「今日から復帰するんで、よろしくお願いしま~す」
神機兵運用テストから数日後、ナギは懲罰房から戻ってきた。いつもと変わらないロビーが非常に新鮮に感じられる。
「おかえりなさい。改めて、あの時は本当にありがとうございました」
最初に声をかけたのはシエル。ナギが何事もなく戻ってきたことが嬉しかったのだろう、その内泣き出しそうな様子だった。
「ナギがいない間忙しかったんだからな?その分シエルが大活躍だったけどさ!いつの間にかブラッドアーツ使えるようになってたし」
「マジで?」
「はい。血の目覚めも迎えました。これも副隊長のおかげです」
「いや、俺は何もしてねえけど……」
「そうでもないぞ」
自分がどのようにしてシエルの血の目覚めに貢献したのか、全く心当たりがないナギ。考え込んでいるところにジュリウスが口を開いた。
「ラケル博士によると、お前の血の力は”喚起”。他者の意志や感情の爆発に共鳴し、触媒となって血の目覚めを促す。戦闘中に効果が表れるものではないが、今後ブラッドにおいて重要な能力となるだろう」
自分の力が仲間の力を喚起する。ナギは自分がそんな大きな力を持っているとは思ってもみなかった。ブラッドは一人一人が重要な役目を持つ。以前ナギが何気なく言ったこの言葉は、彼の想像以上に重みのあるものだった。
ナギが懲罰房にいる間に付近のアラガミは掃討されたらしく、次の任務は極東支部に着いてからとなる。他のメンバーと同様に、ナギも一旦自室へ戻ろうかと考えていた矢先、ギルに呼び止められた。
「副隊長、なぜあの時あんな無茶をした?」
あの時とはもちろん神機兵運用テストのときだ。神機兵の操縦は全く危険が伴わないわけではない。主なリスクは精神面での疲労だ。そのため、事前検査なしでの搭乗は原則禁止されている。
「神機兵の護衛とシエルの救援。どっちもできる方法を探したらああなった」
「あんまり独断で無茶はするな。最悪の事態があった場合、残されたやつは一生、お前の命を背負い続けるんだ……」
何か言おうとしたナギだが、途中でそれを止めた。ラケル博士から聞いたギルの過去を思い出したからだ。やむを得ない事情で上官を殺してしまったギル。その時と今回のナギの行動に何か似ている点があったのだろう。
「……気をつけておく」
「説教臭くなってすまなかった。お前の前向きなところは嫌いじゃない。これからもよろしく頼む」
去っていくギルの背中はどこか寂しげだった。生と死は隣り合わせ。それはゴッドイーターとなった今も、外部居住区にいた頃も変わらない。しかし、徐々にそれを忘れつつあったようだ。ナギは改めて命の重さを考えさせられた。
「ブラッド隊長ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」
「ようこそ極東支部へ!私がここの支部長、ペイラー・サカキだ」
遂に辿り着いたフェンリル極東支部、通称アナグラ。まずはブラッド全員で支部長室へ訪れた。
六人を待っていたのはサカキ支部長。常に人当りのよさそうな表情で、開いているのか分からないほど細い目が特徴的だ。
「エミール君が世話になったようだね。できれば直接会いたいと思っていたんだ」
「あれでしょ、マルドゥーク!撃退したのコイツですよ!」
ロミオに背中を押され、ナギは少し前に出る。彼を見て支部長の目が少し動いた。もう気づいているのだろう。彼はナギがブラッドに入隊したことも知っているのだから。
「姉が世話んなってます。副隊長の淡島ナギです」
「やはりそうだったか!資料に載っていた写真よりも、随分たくましくなったね。それに、この短期間でもう副隊長とは。ナミ君には報告したのかい?」
「あ、忘れてた。別にいいか」
副隊長になってからそれなりに経つというのに、また連絡し忘れていたようだ。一方で任務関連ではこのようなことがないのだから不思議である。
その後、支部長から現在の極東支部の状況について説明があった。一つが”黒蛛病”。赤い雨を浴びることで発症するこの病は明確な治療法が存在せず、発症した場合の致死率は百パーセントに近い。
