迷宮演義 作:AD
紆余曲折を経て、戦争遊戯は
「姉さんは最後に半ばヤケで勝利時の条件をふっかけてたけどね。あのクソ爺、その条件だと負けた暁には全てを失う事になるってのに、自らの勝利を疑ってないんだろう。あっさりと飲みやがった」
アポロン・
「不思議な空気だったよ。誰もが連合の勝利を
あのクソ爺以外は。
むかーしむかし天界に居た頃に、あの胡散臭さが神の形を取ったかのようなヘルメスが、クソ爺の事を『彼はこうと思ったら、一直線なのさ。良くも悪くもそれしか目に入らなくなるんだ。それが吉と出るか凶と出るかは状況次第だけどね』なんて評したのを聞いた覚えがある。その視野狭窄っぷりを無駄にキレのいい動きで表現していたけどさ、まさかここまでとは思わなかったというのが正直な所。そりゃあもう癪だけど、あのクソ爺には驚かされてばかりだよ。神々が
その有様に、あのパーティーに
「私はね、正直なところを言うならば君に行って欲しくない。君が力を振るう様を見せたくはない」
正直な所、もう手遅れだと感じているのは事実さ。遅かれ早かれこうなる事は知れていたと言っても、こうまで早いとは思わなかったけど。
レベル詐欺や、神の力の不正使用を疑われるといったような話題は一切出なかった。そんな薄っぺらいものではないと、あの時の有様が神々の心胆に刻まれていたのだから。神々が様々な権能を持っているのは事実だけど、子らの神話に語られる様な力をそのまま全て持った神というのは、そうそう居るものじゃない。何度も世界を滅ぼせるだけの力があるだとか、宇宙より大きな体を持つだとか、そういったスケールの神なんて居やしないんだ。あの時、聞仲君が発した気配に『今のような力を制限している状況でなくとも、あれは手に負えない』と
「でも、君を眷族にしたあの時。路地裏で私の我を通させてくれたあの時。守ってくれと言ったのは私で、君はそんな私を言葉通り守ろうとしてくれている。こうなった以上、私が君にお願いするのはたった一つだけ」
聞仲君が眷族となってくれたあの日。誓いを立ててくれたあの日から、私はその誓いに対して何を返してあげられるのか、考えてきた。
よく効く薬を作ってあげる?
――――その気になればいくらでも作れる程度の物と釣り合うのか?
聞仲君が言う通りの立派な神格者として振舞う?
――――自分の楽天的な性質は自覚してるさ。それに猫を被って上辺だけ取り繕えと?
……そんな裏切り、できるわけがないだろうよ。
「私を安心させてくれ。これから先、どんな事があっても。
あれも駄目、これも駄目。そうやって純化させていった先に残ったものは、わたしのちっぽけな信頼だけだった。
我ながら情けないと思うけどね、私にはこれくらいしかないんだ。
「出来の悪い主神で悪いけどね、そこは目をつぶってくれると助かる」
「いいえ。それでこそ我が神です、パナケイア様」
君、女神に向かって背中でものを語るんじゃないよ。神血を刻む手が震えちゃうじゃないか。
「そっか。――――あぁ、
■
「やぁぁぁぁぁぁって参りました! ついに! この日がァ!!」
久々の戦争遊戯とあって準備をした者が気合を入れたのだろうと一目でわかるような、そんな無駄に豪華な特設会場がギルド前に誕生してしまうのは、ここオラリオならではと言えばいいのかね。馬鹿騒ぎが大好きな神々が多すぎるよ、ホント。
「実況を務めさせていただくのはこのワタクシ! ガネーシャファミリアの熱ぅい男!
