迷宮演義   作:AD

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神、ようやく始点へ。

 

 

 

 あれから更に一年。

 私も聞仲君も長命故に、急ぐことなく、かつ確実にオラリオへと向かい続けた結果ようやくの到着である。

 いやぁ、厳しい道のりだった。正しく教育係だったからね、聞仲君。

 名前の発音がおかしかったのも矯正されたし。ついでに極東の漢字も少しばかり覚えた。

 

 

「さて、オラリオに着いてまずやる事と言ったら何かね、聞仲君」

「拠点の確保と挨拶でしょう」

「アッハイ」

 

 

 あわよくばすぐに恩恵刻んでダンジョン潜って貰おうとか思っていたのは内緒にしておこう。

 道中に恩恵の説明と納得は貰ってたからね。てかこれがないとダンジョンに入れないらしいし。

 いやまぁ、聞仲君なら放流してもいつの間にか名を轟かせていそうだけども。

 

 

「ではまず、心当たりというヘファイストス殿のもとへ向かいましょう」

「言われた通り、手土産に薬を作ってきたのはいいけどさぁ……あらためて考えてみれば、この程度の火傷軟膏なんかを手土産にしていいのかねぇ?」

「鍛冶をする者にとって火傷は避けて通れぬ道。しかし、効率良く癒せるのであればそれに越したことはないでしょう」

「まぁ治る過程で強くなるもんだし、そこはいいんだけどさ。聞く限りだと冒険者としてのレベルが上がればそれも大した問題にならないだろうしなぁ」

「上がりきる前。駆け出しの頃こそが肝要です。基礎をおろそかにせぬ一助となるのであれば良いかと」

「ま、それもそうか。こないだ寄った港町で聞いた話だと姐御のファミリアは結構な規模らしいし、駆け出しの一人や二人居るわな」

「先を見据えて行動している集団であれば、駆け出しが居ない方が問題となります」

 

 

 文字通り先が無くなるからね。人の生は短いし。

 だからこそ輝いて、美しいものなんだけど。

 

 

「そいでは聞き込みと参りましょーかねー。あぁ、そこの君、すまないがヘファイストスの姐御のファミリアはどこかねェッ!?」

「人に物を尋ねるのであれば、それ相応の態度で臨むように」

「だからってゲンコツはないだろう君ィ!?」

「すまない、先に問うた通り、ヘファイストス殿のファミリアへの道を教えてはもらえないだろうか」

「無視かぁ!?」

 

 

 君にしてみれば随分と加減したゲンコツなんだろうけどね? あぁ、それは分かるよ?

 そこらの立派な木をぶん殴ってへし折って木材として売るなんて真似をそこかしこでしてたのを見て来たんだ、あぁ、それくらいは分かるともさぁ。

 でも、私、女神。め・が・みぃ!!

 女神の、女の頭にほいほいゲンコツを落とすんじゃない!!

 

 

「あ、あはは、は……そちらの女神様、大丈夫ですか?」

「問題ない。そこはかとなく頑丈なのは旅の中で確認済みなのでな」

 

 

 問題、ない、わけ、なかろうにっ!

 聞仲君程の偉丈夫の拳だよ? あの大きな拳が握りしめられて脳天にドーンだよ?

 痛いわ!! すんばらしく痛いわ!!

 

 

「とりあえず道よりもアレです、アレ。あの塔に向かって進めばいいんですよ。中にヘファイストス様のお店がありますので」

「感謝する。礼と言っては何だが、こちらを」

「いやそんな、礼を貰う程の事じゃあ……何コレ」

「手荒れに効く軟膏だ。これまでも立ち寄った村や街でも販売してきたが、よく効くとの評判を頂いてきた」

「……お兄さん、その顔でこの手の品を渡すって、女を殺しに来てますよね」

 

 

 うむ、君、正解。

 きゅっと寄せられている事の多い眉間の、そりゃあもう恐ろしいサインがほろりとほどけた瞬間、まぁ落ちる子の多い事。

 少しばかり長逗留しようものなら街の奥様方がまぁ騒ぐ騒ぐ。

 それでいて見るからに分かる実直な性格も相俟って、男衆の受けも良い。

 聞仲君、恐ろしい子ッ!! やっぱり顔は大事だよねぇ、うん。

 いやまぁ、聞仲君も鈍くはないから、好意はしっかり把握してきっぱりと断りを入れるタイプなんだけど。

 やはり……鬼畜眼鏡かッ……!