もう一つは”感応種”。ブラッドと違い、普通の神機使いは感応種が発する”偏食場”を防ぐことができない。そのため、感応種と遭遇した場合は撤退するしか選択肢はない。
今回、極東支部としてはこの二つの問題を解決したい、フライアとしては研究に役立てるため様々なアラガミのデータが欲しい、ということで意見が一致した。ブラッドの遠征は双方にとってとても有意義なものだ。
「博士!歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよ……、あれ、もしかして、ブラッドの人達?」
話が一区切りついたところで一人の青年が入室してきた。歳はナギと同じくらいだろうか。黄、オレンジといった明るい服装で、白い士官服を着用している。サカキ支部長と同様に自然と人を寄せ付けるような雰囲気を持った青年だ。余談だが、歓迎会という単語にナナが分かりやすく反応していた。
「ありがとう、コウタ君。そうだよ、彼らがブラッドだ」
「やっぱり!極東支部第一部隊隊長、藤木コウタです。よろしくね!」
「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。こちらこそよろしくお願いします」
「今は歓迎会の準備してるからさ、その間、アナグラを見て回るといいよ」
「ねえねえ、コウタさん!歓迎会って私たちの?どんなご馳走がでるんですか!?」
相変わらず食べ物には目がないナナ。初対面の隊長への第一声がこれである。ブラッドのメンバーはもちろん、コウタと支部長も笑っていた。
「ナナ、いきなりそれかよ!図々しいぞ!」
「期待しといていいよ。極東支部のメシはうまいぞー!」
「ホントですか!?」
「やったー!」
ナナに指摘したロミオも、コウタの返事を聞いてナナと一緒に目を輝かせていた。
支部長室を出た後ブラッドは一旦解散し、ナギはロビーに来ていた。フライアと違い人が多く、活気に満ちている。歩き回っていると、誰かがナギに手を振っているのを見つけた。
「やあ、ナギじゃないか!ごきげんよう!」
「エミールさん!こっちにいても目立つんだな」
手を振っていたのはエミール。以前フライアに応援として駆けつけ、ブラッドと共に戦った神機使いだ。彼の隣には初めて見る少女がいた。コウタや支部長と違い、どこかナギのことを快く思っていない様子だ。
「あなたがブラッドの副隊長さん?私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデといいます」
「エリナ……?ああ、エリックさんの妹か!」
エミールがフライアに来たとき、エリナの兄、エリックも駆けつけてくれた。その際、ナギはことあるごとにエリックの妹自慢を聞かされたのだった。
「私たちは、極東支部第一部隊所属のゴッドイーターで――」
「久しぶりの極東はどうだい?フライアと違った趣が感じられるだろう?」
「そうだな。あとで居住区もよってみるか」
「ちょっと!私を無視しないでよ!」
「エリナ、エミール!任務だぞー!」
三人のもとへコウタがやって来た。彼の後ろにはエリックもいる。彼もナギとの再会を喜んでいた。
「また会えて嬉しいよ」
「俺もだ。あ、そうそう。あんたが強調してた通り、なかなか可愛い妹さんだな」
「そうだろう。何せ華麗なるフォーゲルヴァイデ家の血を受け継いでいるからね!」
「恥ずかしいから大声で言わないでよー!」
かなり個性派揃いの極東支部第一部隊。これを束ねるコウタはさぞ大変だろう。そう思いコウタを見ると、案の定苦笑いを浮かべていた。
「ま、まあこんな感じだけど、改めてこれからよろしくな!」
「ああ。よろしく頼む」
コウタ達を見送った後、アナグラのオペレーターから呼び出された。階段を降りると受付があり、そこへ行くと優しい笑顔の女性がいた。
