普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ?   作:蘇我入鹿

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第7話 元仲間が帰ってくるそうですよ?

ゲームの終了と同時にフォレス・ガロを覆っていた木々が一斉に霧散していく。

 

「おい、そんな急ぐ必要ねえだろ?」

「大ありです!黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重症のはず。大輔さんももしかしたら……!」

「黒ウサギ!早くこっちに!耀さんが危険だ!」

「耀さん!すぐにコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器が揃ってますから。ジン坊ちゃん、大輔さんは?」

「まだ、屋敷の方に」

「仕方ありません。十六夜さん、大輔さんと飛鳥さんもケガをなされていたら、連れて来てください。お願いします」

「ああ」

 

――俺は飛鳥がガルドを倒すのを見届けたゲームクリア後。

当然のように、飛鳥に「なぜ、ケガをしていないのかしら?」と問い詰められていた。

 

「分からん」

 

と一辺倒の答えを繰り返していた。

どうやら、ゲーム前にも言っていた別人説を再び疑っているらしい。

つまり、ギフトを隠していたのではないかと。

そして、隠したことで耀がケガをしたのではないか、と口には出さないが目で言っている。

俺だってギフトじゃないにしろ、もっと早く分かってれば、こんなことには……。

過ぎたことを考えても仕方がない。

 

「これが証拠だ」

 

何も書かれていないギフトカードを見せて、分かったら教えることを条件に渋々納得してくれた。

十六夜とリーダー合流し、飛鳥は耀が心配で急ぎ一人でコミュニティに帰った。

 

「楠木!なかなかの鮮やかな(・・・・)勝利だったな!ヤハハ」

 

ちっ、この問題児め。

 

「で、どうする、御チビ?」

「僕は結局……何も出来ず仕舞いでした」

 

ジンは申し訳なさそうに頭を上げる。

 

「耀の応急手当とか、ガルドの正体を見破ったりとか、ジンは自分に出来ることをちゃんとしたんだから、もっと誇っていいと思うぞ」

 

ガルドのことはさっき飛鳥から聞いた。

吸血鬼の力で鬼種になっていたことを。

 

「それは、そうかもしれませんが」

お前達は勝った(・・・・・・・)。なら、今はそれでいいんじゃねえの? 初めてのギフトゲームだったんだろ? 御チビは楽しめたか?」

 

苦い顔で首を振る。

気持ちは分からないでもない。

 

「昨夜の作戦……僕を担ぎ上げて、やっていけるのでしょうか?」

「他に方法は無いと思うけどな。御チビ様が嫌だと仰るのなら、止めますデスヨ?」

「いえ、やっぱりやります。僕の名前を全面に出すという方法なら、万が一の際にみんなの被害も軽減出来るかもしれないですし。僕でも皆の風よけぐらいにはなれるかもしれない」

 

こんな大変なコミュニティをジンが、子供が1人でまとめるなんて無理だ。

まして、魔王と積極的に関わっていく以上とてもじゃないが不可能だ。

だからこそ、俺がフォローしなければならない。

年齢的にも立場的にもギフトが無い俺がフォローするのが適任だろう。

 

「……そうか。なら、さっそく初仕事だぜ、御チビ」

 

ゲームが終わり、ジンは1000人を超えるフォレス・ガロの被害者(仮)にガルドを倒したことの報告などをした。

歓声を上げる者。

呆然と困惑する者。

人質のことを知り泣く者。

近隣の大手のコミュニティが無くなり不安になる者。

 

「1つ、重要なことをお聞きしたい」

「なんでしょうか?」

「いえ、その……まさか(・・・)俺達は貴方達のコミュニティ――“ノーネーム”の傘下に?」

 

ジンの表情が強張った。

助けて貰いながら感謝の言葉を口にするでもなく、失意の思いを口にされた。

非常に歯がゆい。

 

「今より“フォレス・ガロ”に奪われた誇りをジン=ラッセルが変換する!代表者は前へ!」

 

十六夜が高らかに宣告する。

一斉に衆人環視の的になる十六夜とジン。

十六夜がらしくない物言い続ける。

 

