迷宮演義 作:AD
まずは小説タグを良く確認しましょう。
そして、クロス先の空気を思い出しましょう。
……そういえば、前書きを書いたのは初めてさぁ。
あのパナケイアの子が行った見事な宣戦布告の夜が明けて。あの場ではうやむやになってしまったけれど、元々アポロンから戦争遊戯を申し込まれていた
ただ、その噂を流していた眷族たちの目が死んでいたという報告も同時に受け取る事になったせいで、最早笑い種にすらならないわ。思い込みの強さは相変わらずね。良い方向へ情熱を燃やしている時は『デキる神』なのに、情欲を乗せた途端にこれだから困ったもの。
今回の件は上手く転がれば
「オッタル、あなたはどう見るかしら?」
「パナケイアファミリア単独で事足ります。他の要素は些事として片づけられましょう」
やっぱりあなたでもそう思ってしまうのね。あのアポロンが触れてはいけない逆鱗に手を出した事なんて、あの場に居た誰もが感じていたのだし。むしろ、第一級の冒険者が揃って冷や汗を流す程の気配の中であれだけの物言いができるなんて、この私をして素直にある意味凄いと思わされたもの。アポロンの近くに居た子が、アポロンの言い様を聞き届けた瞬間に泡をふいて倒れたのは仕方ないわ。可哀想なこと。
――――あの魂の輝きを、たとえ目にする事はできなくとも、感じ取る事はできたでしょうから。膨大な熱量を以って果てしなく鍛え上げられたかのような、朽ちることなど想像もできない密度の鋼色。パーティー会場で初めてあの色を目にした瞬間、私ですらあれが人の子である事が信じられなかったもの。
「でもそれじゃ
パナケイアへの物言いは正直聞いているだけで不快だったから、あの見事な宣戦布告は不覚にもよく言ったとすら思ったわ。
……でもね、同時に困った横槍を入れてくれたものだとも思うの。 あの子が成長するための良い踏み台になるはずだったのに。
「オッタル。貴方はこの状況でアポロンファミリアが善戦する可能性があると思う?」
「先に申し上げた通り、ありません。あの冒険者の立ち居振る舞いを見る限り、凡百の冒険者では太刀打ちすらできますまい」
「そう、よね。…………もー、どうすればいいのよぅ」
もすっとお気に入りのクッションへ顔を埋めても解決策は思い浮かんでこない。ぱたぱたと脚を振った所でそれは同じ事。……オッタル、そっとスカートの裾を戻しにくるのはやめなさい。
「ならば、前提条件を変えるほか無いでしょう」
「――続けなさい」
「ベル・クラネルが成長するための余地を広げる。最早、これに尽きるのではないかと」
「貴方がそう口にするという事は、具体策もあるのね?」
最悪の中で最善を尽くす。そういうレベルの話。
「まず、総力戦の形式を防衛戦のような拠点攻略方式に設定。その上でアポロンファミリアを防衛側とし、攻め手の2ファミリアの侵攻開始地点を防衛拠点を挟むように配置します。そこに共闘禁止とでも条件を付け足してやれば、せめてもの経験値稼ぎにはなるでしょう」
「あの戦争遊戯は個別の申し入れだったのだから、あの場で
「それも踏まえ、可能であると愚考します」
それならば現状よりは成長の余地はあるわね。――ある、わよね?
