見上げると雲一つない青空。周囲には雪を積もらせた山々がそびえ立つ。元々は観光地として賑わっていたここは、とても美しい外観をしている。しかし、現在は蒼氷の峡谷と呼ばれ、大型アラガミの長距離移動用の通路となっている。
「隙だらけだ!」
「食べちゃうよー!」
ナギとナナの神機から捕喰口が飛び出し、コンゴウの体を喰いちぎった。それがとどめの一撃となり、コンゴウは力尽きた。
「あとはシユウだけだねー」
「だな。フラン、こっちは準備完了だ」
『了解。神機兵γ、起動します』
フランの通信の後、何かが戦場に降り立った。ヤクシャよりさらに人に近い体型、鎧を着こんだような外見、神機を思わせる巨大な剣。これが神機兵だ。今回の任務は無人制御型神機兵運用テストの補助だった。神機兵とアラガミが一対一で戦う環境を作り、問題が起これば対処する。いわゆる露払いだ。
立ち上がった神機兵は周囲を見渡し、少し離れたところにいるアラガミを発見した。二本の脚で立ち、背中から巨大な羽が生えている。中型種シユウだ。標的を捕捉するや否や神機兵は走り出した。
「速っ!?俺らも行くぞ!」
「わ、待ってよー!」
ナギ達も慌てて追いかける。ゴッドイーターは身体能力が強化されているため常人以上の速度で走れるのだが、神機兵もその巨体からは想像できないほど速い。なにより歩幅が違い過ぎる。
ある程度まで接近すると跳躍して一気に距離を詰め、シユウの頭部に得物を叩きつけた。襲い掛かるシユウの拳を器用に避け、的確に攻撃を当てていく。その様子は神機使いの戦闘とほぼ同じようなものだった。
「すごいねー!でも、私たちの仕事、なくなっちゃうのかな?」
「どうだろうな。俺は極東の外部居住区に住んでたんだが、あそこでコイツみたいなデカいやつが暴れたら大変なことになるぞ。俺らのほうが活躍できる場所も、探せばあるんじゃないか?」
神機兵には、神機に適合していない人でも操縦できる、パイロットがいなくても戦えるなど、いくつかのメリットがある。ゴッドイーターはもう必要ないと考えている人も少なくないようだ。
だが、ナギは悲観していない。どれだけ機械が優れていようと、どこかで必ず人の手が必要になる。ゴッドイーターも決して無駄な存在にはならないと信じて疑わなかった。
「お。終わったみたいだな」
脚を破壊され倒れたシユウに、神機兵が得物を突き刺した。なんとか抜け出そうとするシユウだが、最終的には力尽き動かなくなった。
「こちらブラッドγ。神機兵は無傷だ」
『了解しました。他の隊が終わるまで、帰投ポイントで待機していてください』
最初は少し不安があった今回の運用テストだが、問題なく終わった。これなら他のメンバーもすぐ終わるだろうと、ナギは安心して帰投ポイントへ向かった。
二人はトレーラーの中で待機していた。現在、ギルとロミオが戦闘を終え、シエルもそろそろ戦闘が終わるようだ。
「ナギって、ゴッドイーターになる前は何してたの?」
「どこにでもいそうな普通の高校生かな。……いや、通学カバンにスタングレネード入れてた時点で普通じゃねえな」
会話の内容はナギの過去や極東支部に関するものがほとんどだった。現在フライアは更なる研究のため、様々なアラガミが集まる極東へ向かっている。そのため自然と極東関連の話題に集中していた
「お姉さんから貰ってたの?」
「ああ。トラップとかも家に備えてたな。居住区にアラガミが侵入したときとか、それ使って神機使いが到着するまでの時間稼ぎとかもしたな。で、そんなことしてる暇があるならさっさと逃げろ、って姉さんに怒られた」
二人を包む和やかな空気。しかし、ギルから入った通信がその空気を一変させた。
『こちらブラッドα。”赤乱雲”を確認した』
「!?」
ナギは慌てて外を見る。戦闘中は雲一つなかった青空を雲が覆っている。それも赤色の雲が。彼の表情が険しくなった。
「何、あれ……?」
「赤乱雲だ。積乱雲じゃねえぞ。最近になって極東でよく起こるようになった。なんでも、あれから降ってくる”赤い雨”に触れたら不治の病にかかって死ぬ、って話だ。……コイツを見るのも久しぶりだな。全然嬉しくねえが」
ナナも不安そうに外を見ている。赤く染まった空を見れば誰でも不安に思うだろう。しばらくすると、ナギの言っていた赤い雨が降り出した。血を連想させるようなそれは不吉でしかなかった。