 あ、そうだそうだ伊達眼鏡買っておかなきゃ。ついでにサングラスも。無駄に似合うと思う。いやマジで。

 

 

「こちらとて下心が無いわけではない。私達はこれからここオラリオにて活動する身。まずは知名度を上げねば売れる物も売れぬ」

「なるほどなるほど、ではありがたく頂戴しましょう。でも私、こういう事は素直に喋っちゃうタイプですよ?」

「かまわない。粗悪品をさも良品であるかのように売るほど落ちてはいないつもりだ」

「あらま、言いますねぇお兄さん」

 

 

 これだ。こうやって人を惹きつけていくんだからある意味タチが悪い。

 なにが悪いって、本人はあくまでも自然体な所だよ。

 そこそこ年が行ってるからだろうねぇ、この余裕とカリスマは。

 てか私大丈夫? さっきから空気になってる気がするんだがねぇ?

 

 

「では、これにて。店を出したらまた来てくれるとありがたい」

 

 

 目立つからあの特徴的なマントは外させたけど、まぁそれでも目立つ目立つ。

 あれだけの上背に鍛えられていると一目で分かる体つき、さらにはあの顔だ。

 颯爽と去っていく姿に惚れ惚れするね。ただし、私に教育係根性を発揮しなければ。

 いやまぁ、大事にされているとは思うよ? 私のためになるかならないかで言えば、間違いなくなることしか言わないんだもの。

 

 

「あ、ちなみに女神様のお名前は?」

「…………あ、私か」

「へ?」

「いや、事ある毎に私は女神、女神……だよなぁ? って確認してるんだけど、聞仲君がそれをブチ壊してくれてねぇ」

「人聞きの悪い事を言わないで頂きたい」

「あーあーあー今はお説教は無しで。私はパナケイア。癒しの女神、パナケイアだ。よろしく」

 

 

 神的感覚で言うところのメタ部分。何か初めて名乗った気がするぞ?

 それもこれも聞仲君の私の扱いのせいだ。女神に丸太を運ばせたり、掃除洗濯炊事を仕込んだり。これが女神に対する扱いかぁー!って思わなくも無いんだけど、そもそも女性であれば云々を持ち出されると弱い。

 できない女神も数多だという事実を主張しても、よそはよそ、うちはうちを地で行きやがった。

 おかげで女神の中でもそれなりにデキる女になった自信はあるよ。悲しい事に。

 私の理想はそういうのをやってくれる可愛らしい眷族を作って、のんびりぐーたらやる事だったんだけどねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、やって参りましたよヘファイストスの姐御がおわすショップへ。いやぁ中々良いじゃないか、この雰囲気。

 駆け出しの子たちが買い求めるらしい安価な武具が並ぶフロアで、ざっと品揃えを見て聞仲君が満足げだったのもポイントが高い。

 それなりの質は保たれているのだろうね。流石は姐御や、やりおるでぇ……!

 ただ、武器の棚を一通り眺めて回った結果、多少残念そうな雰囲気も出してるのは不思議だけど。

 満足そうなのに残念そうって矛盾してない?

 

 

「どうかな、聞仲君のお眼鏡にかなう品はあったかね?」

「駆け出しが打ったという触れ込みに反して、良い品ぞろえだと思います。が、できれば棒、ないしは長刀があればと」

「長刀はわかるけど、棒?」

「頑丈で重さのある棒は、打撃武器として有用です。私の……私の友は、それ一本で昇りつめたと言っても過言ではない」

「……そっか。ならちょっと値は張るだろうけど、オーダーメイドって手もあるんじゃないかね?」

「考えておきましょう。ただ、こちらに並べられた武器に不足はない。後程この中から選ばせて貰います」

 

 

 言い淀んだね、珍しく。

 それにしても言い淀む部分が『友』かぁ。忘れそうになるけど、この子はそういう(・・・・)子なんだよねぇ。

 ま、お互いに時間だけはあるんだ。時が癒してくれる事ってのはこれが意外に多いもの。気長に待つとしようじゃないか。

 

 

「さて、では上層にあるという上級鍛冶師の武具を見てからヘファイストス殿へお目通りさせてもらいましょう」

「あいよ。いい品が揃ってるんだろうなぁ。君もちょっと楽しみだったりするんだろう?」

 

 

 気づいてるともさぁ。『ふむ』なんて感心するような声を漏らしてたしなぁ。

 私の考えている事をいつもさらりと読んでくる君が、逆に読まれる。

 この事実に直面して、今君が浮かべている少しばかり驚いた顔はちょっと可愛らしいと思うよ?