「オッタル、動く前に少し情報が欲しいわ。パナケイアの子を測りなさい。ただし現時点では敵対せず、武力行使も控える事」
「…………承知」
頼んだわよ、オッタル。貴方ならやってくれると信じているわ。
でも………この部屋を出ていく時にちらりと見えた耳が、少しだけ萎びているように見えたのは気のせいかしら? あのオッタルに限って、そんな事はないと思うのだけれど……。
■
ウォーシャドウ、キラーアント、ニードルラビット。そして毒の鱗粉を撒き散らすパープルモス。特にウォーシャドウは新米殺しなどと異名を付けられていると聞いていたが、これではな。モンスターを打倒する時間よりも魔石を回収する時間の方が長いこの状況は好ましくない。……やはり、ダンジョン前に居たサポーターとやらを雇うべきだな。魔石の回収を任せるだけで大きく効率は上がるだろう。
「やはり、脆い。その割に数ばかりが多いのは困ったものだ」
モンスターの群れを打ち据えた先に、10階層への階段が見えてきた。この階層の入口は休憩ポイントとして利用される事が多く、食事をするには適しているとギルドの受付職員より聞いている。大事を取ってヘファイストス殿へ預けてきたパナケイア様が、出がけに渡してくださった弁当を頂くには良い頃合いだろう。先客はあのパーティーで顔を見た覚えのある男が一人だけで、スペースは十分にある。腰を落ち着けて食事をとるに当たり困る事はなかろう。
「ふむ……また腕を上げられたか」
天界にて懇意にしていたというデメテル殿のはからいでいただく事となった新鮮な野菜によるサラダは、器へ綺麗に収められており彩りも良い。……もう一つの器はサンドイッチとジャガ丸くんだな。こちらも形は綺麗であるし、挟まれている具もバランスが取れているように見える。――ジャガ丸くんという商品名はどうかと思うが、この料理自体は中々考えられていて悪くない。芋に衣をつけて揚げただけとは言え、癖のない味であるからこそ調味料が生きる。後付けで味を決められるこの料理は効率が良いように思うし、片手で食べられるというのもそれを後押ししている。行軍食とするには調理の手間がかかり過ぎるが、街で屋台を出すには理にかなったものだろう。
「……美味そうだな。手作りか?」
「む……ああ、我が神の手製だ」
ジャガ丸くんについての考えを巡らせていた折に、向かいに腰かけていた男から発せられた問いかけは正直意外であったと言っていい。巌のような武人といった様相の、見事な空気を纏う男から出たとは思えない言葉だった。だが気になるのは、あちらから声を掛けてきた割に、考えあぐねているのが手に取るようにわかる気配だ。悪意は感じないが、何が目的だ?
「そうか、お前の神も中々できた神物のようだな」
「できるようになった、が正しいな。始めたばかりの頃は『食べられるだけのもの』が出てきたものだ」
「ほう……」
味はそう悪くは無かったが、形は不揃いで彩りも悪かった。そして何かにつけて甘味を入れようとする。とはいえ、覚えは良いのですぐにそれも矯正できたが。……こういった事は素直に身に着けてくれるというのに、何故礼儀作法の改善は遅々として進まないのだろうか。やはり、もう少しばかり厳しくするべきだろうか。
「だがお前のような男であれば、それでは足りぬだろう。少なくとも俺は肉が無ければ満足できん」
「生憎と燃費は良い方なのでな」
「……そうか」
「無論、あるに越したことはないが」
「!」
何故ここで嬉しそうな顔をするのか、理解に苦しむ。
「しかし、そうか、神が料理をするのか……」
「まぁこれは我が神の性質に合っていたという事もあるだろうがな。薬の調合と通ずるところがあると、上達は早かった」
「なるほど」
第一印象よりも口数の多い男だ。決して多弁ではないが。
そうしてしばらく、お薦めの屋台の話題に始まり、背丈が似通っている事から派生した服の仕入れ先、冒険者に評判の良い商店など、私自身意外な程にこの男と話が続いて行く事に驚かされた。
「時間を取らせた詫びだ、受け取れ」
「む……ならば私からはこれを。我が神、パナケイア様特製の軟膏だ。止血作用がある。嵩張らぬし、ポーションを使うまでもない傷に応急処置として塗るといい」
「俺は見返りを求めた訳では無い」
「こちらも宣伝活動だ、気にするな。……我が神が良く口にするのだがな、私にはこうした他愛のないやり取りが必要なのだそうだ。言うなれば、これは私の都合と思って貰って構わない」
あれで、私が教えられる事も多い。言葉が足りぬ事を指摘された事もあれば、威圧感について諭された事もある。私の境遇を知った上でかけられた言葉であると思えば、無碍にはできまい。
「……そうまで言うのならば、貰っておこう」
「今後はどちらかと言えば冒険者向けではない、日常生活に必要な薬を取り扱う小さな店舗を出す予定だ。それが気に入ったならば立ち寄ってくれ」
「ああ」
「女性向けの商品を出す予定もあるようだ。詳しい所はわからないが、話を聞いていたデメテル殿を初めとした女性冒険者たちは色めき立っていた。こちらについても話を広げて貰えると助かる」