「聞こえなかったのか? お前達が奪われた誇り――“名”と“旗印”変換すると言ったのだ!コミュニティの代表者は前へ!列を作れ!“フォレス・ガロ”を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前達に返還していく!」

 

「ま、まさか」

「もう、諦めていたのに……」

「俺達の旗印が返ってくるのか……!?」

 

「流れは作った。手渡す時に、しっかり自己主張するんだぜ?」

「わ、分かりました」

 

十六夜はジンに任せ、衆人から離れる。

 

「やっぱ、お前は凄いな」

 

素直にそう思った。

だが、「大したことじゃない」と本人は意にも介さなかった。

 

「俺からしたら、恩恵無し(おまえ)が無傷でゲームを生き残った方が凄いと思うんだが」

 

十六夜の表情がどうやってだと、笑みを浮かべ好奇心旺盛な顔をしている。

のらりくらりと、誤魔化せるはずもなく、

 

「俺も何が起きたか分からない」

 

正直に答えるが信じようとしない。

だから、白夜叉に聞こうと思ってるんだけど。

 

「それにしても、“旗印”ってそんなに大事なものなのか?」

「さあな。だが、効果は予想以上だな。ここまで喜ばれるとは。おっと、仕上げだな」

 

十六夜は後ろ手に手を振りながら、ジンのもとへ。

 

「“名前”と“旗印”を返還する代わりに幾つか頼みたいことがある。お前達の“旗”を取り戻した、このジン=ラッセルのことを今後も心に留めておいて欲しいというのが1つ。このジン=ラッセル率いるコミュニティが“打倒魔王”を掲げたコミュニティであることも覚えていて欲しい」

 

衆人が一斉にざわつく。

そりゃあ、信じられないだろうが。

 

「知っているだろうが、俺達のコミュニティは“ノーネーム”だ。魔王に奪われた“名”と“旗印”、それを奪い返すために魔王と戦うだろう。だから、覚えていてほしい。俺達は“ジン=ラッセル率いるノーネーム”だと。そして“名”と“旗印”を取り戻すその日まで、彼を応援してほしい」

 

十六夜らしからぬ饒舌ぶりだな。

何回、ジンの名前を出したことやら。

 

「ジン=ラッセルです。今日を境に聞く事も多くなると思いますが、よろしくお願いします」

 

その後、ノーネームの本拠に戻った俺達は耀の容体を確認する。

魔王に襲われたにも関わらず、ギフトを保管していた宝物庫は無事だったらしく、治療用ギフトを使ったので2、3日で治るとのこと。

良かった。

 

「それで、例のゲームはどうなった?」

 

十六夜の言葉に黒ウサギは泣きそうな顔になっている。

俺と十六夜、黒ウサギは本拠の3階の談話室にいる。

飛鳥は耀の側にいる。

話に戻ると、

 

「ゲームが延期?」

「はい……。中止の可能性もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、俯き落ち込んでいる。

だけどその前に、

 

「ゲームって何の話だ?」

 

黒ウサギの説明を要約すると、

・元仲間がゲームの商品になった。

・ホストは白夜叉のところの傘下のコミュニティ。

・巨額の買い手が付き中止になった。

 

人身売買と無縁な国で育った俺からしたら胸糞悪すぎる。

神々が人身売買を黙認するとか……。

 

「ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「そうですね……一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」

 

――だが、黒ウサギに勝る奴はいないぜ――

って言ってみたいなあ、byだいすけ。

 

「へえ?よくわからんが見応えはありそうだな」

「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギをとても可愛がってくれました。せめて、お話だけでもしたかったのですけど……」

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

はっとして、窓の外を見る。

コンコンと叩く窓の向こうで、にこやかに笑う金髪の美少女が浮いていた。

跳び上がるほど驚いた黒ウサギは急いで窓に駆け寄った。

 

「レ、レティシア様!?」

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分だ」

 

黒ウサギが錠を開けると、金髪の美少女は苦笑しながら談話室に入る。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会って話をしたかったんだ」

 

突然の来訪に驚くも、余程、嬉しかったのか黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かった。

 

「なら、俺と十六夜は席を外そうか?」

「いや、構わない。君達にも関係のあることだからな」

「どうした?私の顔に何か付いているか?」

「別に。前評判通りの美少女だと思ってな。目の保養に観賞してた」

 

ロリコンか!

