普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ?   作:蘇我入鹿

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新章に入ります。
感想などをお待ちしております。



第2章 え?魔王襲来?
第10話 北側に行くそうですよ?


『黒ウサギへ。

 

北側の4000000外門と東側の3999999外門で開催する祭典に参加してきます。

貴方も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合3人ともコミュニティを脱退します(・・・・・・・・・・・・・・・・)

死ぬ気で捜してね。応援しているわ

 

PS ジン君は道案内に連れて行きます』

 

「つーわけで、北側まで連れてけやコラ!」

「いきなり脅迫とは礼儀を知らんのう、小僧。まあ座れ」

 

 

――ペルセウスとの戦いから1ヵ月。

俺はこの間にいくつもギフトゲームに挑んだが1つもクリアできなかった。

まあ、ギフトゲームの数をこなしただけあって契約の力の扱いは上手くなった。

それでも役立たず1歩手前なので白夜叉に相談をしにきたところだったのだが……。

 

「ちょっと待て。北側の祭りをどうしてお前達が知っているんだ?」

「へえ。大輔君は知っていたのね」

「知った上で私達に黙ってたんだ」

「っ!?」

 

これはマズったかも。

 

「白夜叉。俺の話はあとでいいから――」

 

今のうちに黒ウサギのところに……。

 

大人しく黙って座っていなさい(・・・・・・・・・・・・・・)

 

くっ立てない。声も出ない。

俺の契約の力はさらにパワーアップして痛みすら防ぐことができるようになったが、味方、正確には俺が味方だと思っている者からの攻撃は相変わらず防げない。

 

「招待者としてそんぐらいのことは考えておった」

「話が早くて助かるぜ。980000キロなんて遠すぎだからな」

 

え、何その距離?

もしかして、北側までそんなにあるの?

だから、黒ウサギも黙ってたのか。

境界門とか言うものを使えば一瞬で行けるらしいが費用がコミュニティの全財産と同額って言ってたからな。

 

「だがその前に、1つ問いたい。おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだが……真か?」

「ええ。それなら本当よ」

「それはコミュニティのトップとしての方針か?」

「はい。“名”と“旗印”が無いので、これが1番いい方法だと思いました」

「その“打倒魔王”を掲げたコミュニティに東の“階層支配者”から正式に頼みたいことがある。よろしいかな、ジン殿(・・・)?」

「は、はい!謹んで承ります!」

 

おお。

すっかりリーダーらしくなったな。

 

「さて、何処から話そうかの……。ああ、そうだ。北の“階層支配者”の一角が世代交代をしたのを知っておるかの?急病で引退だとか」

「え?」

「そうか……。此度の共同祭典は北の一角“サラマンドラ”の世代交代に端を発しておる。ところでおんしら、“階層支配者”についてはどの程度知っておる?」

 

「私は全く知らないわ」

「私も全く知らない」

 

俺も首を横に振る。

 

「俺はそこそこ知ってる」

「“階層支配者”とは箱庭の秩序の守護者であり下層のコミュニティの成長を促すために設けられた制度だ。そして、秩序を乱す天災“魔王”が現れた際には率先して戦う義務がある。その義務と引き換えに我々“階層支配者”は様々な特権を与えられているのだ」

「けど、そうですか。“サラマンドラ”とは親交があったのですけど……まさか頭首が替わっていたとは知りませんでした。それで、今はどなたが頭首を?やっぱり、長女のサラ様か、次男のマンドラ様が」

「いや。頭首は末の娘――おんしと同い年のサンドラが火龍を襲名した」

「サ、サンドラが!?え、ちょ、ちょっと待ってください!彼女はまだ11歳ですよ?」

 

11歳か。

いろいろ苦労してそうだな。

 

「あら、ジン君だって11歳で私達のリーダーじゃない」

 

ごもっとも。

苦労だけならうちのリーダーも負けてないかもな。

 

「そ、それはそうですけど……!いえ、だけど、」

「なんだ?まさか御チビの恋人か?」

「ち、違っ、違います!失礼な事を言うのは止めてください!!」

 

ん?

普通に怪しいな。

でも、ノーネームのリーダーと階層支配者じゃ報われそうには……いや、まだ分からないか。

 

「それで?私達に何をして欲しいの?」

「実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその幼さ故、東のマスターである私に共同の主催者を依頼してきたのだ」

「あら、それはおかしな話ね。北は他にもマスター達がいるのでしょう?ならそのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

「……うむ。まあ、そうなのだがの」

 

ああ。

これはアレだな。

 

「幼い権力者を良く思わない組織が在る。――とか、そんなところだろ?」

 

飛鳥の顔が目に見えて不愉快になる。

俺もこんなところまで世界が変わっても同じということにがっかりした。

詳しい事情をと白夜叉が重々しい口を開こうとしたので耀が気が付く。

 

