パワプロ二次創作もっと流行れ

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シドレミの小説増えろ


志藤玲美

「先生っ!」

 

あの人の背中を見つける。気付けば名前を呼んで走り出していた。

どうしたの。と彼は優しく話しかけてくる。

話しかけたはいいものの、話題もなにも全く用意していない私は、少しだけ笑ってこう返すのだ。

 

「今日も部活頑張りましょうね!先生!」

 

そうすると彼もやはり少しだけ笑って、そうだね。と返す。

こんな何気ない日常が私にはたまらなく楽しくて嬉しい。彼に会えて少しだけ機嫌がよくなった私は、今日も胸の中に思いを隠しながら、野球に打ち込むのだ。

 

 

 

 

彼と会ったのは、去年の四月。野球部への入部日のことだった。

正直彼の野球の技術はまだ低く、特に目立たない普通の人だと思っていた。

甲子園に行きたいと夢を語っていた彼を特に気にせず、私は私で野球の腕を磨いていた。

 

七月。もともと高いレベルではなかった野球部なので、一年生ながら私はレギュラーに選ばれた。

彼はというと、めきめきと野球の腕を伸ばしてはいたが、まだレギュラーに選ばれるほどではなかった。

おめでとう。と言ってきた彼に私は軽く礼をして返したが、その時もいい人だなと思う程度だった。

 

 

九月。彼は順調に野球の技術を伸ばし、ついにはレギュラーに選ばれていた。私も当然選ばれていたが、いまいち伸び悩む日々が続いていた。

嬉しそうに笑いながら仲間たちの祝福を受ける彼はたまたまと言っていたが、彼が毎日部活後も厳しい自主練を続けていたのを私は知っていた。

このころから少しだけ彼のことが気になり始めた。

 

 

十一月。ここで私と彼の関係が変わった。

彼が技術を伸ばす中、私はめっきりスランプに陥っていた。

思うようにバットが振れず、ヒットが打てない。スランプは守備にも影響し、野球人生の中で一番辛い時期になった。ちょうど親や吹奏楽部のこともあり、溜息を吐く日々が続いていた。

焦りから居残りで自主練を続けていた私は、スランプもありイライラしていて、同じく自主練をしていた彼に思わずこう聞いてしまった。

 

「どうしてそんなに頑張れるんですか?」

 

と。自分でも恐ろしいほど冷たい声が出た。おそらく私の顔もとても冷たいものだっただろう。

それを言って私はとても後悔した。自分の問題を彼に尋ねてもしょうがないのに。イライラから彼に当たったって意味がないのに。

すぐに弁解しようとした私に、彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔になって、

野球が好きだから。とただ答えた。照れくさそうに言った彼はこう続けた。

僕にバッティングを教えてくれないか。と

 

「はい?」

 

と少し間抜けな声を出した私に彼はまた笑う。それに少しだけいらだった私はまた彼に当たってしまった。

 

「私がスランプなのは知ってますよね。技術を学びたいならほかの人に聞いてください。」

 

冷たい声を出して自分の練習に戻ろうとする私を引き留めて彼は私にバッティングを教わろうと懇願してきた。

なんで、と聞いたら彼はこんなことを言ってきたのだ。

志藤さんのバッティングが好きだから、と。

急な告白に顔が熱くなる。静かになった私を気にせず彼は私について語り始めた。

 

「志藤さんもきっと野球が大好きなんでしょ?だから毎日毎日うまくなるために残って練習してるし、そんなにうまくなれたんだと思う。そんな志藤さんを尊敬してるし、ずっと色々聞きたかったんだ。今は少し調子が悪いのかもしれないけど、それでも僕が志藤さんから学びたいことはたくさんあるし、志藤さんのバッティングを隣で見ていたい。そのくらい志藤さんのバッティングが好きなんだ。」

 

熱くまくしたてる彼に押されて、顔を熱くしながら私は少しの間何も言えなくなった。

きっと私は嬉しかったんだと思う。家のことでももめてる中、私を真剣に野球のことでほめてくれる人はなかなかいなかった。そんな私に彼は素直な気持ちでぶつかってきた。気付けばいらだちなんかどこかになくなっていた。

 

「いいですよ。でも私は厳しいですよ?」

 

意地悪い笑顔をしながら彼に言うと、彼もまた笑顔で臨むところだ。と声を出した。

その日から、私と彼の合同自主練習が始まった。

 

彼は私の言うことをしっかり聞き、またそれをしっかりと実践して見せた。純粋に野球を楽しむ

彼を見ながら、私も野球を楽しんだ。

ある日彼は私の試合のビデオを私に見せ、調子が良い時や悪い時のスイングなどを分析して話してきた。彼の熱心な分析に嬉しくなりながら、私も期待に応えるように練習に取り組んだ。

 

そして、ついにスランプを乗り越えたとき、彼は自分のことのように喜んでくれた。

その時から、私にほのかな思いが芽生え始めた。

でもこの気持ちはだめだ。真剣に野球を取り組み甲子園を目指す私たちに今はこれは必要ない。

だから私はこの気持ちを抑えるようにして、また彼への尊敬の念を込めて、彼を

 

「先生」

 

と呼ぶことにした。

 

 

 

 

それから今でも私と先生の奇妙な師弟関係は続いている。

先生と呼ぶと彼は少し困った表情を見せるけれど、それでも笑いながら共に懸命に練習へと取り組む。

私の彼への思いはあの日から募るばかり。でも今はチームメイトと、そして彼と純粋に野球を楽しんでいたい。私も彼もそれを望んでいる。

でも、甲子園で優勝して、部活がひと段落したとき、そして私たちの師弟関係もひと段落したときは、生徒ではなく、一人の女として彼に接したい。

 

だから、そのときは、

 

 

「覚悟しててくださいね?先生。」

 


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