普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ?   作:蘇我入鹿

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謎の少女の正体が発覚します。


第15話 魔王と交渉するそうですよ?

大祭運営本陣営、大広間。

負傷者がぞくぞくと運ばれてきている。

俺がここに来たときにはすでに十六夜がいた。

十六夜は俺の顔を見るなり、

 

「なんつう顔をしてやがる」

「ああ」

「気負い過ぎんなよ。まだ、始まったばっかりなんだぜ」

「ああ」

「ヤハハ。ちょっと、歯を食いしばれ♪」

「……は!?え、ちょ、いきなり何!?」

 

十六夜は問答無用で拳を振りかぶる。

俺は反射的に目を瞑った。

が、殴られることはなく、

 

「いつものバカ面に戻ったな」

「バカ面ってお前。……黒ウサギと一緒にすんなよ」

「ヤハハ!お前はいつも通りでいいんだよ。柄にもねえ事をしても足をすくわれるだけだぜ」

「ああ、よく分かってる」

 

柄にもない、か……。

仲間から求められた役割、そして、俺が望んだ役割、コミュニティ“ノーネーム”のフォローとツッコミ(精神的支柱)

それは、コミュニティが、仲間がピンチの時ほど絶対にブレずに支えること。

たが、俺の考えていることは本来の役割とは正反対のことだ。

とはいえ、その時が来るまで俺は果たすべき役割を全うしなければ。

俺は十六夜に気合いを入れてもらった。

 

「もちろん手加減はしてくれるよな?」

 

少し後悔しつつ、十六夜の高笑いと共に顔面に一発。

意外なことに本当に手加減してくれた。

その後、俺達を見つけた黒ウサギとジンは、急いで駆け寄って来た。

 

「十六夜さんに大輔さん、ご無事ですか!?」

「俺達は問題ない。他のメンツは?」

 

十六夜の問いに、ジンは顔を下げた。

ジンが悪いわけではないが、俺と同じように自分の無力さが悔しいのだろう。

ジンは重い口を開ける。

 

「みなさんの今の状況なのですが……。耀さんは外傷はないのですが、まだ意識が戻っていません。レティシアは“審判権限”の発動が受理されて宣言をしている時に、反則ギリギリの攻撃を受けて重症。飛鳥さんに至っては姿も確認出来ていません。……すみません、僕がもっとしっかりしていれば……」

 

耀は耳が良い。

だから、魔笛が効き過ぎているだけだろうからそのうち目を覚ますだろう。

飛鳥はやはりあの女が連れていったのだろう。

しかし、レティシアの離脱は大きな戦力ダウンだ。

 

「御チビを責めるわけじゃねえが、もう少し審判決議が早ければ、こっちの戦力を削られずに済んだわけか」

「白夜叉様の伝言を受け取り、すぐさま審議決議を発動させたのですが……少し遅かったようですね」

「そもそも審判決議ってのはなんのことだ?」

「“主催者権限”によって作られたルールに、不備がないかどうかを確認する為に与えられたジャッジマスターが持つ権限の1つでございます」

「ルールに不備?」

「YES。ジン坊ちゃんの伝言によると『今回のゲームは勝利条件が確立されていない可能性がある』との事でした。真偽はともかく、ゲームマスターに指定された白夜叉様に異議申し立てがある以上、“主催者”と“参加者”でルールに不備がないかを考察せねばなりません。それに1度始まったギフトゲームを強制中断できるわけですから、奇襲を仕掛けてくる事が常の魔王に対抗するための権限、という側面もあります」

「要するに強制的なタイムアウトみたいなものか。無条件でゲームの仕切り直しが出来るなら、かなり強力な権限じゃねえか」

「いえ、そうとも限らないのですよ。単刀直入に説明しますと“このギフトゲームによる遺恨を一切持たない”、という相互不可侵の契約が交わされるのですヨ」

「つまり、ゲームで負ければ報復行為を理由にギフトゲームを挑むことが出来ない、一発勝負ってことか」

「YES。ですので、負ければ救援は来ないものと思ってください」

「ハッ、最初から負けを見据えて勝てるかよ」

 

十六夜が失笑していると、大広間の扉が開いた。

大広間に入ってきたのはサンドラとマンドラの2人だった。

 

「今より魔王との審議決議に向かいます。同行者は6名です。――まずは“箱庭の貴族”である、黒ウサギ。“サラマンドラ”からはマンドラ。ホストからの指名で楠木大輔。その他に“ハーメルンの笛吹き”に詳しい者がいるのならば、交渉に協力して欲しい。誰か立候補する者はいませんか?」