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

「ん?んん、そうだの。短くともあと1時間程度はあるかの?」

「それはまずいかも。……黒ウサギに追いつかれる」

 

コイツら、何かしやがったな。

 

「し、白夜叉様!どうかこのまま、」

「ジン君、黙りなさい(・・・・・)!」

 

ジンの口が無理矢理閉められた。

こうなったら、

 

「ううう、ううう」

「何かしら、大輔君?あら、忘れてたわ。もう話していいわよ」

「おお、やっとしゃべれた。お前らは――」

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

「む、むぅ?別に構わんが依頼は受諾でよいのか?」

「ちょっと待って。人の話――」

「構わねえから早く!事情は追々話すし何より――その方が面白い(・・・・・・・)!」

「そうか。面白い(・・・)か。ならば仕方ないの」

「待て、白――」

 

パンパンと手を叩いた。

 

「北側に着いたぞ」

「「「「――……は?」」」」

 

マジで?

 

 

――東と北の境界壁。

4000000外門・3999999外門 サウザンドアイズ旧支店

 

店から出ると熱い風が体を吹き抜けた。

一瞬で移動した“サウザンドアイズ”の支店がある高台からは街の一帯が展望できた。

赤壁と炎とガラスの街。

 

「東とは随分と文化様式が違うんだな」

「東側より楽しそうだな」

「……むっ?それは聞き捨てならんぞ小僧共。東側だっていいものは沢山あるっ。おんしらの住む外門が特別寂れておるだけだわいっ」

 

まあ、あの辺にはこれといって何もないしな。

 

「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」

「ああ、構わんよ。続きは夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」

 

ゴソゴソと着物の袖から取り出したチラシを見ていると、

 

見ィつけた(・・・・・)――のですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ズドォン!!

 

絶叫と共に爆撃のような着地。

声のした方を見ると、遥か遠くの巨大な時計塔にそれらしきシルエットがかろうじて見えた。

一瞬でそのシルエットは跳んできた。

 

「ふ、ふふ、フフフフ……!ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方……!」

 

緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラ全開の黒ウサギ。

マジギレしてないか?

一体今度は何したんだよ、問題児共(アイツら)

 

「逃げるぞッ!!」

「逃がしませんッ!!」

「え、ちょっと、」

 

十六夜は飛鳥を抱きかかえて高台を飛び降りた。

耀は旋風を巻き上げて空に逃げようとするも、

 

「わ、わわ、……!」

「耀さん、捕まえたのです!!もう逃がしません!!!」

 

耀のブーツを掴み黒い笑みをこぼしている黒ウサギ。

 

「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ♪」

「りょ、了解」

 

黒ウサギは明らかに怯えている耀をこっちに投げつけて耀を俺が受け止めて。

っていうのは無理で、そのまま白夜叉にぶつかった。

 

「きゃ!」

「うわ!」

「グボハァ!お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしはいささか礼儀を――」

「大輔さん!耀さんのことをお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 

俺の返事も待たずジャンプしていった。

 

「耀、とりあえず、ちょっとおも…ではなく上から降りてくれるか」

「……」

 

無言で降りられた。

 

「そ、その言葉のあやだ。つい、反射的に出ただけで」

「別に私は何も言ってない」

「悪かったって。謝るから」

「……」

「何でもするから」

「……」

 

けっこう怒ってるな。

確かに女の子の体重に触れるなんて最低だけど。

でも、飛鳥ならまだしも耀はそんなこと気にしないと思ってたんだけどな。

 

「……おんしらも私を無視するのか」

 

現在“サウザンドアイズ”の支店の座敷でお茶を啜りながら耀が白夜叉に事の経緯を話している。

俺は座敷の縁側で鹿威しを見ながら耳を傾けている。

 

「ふふ。なるほどのう。おんし達らしい悪戯だ。しかし、“脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

 

そりゃ黒ウサギも怒るだろうな。

ガルドのコミュニティに入ろうかと考えもした俺が言えた義理ではないが、さすがにやりすぎだな。

 

「うん。少しだけ私も思った。だけど、黒ウサギだって悪い。ちゃんと言ってくれればよかったのに」

 

言ったら言ったで、な……。

だから、黒ウサギに相談された(・・・・・)俺も黙ってたわけだし。

正確には秘密にしたがっていた黒ウサギの背中を押しただけだけど。

 

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんのかの?」

「それは……そうだけど」

「まあまあ。耀も反省してるし、その辺で勘弁してやってくれ」

 

縁側から座敷に向き直り続けた。

 

「箱庭に来て1ヵ月以上一緒にいる耀達を信頼しないで黙ってた俺も悪いしな。黙ってて悪かったな、耀。ごめん。だから、黒ウサギを許してやってくれ」

 

頭を下げて謝る。

 

「えーっと、その……」

 