『ブラッド各員、防護服を着用、及び携行しシエルの救援に急行してくれ!』
「どうしたんですか、隊長」
『神機兵βが背部を損傷した。だが、周囲にアラガミがいるせいで輸送班だけでは回収できない。シエルはその場で――』
『待て!勝手に命令を出すな!』
ジュリウスからの通信に別の声が割り込んだ。グレム局長だ。
『神機兵が最優先だ。傷つけられないように守り続けろ』
『赤い雨の中では戦いようがない!』
『いいから命令を守れ!神機兵を守れ!』
『人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、貴方も知っているはずだ!』
『隊長、隊長の命令には従えません』
さらに別の声が割って入った。赤い雨の中で身動きがとれないであろうシエルの声だった。
『不十分な装備での救援活動は、高確率で赤い雨の二次被害を招きます。よって、グレム局長の命令を優先し、各員現場で待機すべきと考えます。……更新された任務を遂行します』
通信が途切れた。どうやらシエルが一方的に通信を切ったようだ。
「このままじゃシエルちゃんが危ないよー!」
「まずいな。これであっちにアラガミが来たらやばいぞ……。なんか方法は……」
必死に解決策を考えるナギの目にあるものが飛び込んだ。ナギは防護服を着用しトレーラーから飛び出し、それに駆け寄った。
「なにするの!?」
「何って、コイツに乗ってシエルのとこまで行ってくるだけだ。一般人からパイロット募集するくらいなんだから、俺でも動かせるだろ」
そう言ってナギは神機兵に乗り込んだ。起動音と共に神機兵の目が輝き、シエルがいる場所へ向けて走り出した。
「……あのー、隊長……。副隊長がね、神機兵に乗って行っちゃった……」
「……どうしてこうなった……」
十字の格子が付いた入口ドア、窓のない壁、照明が一つ。ナギは懲罰房にいた。神機兵に乗った後、シエルに襲い掛かろうとしていたシユウを撃破し、彼女の救援と神機兵を無傷で守るという二つの命令を達成した。だが、帰投後すぐにこれである。
(なんか局長怒ってたけどさ、神機兵は無傷だったじゃねえか。は~暇だ)
「副隊長」
気づけば廊下にシエルがいた。格子越しに見えた彼女は少し怒ったような泣きそうなような、複雑な様子だった。
「こんなことになると分かっていて、どうしてあんな無茶を……?」
(いや、こんなことになるとは思ってなかったけどな)
「神機兵の搭乗は、入念な事前検査が必要なんですよ。最悪、命を落とすことだってあり得るのに……。ホント……命令違反だらけですね、君は……」
「先に命令破ったのはそっちだろ?」
そう言ってナギは格子の間からシエルを指す。
「シエルはなんで救援はいらないって言ったんだ?」
ナギの問いを聞き、シエルはハッとした表情になった。救援を断ったのは赤い雨の二次被害を防ぐため。その二次被害とは何か。
「…………皆さんが赤い雨に当たることを避けたかったからです」
「それと同じようなもんだ、あん時の俺も。上官の命令とか、自分のこととかよりも、お前を助けたかっただけだ」
「命令よりも……自分よりも……守りたい、大事なもの……」
「それが、仲間ってもんじゃねえの?」
ブラッドに入るまでずっと一人だったシエルにとって、ナギの言葉はとても印象的なものだった。
「……とても、暖かいですね」
シエルがナギの手に触れる。ナギは心なしか本当に暖かく感じた。同時に感じた、自身の血の目覚めに似た感覚がそうさせたのだろうか。
贖罪の街。荒らされた建造物が墓標のように立ち並ぶこの場所で、ゴッドイーターとアラガミの戦いが繰り広げられていた。
「行くぞ、ポラーシュターンよ!」
黄金の神機を携えた青年、エミールがコンゴウの顔面を殴り飛ばす。コンゴウは空気弾を放ち応戦するが、全て回避される。今度は接近戦に持ち込もうとしたコンゴウだが、脚を撃ち抜かれ倒れ込んだ。
「そのまま寝ていなさい」
コンゴウの背後、先ほどまで誰もいなかった場所に一人の女性が現れた。彼女の使用している銃身はスナイパー。ステルスフィールドと呼ばれるアラガミの感知から逃れる技を持っているパーツだ。