 

サンドラの緊張した声が大広間に響き、俺の頭にはより響いた。

 

「なんで俺?」

「大輔さん、何をしたのでございますか?」

「ヤハハ。丁度いいぜ」

 

十六夜はジンの首根っこを掴まえ、

 

「“ハーメルンの笛吹き”についてなら、このジン=ラッセルが誰より知っているぞ」

 

俺そっちのけで、十六夜の悪そうな声が大広間に反響する。

 

「……は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

「めっちゃ知ってるぞ!とにかく詳しいぞ!役に立つぞ!この件で“サラマンドラ”に貢献できるのは、“ノーネーム”のリーダー・ジン=ラッセルを置いて他にいないぞ!」

『“ノーネーム”が……?』

『何処のコミュニティだよ』

『信用出来るのかしら』

 

十六夜の捲し立てに激しく反応した。

サンドラもキョトンとした顔でジンを見ている。

ならばここは、

 

「“ノーネーム”のリーダー・ジン=ラッセルはあの“ペルセウス”ギフトゲームで勝利したぞ!」

『それは本当なのか?』

『ありえねえ』

『おい、他に立候補者は――』

 

俺の発言でどよめきはあったが効果はなかった。

しかし、他の同行者が現れる気配はない。

 

「他に申し出がなければ“ノーネーム”のジン=ラッセルにお願いしますが、よろしいか?」

 

サンドラの決定にどよめきは起こる。

たが、やはり他の同行者が現れることはなかった。

自分達には何も出来なくても、自分達の命運を“ノーネーム”に託すのは不安なのだろう。

ジンも俺達の発言による周囲の反応を聞き、空気を察して揺れている。

 

「馬鹿かオマエ。毎夜毎晩書庫で勉強してたのは何のためだ。此処で生かさなくてどうする」

「そ、それは」

 

ジンがあそこまで勉強していた事は、昨日知ったばかりだ。

ジンはリーダーとしてコミュニティの為に努力していた。

 

「ジンは俺達の旗頭なんだ。ジンが前に出ないと俺達は後に続くことも出来ない。違うか?」

「……っ……」

「もう寄生虫だの何だの言われたくないんだろ?変わりたいって言ったじゃねえか。ならちょっとカッコいいところを周りに見せつけて、名を挙げてやろうぜ、リーダー(・・・・)

「は、はい……!」

 

十六夜に初めてリーダーと呼ばれて嬉しかったのか勢いで返事をするジン。

結局、何で俺が指名されたかは分からないと言われた。

 

 

――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

 

「ギフトゲーム“The PIED PIPPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」

 

俺達の対面には、白黒の斑のワンピースを着た少女の魔王を真ん中に、その両隣に軍服のヴェーザーと白装束のラッテンが座っている(名前は十六夜から聞いたのだが)。

そして、

 

「……俺を指名したのはやっぱりお前か?」

 

その3人から離れたところにあの謎の女の子が座っていた。

 

「その通りです。そこの魔王さんが約束を守らないから、心配していたんですよ」

 

そう言うと、可愛らしいふくれっ面で少女の魔王を睨み付ける。

 

「あら?何かしら?」

「とぼけないでください!聞いていませんよ!あらかじめ参加者に――」

「フロン、それ以上しゃべったら、貴方達との約束も考えた直さないといけくなるわよ?」

「そ、それは……ぐぬぬ」

 

やや不穏な空気を察した黒ウサギはコホンとひとつ咳ばらいをして、厳かな声で告げる。

 

「まず“主催者”側に問います。此度のゲームですが、」

「不備は無いわ」

 

少女の魔王は断言する。

 

「今回のゲームに不備・不正は一切無いわ。白夜叉の封印も、ゲームのクリア条件も全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂われはないわ」

「……受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘を吐いてもすぐ分かってしまいますヨ?」

「ええ。そしてそれを踏まえた上で提言しておくけれど。私達は今、無実の疑いでゲームを中断させられているわ。――言ってること、分かるわよね?」

 

斑の少女は涼やかな瞳でサンドラを見つめる。

サンドラは苦々しく答えた。

 

「不正がなかった場合……主催者側に有利な条件でゲームを再開させろ、と?」

「そうよ。新たなルールを加えるかどうかの交渉はその後にしましょう」

「……わかりました。黒ウサギ」

「は、はい」

 

