っていた。
「私はとにかく悲劇をこの眼で見たくてそのための脚本や演出をするのさ。悲壮感が溢れていればなおいい」
少なくとも最低なヤツだということは会って間も無くわかった。人を駒として認識してる様はアレクシスのようだ。
「宝多六花、私は君に質問をしにきたのさ。響裕太に関してのね」
「!?」
響君について?まさかグリッドマンに関する情報を聞き出そうとしているのだろうか?
「別にグリッドマンの事など知りたくないよ。私が興味あるのは響裕太だけさ」
「響君に何をするつもり?」
私は語気を強めて言う。
「君はこの世界を救うためならば響裕太と縁を切ることは出来るかい?」
「………何が言いたいの?」
「響裕太と縁を切れば私はこの侵略を今すぐ止めてやってもいいということだ」
何を言い出すと思えば………,
「私はそんなことは絶対にしない!」
私は迷い無く言い切る。
「この世界の危機と響裕太を天秤にかけて彼を取るのかい?」
「………響君は今まで怪獣とずっと戦い続けてきてくれた。彼の戦う姿を見て私は心を強く持つことが出来た。怪獣に対しても、アカネに対しても」
私はいつの間にか本心を吐露していた。
「私が今こうして自分の意思で立っていられるのも彼がグリッドマンとして最後まで戦ってくれたから。記憶が無くても真っ先に行動しているのは響君だった。そんな姿を見て私は自分が出来ることをするって決めてアカネに向き合えた」
「だから今度は私が彼を守る。どんな手段を使っても、私は彼のパートナーとしてずっと支える。彼の望みならなんでも叶えてあげたい」
「彼の望みか……。響裕太だって間違うことはあるだろう?」
「その時は私が正す。それに響君はグリッドマンだから間違うなんて事はない」
私はトレギアに向かって言い放つ。するとトレギアは気分をよくしたのか笑い始めた。
「ハッハッハッ!響裕太の事になると君達は途端に饒舌になるねぇ。………宝多六花、確かに聞いたぞ」
「『彼のパートナーとしてずっと支える。彼の望みならなんでも叶えてあげたい』とね」
納得した素振りを見せたかと思うとトレギアは私の目の前に腕を伸ばし指を鳴らした。
私はその音を聞いた瞬間、夢の世界に誘われた。
「おい、六花ってば!」
内海君の声で目が覚める。あれ、私なんでここで寝てたんだろう……?
「やっと起きたか。全く、人を呼んでおいて自分だけ寝てるなんて危機感無さすぎるんじゃねーの?」
「ご、ごめん。それより今日アンチ君達から聞いた話なんだけど………」
私は正体のわからない侵入者について話、内海君と対策を練ることにした。