普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ? 作:蘇我入鹿
『ギフトゲーム名 “The PIED PIPPER of HAMELIN”
・プレイヤー一覧
・現時点で3999999外門・4000000外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉。
・ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
1.ゲームマスターを打倒。
2.偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 “グリムグリモワール・ハーメルン”印』
上空から雨のようにばら巻かれていた黒い封書。
俺はその1つを手に取る。
「これと同じものがあの日、机にあったのか」
おそらく、俺だけだろう。
この黒い羊皮紙を見て感慨に浸っているのは。
「大輔!見て!」
耀が指差す方を見ると、十六夜達がいた場所は黒い風吹き荒れていて明らかに何か起きていた。
「とりあえず、合流するぞ」
俺と耀は飛んだ。
バルコニーが見えてきて、黒い風がある一点を中心に収束しているのが分かった。
その周りには飛鳥とジンしかいない。
バルコニーに着地して、黒い風の中を改めて見たら、
「白夜叉!?何で閉じ込められてるんだ?」
最強のフロアマスターが抵抗しても壊れない黒い風の檻。
俺にはこの状況に少し心当たりがある。
「大輔君に耀さん!ええ、今からそれを聞くところよ」
「よし!よいかおんしら!今から言うことを一字一句違えずに黒ウサギに伝えるのだ!」
普段の白夜叉からは考えられない緊迫した声。
今がそれだけ非常事態で想定外なのだと分かる。
「第1に、このゲームはルール作成段階で
「なっ……!?」
「第2に、この魔王は新興のコミュニティが高い事を伝えるのだ!」
「わ、分かったわ!」
その簡素な説明で少しの時間も惜しいことが伝わってくる。
「第3に、私を封印した方法は恐らく――」
「はぁい、そこまでよ♪」
ハッと全員が声の方へ振り返った。
そこには布地が少ない白装束の女が、3人の火蜥蜴、“サラマンドラ”の同士を従えていた。
「あら、本当に封じられてるじゃない♪最強のフロアマスターもそうなっちゃ形無しねえ!」
「おのれ……!“サラマンドラ”の連中に何をした!?」
「そんなの秘密に決まってるじゃない。貴女に助言されないうちに、そこの子達にはご退場頂こうかしら♪」
白装束の女はフルートを唇にあてる。
奏でられる不協和音に呼応して火蜥蜴は血走った瞳を俺達に向けて跳びかかってきた。
「飛鳥!」
体長2メートルはあろうかというその巨体を上段蹴りで薙ぎ払う。だが、体重が違いすぎた。着地と共に再度跳びかかってきた。
「耀は飛鳥を!俺はジンだ!」
お互いに1人を抱えて飛んで逃げる。
操られているだけの火蜥蜴を無闇にケガさせるわけにはいかない。
「あら、今の力……グリフォンか何かかしら?随分と変わり種の人間じゃないの。見れば顔も端正で中々可愛かったし……よし、気に入った!貴女は私の駒にしましょう!」
嬉々として声をあげていた。
俺達は無視して飛び去ったが、音が、宮殿内に高く低く魔笛が響き渡った。
「あ……駄目だ、コレ……!」
「きゃっ!」
「耀!飛鳥!」
突然崩れ落ちて、そのままうずくまった。
2人の容体を確認しようと急いで近付き、
「私は大丈夫よ。でも、耀さんが……」
耀はガクガクと痙攣している。
俺は3人も抱えて飛べない。
「飛鳥は走って逃げろ。俺が耀も抱えて――」
「ジン君!」
「は、はい!」
「先に謝っておくわ。……ごめんなさいね」
飛鳥は申し訳なさそうな哀しい顔を浮かべ、
「コミュニティのリーダーとして――
「……わかりました」
ジンは言われるがまま、耀を抱えて走り去った。
この時間的ロスで追いつかれた。
「……あらら?貴方達だけ?」
「私達に任せて先に逃げたわ。貴女程度の三流悪魔、私達で十分ですって」
「いや、何言ってんだ!俺達も逃げるぞ!」
「大輔君こそ何を言ってるの!ここでこの三流悪魔を止めないと、どれくらいの被害が出るか分からないわ!」
