翌朝。ナギとコウタはノゾミとコウタの母に見送られながらアナグラに戻る途中だった。そこへヒバリから通信が入る。
『アナグラに接近中のアラガミを複数確認しました!旧連合軍基地跡での迎撃をお願いします』
「分かった!」
「ヒバリさん、誰かに俺の神機を持ってきてもらえないか?」
『了解しました、増援部隊にナギさんの神機を持たせます』
アラガミの到着には時間がかかるため、外壁にたどり着く前に迎撃する方針だ。壁の外へ続くゲートへと車を走らせる。
「悪いね、いきなり任務に手伝わせちまって」
「気にすんな。そっちこそ、応援が来るまで一人だが、大丈夫なのか?」
「へへ、第一部隊隊長を甘くみるなよ!」
車を降り、装甲壁に据え付けられている階段を急いで登る。着いた先には外へ出るために塞がれていない場所があった。
「ナギはここで待機しててくれ。神機と援軍が来るまでは俺が食い止める。その後は加勢頼むぜ!」
「了解だ」
コウタは戦場へと飛び降りた。そこはかつて、神機も発明されていなかった頃、連合軍が前線基地を構えていた場所だった。今はアラガミの侵食が進み、基地や大地は無残に削り取られていた。一方後ろへ振り返ると、足元には外部居住区、前方には極東支部の中央施設やオラクル偏食因子供給路。ここが正に人類の最終防衛戦線だ。
戦場へと視線を戻す。遥か前方から土煙があがってきた。徐々にアラガミの足音が響き始め、群れの全貌が明らかになった。
先頭にいるのはザイゴート。目玉のついた卵が女性に喰らいついているような奇妙な外観をしている。それにオウガテイルが続き、一番後ろには二体の大型アラガミがいた。戦車を取り込んだ四足歩行のアラガミ、クアドリガ。これらが今回の討伐対象だ。
(あの飛んでるやつとでかいのは初めて見るな。今の内に対策立てるか)
ナギの視線の先でコウタが戦闘を開始した。加速して接近する複数の内、先頭の一体に銃口を向ける。そして、無数のバレットが止むことなく放たれた。コウタの神機”モウスィブロウ”はアサルトに分類される。第一世代型神機とはいえ圧倒的な連射速度は健在である。狙いを変えながら次々にザイゴートを撃ち抜いていく。動きながら発砲できるというアサルトの利点を活かし、無数のアラガミの注意を自分に引き寄せていた。
あとは敵の攻撃を適当にあしらい援軍の到着を待つだけ。ナギもコウタもそう考えていた。しかし、後方にいたクアドリガが動きだした。片方がその巨体からは想像もできない速度でコウタに向けて突進。あっという間にコウタを囲む群れに合流してしまった。
『遠距離攻撃、来ます!』
もう一体も動き出す。他のアラガミよりも遥か後方にいるにも関わらず、その場からミサイルを撃ちだした。コウタのもとへ余裕で届くほどの超長距離砲撃だった。完全に視覚外の地点から飛んでくる攻撃。ヒバリの警告がなければ気づかなかっただろう。
(そろそろマズいか……)
予想より早いクアドリガの乱入。それも二体同時。コウタが傷を負った様子はないが、アラガミが彼を抜くのも時間の問題。そうナギが考えていた時だった。
「待たせたな」
振り返ると、援軍として到着したジュリウスがいた。ナギの神機も運んできてくれた。
「隊長!」
「丁度手が空いていたところだ。それに、俺だけじゃないぞ」
「ブラッドの隊長、副隊長と共闘できるとはねえ。男しかいないってのが唯一残念だが」
ジュリウスに続き、第四部隊隊長のハルオミも駆けつけた。隊長が三人と副隊長が一人。神機使い側の反撃が始まった。
コウタの元へ向かったのはジュリウス。アラガミの死体が数体転がっているが、存命の個体の方がかなり多い。
「コウタ隊長、加勢します!」
「サンキュー!こっから巻き返す!」
死角からコウタに飛び掛かるオウガテイルを斬りつける。もう一撃加えようと神機を振りかぶるが、オウガテイルはもう倒れていた。他のアラガミもほとんどが一撃で倒れていく。
(これ程の数を一人で瀕死まで追い込んだのか……!?)
