数十分ほどの休憩を終え、ナギは再び訓練所に入った。前回と同じようにジュリウスから大まかな説明を受けた後、今度は二体同時にダミーが形成された。二体ともナギと目が合うとすぐに動き出した。
「まとめて相手してやるよ」
神機を銃形態へ切り替え、二体の間に向けてモルターを放つ。ダミーには当たらず地面に衝突するが、最初からそれが狙いだ。一瞬遅れて巻き起こった爆風で二体ともにダメージを与えた。
バレットを撃ち尽くした後、剣形態へ移行しながら片方のダミーへ接近。ここからは一体ずつ撃破していく作戦だ。
叩きつけ、斬り上げ、もう一度叩きつける。素早い攻撃はできないが、威力は申し分ない。
「おっと危ない」
後ろを見たのはほとんど偶然だった。攻撃を受けていないダミーが尻尾を振り上げている。棘を飛ばす構えだ。反応が少し遅れたが、装甲を展開しこれを防いだ。
「まだまだ視野が狭いな」
『そろそろ次のステップへ移るぞ。アラガミからオラクルを奪える形態、捕喰形態の活用だ。これにより自身の身体能力を一時的に上昇させることができる。隙をついて捕喰してみろ。バーストしてアラガミを倒せ』
「了解」
起き上がったダミーがナギに向かって走り出す。ナギはその場から動かずに神機を構える。すると、不気味な音をたてながら怪物の顔のようなものが姿を見せた。それは間合いに入ったダミーに噛み付き、体の一部を抉り取った。
同時にナギが金色のオーラに包まれた。
「これがバースト状態か……。そんじゃ、片付けっか!」
怯んでいるダミーに一撃。これまでの蓄積もあって一体が消滅した。もう片方へ向き直り、強化された脚力で一気に距離を詰める。全身を使い神機を振り回し、ダミーを壁に打ち付けた。
「じゃあな!」
とどめのチャージクラッシュを喰らい、二体目のダミーも撃破された。
『これで訓練はすべて終了だ。実戦に備えて、しっかり復習しておくように』
「いよいよか……。気ぃ引き締めねえとな」
ついに戦場へ向かう日が見えてきた。適合試験を受ける前と同じように、様々な感情がナギの頭に浮かんできた。
「もう訓練終わったんだー。そういえば、私もそろそろ終わるみたい」
「もうひと踏ん張りってとこか。頑張れよ」
「……あれ?見ない顔だね、君ら」
訓練後にロビーでナナと喋っていると、青年が近づいてきた。白のニット帽を被り、水色やオレンジといった明るい色の服装をしている。
「こんにちは」
「ど~も」
ナナが立ち上がったのを見て、ナギもそれに倣う。今回も相手が自分より年上なのか、そうでないのかと考えている。
「あっ、ひょっとして噂の新人さん!?」
「はい、これからお世話になります、先輩!」
「(先輩なんだ、この人)よろしくお願いします」
「先輩……いいね!なんか、いい響き!」
調子に乗りやすい人。ナギが青年に対して抱いた印象だ。
「よし、俺はロミオっていうんだ!先輩が何でも教えてやるから、何でも聞いてくれ!あ、その前に言っておく!ブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ!」
ロミオが向かいのソファーに座ったのを見て、二人も座る。神機使いが厳しい仕事だということは承知済みだ。ナギはそう思いながら気になっていたことを質問した。
「そんじゃ、ブラッドって何なんすか?」
ナギはブラッドについて、第三世代神機を扱う特殊部隊程度しか知らなかった。
「お、おぉ……い、いい質問だね!ブラッドは……えーと、”血の力”を秘めていて……」
(……絶対分からないの誤魔化してるよな?)
「そう!”血の力”に目覚めると……必殺技が使えるんだ!」
(……は?)
