普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ?   作:蘇我入鹿

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第5話 楠木大輔は手違いで呼ばれたそうですよ?

『魔王』

・“主催者権限”を悪様する者達を指し、魂と存在の全てを賭けてルールを定め、世界にそれを強制させる力を持っている

・魔王によるギフトゲームには必ず2つ以上のクリア条件、ゲーム終了条件がある

 

「おんしは、黒い紙“契約書類”は読んだのか?」

 

白夜叉の先の発言で、さすがの問題児たちも黙って俺とのやりとりを静聴している。

まあ、黒ウサギだけはかなりオドオドしているが。

 

「全く見てない」

 

その黒い契約書類を下に敷き、その上に綺麗に置いてあった手紙。

まあつまり、単純に上から順番に読もうと思っただけで何も見ていない。

 

「……そうか」

 

白夜叉は元とはいえ魔王と言っていた。

さっきは、その圧倒的な存在感で問題児たちをビビらせた。

今はさっきとは打って変わり、ただただ険しい表情で深刻に考え込んでいる。

俺は自分自身のこととはいえ、感覚的にも身体的にも何も違和感(・・・)などを感じていない。

しばらくの沈黙が流れ、

 

「おい!黙ってねえで、俺達にも説明しやがれ!」

 

逆廻が声を荒げ「ここまで聞いたんだから、俺達も知る権利がある!」とまくしたて、飛鳥と耀も続き訴える。

白夜叉が1度俺に確認を取り、

 

「そうか……。よかろう、分かっていることだけ簡単に説明してやろう」

 

静寂の中、白夜叉は口を開けた。

 

「おんしらは、“魔王”についてどのくらい知っておる?」

 

逆廻が代表して、自分の推測を交えて説明した。

白夜叉は逆廻の推測に時折、目を細めながらも淡々と聞いている。

……頭が追いつかない俺は半分くらいしか理解できてない。

 

「そこまで分かっておるとは、驚きだのう」

 

ことわざの“天は二物を与えず”。

これは一物すらない普通の人達が、妬み、恨みなどの負の感情から一物を与えられた者に“天は一物は与えたが、二物は与えなかった”といった場合に使う(俺談)。

つまり、天才に嫉妬して、「それは凄いけど、他はダメだね」と、自分のことを棚に上げて、天才をバカにするために使う。

俺もそういう風に考えていた。

だが、逆廻は“天は二物を与えた”といえてしまう。

俺と全く同じタイミングで箱庭に来たにも関わらず、神格を持つ凄い水神を倒し、箱庭のことをすでに理解している。

俺程度では足元にも及ばない、正真正銘の天才だ。

こういう奴が天才なんだと実感した。

飛鳥と耀も、逆廻と同程度だとは思わないが、一緒に呼ばれたのだから何かあるのだろう。

では、俺にはいったい何があるのだろうか?

空しい限りだ。

 

「この“箱庭”の世界は“立体交差並行世界論”が大いに関わっておる。それとは別に大いに関わっているものもあるが、今回は省かせてもらう。それで、小僧以外は来たばかりでまだ理解できておらんようだから簡単に説明すると、“魔王”が“主催者権限”を使って異世界の特定の人物(・・・・・)を、しかも他の召喚に紛れ込ませるなど、不可能(・・・)と言わざるを得ん」

 

白夜叉はそこで口を閉じ俺を見る。

そして、

 

「いくつあるかも分からん異世界から、特定の人物(・・・・・)を、時間、場所、タイミングなどを限定し、同じように黒ウサギが呼んだおんし達と、時間、場所、タイミングなどを限定して、運よく“契約書類”を見た(・・・・)その人物を召喚する。そのために、それらの膨大な情報の全てを一切の不備なく整えて、なおかつ“契約書類”に記載して“箱庭”に認められた上で、“魔王”として顕現して、初めて天文学的な確率で成功するかどうか」

 

バカな俺でも分かる。

いや、それは不可能でしょ、と……うん?