それらはコウタが与えたダメージの蓄積によるもの。コウタは敵の注意を自分に引き寄せつつ殲滅も試みていたのだ。
(旧型、それも遠距離型神機でこの実力……。やはり重要なのは武器の性能より個人の素質か)
これが激戦区の第一線で活躍する神機使いの力。だが、ジュリウスも負けてはいない。勢いよく地面をけり複数のアラガミに一閃。直後、光の斬撃が標的を切り刻んだ。神風ノ太刀・黒鉄。ゼロスタンスから派生した彼のブラッドアーツだ。
(一振りでこんだけ倒せるのかよ!流石はブラッドの隊長だな)
ブラッドとの共闘は経験済みだが、ジュリウスの戦闘は眼を目を見張るものだった。コウタも負けじとアラガミを撃墜していく。ジュリウスが血の力を発動したことによりバースト状態になったコウタ。彼の神機はバースト状態のときこそ真価を発揮する。底上げされた火力とアサルトの武器である連射機構でジュリウスの死角をカバーする。互いの戦いぶりを見て奮起した二人。小型アラガミは一気に駆逐され、残すはクアドリガのみとなった。
一方、ナギとハルオミは後方から長距離ミサイルを撃ちだすクアドリガを倒すべく動いていた。
「ここまで来れば当たるだろ。ナギ、前衛頼めるか?」
「もちろんです」
そう言ってハルオミは神機を銃形態へ変形させる。銘を”スイートシャフト”。黄色で塗装されたレールガン型のスナイパーである。スナイパーである。スコープを拡大できるスナイパーサイトと、敵に捕捉されなくなるステルスフィールドを備えたスナイパーである。
(この人にこの銃身……。なんか心配だ)
心の隅でこのようなことを考えながらナギはクアドリガへと走る。足を止めたハルオミはスコープ越しに狙いをつける。照準をクアドリガのミサイルポッドに合わせ、引き金を引く。撃ちだされた狙撃弾はまばたき一回分の速度でミサイルポッドに着弾。コウタ達への攻撃に集中していたクアドリガにとって予想外の一撃だ。
続いてナギが前面装甲に神機を叩きつける。確かな手ごたえを感じ、同じ部位を二度、三度と叩きのめす。踏みつぶそうと迫る脚を避け、再び前面装甲を狙う。執拗に同じところを攻撃するナギ。クアドリガの敵意は完全に彼だけに向いていた。
もちろん、ハルオミがその機を利用しないわけがない。回避や防御を考える必要はないため、狙撃だけに集中できる。クアドリガの動きに合わせて照準を調整。ミサイルポッドを撃ち抜く。彼の射撃によってミサイルポッドが結合崩壊を起こした。
「おっと、弾切れか。ナギ、交代だ!」
「了解!」
降り注ぐミサイルを躱し、ナギはクアドリガから距離をとる。反対にハルオミは標的へ接近し、加速した勢いをそのままにバスターブレード”ワックマック”を振り下ろす。再び襲い来る重量溢れる一撃。クアドリガはかなり苛ついていることだろう。そして、遂に前面装甲が結合崩壊した。崩れ落ちたクアドリガ。前面装甲が開き弱点が剥き出しになっていた。
「いいのか?そんな無防備になっちゃって」
立ち上がるまで反撃はこない。ハルオミはチャージクラッシュの準備に入った。その間もナギの砲撃がクアドリガを襲う。先の攻防でかなりのオラクルが貯まったため、高火力のバレットを何発も撃っていく。
「最後の一発!」
「終わりだな!!」
ロケット弾とチャージクラッシュ。二人からの止めの一撃を受けたクアドリガは崩れ落ちたまま力尽きた。
「あれま、あっちはもう終わっちゃったか」
「え!?」
ハルオミの言う通り、コウタ達の方を見るとジュリウスがコアの回収をしているところだった。ナギ達が大型一体を相手している間に、小型の群れと大型を討伐したということだ。
「俺らより多くを相手にしといてあの早さか……」
「なあに、気にすることないさ。それより、お前いい腕してるわ。連携もスムーズにいったし、バスターの使い方もしっかりしてる。一年も経ってないのにこれなら十分だろ。さ、こっちも回収済ませて帰ろうぜ」