少し動揺したように頷いた黒ウサギ。

ここまでハッキリとした態度を取ってくるとは思わなかったのだろう。

黒ウサギは天を仰ぎ、ウサ耳をピクピクと動かす。

肝心の十六夜はといえば、マンドラに何か聞いていた。

そして、黒ウサギの耳が止まり少し萎れた。

 

「……。箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに、不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な方法で造られたものです」

 

……これで俺達、参加者側は一気に不利になったわけか。

 

「当然ね。じゃ、ルールは現状を維持。問題はゲーム開始の日取りよ」

日取り(・・・)?日を跨ぐと?」

 

サンドラが驚きの声を上げる。口にこそ出さなかったが俺達も同じだ。

明らかに劣勢である参加者側に、ケガの回復や謎を解く時間を与えるというのだから当然だろう。

 

「ジャッジマスターに問うわ。再開の日取りは最長で(・・・)いつ頃になるの?」

「さ、最長ですか?ええと、今回の場合だと……1ヵ月でしょうか」

「じゃ、それで手を――」

「待ちな!」

「待ってください!」

 

十六夜とジンが同時に声を上げた。

ということはここからが勝負ってわけだな。

 

「……なに?時間を与えてもらうのが不満?」

「いや、ありがたいぜ?だけど場合によるね。……俺は後でいい。御チビ、先に言え」

「はい。主催者に問います。貴女の両隣にいる男女は“ラッテン”と“ヴェーザー”だと聞きました。そしてもう1体が“(シュトロム)”だと。なら貴女の名は……“黒死病(ペスト)”ではないですか?」

「ペストだと!?」

 

ジンと十六夜以外は驚愕した。

俺でもその疫病は知っている。

世界史の授業で、14世紀に大流行してヨーロッパの人口の3割が死んだと習った。

 

「……。正解よ。私の名前は黒死病(ペスト)。そして私のギフトネームは“黒死斑の魔王(ブラックパーチャー)”よ。よろしければ貴方とコミュニティの名前を聞いても?」

「……“ノーネーム”、ジン=ラッセルです」

 

ペストは意外そうな顔をした。

まあ、名無し如きが正体を暴いたのだから当然の反応だろう。

 

「そ。覚えておくわ。……だけど一手遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右出来ると言質を取っているわ。そして、言っていなかったことがある」

「え……?」

「参加者の一部には(ペスト)の病原菌を潜伏させている。無期生物や悪魔、もしくは楠木大輔みたいな特殊な力で守られてでもない限り発症する、呪いそのものを!発症まで最短で2日。1ヵ月後まで何人生きていられるかしら」

 

最悪だ。

かなりの死者が出るのもそうだが、問題はそれだけではない。

1ヵ月後の時点で肉体的にも精神的にも戦える者がいったいどれくらい残るだろうか。

このままでは戦う前に負ける。

 

「ジャ、ジャッジマスターに提言します!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう1度審議を、」

「駄目ですサンドラ様!ゲーム中断前に病原菌を潜伏させていたとしても、その説明責任を主催者側が負う事はありません。また彼らに有利な条件を押し付けられるだけです……!」

 

悔しそうに黙るサンドラ。

その姿を涼やかな微笑で見つめながら、ペストは俺達に問う。

 

「此処にいる人達が、参加者の主力と考えていいのかしら?」

「……」

「マスター。それで正しいと思うぜ」

 

黙りこむ俺達に代わりヴェーザーが答える。

 

「なら提案しやすいわ。――ねえ皆さん。此処にいる楠木大輔以外のメンバーと白夜叉。それらが“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

「なっ、」

 

俺以外!?

 

「私、貴方達の事が気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭いいし」

「私が捕まえた紅いドレスの子もいい感じですよマスター♪」

「ならその子も加えて、ゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安いものでしょ?」

 

微笑を浮かべ、愛らしく小首を傾げるペスト。

しかしそれは、従わなければ皆殺し(・・・・・・・・・)にすると言っている。

ならば、

 

「俺以外、という理由を聞きたいんだけど」

 

十六夜とジンは、状況を打破するために考え込んでいる。

だから、俺はいつものように自分に時間稼ぎ(できること)をするだけだ。

 

「魔王様からしたら俺は弱すぎていらないってことなのか?」

「あら?何も聞いてないようね、楠木大輔。そうね、私が教えられるのは、貴方にはあの人との約束で此方からは手を出せないってことだけかしら。貴方から挑んで来る分にはその限りではないけれど」