でも、それって……。

 

「――だが、ここで大きな問題がある」

 

真面目な声で、逆廻が白夜叉の話を遮る。

白夜叉も話を逆廻に譲り、逆廻が大きく間を開けて、勿体ぶって言う。

 

「楠木大輔、お前が本当に特定の人物(・・・・・)なのかということだ」

「……」

 

つまり、今の段階では確かめようがないと……。

鏡で見たら、なんとも微妙な顔を俺はしてるんだろうな。

当事者だからだろうけど、途中でなんとなく気付いてた。

結局、そのとんでもない低確率で狙い通りであろう逆廻達と同時に召喚された俺は、一見成功したように思える。

しかし、本当に成功したかどうかなんて、分からない。

俺が黒い契約書類を見ていない以上、確かめる方法がないからだ。

さらに、成功を疑う最大の理由は俺には恩恵が無い(・・・・・・・・・)

そんな俺を狙ってまで召喚する意味が分からない。

ホントに何度目かも分からない、同じ答えに行き着く。

頭の中にすぐに浮かんでくる。

なんつう、生きにくい世界なんだよ。

ただただ恨めしい。

 

「白夜叉様」

 

何もしゃべらなかった黒ウサギが言葉を発した。

その声には、さっきまでのオドオドはなく、

 

「今現在において、大輔さんには何か影響はあるのでしょうか(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

……。

 

「私の見立てでは、なんの影響もないだろう」

 

白夜叉曰く「“魔王”のギフトゲームは正常に動いてはおらぬだろう」とのこと。

なんでもここまでの無茶苦茶していれば、参加者側にかなり有利なルールが織り込まれるらしい。

 

「俺が“契約書類”を読むまでは、中断しているようなものであると?」

 

白夜叉に肯定された。

通常ならば魔王のギフトゲームにおいて、「契約書類を読んでいないから」とかそんな理由で魔王に文句を言うなんて行為はバカにされるらしい。

そもそも、無理難題、理不尽なゲームを、ルールを、強制させるのが魔王というもので、だからこそ恐れられている。

今回の俺のケースは、非常に特殊で永きにわたる箱庭の歴史の中でも、最初からここまで参加者側に有利に作られている契約書類はないとのことだ。

だから、今は安心していいらしい。

とはいえ、いろいろ説明されて自分なりに理解して考えられること。

頭に引っかかるもう1つの現実、

 

「やっぱり、手違いで呼ばれたのか」

 

この呟きが、聞かれたかどうか俺は知らない。

黒ウサギに視線を戻すと黒ウサギは我がことのように安堵している。

それは仲間のためなのか。

もしくは、何か別の理由のためなのか。

俺としては、俺のことでいろいろとかなり気を使わせたことで悪く思っている。

だから、今は黙ってその好意を受け取っておこう。

白夜叉が「“階層支配者”として調べておく」とのことで、とりあえず、ノーネームの本拠に帰ることになった。

 

――2105380外門。

 

「ここから先が“ノーネーム”の居住区画でございます。この近辺はまだ“魔王”との戦いの名残がありますので…………」

「っ、これは……!?」

 

街並みに刻まれた傷跡を見た俺と飛鳥と耀は息を呑んだ。

だが、逆廻だけが廃墟に歩み寄って残骸を手に取る。

 

「……おい、黒ウサギ。“魔王”のギフトゲームがあったのは――今から何百年前の話だ(・・・・・・・)?」

「僅か3年前でございます、

「ハッ、そりゃ面白いな」

 

逆廻が普通に解説しているが、見て触っただけでこまで分かるとは……やっぱり凄いやつだな。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「…………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

「これが“魔王”の力……か」

 

黒ウサギが悲痛な記憶を、感情を押し殺して淡々と語りながら、風化した街を進む。

俺達は複雑な表情で続く、1人の例外を除いて。

 

「魔王――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか……!」

 

話に聞いていた通り、本拠にはたくさんの子供達がいた。

人間だけでなく、猫耳、犬耳などいわゆる亜人?もいた。

問題児たちも三者三様の表情をしている。

黒ウサギ曰く「ギフトゲームに参加できない者はギフトプレイヤーの私生活を支えるのが義務」。

つまり、明日のギフトゲームが終われば、ギフトプレイヤーではない俺は、そっち側に回るわけか。

今後のことをちゃんと考えないといけないな。

 

