普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ? 作:蘇我入鹿
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの3人の方が?」
「YES!こちらの4人の御方が……え、あれ?もう1人いませんでしたっけ?目つきが悪くて、かなり口が悪くて、態度が悪くて、頭が悪……ではなく、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」
このウサギ、本人がいないからってけっこう言うな。
もっとへりくだるウサギかと思っていたんだが。
「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
そうだな、逆廻はすんごいスピードで駆けていった。
少なくとも、あいつが化け物で問題児ということが分かるエピソードになったな。
ちなみに、驚くことはもう止めた。俺はここが『ド○ゴンボール』の世界だと仮定することにした。
アレを基本に考えれば、ほとんどのことは乗り切れるだろうし。
むしろ、アレを超えるような世界なんて考えたくもないが。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「“止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」
「「うん」」
「大輔さんはなんで教えてくれなかったのですか!」
ガクリ、と落ち込んでいる黒ウサギ。
俺は閃いた。
逆廻という超問題児、それを止めない久遠と春日部の問題児、この3人に振り回される黒ウサギ。
そうか、黒ウサギのフォローをやればいいのか。
黒ウサギに恩を売っとけば、何もなくてもコミュニティには残れるかもしれない。
我ながらネガティブな発想だが、たぶん今はこれがベストだろう。
「悪いな黒ウサギ。気付いてはいたんだが、逆廻はちょっと問題児みたいだったから、“世界の果て”とかで、迷子にでもなれば大人しくなるかと思って」
こうやって模範生アピールしてポイントを稼げば、当面は大丈夫だろう。逆廻には悪いが。
「確かに、黒ウサギももう少し大人しくしてくれればとは思いますが」
「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣がいます!」
「幻獣?」
黒ウサギによると凶暴なリアルファンタジーモンスターがいると。
それってヤバくね?
最悪、逆廻が幻獣に殺されても自業自得だが、それだと俺にも責任があることになるし。
何やってんだよ、あいつ。
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジン坊っちゃん?が必死に事の重大さを訴えているが、久遠と春日部は肩を竦めているだけである。
そして、訂正があった。
久遠と春日部も超問題児だった。
「黒ウサギ、
俺の心に思ってもいない提案に対して、久遠と春日部は意外そうで迷惑そうな顔で俺を見る。
俺が行く?3秒で死ぬだろうけど。
この提案はリアルファンタジーモンスターがいるところに自ら助けに行くと提案すれば、俺には何かしらの恩恵があると思わせれるはずだし、仲間想いという印象を与えることが出来る。
まあ、本当に行くことになったら真実を話して土下座でも何でもやってコミュニティに入れてもらおう。
なんか、“箱庭”に来て空気と損得勘定でしか行動してないな。
俺の方がよっぽど問題児かもしれないな。
当の黒ウサギはやや複雑そうな顔つきで、
(大輔さんだけは、他の御三人様とは違うようですね。……心が痛いです。はあ、とにかくここは)
「その気持ちは嬉しいのですが、“世界の果て”の場所が分からない大輔さん達を行かせるわけには参りません」
俺が心から望む返事を貰っていることがばれないように「そうか」と呟いた。
「ジン坊っちゃん、申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
黒ウサギはジン坊っちゃんの許可を得て、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めて、あっという間に跳んで行った。
踏みしめた地面には亀裂が入っていた。
どうやら黒ウサギは箱庭の創始者の眷属らしく、言動と態度があんななのに、実は凄いらしい。
てっきり、マスコット的な使用人か何かと思っていたのに。
ということは、ますます取り入らなければヤバい。
――それからお互いに自己紹介して(それぞれ下の名前で呼ぶことになった)分かったが、この子供はジン坊っちゃんではなく、俺の所属するコミュニティのリーダーだった。
あれ?そういえばコミュニティの名前って何だっけ?
黒ウサギの説明の時、ところどころ聞いてなかったし今更聞きづらい。
まあ、そのうち分かるだろう。
リーダーも黒ウサギと一緒で強い可能性がある。
黒ウサギもそうだがアニメとかマンガみたいに見た目だけで強さなんて計れるわけないだろう、と学習した。
リーダーに連れられて、吸血鬼がどうのこうの話を聞きながら、六本の傷がある旗を掲げるカフェテラスに入った。
ここで耀のギフトが少し分かった。
どうやら、生き物全てと会話出来るらしい。
つまり、『ドクタード○トル』ということだ。
ん?そういえば、臭いがどうとか言ってたような気がするがよく分からない。
ちなみに、飛鳥のギフトは素敵なものではなく酷いものらしい。
まあ、リーダーも何かギフトは持っているだろうし。なにせリーダーだし。
これで、ギフトを持っていないのは俺だけということがほぼ確定した……はあ。
「ところで、大輔君はどんな力を持っているの」
ん?俺?