 

 

「さ、行こうか。傷つけるための武器はあまり好きじゃあないけど、その美しさは嫌いじゃない」

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」

「ふぉう!?」

「あなたもこちらに降りてきたのね。こんな実直そうな子を連れているのには驚いたけど」

「姐御、さらっと人の背後を取るのはやめてくれるとありがたいなぁ」

「姐御と呼ぶのをやめたら考えてもいいわ」

「じゃああれだ。姐さァん!」

「同じじゃないの!」

 

 

 同じか? ――――同じだね、うん。

 ならばこのパナケイア、容赦はせぬ。

 非常に癪ながら、若干ロリ寄りだと言われたこの容姿を活かしたこれで如何かなぁ?

 

 

「お姉ちゃんっ」

「ッ!?」

 

 

 語尾に『はぁと』なんて付けてもいいくらいに媚びた声色での『お姉ちゃん』に、さしもの姐御も意表を突かれたと見える。

 ついでにこちらへ聞き耳を立てていた姐御の眷族君、噴きだした事は忘れないからな。

 いくら私でもちょっと恥ずかしかったんだぞ、今のはさ。

 

 

「それは恥ずかしいからやめて頂戴……」

「無言で背後に立つのをやめるなら、そうだね……カンガエテモイイワー」

「わかった、わかったわよ。わざとらしい棒読みまでしなくたって結構」

「いやぁ、お互いに幸せになれる選択肢ってのはいいもんだよねぇ」

「言ってなさい」

 

 

 意趣返しのように『考えてもいい』発言をしてみれば、返ってきたのはまさに『我がままな妹に対する寛容な姉』の態度。

 そんなだから姐御とか言いたくなるんだよ。自覚が足りないねぇ、自覚が。

 

 

「あなたが引っ掻き回すから妙な空気になっちゃったじゃない。ほら、そっちの子の紹介は?」

「姐御が悪いんじゃないか。なぁ、聞仲君?」

「突然の訪問、申し訳ありません。私は聞仲。この度、こちらのパナケイア様と共にオラリオにて活動するに当たり、まずはご挨拶にと参りました」

「うっわぁ、スルーしてくれやがった挙句にかったーい……待て、落ち着け、そっちの硬さはいらない!! この場でゲンコツはやめろォ!?」

「いいわよ、そのゲンコツなら落としても」

「良かぁないわっ!」

「つきましては、こちらを。差し出がましい事かもしれませんが、火傷に効く軟膏の詰め合わせになります」

「あら、ありがとう。いいわね、こういうのは助かるわ」

「更にスルーかっ!?」

「ヘファイストス殿。失礼であるのを承知の上で、先ほどのお言葉に甘えさせていただきます。 ――――此度のような挨拶の場において、先ほどからの態度は何事ですか!!」

「げっふ!!」

 

 

 ここ一年でいっちばんのゲンコツだった気がする!

 てかやばいかなぁコレ。ガチのお説教に入る雰囲気だわこれ。あれだ、いつもの如く擬音で表すなら『ガミガミガミ!』ってやつさ。

 うーわやっべぇ。なにがやべぇって、もれなく『正座!』が来るんだよね、最近。

 やめろ、あれは私に効く。

 いそいそ対面に正座して長いお説教を始める聞仲君は顔色一つ変えやしないけど、私にしてみればあれは拷問以外の何者でもない!