「そうかもしれないけど、」
俺は言葉に詰まった。
ジャックに言われた事が心に響く。
とはいえ、飛鳥の言うことも一理ある。
コイツはフルートの音で操ることが出来るようだ。
確か、笛吹き道化は“人とネズミを操る道化”。
それならそれ以外への支配力はそんなに大きくは無いはず。
なのだが、現状火蜥蜴を操れている以上、人とネズミ以外も操れるのだろう。
時間が経てば経つほど、味方が減り、敵が増える。
魔王とのギフトゲームでそれは間違いなく不利になる。
「……ふぅん?逃げないのかしら?」
「ああ!よく考えたら三流悪魔程度、俺達の敵じゃないからな!」
「ふふ、いいわぁ♪予想以上にいい人材が転がってるじゃない!目移りしちゃうわねホント!」
「全員――
は?と唖然とする白装束の女。
しかし、その直後、ガチン!と火蜥蜴も含め女を拘束した。
飛鳥は白銀の十字剣をギフトカードより取り出し、懐に飛び込んだ。
「――っ……!!この、甘いわ小娘!!」
飛鳥は拘束を振り払った女に剣を弾じかれ、一撃をお腹にもらいその場に座り込む。
女はさらに飛鳥を攻撃しようとした。
「そうはさせるか!」
漆黒を展開し俺と飛鳥を包み込み防御した。
「やっぱりソレ、やっかいね。坊やは引っ込んでなさい!」
そう言うと女は笛をひと吹きした。
すると、操られた火蜥蜴達が俺を囲み押さえ込みにきた。
操られている上に殺意が無いため、漆黒の出力が上がらない。
純粋な力比べでは全く歯が立たず、俺だでなく漆黒さえも押さえ込まれた。
「飛鳥!!」
飛鳥は動けないんだ。
俺が守らないと。
俺は翼任せに女に突っ込んだ。
だが、何度目かの魔笛が響き渡った。
女の前には火蜥蜴達が立ち塞がり、俺の突進を受け止められてしまった。
「それ以上はダメよ♪坊やには手を出さないって、約束だからね。大人しく拘束されてね♪」
「約束だと!?それはいったい誰のことだ!!」
「ふふ、教えるわけないじゃない♪」
あの女の子が言ってた奴のことか。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
飛鳥を助けないと――クソッ、駄目だ!振り解けない。
俺の素の力はただの普通の人間ものでしかない。
屈強な火蜥蜴らに取り押さえられたのでは全く動けない。
漆黒の翼も重すぎて飛ぶことも出来ない。
何で、俺は、いつも、いつも、肝心なときに、何も、出来ないんだ。
「じやあ、坊やはそこで大人しく見ててね」
「飛鳥!!逃げろ」
どうにか起き上がろうと女を睨みながら、身体を起こそうとしている飛鳥。
「綺麗な子。さっきの子もいいけど、総合では貴女の方が素敵よ♪」
ズドンッ!!!
もう1度お腹を蹴り上げた。
「飛鳥!!」
飛鳥は動かなくなった。
「よくも飛鳥を!!!」
「ふふ、そんなに凄んじゃって。可愛いわよ坊や♪」
この女を今すぐにでもぶっ飛ばしたい!!
漆黒を力任せに振りほどこうと暴れるが、
「あらあら、この子がどうなってもいいのかしら?」
「……っ……クソッタレ!!」
飛鳥は別の火蜥蜴に抱えられている。
「ふふ、それでいいのよ。あっちの最強のフロアマスターも抵抗しているようだけれど、あの黒い風は決して破れないわ」
女はバルコニーで魔笛を奏でる。
見させられている俺の目に映るのは、次々と支配されていく参加者達が同士討ちや破壊活動をする惨状だった。
俺は女に向かって止めるように叫ぶ。
だが、女は意にも介さず奏で続ける。
十六夜は何をしている!
アイツの力があれば止められるのに!
俺は無力だ。
いくら努力しようと、俺には誰も救えない。
その時、
ドォッゴォォォンンン!!
聞き覚えのある雷鳴が天に轟いた。
「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します――」
黒ウサギの“審判権限”。
そうかジンが伝えたのか。
まだ、終わってはいないんだ。
まだ、取り返しはつくんだ。
「まだ……まだ諦めるわけにはいかない!俺が救えないのなら、それだけの力がある奴に!そのためなら、俺は……――何だってやってやる!!」
次回、はぐらしていた女の正体がわかります。。