と言いたい。

言いたいが、なんか凄い言い返されそうで言えなかった。

 

「ふふ、観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが」

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

「ふむ。否定はしない」

「否定してください!」

 

紅茶のティーセットを持っている黒ウサギは、今はハリセンを出せない。

だから、俺を見て「代わりにお願いします」と訴えている。

はあ、仕方ないな。

 

「そんなことより、紅茶飲もうぜ」

「だ、大輔さん!?」

 

いやいや、黒ウサギ。

否定できる奴なんてロリコンだけだろ。

 

黒ウサギは不機嫌そうな顔で紅茶を注ぎ、

 

「レティシア様と比べられれば、世の女性のほとんどが観賞価値がなくなります。黒ウサギだけが見劣るわけではありません」

「いや、全く負けちゃいねえぜ?好みでいえば黒ウサギの方が断然タイプだからな」

「まあ、黒ウサギは超美人だし、俺もそうだな」

 

黒ウサギは頬を染め、ウサ耳が紅くなった。

おそらく、いや、確実に俺と十六夜の思いは一緒のはずだ。

黒ウサギちょろすぎ。

 

「……黒ウサギ。まさか、男を侍らすとは……。大人になったな」

「レ、レ、レティシア様!?は、侍らすなんて、黒ウサギはそんなはしたない女ではありませんよ。黒ウサギの愛はいつか1人の殿方に捧げるために、200年貞操を守ってきて………このお馬鹿様!!」

 

スパァーン!

解せぬ。

 

「……して、どのようなご用件ですか?」

 

黒ウサギは話を戻す。

 

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

「やっぱり、貴方が……」

「……どういうことだ、黒ウサギ」

「ガルドに“鬼種”を与えたのは純血の吸血鬼たるこの私だ」

「何だと!?元仲間のお前が何で!?」

 

その所為で耀は大ケガをしたっていうのか。

ふざけんなよ。

 

「……話を続けてくれ」

 

詰め寄ろうとした俺は後ろから力付くで止められた。

振り返ると我慢しろと言わんばかりに、静かに立っている十六夜がいた。

 

「本当に申し訳ないと思っている。しかし、黒ウサギ達がコミュニティ再建を掲げたと聞いた時、それが如何に愚かで、どれだけの茨の道か……。黒ウサギ、それが分からないお前ではないだろう」

「……」

「そこで私は1つ試したくなった。異世界から呼び出してまで招いたギフト保持者である彼らが、コミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

「そ、その結果は?」

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実、それに、そこの彼は飛びきりのイレギュラー。これでは判断の使用がない。……こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前達になんと言葉をかければいいのか」

 

あくまでも仲間のためにか……。

だが、実際には本来より難易度の高いゲームをするはめになりケガ人が出た。

理解は出来ても、納得は出来ない。

そして、静聴していた十六夜が口を開けた。

 

「違うね。アンタは言葉を掛けたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、やっていけるか、安心したかっただけだろ?」

「……ああ。そうかもしれないな」

「その不安、払う方法が1つだけあるぜ」

「何?」

「簡単な話だ。その身で、その力で、試せばいい。――どうだい、元・魔王様?」

「ふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ。そっちの彼はどうする?」

 

正直、俺は迷っている。

耀がケガをする原因になったコイツを許せない。

だが、耀は生きている。ケガも二、三日で治る。

あとは耀が許すか許さないかにで決まる。

おそらく、優しい耀なら許すだろう。

だから俺は、

 

「確認だが、それは仲間を思ってのことなのか?」

「ああ」

「そうか。なら、俺からは何も言わない。十六夜に任せる」

「へえ?いいのか?」

「今の俺は感情的な判断しか出来ない。だから、お前に任せる(・・・)

「そうか……。で、ゲームのルールはどうする?」

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

「立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストってやつ?」

 