少し劣等感を覚えたナギだが、ハルオミの言葉を聞きすぐに気持ちを切り替えた。コウタもジュリウスも神機使いとして年単位の経験をもっている。ナギはまだ一年も経っていない。これから腕を上げていけばいいのだ。
ナギ達もコアの回収を済ませ、四人はアナグラへ帰投した。
「よお、副隊長さん。隣いいか?」
「ん、ああ、ハルさん。どうぞどうぞ」
アラガミの迎撃を終えラウンジでくつろいでいたナギ。そこへハルオミが話しかけてきた。いつもは賑やかなラウンジだが、今は珍しくこの二人しかいない。細かく言えば檻の中にカピバラがいるが。
「ギルから聞いたぜ。赤い雨の中、無断で神機兵に乗り込んだんだって?」
「ああ、あれですか。自分としては最善策だと思ったんですがねぇ」
「ははは!面白いやつだ」
「笑いごとじゃないですよ。懲罰房飛ばされたんですから」
あまり共通の話題は多くないはずだが、会話が途切れることはなかった。ハルオミは神機使いとして十一年の経験を持つベテラン。後輩と接するのにも慣れているのだろう。
「あいつのことだ。ギル、自分のことあんまり話してないだろ」
しばらく会話が続いたあと。ハルオミの声が少し変わった。なにか話さなければならないことがあるかのようだった。ナギはハルオミの言いたいことが若干想像できた。これを言ってもいいのか。少し悩んだ末、ナギは口を開いた。
「…………上官殺しのことですか……?」
ハルオミは驚いた顔をしていた。ナギの思っていた通りだった。
「知ってたのか」
「ラケル博士から聞きました。大まかなことだけですけどね」
「……少―し重い話になるんだが、聞いてくれるか?」
そう言ったハルオミの表情はなにか暗い感情を押し殺しているようだった。ナギは頷いて答えた。
「グラスゴー支部はアラガミの被害が少なくてな。三人の神機使いが所属していた。俺とギル。そしてケイト・ロウリー。ギルの上官であり、俺の嫁だった」
少しずつハルオミの表情が変わる。まるで押し殺している感情が抑え切れないようだった。それでも話す必要があると彼が思っているのだろう。ナギは真剣にその続きを聞いた。
「あの日のいつもと変わらない任務だった。俺はオウガテイルを相手して、ギルとケイトも別方面で戦っていた。――だが、状況が一変した。新種の大型アラガミ”ルフス・カリギュラ”がケイト達に襲い掛かった。元々強いアラガミな上に、ケイトは退役勧告を受けていた身。さらに第二世代型神機に乗り換えた負担もあった。結果、ルフス・カリギュラは消え去ったものの、ケイトは腕輪を損傷。アラガミ化の進行を防ぐためギルは介錯に応じるしかなかった」
明らかになったギルの過去。一度ある程度は聞いていたナギにも衝撃的なものだった。
「それで上官殺し、と……。ギルさんはなにも悪くないですよ」
「誰もあいつを責めることなんてできないのにな」
俯いているハルオミの表情は分からない。だが、声色からは悔しさが感じられた。あの時自分がいれば。そんな後悔がずっと彼にも残っているのだろう。
「……湿っぽい話を聞かせて悪かった。お前さんが聞き上手なもんだから、ついべらべらと話しちまった」
「いえいえ、こっちこそありがとうございます」
いつの間にかハルオミはナギに向き直っていた。
「お前の真っ直ぐな瞳を見て、ギルはケイトを思い出しちまうんだろうな」
「あの時怒られたのもそういうことか……」
――残されたやつは一生、お前の命を背負い続けるんだ……――
神機兵運用テストの後にギルからかけられた言葉。あれは今の彼自身のこともあらわしていたようだ。
「それじゃ、俺行くわ。また飲もうぜ」
こうやって話すまでナギはハルオミにも辛い過去があるとは気づかなかった。もう立ち直ったようにも見えるが、ところどころに後悔や悲しみが垣間見えていた。