普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ? 作:蘇我入鹿
俺は岸へと這い上がり、へたりこんで辺りを見回すと俺と同じように濡れている人が3人いた。
全然気づかなかったが、俺以外にも一緒に落下してきたようだ。
「信じられないわ!まさか問答無用で引きずりこんだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
「……大丈夫?」
「に、にゃにゃにゃ……!」
「此処……どこだろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか」
え?世界の果て?大亀?何の話だ?
というか、あの状況で何でそんな余裕があるんだコイツは。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「……春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。……野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけ、お嬢様」
心底楽しそうにしている逆廻十六夜。
高慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。
我関せずながらも会話を気にはしている春日部耀。
俺は思った。
何で平然と自己紹介が出来て、何でこの状況に適応して、何で……楽しそうなんだよ。というか、俺がおかしいのか。
学校から帰ってきて、部屋に入って手紙を読んだら紐なし&パラシュートなしのバンジーをさせられて……そうか、これは夢か。そうだ夢に違いない。でなければ、こんなことは有り得えない……。
やっと少し落ち着いて、頭が回り始めての自問自答。
結論は訳が分からない状況ということだけが分かった。
「……本当に大丈夫?」
春日部の声で3人の視線が俺に集まっていることに気付いた。
続けて、
「何か私達のことを観察してたようだけれど」
「おい、腰抜け野郎。手でも貸してやろうか」
よく分からないが、3人とも腰を抜かしている俺に気をつかって?しばらく無視してたみたいだ。
なんとも斬新な気づかいだ。
心配するか馬鹿にするかは置いといても、普通気づかうならもっと他にやり方があるだろう。
「ああ、悪い、大丈夫だ。えーっと……何だっけ?」
「「「名前!!」」」」
「ああ、そうか。えーコホン、俺は楠木大輔だ。よろしく」
他人とこうやってフランク?に話すは久しぶりだな。
いつ以来だろう……。
――そんな4人を物陰から見ていた黒ウサギは思う。
(うわぁ……楠木大輔さん以外はなんか問題児みたいですねえ……)
召喚しておいてアレだが……お三方が人類最高クラスのギフト所持者であることを、なんとなく理解した。
しかし、
(あのお方……楠木大輔さんは本当に大丈夫なのでしょうか)
俺の自己紹介後、
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた“箱庭”とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「……この状況に対して落ち着き過ぎているものもどうかとは思うけど」
口々にこの状況の文句を言っているが、
「俺的には、そもそも何でパニックの1つも起こさないのか、そっちの方が疑問なんだけど……」
とにもかくにも、この状況にすんなり適応しているこいつらは異常だ。
――(楠木大輔さん以外のお三方は、良くも悪くも適応するのが早すぎです。まあ、悩んでいても仕方がないデス。これ以上不満が噴出する前に腹を括りますか)
「――仕方がねえな。こうなったら、
逆廻のその一言で俺以外の視線が一点に集まる。
物陰から出てきたソイツにはウサ耳があった。
ここにきて
コスプレか?
それなら、かなりイタイ奴だが。
それよりも、逆廻の発言が気になるので黙って話を聞くか。
「なんだ、貴方も気付いていたの?」
「当然。そっちの猫を抱いている奴も気付いていたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「……へえ? 面白いなお前」
は?3人とも気付いていたのか?