逆廻が手に入れた水樹で女子は温泉に入ることになった。

ちなみに、ノーネームの水源は数キロ先の川からバケツで水を汲んできているとのこと。

生きる上で不可欠な水がそんな状況だったなんて。

本格的にヤバいな。

まあ、水樹があれば今後の水の心配はいらないみたいだが。

っていうか、逆廻のノーネームへの貢献度がすでに追いつけないレベルにあるんだけど。

 

温泉に入る前に、黒ウサギから謝罪された。

白夜叉との話を聞いて、

 

「今回の件で、我々ノーネームのことに巻き込んで申し訳ございません」だとか、

「私達が呼んだばかりにとんでもないことに巻き込んで申し訳ございません」だとか、

 

その他いろいろ。

「気にするなよ」とか、言えれば格好良かったんだが、流石にそこまでまだ俺は人間が出来ていない。

本音で言うと、「ふさけんじゃんねえ」と言いたい。

まあ、可愛い女の子に誠心誠意謝られて、罵倒するほど人間として腐ってもいないが。

 

「そのことは、明日のギフトゲームが終わって、白夜叉からの情報を聞いてまた話そう」

 

温泉へ黒ウサギを送り出した。

俺は女子風呂を覗きたいという思春期男子が考えそうなことが頭をがっつり横切ったが、

 

「バレる自信しかない」

 

飛鳥はともかく、耀は生き物の力を使えるし、黒ウサギの自称“素敵耳”はそうとう聞こえるらしいし。

こんな初日から、女子に嫌われたくないという理由で諦めた。

元の世界ならこんなことすら考えなかっただろうけどな。

そんな度胸が俺にあるわけないし。

 

「良くも悪くも、衝撃過ぎる出来事が多すぎて箱庭に染まったみたいだな(・・・・・・・・・・・・)

 

染まったついでに、さっき聞こえた「外の奴らと話をつけておくか」という逆廻の呟きが気になるし、

 

「ちょっと見に行こうかな」

 

昼間はガルドみたいな外道にビビッていた俺だが、僅か数時間でえらく度胸がついた気がする……

 

ズドガァン!

 

爆発音。

まあ、あいつ(・・・)だろうな。

俺は近くの物陰に隠れて様子を見ることにした。

 

「このジン=ラッセル率いるは“魔王”を倒すためのコミュニティ!“魔王”とその配下の脅威からお前たちを守る!」

「なぜなら、俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒すために立ち上がったのだから!」

「さあ、コミュニティに帰るんだ! そして仲間のコミュニティに言いふらせ! 俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると!」

 

逆廻は煌々とした表情で高らかに叫んでいた。

不審者?侵入者?は、口々にリーダーに「頑張ってくれ」と言い残し、あっという間に走り去った。

そういや、全員人間じゃなかったな。

慣れって怖いな。

 

「どういうつもりですか!?」

 

絶賛、1人かくれんぼ継続中。

 

「どうもこうもねえよ。“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。ヤハハ」

「笑い事じゃありません! 十六夜さんも見たはずでしょう!? あの恐ろしい“魔王”の力を!」

「勿論。あんな面白そうな力を持った連中とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

「お……面白そう(・・・・)?十六夜さんは自分の趣味のためにコミュニティを滅亡させるつもりですか?」

「いいや。これは“ノーネーム”を発展させるために必要不可欠な作戦(・・)だ」

「さ、作戦? …………どういうことですか?」

「だが、その前に……おい!いつになったら出てくるんだ、恩恵無し(てちがい)!」

 

あいつ、気にしていることを。

というか、聞いてたのかよ。

 

「よう、リーダーに逆廻。一応言っておくけど、盗み聞きするつもりはなかった」

「そんなのはどうでもいい」

「だ、大輔さん……。いたのでしたら、何で止めてくれなかったのですか?」

 

ん?リーダーは気付いてなかったのか?