「極東支部のオペレーターを務める、竹田ヒバリです。今後とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「先ほど皆さんの部屋の準備が整いました。極東に滞在する間はここを利用してください」
任務もないようであるため、ナギは新しい自室へ行くことにした。エレベーターを待っていると、ギルとロミオもついて来た。
「他の三人は?」
「ラウンジってとこにいるよ。シエルはカピバラって動物に見惚れてて、ナナは『ここ、理想郷じゃないですかー!!』とか言ってはしゃいでる」
「どこ行っても元気だな~、ナナは。……ん、ギルさん?どうかしたのか?」
「……いや、騒がしいのに慣れてないだけだ」
そう言ったギルは少し不機嫌なようにも見えたが、ナギはあまり詮索しないことにした。
エレベーターを出ると目に入ったのはフェンリルの旗。それを中心にして左右に部屋の入口があった。一つの部屋の前に女性がいたが、熱心に手帳のようなものを見ていたため、三人は話しかけないことにした。
「う~ん、結構いい感じだけど、設備が何かちょっとボロい?いかにも最前線、って感じだよなー。俺、フライアの方で寝泊まりしようかな~」
「フライアは貴族趣味すぎる。フツーはこんなもんだ」
「ま、居住区育ちの俺からしたら、ここも普通どころか、かなり豪華な部類なんだけどな」
「彼の言う通りですよ」
「へ?」
独り言のつもりで言ったナギの言葉に、女性が反応した。ナギ達に向き直ると、ギルに歩み寄りながら話し始めた。
「ここが普通なら、この外の世界は何なんですかねー。アラガミに怯える人達をほっておくのが、普通なんですかねー?」
「誰だ、あんた」
「高峰サツキ。フリーのジャーナリストです」
ジャーナリストという単語を聞いた途端、ギルの表情が分かりやすく変わった。嫌悪感がにじみ出ている。
「気分を害したなら謝る。だが、ジャーナリストっていう人種は苦手でな。ロミオ、あとは頼んだ」
困惑するロミオを置いてギルはエレベーターに入ってしまった。ロミオはサツキの方へ振り返ると頭を下げた。
「ごめんなさい」
「あら、意外と素直」
ナギも何か言おうとした丁度その時、とある部屋のドアが開いた。中から出て来たのは又もや見覚えのある人だった。神機使いではない。極東の歌姫、葦原ユノだ
「あら、貴方達は確か、フライアにお邪魔したとき……」
「ど~も。俺は淡島――」
「初めまして!俺、ロミオっていいます!」
自己紹介をしようとしたナギを押しのけてロミオが前に出る。半ば強引にユノの手を握ったときは、さすがのナギも驚いた。ユノもどうしたらいいのか分からない様子だった。
「はいはい、握手会はマネージャーを通してからにしてくださいねー」
「ロミオさん、若干引かれてるぞ」
ナギとサツキでなんとかロミオを引きはがす。「グレム局長がこれを見たら怒るよな」などと考えていたナギ。一方でユノはそこまで悪くは思っていないようだった。
「初めまして、葦原ユノと申します」
「俺は淡島――」
「はーい!よく存じ上げておりますっ!貴方の歌すんごい好きで痛たたたたたた!髪引っ張ることないだろ、ナギ!」
「あのな、二回も妨害された身にもなれ。俺は淡島ナギ。ブラッドの副隊長だ。よろしく」
一連のやりとりがおかしかったのか、ユノは笑っていた。彼女にとって同年代の人と話すのは久々だったらしい。
『副隊長、聞こえるか』
「はいよ~、どうしました?」
『俺達に任務が入った。すぐに出るぞ』
「了解です。ほら、行くぞロミオさん」
「え、今から!?くっそー、ギリギリまでこの余韻を痛たたたたたたたた!!」
ナギは内心、ロミオが暴走する前にこの場所を離れる正当な理由ができてよかった、と思っていた。笑いを堪えられずにいるユノと呆れた表情のサツキに見送られながら、ロミオは後ろ髪を引かれる思いで、ナギに後ろ髪を引かれながらエレベーターに乗った。
極東の第一部隊なのに四分の三がドイツ人だと……!?
ネタバレですが、
この状況を打破するため、第一部隊にあと二人オリキャラを入れるつもりです。