 5分もあれば白旗を上げてのたうち回る自信がある。

 

 

「この場ではこれ以上の事は申しません。ただし、覚悟はしておくように」

「オワタ」

「……ふ、ふふっ」

 

 

 おや、姐御がそんな笑い方をするなんて珍しい。

 というよりも私が酷い目にあってるのを笑うのはよして欲しいなぁ。

 

 

「いい子を見つけたわね、パナケイア。大事にして貰ってるんだから、大事になさいよ?」

「私だってそれくらいはわかってるさ。何だかんだで私がこのオラリオまで来れたのも、聞仲君のおかげだし」

「分かってるならいいわ。さて、ご挨拶のお返しをしなきゃね」

「いえ、お気遣いは結構」

「そういう訳にはいかないわよ」

「しかしこちらは挨拶に伺った身。その上で頂き物をするのは厚かましいというもの」

「これは天界での知己がこれから頑張っていく事に対する餞別。むしろ受け取る事がお互いのためになると思いなさい」

「おおう、姐御カッコイー! ――――わかった、待て、おかわりはいらない」

「ならば、相応の礼というものがありましょう。できるのですから、するべきです」

「わぁいスパルタァ……んー、うぉっほん」

「あなたの見た目で咳払いは似合わないわよ?」

「ぬぐっ……待て、わかってる、おろせ、ゲンコツはもう頭一杯だ」

 

 

 あ、仕切りなおしたらちょっと照れくさいぞコレ。

 もっと飄々とした感じで行こうと思ってたのに、おのれ聞仲君、覚えておきなぁ!

 ええい、とりあえず乱れた服を整えて、髪は……あ、オーケー? 聞仲君オーケー出ました。準備万端であります。

 見てろよ、私はちょっと本気を出せばできる子なのさぁ。

 

 

「――――この度、過分なるご配慮を賜りましたこと、深謝申し上げます」

「よろしい、精進なさい。――――さて、随分と頑張ったみたいだけど、どうかしらブンチュウ君」

「宜しいかと思われます。日頃から言われずともこうであれば良いのですが」

「冗談じゃない、息がつまって死ぬ!!」

「……との事ゆえ、どうぞご容赦を」

「ええ、かまわないわ。というより、君もそう畏まらなくて良いわよ? この子とは知らない仲ではないんだもの」

 

 

 ああ、もっと言ってやっておくれ。

 それで私に対するゲンコツが減れば大勝利だ。

 パナちゃん大勝利。とりあえず未だにひかないゲンコツの痛みの中でよく耐えていると思うんだよ、私は。

 怒られるのが目に見えているから取り繕ってるけどね!

 

 

「椿! あなた柄の重心を見誤ったとかって放った長柄があったでしょう? 結局あとから柄を作り直したやつ。あれを持って来て頂戴」

「……ぬ? 主神殿が駆け出しへ与える武具に手前を関わらせるとは珍しいな」

「この子なら大丈夫。振り回されるような子じゃないわ」

「まぁ主神殿がそう言うのなら手前は構わぬが。しかし良いのか? ただの棒だぞ」

「その棒で良いってこの子が言ってたじゃない。穂先までついていたら流石に問題があるけれど、柄だけなら問題ないわ。言ってしまえばただの頑丈な棒だもの」

「うむ、ならば持ってこよう。――あいや、しかしこの御仁が持つとなれば多少の調整が必要か。ついてくると良い」

 

 

 おや珍しい、聞仲君の困惑顔とは。

 でも姐御もツバキ君とやらも良いって言ってるんだから素直に受け取っちゃいなよ。

 これを恩に着せるような陰湿さは姐御にゃあ無いしさ。

 

 

「良いんだろう、お姉ちゃん?」

「それやめなさい。まったく妙な所で味をしめるんだから」

「だってあの姐御が可愛らしい反応をしてくれるもんだからさぁ」

「そうね、あんまり続けるようならブンチュウ君に叱って貰えばいいのかしら?」

「全面降伏しかない選択肢は選択肢じゃあないと思うんだ」

「選択させる気がないから仕方ないわね。さ、行ってらっしゃいなブンチュウ君。彼女の腕は信用していいわよ?」

「……なれば、ありがたく頂戴いたします」

「ええ、存分に使ってあげて? むしろ綺麗に使い潰してくれる事が、あの子のためにもなる」

 

 

 ほーん、鍛冶神は言う事が違う。大事に使ってね、の一歩先を行くんだから流石。

 医神で言うところの使われない薬に意味はない、と同じようなものかねぇ。

 良い物を貰えそうじゃないか、聞仲君。

 出来る事ならそれで機嫌をなおして、後に控えているお説教を軽減してくれると助かる。

 それはもうひっじょーに、助かる!!

 頼んだよ椿君とやら!

 

 

 

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