「ふむ……いいだろう。――――ではな」
思いのほか長い時間話し込んでしまったな。紙に包まれた串焼きを置いて去っていく男の目的は結局最後まで分からなかったが、悪いものでは無かったように思う。
我が神へ教えてきた種々の生活技能等について妙に食いつきが良かったのは、あの男の印象からして少々笑いを誘われてしまったが。
「……しかし、多いな」
数えて20本。いかにパナケイア様のサラダやプレーンのジャガ丸くんがあるとは言え、この肉の比率は如何なものか。肉が無ければ満足できぬ、と口にしていたのは覚えているが、それでもこれは多すぎると思うのだが。
■
「只今戻りました」
今朝言い渡したばかりの仕事を即座に済ませて報告に来るあたり、流石はオッタルと言うべきかしらね。ええ、貴方なりの印象を聞かせて貰いましょう。
「気取られぬよう遠目で数回程確認をしたにすぎませんが、武器を振るう様を見る限り、やはり一廉の人物でした。重心の移動に、速さ、力強さ。全力には程遠いと見受けましたが、それを加味しても見事の一言。懸念されていたベル・クラネルへの影響についても、彼の冒険者であればマイナスにはならないかと」
「ふむ……」
「また、必要とあらば力は振るいましょうが、やみくもに振るう事は無いと思われます。精神性においても高潔であるように見受けられました」
「それは僥倖ね」
この子にしては珍しく饒舌ね。おまけに気分の良い仕事ができたと言わんばかりの清々しさだもの。
「付け加えるならば……教育者としても優秀かと」
「そう。――――教育者?」
冒険者としての実力が、やはりあのパーティーで感じさせられた印象そのままという事は、まぁいいわ。あの子に悪影響を及ぼしそうにない人柄というのも、いい。でも、教育者? 貴方一体何をしてきたの、オッタル。
「ダンジョンにて力量を確認した際、偶然同じ場所で休憩を取っていたという体で話をする機会を作れましたので、人となりを確認したまでの事です」
「そ、そう……」
「あの男が教えたという料理の腕を、彼の主神が持たせたという弁当を通じて確認しましたが、見事なものでした。ただ、冒険者に持たせるには肉が足りないと言わざるをえません」
「待ちなさい、オッタル。待って。……貴方何を言っているの? 料理?」
私の問いかけに対して貴方が首を傾げる姿というのは珍しくて面白いけれどね? 一体、何を聞いてきたのかしら。冒険者の観察がどうして料理につながるのよ?
「聞けば、炊事に始まり掃除や洗濯、礼儀作法など、種々の技能を教えていたようです。あの男の事ですから、そちらもきっちりと仕上げているでしょう」
「仕上げるべきところがおかしいと思うのだけれど」
「あの男は『自分勝手な押し付けかもしれないが』と苦笑していましたが、こういった忠義の尽くし方もあるのだと知れたのは私としても良い経験でした」
「それはまた、随分と気に入ったのね? 貴方がここまで手放しに称賛するなんて」
「お恥ずかしながら、好ましいと感じたのは事実です。機会があれば酒など酌み交わしたいものですが……」
パナケイア、あなた自分の眷族に何をさせているのかしら? 何よりも、私のオッタルが妙に毒されてるじゃない!?
冒険者としての頂点に立ってからというもの、私へ忠義を尽くす事が第一になってしまっていたこの子が、お酒を酌み交わしたい?
心底不思議だわ。この短い時間で何があったのよ……。
「今回のような例外は仕方ないとして、あの冒険者が
「ありがたき幸せ」
…………パナケイア、私もちょっと、貴女とお話しなくちゃいけないわね。
「――申し訳ありません、伝え忘れておりました。パナケイアファミリアは今後一般人向けの薬店を出す予定との事。女性向けの商品もあるとの事でした」
「また珍しい方向性ね?」
「デメテルファミリアが主神を含めて随分と関心を寄せている様子であったと聞いています」
「……デメテルが? 待ちなさい、オッタル、他に何か言っていなかったの?」
「申し訳ありません、あの冒険者自身、薬店における女性向けの商品について詳細は理解していないようでしたので」
「そう……」
神が関心を寄せるとなれば、それは生半可な物では無いでしょう。それに考えてみれば医神、薬神に連なる系譜だもの。
………………………………パナケイア、私も、よーく、貴女とお話しなくちゃいけないわね。
※追記
お肉について、感想欄にて散見されましたのでこちらにて捕捉を。
大前提として、このクロス作品は藤崎竜先生の封神演義をもとに書いています。
筆者が調べた中に、崑崙サイドでは確かになまぐさは禁止の記述がありました。
また、本来の仙人という存在についての記述の中でも確かにその旨の記載があります。
ただ、金鰲島の方は……感想で書いてくださった方もいらっしゃいましたが、妖怪仙人主体(食べ物お察し)という事もあって、その旨の記述はありません。
それを踏まえての投稿としています。