「さすがだ、クロエ少尉!」
「さあ、終わらせますわよ!」
エミールと同様に、クロエと呼ばれた女性もコンゴウに接近する。エメラルドグリーンに輝くスナイパー”アラミス”から、ブーストハンマーの”アトス”へ移行。コンゴウの背中を叩き割った。最後にエミールがコンゴウの顔を砕き、コンゴウは力尽きた。
直後、別の方向からもう一匹のコンゴウが現れた。しかし、それはエミール達を見ていない。自分を追いかけてくる少女を見ていた。青色のチャージスピアを持った少女は途中で神機に溜めていた力を解放し、猛スピードで突進した。
「僕達も加勢すべきだろうか?」
「その必要はありませんわ。二手に分かれて一匹ずつ、という作戦でしたから。それに……」
クロエは一度言葉を切り、振り返ると同時にバックラー”ポルトス”を展開した。驚いた様子でエミールも振り返ると、小型アラガミのザイゴードがクロエに空気弾を放っていたところだった。
「
「そのようだな……!」
一方の少女はコンゴウに接近し次々に突きを繰り出していたが、引き際を誤ったためか、コンゴウを中心に巻き起こった風のドームに吹き飛ばされた。追い打ちをかけるようにコンゴウは少女を目掛けて転がった。
「……おい、エリナ。突っ込みすぎだって何回言わせんだ」
だが、それは割って入った青年に止められた。少女――エリナの前に立ち、赤紫のステンドグラスのようなシールドでコンゴウを止めている。力任せにコンゴウを押し返し、”レギンレイヴ”という銘のシールドを閉じる。現れた近接武器パーツはエリナと同じチャージスピアだ。
「ナ、ナオキ先輩だっていつも――」
「俺は神機使いやって四年だぞ?お前じゃ真似できねえよ」
「子供扱いしないでください!」
「してねえよ」
エリナの言葉を適当に流し、ナオキは三又の槍”スルーズル”を構える。またも転がってくるコンゴウを避け、後ろ足をスピアで薙ぎ払う。突きを多用するエリナと違い、ナオキは神機を振り回し豪快に薙ぎ払っている。
「受け取ってください!」
「たまにはやるじゃねえか」
「”たまには”は余計ですっ!」
エリナからアラガミバレットを受け取り、銃形態に変形する。その銘を”シグルドリーヴァ”。銃口に描かれた禍々しい目玉が特徴的だ。
「喰らいやがれ!」
圧縮された空気弾がコンゴウに直撃し、遅れて発生した竜巻がその命を奪い去った。
「終わりましたわね」
「今日もいい戦いだった」
エミールとクロエも合流し、移動に使う装甲車へ向かった。運転はナオキが担当する。
「ところでエミール、最近やたら気合入ってんじゃねえか。なんかあったのか?」
「当然だ。何故なら近々ブラッドが極東に来るからだ!ブラッドには共に騎士を目指す友がいる。淡島ナミ中尉の弟、淡島ナギが!」
ナミの弟と聞いたところでクロエとナオキは驚く。二人はナミが隊長を務める部隊の隊員だ。
「なるほどな。エリナが空回りしてんのも、勝手に対抗心燃やしてるからか」
「べ、別にそんなことないもん……」
「でも、残念ですわ。私とナオキは明日には出発しなければなりませんし」
「そうか、二人はもう極東を離れるのか」
「ええ。でも、私から教えることはもうほとんどありませんわ。今日の調子で頑張ってください」
クロエ・オーバンと
「逆にエリナは課題ばっかだぜ。いい加減バックラー使えよ」
「避けたほうがいいじゃないですか」
「避けれてねえだろ」
「う~……」
「それにしても、隊長の弟か。どっかで会ってみてえもんだな」
果たしてブラッドの極東への遠征が極東支部にどれほどの影響を与えるのか。それはまだ誰にも分からない。
オリキャラは後でまとめて紹介ページを作りますが、今回出て来た二人の簡単な紹介(主に神機)を書いておきます
式尉ナオキ
近接武器:スルーズル(チャージスピア、フリークローズ系)
銃身:シグルドリーヴァ(ブラスト、イビルアイ系)
装甲:レギンレイヴ(シールド、サンジェルマン系)
神機の色:赤紫
2070年マドリード支部入隊
クロエ・オーバン
近接武器:アトス(ブーストハンマー、フィ・ドラジェ系)
銃身:アラミス(スナイパー、アンダル系)
装甲:ポルトス(バックラー、ドミニオンズ系)
神機の色:緑
2071年マルセイユ支部入隊