オリ主が一人転生しただけの簡単な二次創作です   作:騎士貴紫綺子規

11 / 11
 出したくなかったけどオリキャラ名を出さざるを得なくなってしまった。文才がない自分が憎らしい。


第十一箱 「ちょっといいか?」

「……で、相談をしたのは誰だ?」

「あ! わ、私です」

 

 空洞が口を開くと固まっていた女生徒の一人――副部長である甑島(こしきじま) 神輿(みこし)がおずおずと控えめに手を上げる。周りの全員の目が彼女に向いたことで体を小さくしてしまい、部長である男は眉を吊り上げて怒鳴った。

 

「おい、神輿! なんでお前っ」

「だ、だって……入部してくれた以上は同じ部の仲間だし……いつまでも、その……部の空気が悪いのは……ちょっと……」

「だからってお前な!」

「はいはーい。ちょおぉっと落ち着きましょうね~」

 

 部長が殴りかかろうとしたので止めに入る。態と明るい声で振る舞った和を、周りのほとんどの者は困惑の表情で見ていた。

 

「誰だよお前!」

「箱庭学園第九十六代生徒会副会長職を担っている須木奈佐木和です。以後、お見知りおきを」

 

 お前も生徒会!? と驚愕の表情をしている男と周りに、和は笑顔で肯定した。

 

 と同時に複雑な気持ちでもあった。

 

(え、何? 空洞が生徒会なのは認められても俺が生徒会役員なのには驚くの? どこに驚く要素があるのさ)

 

 空洞の選挙活動を手伝ったり役員演説を代わりに務めたりと空洞よりは社交的なはずの和が、自分の顔と役職を覚えられていないことに地味にショックを受けていた。

 

「……で? 生徒会とやらのアンタ等は副部長の依頼を受けてきたってことか」

「はい。本来なら生徒間の揉め事は生徒間で穏便に解決してもらうのですが……どうやら解決できない、と判断されたようなのでこちらに依頼が来ました」

 

 その発言を聞いて部長である徳之島(とくのしま) 有利(ゆうり)は再び甑島を強く睨み、彼女はまた俯いてしまう。それを見た周りの女競泳部員たちは神輿を囲むようにして有利と向かい合う。

 

「ちょっと! 神輿にあたるの止めなさいよ!」

「そうよ! 大体、問題があるのは部長(アンタ)と屋久島でしょ!?」

「神輿は副部長なんだから、部の責任があるってこと位気づきなさいよ! 男でしょ!?」

 

 ほとんどの女競泳部員たちに捲し立てられ怯む徳之島。一方の男性陣達は。

 

「(どうする? 俺たちも部長に加勢する?)」

「(……止めとこうぜ。こっちにまでとばっちりが来たら敵わねえし)」

「(そうそう。知らんふりしてるのが一番だ)」

 

 いつの時代も女は怖いというのを体現している目の前の現状に傍観を決め込むことを決意した。そして言い合っている彼らに向かって空洞が近づいていく。

 

「そこまでだ。言い分はもっともだが、今回の依頼は彼女に対するものじゃない――お前にだ、屋久島」

 

 そこで場を収めた空洞は垂れる水滴をタオルで拭いていた屋久島を強く睨んだ。

 

「……あれ? 空洞、知り合い?」

「まあな。中学が同じだったんだ」

「……ああ、思い出した。優等生の日之影クンだろ?」

 

 何かを探すように空中に向けられていた視線が止まったかと思うと空洞を見てにやりと口元を歪ませた屋久島に、空洞は眉をあげた。それを聞いて、和は「原作知識にない」ことから彼らの裏事情というものを知れて若干興奮していた。

 

 いくら元の世界が二次元(マンガ)だったとしても、今現在和がいるこの世界においては彼らは「登場人物(キャラクター)」ではないのだ。演劇の舞台裏などのように、「本編」に登場はしていなくとも彼らには「過去」も「経歴」も存在する。「作者」が描いていない間も作中舞台の時間は進んでいるのだ。

 

「思い出してくれたようで嬉しいな」

「ああ、なんでお前みたいな強烈な存在を忘れてたんだろうな。記憶力には自信があったんだが」

 

 おっかしいなー、と呟いている屋久島を見る空洞の目は昔馴染みの者に向けるとは思えないほど冷たく、強く見据えていた。

 