「じゃあ、ロミオ先輩の必殺技ってどんな感じなんですか?」
「ば、バッカ、お前、ほら……必殺技ってのはさ、そんなすぐに手に入るもんじゃないんだよ……」
ブラッドとは何かと質問したのだが、何故か必殺技の話題になってしまった。どうやらロミオは必殺技とやらを習得できていないようで、表情や声色から察するにそのことを気にしているようだ。
「あ、そうだ!今みたいな質問はブラッドを設立したラケル博士に、どんどん聞けばイイと思うな!じゃ、またな!」
そう言うとロミオは少し早足で立ち去った。
「あれ……質問タイム、もう終わり?なんか、マズイこと聞いちゃったかなー?」
「だろうな」
結局分からないことが増えたような気がしたナギであった。
翌日。ナギはオペレーターのフランから言われた通り、ラケル博士の研究室を訪れていた。部屋に入ると博士、ナナ、ロミオがいた。
「よく来てくれましたね、ブラッド候補生の皆さん。本来なら、正式な晩餐会を催したいところですが……」
「あれ?ロミオ先輩も候補生なの?」
「うるさいぞナナ……!」
「二人とも、話の途中だぞ~」
「ふふっ……すっかり仲良くなってうれしいわ」
三人のやりとりを見て微笑むラケル博士。後でナギが聞いた話によると、彼女は児童養護施設マグノリア=コンパスの設立者であり、ナナ、ロミオ、ジュリウスの三人はそこで育ったのだという。今の彼女は自分の子供を見ているような心境なのだろう。
「それでね、今日は皆さんにブラッドとしての心得を、お伝えしておきたくて」
「よっ、よろしく、お願いしますっ!」
少し緊張気味に返事をするロミオ。ナギの表情も真剣なものになっていた。
「ご存知の通り、アラガミによって世界は崩壊の道を進んでいます。それを押し止めてきたのは、神を喰らう者”ゴッドイーター”……。そして今、ゴッドイーターを超える”ブラッド”が新たな時代を切り拓こうとしています」
「そっ、そうなんだよな!ジュリウスや俺たちが、”血の力”で……!」
「ブラッドに選ばれた者の中には、”血の力”が眠っています。”血の力”は意志の力……。”血の目覚め”を迎えたブラッドは、その強い感応の力であまねくゴッドイーターたちを高め、導く……。ロミオ、ナナ、そして、ナギとジュリウス……。皆さんは、ブラッドとして、ゴッドイーターの先頭に立ち、彼らを教導する存在なのです」
血の力。それが今までの神機使いとブラッドとの決定的な違い。一体どういうものなのか、ナギには見当もつかなかった。
(ゴッドイーターの先頭に立つ、か。極東最強の姉さんを追い越すなんて考えられねえや)
脳裏に浮かんだのはナミの姿。今すぐには無理でも、いつか神機使いとして彼女と肩を並べられる日が来るなら、それもいいかもしれないと感じたのであった。
研究室を出ると、ナギとナナはジュリウスに呼び止められた。
「二人とも、訓練の方はなかなか優秀だった。そろそろ次のフェーズへ移行しようと思う。これは、今後を占う試金石だと考えてくれ」
二人が見たのは実地訓練についての資料だった。新人が相手をするには丁度いい規模の小型アラガミが確認されたらしい。
「一緒に任務だね!頑張ろー!」
「早速か。まぁ、やるだけやるさ」
「頼もしいな。しっかり準備しておけ」
ロビーに着くとすぐ準備に取り掛かった。ターミナルを通じて必要なアイテムを取り出す。神機はケースに収納された状態で持ってきた。「訓練通りにやればいい」と自分に言い聞かせながら、ナギは出撃ゲートへ向かう。ナナが到着したところでリフトが持ち上がり、レールに沿って斜め上へと動いていく。まさに今から出撃といった感じだ。ヘリポートでジュリウスと合流し、三人でヘリに乗り込んだ。
ヘリから降り、任務開始地点へ向かう。そこからは作戦エリアが一望できた。黎明の亡都。ここはそう呼ばれている。荒らされた図書館や植物園、横倒しとなった建造物が浮かぶ池。荒廃しきっているが、どこか美しさの残る場所だった。歩いているアラガミがいなければ尚更よかったのだが。
「そろったな。それでは……今より、実地訓練を始める。アレが人類を脅かす災い、駆逐すべき天敵……アラガミだ。手段は問わない、完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ。いいな?」
「えっ、あっ……あのっ、これって……実戦ですか!?」
不安そうな表情をしているナナ。ナギはそのつもりでいたため問題ないが、彼女は心の準備ができていないようだ。
「フッ、本物の戦場でやってこその、実地訓練だ。お前たちが実力を発揮できさえすれば問題になるような相手じゃない、いいな?」
その直後だった。ジュリウスの背後から一匹のアラガミ、オウガテイルが飛び上がってきた。三人のいる場所はかなり高いというのに大した跳躍力だ。その目はナナに狙いを定めていた。
ナギは咄嗟にナナの前に立ちふさがり、装甲を展開した。しかし、いつまで経っても衝撃がこない。装甲を閉じてみると、そこには――
「フッ……」
(いやいやいや、反則だろそれ)
ジュリウスの左腕に噛み付いたオウガテイルと、爽やかな表情で平然としている彼がいた。
「せやっ!!」
ジュリウスはゆっくりオウガテイルに向き直ると、神機で思い切り吹き飛ばした。ナギとナナは呆然と見ていることしかできなかった。
(……俺ら要らなくね?)
「古来より人間は強大な敵と対峙し、常にそれを退けてきた。鋭い牙も、強靭な爪も持たない人類がなぜ勝利したのか。共闘し、連携し、助け合う”戦略”と”戦術”……人という群れを一つにする、強い”意志”の力……。”意志”こそが俺達、人間に与えられた”最大の武器”なんだ。それを忘れるな!」
意志の力。なんとなくしか理解できなかったが、ナギはその響きが気に入った。
「時間だ、行くぞ!」
「んじゃぁ、行こうか」
「さあ、始めますかー!」
気合を入れ、三人同時に飛び降りる。ナギの初陣が始まった。
「お、ジュラルミン発見。回収~」
「余裕だな」
「マイペースだね……」