どうしていいか分からず、あたふたしている。

俺が謝るなんて思ってなかっただろうし、耀というか問題児たち(アイツら)は対等な人に謝られる状況に慣れていないしな。

俺は白夜叉に目配せして、

 

「ところで、おんしに出場して欲しいゲームがあるのだが」

「え、うん。……どんなゲーム?」

「これなんだがな――」

 

これは一緒に過ごして分かったことだが、元の世界ではちゃんとした(・・・・・・)対等な交友関係を築けなかったようだ。

俺も高校ではそんなの築けてないが。

ギフトゲームと黒ウサギで遊ぶ時以外は基本的に1人でいるし会話も無い、余所余所しさもあった。

 

――ペルセウスとのゲームが終わって1週間くらい経った頃に黒ウサギから相談を受けた。

 

「どうにかならないでしょうか?」

「難しいんじゃないか。俺も見てきたけど、飛鳥と耀はそういうのが(・・・・・・)下手なだけみたいだから慣れろとしかいえないし」

 

飛鳥は耀に積極的に話しかけてはいるが、耀はキョドってぎこちなくなってるし、飛鳥は飛鳥でぎこちない耀と打ち解けようとするも慣れていないから逆にあたふたしている。

そして、会話が思うように成り立たず気まずくなって距離を取る。

というか、初めての友達にお互いがお互いに気を使い過ぎていて、嫌われたくないから踏み込めずにいる。

これはいつになるかは分からないが、時間が解決してくれるだろう。

 

「まあ、問題は十六夜(アイツ)だよな」

 

十六夜は話しかければ返事もするし、話しかけてもくる。

別にコミュ障でもない。

でも、十六夜のはある意味業務的(・・・)なものだった。

必要最低限なコミュニケーションだけで全く近寄ってはこない。

 

「なんていうかアイツは友達とか、そんなものには興味が無い(・・・・・)って感じだからな」

「そうですね…………」

 

これは俺も黒ウサギも同意見なんだが、十六夜は興味が無いことは切り捨てる傾向がある。

そんな奴をどうこうするのは骨が折れる。

 

「黒ウサギの考えを聞いてもらってもよろしいでうか?」

「いいけど?」

「相談しておいてあれなのですが、黒ウサギは今は(・・)このままでもいいと考えています」

「ん?……続けてくれ」

「はい。――皆さん問題児ですがコミュニティの事をちゃんと考えてくれています。確かに、コミュニケーションなどに問題はありますが、まだ慣れていないだけだと思います。その、だから、今は黒ウサギが我慢すればいいと考えました」

 

ん?

我慢?

何の話だ?

 

「……黒ウサギを弄ったり、弄んだり、耳を引っ張ったり、顔に落書きしたり、追いかけ回されたり、服をいやらしくしされたり、タライを落とされたり、セクハラされたり、埋められたり、自作ポエムを読まれたり、落とし穴に落とされたり、変なあだ名を付けられたり、川に突き落とされたり、――」

「いやいやいやいや」

 

問題児共(アイツら)何やってんの!?

半分以上知らないし。

俺がいない時に……。

 

「黒ウサギ、そんなことされてたのか!?」

「はい。黒ウサギもそんなことさえ我慢するだけで、御三人方がコミュニケーションを取ってくれるなら今はこのままでいいかと」

「そうか…………っていいわけないだろ!!!」

 

献身の象徴ドMなの!?

いやドMだろ!!

 

「お前が先にダウンしたらどうするんだ!」

 

おそらく、アイツらはそれぞれで遊んでただろうからここまでやっていることは知らないだろう。

 

「そうなってみろ、アイツらでも責任を感じるはずだ。それで、唯一のコミュニケーション媒体がなくなれば、ますますコミュニケーションなんて取らなくなるぞ。だから、適度に遊ばれて……」

 

アレ?

やっぱり黒ウサギには遊ばれてもらわなければならないのか?

 

「いやいや、やっぱり駄目だろ!」

「あ、あの大輔さん?」

「とにかく、アイツらには俺から言っとくから、お前はもっと抵抗しろ!」

 

それが出来ないからこんな状況になってるんだったな。

黒ウサギを放っておくわけにはいかないし、しち面倒だが仕方ないか。

 

「はあああ……もう分かった。黒ウサギ!俺も協力するからアイツらをどうにかするぞ!」

「は、はい!ありがとうございます。頑張りましょう、大輔さん!!」

 

黒ウサギの満面の笑み。

守るためにも頑張るか、いや頑張るしかないのか――。

 

こんな感じで2人で3週間、コミュニケーションを取らせるためにあらゆる事をしてきた。

それはまた別の機会に。

 

「ねえ大輔、話聞いてる?」

「ん?ああ悪い。何だっけ?」

「おんしには招待客(ゲスト)としてギフトゲームに出場してもらう」

「大輔に拒否権はないから」

「……はい?」

 

 

 


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