おい実況、私情が自己主張しすぎじゃないかね。
「まぁそれは置いといて! 幸いにしてと言うべきか、それとも不幸にもと言うべきか迷うところではありますが、本日は雲一つない晴天! 戦争遊戯を開催するに当たり、絶好の天候です!!」
本当にね。雲一つない、お天道様がよーく見えるいい天気だよ。
ヘリオスおじさん、見てるー? 敬愛する我がパパンも。
「今回の戦争遊戯が『攻城戦』の形式で行われる事は皆さまご存じの通り! アポロン・ソーマファミリアの防衛連合へ、ヘスティア・パナケイアファミリアが各々単独で挑む事となります!! 人数比どうなってんだオイィ!?」
今頃、あのだだっぴろいシュリーム平原にぽつんと残った古城には防衛側の連合が入っている事だろう。
「パナたんとこが全部持ってくにウチの全財産賭けたらぁ!」
「おいこらロキぃ! 僕のファミリアだって居るんだぞ!?」
「うるっさいわドチビィ! ウチは今リヴェリアママからお小遣い減らされてひぃひぃ言うとんのやぞ!? 鉄板に賭けんでどないすんねん!」
おぉう……初めて生でロキ弁を聞けた! なんかこの小気味いいテンポがクセになって、天界の雑誌とか映像でよく追っかけてたけど、やっぱり生だと違うねぇ。うん、やっぱりこの喋り方好きだわ。
打てば響く、打たなくとも響く。つまり響く。
何にって? ――――心にさ。
「うぬぬぬぬ……パナケイア! 君も何か言ってやりたまえよ!」
「何言うとんねん、ヘスティア姉さん。ウチから言う事なんてもう何もないわぁ」
「パナケイアがバグったぁ!?」
うん、いざ自分で喋ると合ってるかイマイチわかんないけど、ロキ弁はこんな感じでいいのではなかろうか。ロキさんが目をまん丸にしてるけど。あー、やっぱりどこかおかしかったのかね?
「あのパーティーで怒っとるトコしか見とらんかったけど、なんや、おもろい子やなぁ。ほれ、飴ちゃん食うか?」
食べる! と即座に返したい所だったけど、あの包装見た事があるぞ。ハッカでしょアレ。やだよ、ハッカ辛いもん。食べるならハチミツ飴とかの甘いヤツがいい。
「ウチ、ハッカは苦手やねん」
「なんや、お子ちゃまやなぁ」
「そらそうや。あっこで無駄にふんぞり返っとるクソ爺の『孫』やで? これがお子ちゃまやのうて何や言うん?」
「言うなぁ自分! ほれ、おもろい子には飴ちゃんやろ。口あけぇ」
「ありがとぉ……ってこれハッカや!」
「ノリツッコミまでこなすんかい!」
心あたたまる歓談を続ける私達に、ヘスティア姉さんが信じられないものを見たような目を向けてくるんですが、これ如何に。
ロキさん独特のこのテンポ、楽しいじゃないのさ。ハッカは辛いけど。あースースーするぅ。
「ロキさんロキさん、ちなみに私のロキ弁の点数は?」
「満点くれたろ。ようもまぁここまで特徴を掴んだもんや!」
「おー! もっと褒めてくれてええんやで?」
「おし。ならウチの事『お姉ちゃん』って呼ぶ事を許したろ! ロリロリしいしなぁ、自分」
「ロキお姉様ァ!」
「ちゃうやん!?」
「ロキ姉!」
「ちょっとグっときたけどそれもちゃう!」
「ロキさん!」
「戻っとるやないかい!?」
「いや君達なんで漫才を始めてるんだよォ!?」
ああ、これだよ、これ。打てば響くこのテンポ! 悪ノリ好きの神と喋ってる映像を見て、いつかやってみたいと思ってたんだよねぇ。懐かしいなぁ、天界放送。
どうしたのさ、ヘスティア姉さんってば。可愛がってた子がグレたみたいな悲愴な顔をされる覚えはないんだけども。……あれ、何か遠くで姐御まで頭抱えてる?
「……えーと、お三方、話を進めてもよろしいでしょうか?」
『あっ』
ごめん、えーと、イブリ君?
「……ロキお姉ちゃんがムリヤリやらせたんだよ。私だって君みたいな頑張ってる子を邪魔したくなんて無かったさ」
「おいコラ待たんかい!?」
「てか君、さらっと『お姉ちゃん』を混ぜ込んだね」
「てへぺろっ」
おお、一部の男神共にウケた。あざと可愛い、頂きましたー!
――――どうしてこうなった。
「相変わらず無駄に可愛らしいから困るんだ、君のそれは……あと誰にでもお姉ちゃんお姉ちゃん言ってすり寄るんじゃない! 減るだろう!」
「何が!?」
…………いや、こんな他愛のないやりとりができるのも、安心させてくれた聞仲君のおかげだとも。感謝の一言。
だからこのやり取りが後から聞仲君の耳に入りませんように!
正座は嫌だ! 断固拒否する!! させてくれないけどね!!!