「なら、その約束とやらを反故にする。それで、再開を早くしろ」

「確かに当事者でもある貴方が言うのなら、約束を反故にすることはできる」

「なら、」

「でも、それをするとそこの愛マニアが黙ってないでしょ?」

「当たり前です。約束を反故にするなら、私は大輔さん達に味方します!」

「え?」

「ほらね。……でも、ここでフロン達と縁を切るのもこれからのことを考えたらアリね。……決めたわ。約束は正式に反故にするわ」

 

妙な話の流れにはなったが、意図せずして戦力?が増えた……のか?

当のペストはこれ以上話すことはないと、俺から目を逸らしジンを観察している。

それに気付き、考えが纏まったジンは話を切り出す。

 

「あの、よろしいですか?」

 

ジンの言葉に全員が集中する。

ここまでの会話でジンに俺達は期待し、ペスト達は警戒する。

 

「貴方達“グリムグリモワール・ハーメルン”はもしや、新興のコミュニティなのでしょうか?」

「答える義務はないわ」

「なるほど、新興のコミュニティ。優秀な人材に貪欲なのはその為か」

 

十六夜がすぐさま畳み掛ける。

ペストは黙り込み、

 

「おいおい、このタイミングの沈黙は是ととるぜ?」

「……だからなに?私達が譲る理由は無いわ」

「いいえあります。だって貴女達は、僕らを無傷で手に入れたいと思っているはずですから。もしも1ヵ月も放置されたら、きっと僕達死んじゃいます」

 

ジンは捲し立てる。

 

「そう。死んでしまえば手に入らない(・・・・・・・・・・・・・)。だから貴女はこのタイミングで交渉を仕掛けた」

 

ジンは絶対の自信を持って言い切った。

だが、それでもペストは言い返す。

 

「もう1度言うけど。だからなに(・・・・・)?私達には再開の日取りを自由にする権利がある。1ヵ月でなくとも……20日。20日後にすれば、病人の人材を、」

「では発症したものを殺す」

 

ギョッと全員が全員がマンドラを見る。

 

「例外はない。縦令サンドラだろうと“箱庭の貴族”だろうと……この私であろうと殺す。フロアマスターである“サラマンドラ”の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

俺達は絶句する。

それがブラフだとしても過激すぎると。

 

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

 

だが、やはり十六夜だけは違った。

 

「へ?……あ、YES!」

「交渉しようぜ、“黒死斑の魔王”。俺達はルールに“自決・同士討ちを禁ずる”と付け加える。だから再開を3日後にしろ」

「却下。2週間よ」

 

2週間は長すぎる。

どんどん交渉して短くしなければ。

 

「今のゲームだと、黒ウサギの扱いはどうなってるんだ?」

「黒ウサギは大祭の参加者ではありましたが、審判の最中だったので15日間はゲームに参加できない事になっています。……主催者側の許可があれば別ですが」

「よし、それだ!魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手には入らない。けど、黒ウサギを参加者にすれば手に入る。どうだ?」

「……10日」

 

10日じゃ、まだ長い。

何か他に交渉出来るモノは……。

 

「ゲームに……期限を付けます」

「なんですって?」

「再開は1週間後。ゲーム終了は……その24時間後(・・・・・・・・)。そして、ゲームの終了とともに主催者の勝利とします(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ジンの最後の交渉が言い渡された。

 

「……本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」

「はい。1週間は死者が現れないギリギリのラインです。そして、それ以上は精神的にも体力的にも僕らは耐えられない。だから全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」

「――……」

 

ペストは口に手を当てて不機嫌そうな顔で思案している。

悔しいが俺には交渉に使えるようなモノは何も持ってない。

ここはリーダーに任せるしかない。

 

「ねえジン。もしも1週間生き残れたとして……貴方は、魔王(わたし)に勝てるつもり?」

「勝てます」

 

ジンはさも当然のように断言する。

まったく頼もしいリーダーになったな。

 

「…………そう。良く分かったわ」

 

ペストは不機嫌そうな顔を一転させて、笑った。

 

「宣言するわ。貴方は必ず――私の玩具にすると」

 

そう言い残して“黒死斑の魔王”は消え、1枚の“契約書類”だけが残った。

 

 

 

 




当初の予定と違い仲間?にしてしまいました。
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