笑みを交わした2人は窓から中庭へ飛び出した。

 

「黒ウサギ、呆けてないで俺達も見にいくぞ」

「そ、そうですね。何かあったらいけませんし」

 

黒ウサギも、慌てて窓から2人を追いかける。

俺は1人寂しく階段を降りた。

中庭に着くと、2人は天と地に位置していた。

 

「吸血鬼って、空も飛べるもんなのか?」

「それはさっき、俺が言った」

「でも、それじゃ十六夜が不利だろ?」

「それも言ったぜ」

「黒ウサギ~」

 

もう1度説明してくれと頼む。

黒ウサギの解説を聞く前に勝負が始まる。

レティシアがギフトカードから槍を取り出した。

 

「互いのランスを一打投擲する。受け止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

「好きにしな」

「ふっ――――!ハァア!!!」

 

怒号と共に天空から槍が放たれる。

流星の如く大気を揺らしながら十六夜に迫る。

 

「カッ――しゃらくせえ!」

 

殴り付けた(・・・・・)

 

「「「――は……!??」」」

 

十六夜、お前デタラメ過ぎだろ。

驚かないと決めていたが、それでも驚かざるを得ない。

ん!

レティシアは十六夜の跳ね返した槍の残骸を避けようと――しない!?

アイツ、死ぬ気か!

一瞬、頭に死を選ぶだけの理由が浮かんだが全力で否定した。

死を持って償うなど、償われた側のことも考えやがれ。

だから俺は、

 

「レティ――」

 

叫ぼうとしたが、既に黒ウサギが助けに入っていた。

地上に降りてきた黒ウサギの手には、

 

「ギフトネーム・“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「っ……!」

「元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

「……はい。武具は多少残してありますが、自信に宿る恩恵は……」

「ハッ。どうりで歯応えが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません」

 

黒ウサギの話にレティシアは申し訳なさそうにしている。

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため“魔王”と自称するほどの力を持ってたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……!」

「…………それは」

 

言葉にしようとして口を閉じ、俯いて目をそらす。

その姿に十六夜は鬱陶しそうに頭を掻いている。

 

「まあとりあえず、屋敷に戻らないか」

 

俺の提案に3人は従った。

会話なく中庭から屋敷に戻ろうとする俺達に異変が起きたのはその時だった。

顔を上げると同時に遠くから褐色の光が俺達に射し込み、レティシアが叫んだ。

 

「あの光……ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」

 

声が焦りに染まっている。

レティシアは俺達を押し飛ばし光の前に立ち塞がる。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!?だ、駄目です!避けてくださいレティシア様!」

 

翼の生えた靴を履いている騎士達が大勢空にいた。

黒ウサギが叫びを上げる。

その声よりも先に俺は動いていた。

十六夜と黒ウサギは、ゴーゴンと聞いた瞬間に、何か別のゴーゴン関連を頭に思い浮かべたに違いない。

現に黒ウサギは旗印を気にしていたし。

だが、俺は違う。

逆にそっち方面の詳しい知識が全然ないため、ゴーゴンと聞いてイコール石化と思い反射的に動けた。

だから、俺はレティシアを助けるために動いた。

 

「レティシ――ひでぶ」

 

しかし、コケた。

足がもつれてコケた。

身体が頭についていかずコケた。

そして俺も褐色の光を受けた。

まあ石化してないが。

自信は無かったがやはりしなかった。

俺を見た2人は驚いてはいたが、ガルドとのギフトゲームで黒ウサギは俺の謎の力をウサ耳で知り、十六夜には話したらしい。

だからこそ、当の本人が分からないことを聞かずに、あえて無視して目の前で石化したレティシアに気を向ける。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

「例の“ノーネーム”もいるようだがどうする?」

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

目の前で石像と化したレティシアは捕獲された。

 

「まいったな、生まれて初めておまけに扱われたぜ。手を叩いて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか、黒ウサギはどっちだと思う?」

「と、とりあえず、大輔さんを連れて本拠に逃げてください」

 