まあいいけど。

それとは別に黒ウサギもだが、リーダーにも俺はチート問題児たち(あいつら)と違うと思ってくれてるようだ。

嬉しい限りだ。

 

「悪かったな、リーダー。でも、よく分からねえが逆廻が妙に(・・)リーダーの名前を連呼してたから、何か考えがあるのかと思ってな」

 

第三者からしたら、誰でも気付くだろうが。

 

「ああ、その通りだ。御チビは俺達を呼び出してどうやって“魔王”と戦うつもりだったんだ?」

「えっと、あなた方を呼んで、水源を確保して、ギフトゲームを堅実にクリアしていきコミュニティを大きくするつもりでした。そうやって力をつけていけば、コミュニティの再建も」

「哀れな奴だ。そんな机上の空論で再建がどうのと、失望したぜ御チビ」

「な、」

「お前からも何か言ってやれ」

 

俺に振るなよ。天才(もんだいじ)が。

いや、コミュニティを大きくする方法なんてリーダーと似たり寄ったりな考えしか思い浮かばないし。

代案なしに意見するのは嫌いなんだが、

 

「リーダーには悪いが、俺も概ね逆廻と同じ考えだ」

 

まあ、多少言い過ぎだとは思うけど。

 

「あの惨状を引き起こした“魔王”から名と旗印を取り戻すとなると、リーダーのやり方だとどれだけの時間が必要になるかわかったもんじゃない」

 

出来るだけ、オブラートに、リーダーの考えを否定しないように。

もし、「どうすれば?」なんて聞かれても何も答えられないし。

ここは、問題児(てんさい)様に任せるのが1番だ。

 

「俺達には、名と旗印が無い。そのハンディキャップを背負ったまま、お前は先代(・・)を超えなきゃいけないんだぜ?」

「先代を……を超える……!?」

 

あの虎が言っていた「東区画最強のコミュニティだった」という言葉。

それを超えるってことは、単純に最強のコミュニティになれと。

まだ、来て数時間しか経ってない世界で。

リーダーもスケールがデカすぎて、俯いてるし。

 

「そこでだ、名も旗も無いとなると――他にはもう、リーダーの名前を売り込むしかないよな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

なるほど。

リーダーも逆廻の意図に気付いて顔を上げた。

 

「僕を担ぎ上げて……コミュニティの存在をアピールするということですか?」

 

自慢げに笑って肯定した。

それなら、名も旗も無くてもリーダーの名前さえ有名になれば、十分に代わりになる。

例えば、バスケに全然詳しくない俺でもマイケル・ジョ○ダンの名前は知っている。

彼がスーパースターで、バスケが超上手くて、世界中から人気があって、バスケットボールの神様と言われていることも知っている。

だが、彼が所属していたチーム名(・・・)は知らない。

つまり、1人の傑出した人物がいたら、時にはチームを超えてその人物の名前だけが先行することはよくあることだ。

とにかく、今の俺達の状況ではそれがベストチョイスだと思う。

まあ、例外としてはリーダーの力は知らないが、おそらく客寄せパンダになりそうだけど。

さらに、逆廻は言う。

 

「ジン=ラッセルという少年が“打倒魔王”を掲げた」

「その一味に1度でも勝利する」

「結果、“打倒魔王”を胸に秘めた奴らが仲間になるかもしれない」

「そう。今回の1件はチャンスだ。相手は“魔王”の傘下、しかも勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここでしっかり御チビの名前を売れば」

「ま、他の“魔王”を引き寄せる懸念もあるが、倒せばいいだけだ」

 

間違いなく噂になる。

そして、噂は噂を呼ぶ。

どこまでかは分からないが噂はかなり広まるだろう。

逆廻の考えはこんなところだろう。

いつ、考えたんだよ!

全然ついていけねえよ!

俺にとっては、問題児(てんさい)についていけるかどうかの方が懸念だな。

なにはともあれ、リーダーは決心したようだ。

 

「明日のゲーム、負けんなよ」

「はい。ありがとうございます」

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

「はい。……え?」

「はあ?」

 

 

 




次回は最初のギフトゲームになります。
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