とりあえず、ここは、
「俺も飛鳥と一緒で酷いもので、あんまり人様に見せるような――」
「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
とにかくデカい。
2m以上ある巨体でタキシードを着た、品の無そうな男が勝手に相席してきた。
とにかく怖いんですけど。
「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」
さすがはリーダー。
物怖じせずにはっきりと名乗りを…………東区画の最底辺?ノーネーム?ノーネームっていうコミュニティの名前なのか?最底辺なんて黒ウサギは言ったっけ?
「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ――そう思わないかい、御令息と御嬢様方」
そんなことより、名無しで旗無し?えっどういうこと?疑問だらけなんだけど。
てっいうか、怖いからこっちを見ないで。
「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
さすが、お嬢様だな。逆廻がそう呼んでいたがまさに気品あるお嬢様だな。
………まあ、分かってるよ、飛鳥と耀が俺の方を見て「何か言え」みたいな顔をしたことは。
黒ウサギがいないから気を抜いていたけど、俺の評価ダダ下がりだな。
怖いもん怖いんだし、しょうがないだろ。
ここからは、飛鳥が主導で話を進めた。
時々、リーダーがガルド=ガスパーにちょこちょこ口を挟んでいる。
リーダーとはいえ子供が物怖じせずに言い返しているんだから年上である俺も湧き上がった勇気で、と思った瞬間もあったが、リーダーの挑発で怒ったガルド=ガスパーに肉食獣のような牙とギョロリとした目で見られ、湧き上がった勇気は蒸発した。
黙って
分かったことは、
・俺の所属する予定のコミュニティは箱庭の最悪の天災とも言われる“魔王”というものに滅ばされたこと
・黒ウサギは〝箱庭の貴族〟とか呼ばれる凄いウサギらしい
・どのコミュニティに属さずとも30日間の自由が約束されていること
・フォレス・ガロはこの辺り一帯を支配していること
・フォレス・ガロに俺達が勧誘されていること
以上のことがだいたい分かった。
リーダーと黒ウサギには悪いが、そんな崖っぷちのコミュニティには入りたくない。
本当に、リーダーと黒ウサギには悪いとは思うが。
飛鳥と耀はどうするんだろう?
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの。耀さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
「私、久遠飛鳥は――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この“箱庭”に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われ魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら、自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ紳士」
ピシャッと言い切った。ガルド=ガスパーは怒りで震えていた。
リーダーも驚きつつ、喜んでいる。
さっきのリーダーの酷く暗い顔を見て、今の喜びに満ちた顔を見て俺は思い出した。
つまり、フォレス・ガロに入る
↓
そのうちバレる
↓
ギフトがあることを前提に勧誘された
↓
当然、追い出される。もしかしたら、殺されることもあり得る
↓
路頭に迷う
↓
新たなコミュニティを探す
↓
どこにも入れない
↓
結果、死ぬ
「――俺も、お前のコミュニティには入らない、ガルド」
危ない危ない。
選択を間違えるところだった。
「お……お言葉ですが――」
「
「…………」
ん?
突然、ガルドは不自然に口を閉じて黙り込んだ。
ガルドも混乱しているようだ。
飛鳥の命令?の所為なのか?
「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方は
今度は椅子にヒビが入るほど勢いよく座り込んだ。
ガルドは身体の自由が完全に奪われている、もしくは支配されているようだった。
どうやら、これが飛鳥のギフトなのは確実のようだ。
“命令で相手を支配する”、さっき酷いものと言っていたが、人によってはそうかもしれないな。
ここからは、拒否もできない飛鳥による一方的な詰問が始まった。
詰問の内容はこうだ。
・さっきの話に出てきた「コミュニティに両者の合意で勝負を挑み勝利した」という言葉の真の意味を無理矢理、吐かせた。
・ガルドは子供を人質にとり脅迫したり、強引にコミュニティそのものを賭けさせたりしていた。
・そして、その人質は全て殺され、証拠隠滅のため食……。
・さらに、今の証言で裁くことは出来るが、その前に逃げれば、それまでだそうである。
外道過ぎる。
そんな外道のコミュニティに入ろうかと迷った俺の愚かさが憎らしい。
と、普通の人ならそうだろう。
だが、俺はこいつみたいな下種を知っている。
これだけは俺が普通の人とは違うところかもしれない。
怒りが込み上げてくるでもなく、ただひたすら、冷静に冷徹に、そして、
こんな自分を嫌悪しながらも。
飛鳥は指をパチンと鳴らすと、怒り狂ったガルドは本性を現した。
身体に黒と黄色の縞模様が浮かび上がり、虎になった。
正確には、俺の知識にある中でいうとミノタウロスの虎バージョンになった。
ガルドはその怒りのままに飛鳥に襲い掛かるが、
「ケンカはダメ」
耀がその細腕でガルドの剛腕を抑え込んだ。
どうやら、耀のギフトは生き物と会話するだけではないらしい。
さて、場が一瞬止まった今がいいだろう。
頭が冷酷なまでに冷え切っている俺は提案する。
「俺達“ノーネーム”は、“フォレス・ガロ”リーダー、ガルド=ガスパーにギフトゲームを申し込む」