空の騎士達は、吸血鬼を捕まえられてよかったや、取引が中止にならずよかったと口々に言っている。

だが、その言葉の1つを見逃さなかった黒ウサギは、

 

「箱庭の外ですって!?一体どういうことです!彼らヴァンパイアは箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!?そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて……!」

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ!」

 

空には100を数える騎士の軍勢が本拠の上空で待ち構えていた。

 

「これだけの無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!?それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!!」

 

激昂する黒ウサギを騎士達は鼻で笑い、

 

「ふん。こんな下層のコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ“名無し”が」

「な、なんですって……!!!」

 

黒ウサギはからバチコン!と堪忍袋が爆発したような感じがした。

気持ちは痛いほど分かる。

1発ぶちかましてやれ、黒ウサギ!

 

「ありえない……ええ、ありえないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた“月の兎”をこれほどまで怒らせるなんて……!」

 

空気が変わった。

黒ウサギの放つ威圧感に、上空の騎士達はたじろぐ。

黒ウサギが右腕を掲げると、雷鳴のような爆音が周囲を支配して、その右手には光輝く槍が掲げられていた。

 

「ま、まさかインドラの武具!?」

「あ、ありえん!最下層のコミュニティが神格を付与された武具を持つはずが……!?」

「本物のはずがない!どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

騎士達は驚嘆の声を口にしている。

よく知らないが、イケ!黒ウサギ!

 

「その身で確かめるがいいでしょう!」

 

熱膨張した空気が、雷鳴を轟かせる。同時に黒ウサギの髪が緋色に染まる。

黒ウサギが光輝く槍を天に向かって撃ち出そうと力を込めたその時、

 

「てい」

「フギャ!」

 

十六夜(もんだいじ)が後ろからウサ耳を引っ張った。

あさっての方向に放たれた槍は天空を数キロに亘って明るく照らした。

マジで何やってんのアイツ!?

 

「お、ち、つ、け、よ!お前は白夜叉と問題を起こしたいのか?つか俺が我慢してやっているのに、一人でお楽しみとはどういう了見だオイ」

「フギャア!!?って怒るところそこなんですか!?」

 

ああ、そうか。

あの旗はサウザンドアイズか。

……十六夜、グッジョブ!

 

「い、痛い、痛い!い、いい加減にしてください十六夜さん!?今はあの無礼者共に天誅を」

「もうみんな帰ったぞ」

「え?」

 

あれ?

いつの間にか誰もいない。

 

「いえ……あれはまさか、不可視のギフト!?」

「空飛ぶ靴があるなら間違いなくそうだろうぜ。それにそう怒るな。アイツなんて、ずっと地に突っ伏して悔しがってんだから」

 

黒ウサギは髪も元に戻り、

 

「ええっと、大輔さんが悪いわけではないので、責任を感じる必要はありませんよ?」

「……いや、その、身体が痺れて動けないだけなんで。……その、助けてください」

 

ここまで、俺は地面に倒れたままだった。

恥ずかしいしかない。

 

「ヤハハ!何だ動けなかっただけか。情けねえな。ヤハハ!」

 

十六夜、お前分かってて言ったろ!

この野郎、覚えとけよ。

 

「えっ!?だ、大丈夫ですか、大輔さん!?今すぐ、治療用ギフトを持って来ますので少々お待ちを」

 

それから、しばらく。

黒ウサギが治療用ギフトを持って来ると共に、十六夜の指示で飛鳥も連れて来た。

俺は黒ウサギに治療されていると、飛鳥には「はあ。だらしない」と。

もうやめてよ。

 

「まあ、なんだ。結局、あの場で動けたのはお前だけだった。俺も黒ウサギも何も出来なかった」

「それは誉めてんのか?」

「勘違いすんな。俺はお前如きに遅れを取ったことが気に入らないだけだ!」

 

そんな言い方しなくてもいいだろ。

 

「だからこそ、俺のプライドを傷つけた元凶をぶっ潰しにいくぞ」

「行くってどこにだ?」

「ハッ、決まってんだろ!」

 

十六夜は獰猛な笑みで答えた。

 

「白夜叉のとこだ!」

 

 

 

 

 

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