な、なら、とりあえず、
「何だ、全員気付いていたのか」
冷静に平静に俺は空気を読んだ。
さっきのとんでも状況よりはましだったからか、今回は頭が回った。
ここで1人だけ気付いていなかったら“腰抜け野郎”からランクダウンしそうだし、これ以上恥をかきたくない。
「まあ、あんだけ熱い視線を送られたら気付くよな」
……これはちょっとまずかったか。
さすがにこれ以上の恥をかきたくなくて、適当なことをつい付け加えてしまった。
「「「……へえ」」」
久遠と春日部は驚いてはいるが逆廻だけが何か気付いたみたいに不敵に笑ってるし。
うーん“見栄っ張り”がプラスされたかも。
「や、やだなあ。黒ウサギは隠れていたわけではないんですヨ。出るタイミングを窺っていただけで。そんな怖い顔なされずにここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「……えっーと、無理?」
俺は空気を読み続けるしかないみたいだ。
「あっは、取りつくシマもって、最後の方は迷うなら聞いてくださいヨ」
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。それにしても楠木大輔さんはお三方とは違って普通の方みたいで良かったです)
ここからは目の前で起きたことをまとめる。
先に言うと俺は適当に空気を読んだだけなので静観していた。
が、あいつらは違った。
黒ウサギ?の耳を触ったり、鷲掴んだり、引っ張ったりして、散々に黒ウサギで遊んで、いや弄んでいた。
「本物なのか」
だんだんスケールが小さくなって変わる状況に、慣れてきた。
黒ウサギ?は、ぶつぶつと恨めしいことを呟いていたが、「さっさと進めろ」の一言で持ち直して、両手を広げ語り始める。
「ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は
他のことも含めて黒ウサギの長ったらしい説明をまとめると、
・ギフトゲーム
修羅神仏などから与えられた
この世界では、強盗や窃盗などの常識的に考えて犯罪と呼べるものを除けば、法とも言える。
・
ギフトゲームを開催した者。全ては自己責任。
・コミュニティ
まあ、俺達の世界の感覚で言うと町みたいなもの。
・箱庭
この世界のこと
ざっくりまとめるとこんな感じだが、俺的には黒ウサギの言った『あなた方は普通の人間ではございません』という言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
俺は間違いなく普通の人間のはずだ。
逆に、俺以外の3人は黒ウサギの言葉を聞いても別段に驚きもせず反応していなかったので、『
ここで考えられるのは、あいつらは何かしらの異能、才能などの
つまり俺も、もしかしたら、万が一の可能性で、何かの手違いで、
普通の俺ならこんな中2病全開の著しく痛い発想は出てこないし、嫌悪しているだろう。
だが、俺も昔はヒーローとかに憧れた幼少期はあったのでやはり期待はする。
ただ願望はそうだが、現実は最初に思った通り心当たりが嫌というほどない。
さてどうするか。すでに俺の普通という感覚がマヒしてるし。
「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」
静観していた逆廻が、威圧的な声を出す。
「……どういった質問ですか」
少しの間をおいて、真剣な表情で、
「この世界は……面白いか?」
久遠と春日部も無言で黒ウサギを見つめて返事を待つ。
その前に俺も山ほど質問したかったが、何もしなかった。
いや、
俺はたとえ何かしらの
ただし、この質問をした時に手紙に書いてあった『世界の全てを捨て』について、黒ウサギが元の世界の未練を聞いてくるだろうとも思った。
まあ、そのことは俺も適当に未練がある、と答えようと思っていたが、もし仮にあの手紙が
箱庭の世界にはリアルに修羅神仏がいるらしいし、人間如きの心の中なんて読めても不思議じゃない。
それでも帰りたいと言えばいいかもしれないが、本当に心の底で未練が無いと思っていた場合、俺はそんな世界に帰って
そこまで考えたうえで、引きとめられて箱庭に留まった場合、「俺には恩恵なんて無い」と正直に話したとき、役立たずな俺を黒ウサギはコミュニティに入れてくれるのだろうか。
答えなんて出ない。
俺と黒ウサギは出会ったばかりで、お互い何も知らないのに拒否しないとは言い切れない。
あいつらはこのままいけば黒ウサギのコミュニティに入るだろうし、あいつらとも出会ったばかりで黒ウサギが拒否したときに説得とかをしてくれるか分からない。
まあ、今までのところ、逆廻以外はそんな奴らではないとは思うが。
俺にはこの短時間でその人の性格などが理解できるほど観察とかしたことが無いし、しようとも思ったことが無い。
まして、話を聞く限りこの箱庭の世界で1人で生きていける自信なんて全然無いし、恩恵を持っていない俺を入れてくれる他のコミュニティがあるかどうかも分からない。
これらを踏まえて何事もなければ流れ上、黒ウサギのコミュニティに入れてくれそうだし、何にしても箱庭の世界をもっと知らなければということも含めて、俺は何も質問せず黒ウサギの返事を期待もせずにただ待った。
「――YES」
次まではすぐに投稿するつもりです。