「……まあ仕方ないだろうよ、それが()だからな。……それより、今回はお前のせいでこう(・・)なったってこと、分かってるんだろうな?」

「ん? ……ああ、一応理解はしてるつもりだよ。納得はしてないけどな」

 

 そもそも事の発端は屋久島有無路の言動が目に余ることにある。「賞金つきレースへのみ出場」に始まり、「金で雇われて他校の選手として出場」、「八百長」に「賭けレース」など。原作前の一人でこれなのだから、原作時の三人だったらさらに経歴は増えるだろうと思う。

 

「入部の義務は守ってるし大会にも出場している。何に問題があるっていうんだ?」

 

 その言葉に日之影が眉を上げると同時に和は納得した。

 

 箱庭学園生徒中、およそ三分の一の人数が特待生である。和たち十三組生はもちろんのこと、特別体育科である十一組所属の屋久島然りである。しかし特待生には特待生特有の校則が適用される。

 

 具体的には箱庭学園学校則第141条、特待生制度に関する項目である。その内の第十二項にはこのように書かれているのだ。

 

  『特待生に選ばれたものには学費免除をはじめとした各種便宜を与えるものとする。ただし、十一組および十二組、すなわち特別体育科と特別芸術家は例外として部の所属を原則とし、入学から一年以内に各種大会において、制度を受けている本人が業績を残さなければ、制度の撤回も視野に入れることとする。』

 

 

 意外と知られていない校則の一つだが、十一・二組生は入学時に説明を受けるので一度は聞いたことがあるだろう。そしてもちろんのこと屋久島も聞いたことがあるはずだ。だからこそ(・・・・・)彼は余裕でいられるのだ。

 

 生徒の自主性を何より重んじる箱庭学園は教育熱が強い。しかし自由度が高いとは同時に生徒の危険性が増してしまう。それゆえ箱庭学園では「校則違反者は厳重に罰せられる」。自由度が高いと同時に校則の重要度も上がるのだ。部活を作るにも特待生になるにも校則が重要視される、そのため学園で校則による拘束度合いは半端なく高い。

 

 屋久島はそれは理解している、そしてそのうえで校則の裏をかいているのだ。

 

 「部の所属を原則とする」、彼は競泳部に属することでこれを満たしており、「制度を受けている本人が大会において業績を残す」、これはどうかというと。

 

「俺はちゃんと大会新記録を出したぞ?」

 

 別の学校名で登録したがな。そう続けた屋久島に空洞は右手を強く握りしめた。「屋久島本人が大会で業績を残せ」ばいいのであり、何も「箱庭学園競泳部」として業績を残す必要はない、彼はそう捉えたのだ。解釈の捻じ曲げによる屁理屈に過ぎないが、校則自体は破っていないので反論はできない。ある意味正論であるのだから。

 

「どうだ、会長? 俺は何か間違ってるか?」

 

 空洞は正義を重んじる、ゆえに彼は「正しいこと」は歪めない。下唇を噛みながら空洞は握る手を強めた。

 

 それを傍から見ている競泳部員たちと和、部員たちは忌々しげに屋久島を睨んでいるが和は思考を働かせていた。

 

 和としては別に改心させようとは微塵も思っていない。黒神めだか(主人公)でも日之影空洞(英雄)でもないのだから別に敵キャラを倒す必要などない、むしろ今改心させたら原作変わって困る、と考えてもいる。

 

(……でもこの結末はどうかと思うなァ……)

 

 空洞が言い負かされることに何ら感情は抱かないがそれでも屋久島の物言いには頭にきたものがある。例え自分を対象に言われていないとしても、だ。

 

(……ま、これも一つの方法かな)

 

 表舞台に立つつもりはないが、原作を守るためだ。そう自分に言い聞かせて和は口を開いた。

 

「ちょっといいか?」

 

 

 

 




 再び出てきた捏造学校則。一体いくつあるんだろう。校則自体は生徒が知らないものの方が多いと思うけど。特に箱庭学園だし。

 とりあえず次回で解決する、かな。本当なら今回で解決したかったけど。


 共通性を持たせるために競泳部員たちは「~~島」にしてあります。奄美大島? いませんよ、そんな人。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。