「こちらブラッドα。これより帰投する」
『了解です。帰ったら、次に備えてゆっくり休んでください』
疲れ切ったナギとロミオの代わりに、ギルが報告を済ませる。ナギにとって今回の任務は過酷なものだった。神機使いになってまだ日が浅い彼は、一度に複数の標的の状態を把握することに慣れていない。そのため、死角からの攻撃への対処に苦戦していた。
(早いとこ慣れないとな……)
疲れている様子が一切感じられないギルを見て、ナギはそう感じた。
「そういえば……極東の淡島ナミっていう神機使い、お前の親戚か?」
「へ?」
一瞬、なぜギルが姉のことを知っているのかと疑問に思ったナギだが、すぐに姉が極東の中でも一二を争う実力者であることを思い出した。激戦区のトップクラスであれば他の支部の人が知っていてもおかしくない。
「ああ、俺の姉です」
「すげえ、姉弟そろってゴッドイーターか~!」
「すごいのは姉さんの方だけですよ。んで、姉さんがどうかしましたか?」
「いや、今フライアに極東からの援軍が来たって聞いたから、それで思い出しただけだ」
ナギは極東の神機使いとそこまで親しくはないが、ナミと親しい人ならどれだけでもいる。恐らく、しばらくは「ナミの弟」として話題になるだろう。質問攻めに遭う可能性も考えておいた方がよさそうだ。
(そういや、姉さんが極東支部でどんな感じだったか全然知らねえな。機会があれば聞いてみるか)
一体どのような人達が来ているのか。フライアに着くまで三人の話題はそれに集中していた。
「ブラッドというのは、君たちか?」
フライアのロビーに来たナギとギルを待っていたのは、赤い腕輪をつけた神機使いだった。貴族という言葉がよく似合う男性だった。
「僕はエミール。栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!」
「……そうか、よろしくな」
ギルが「こいつ、大丈夫か?」とでも言いたげな表情で返事をする。その支部の最強メンバーが揃う第一部隊所属ということは、実力は確かなのであろう。
「このフライアはいい船だね。実に、趣味がいい……。しかし!この船の……」
(おい、どうする)
(さすがに話の途中で逃げるってのもどうかと……)
「……いてもたっても、いられなくなったんだッ!」
話がひと段落ついたのか、何かを訴えかけるような眼差しでこちらを見ている。しかし、ほとんど話を聞いていなかった二人は、どう返事したらいいのか分からなかった。気まずい沈黙がその場を支配する。
「君たちがブラッドかい?」
そこへもう一つの声が聞こえてきた。二人が後ろを向くと、そこにはエミールと年齢が近そうな青年がいた。露出の多い赤のベストと、オリーブ色の刺青。屋内にいるというのにサングラスをかけている。
「あんたも極東から来たのか?」
「そう!彼こそが僕の盟友にして永遠のライバ――」
「僕はエリック・デア=フォーゲルヴァイデ。彼と同じ、華麗なる極東支部第一部隊所属のゴッドイーターさ」
一癖も二癖もありそうな奴が増えた。二人はそう思わずにはいられなかった。
「ところでエミール、僕達はグレム局長のところへ行かなければ」
「そうであった。また会おう!ブラッドの戦士達よ!我々の勝利は、約束されている!」
「エミール、前だ!」
「うわーーーーーー!」
拳を突き上げながらエレベーターへ向かうエミール。しかし、ナギとギルの方しか見ていなかったため、足元の階段に気付かなかった。エリックの忠告も空しく、そのまま階段の終わりまで転げ落ちていった。
「……ややこしいヤツが増えたな」
「大丈夫ですかね……?」
極東からの応援が加わったことで、アラガミ掃討作戦が再び動き出した。ナギ、ギル、エミール、エリックの四人は"鉄塔の森"と呼ばれるところに来ていた。
アラガミが現れる前は発電所として稼働していたらしいが、今では壊れかけた鉄塔が乱立し、オイルや廃棄物で汚染された水が流れる廃墟となっている。
標的は複数のドレッドパイク。四人はまず二組に分かれることにした。ナギとエリック、ギルとエミールだ。
それぞれ別方向へ進み交戦開始。特に問題なく群れの殲滅を終えたのだが、合流しようとしたところで非常事態が起きた。中型アラガミが作戦エリアに侵入したのだ。
ナギとエリックの前に現れたそのアラガミは、鰐という動物に似た体形をしていた。最近になって発見されるようになった新種、ウコンバサラだ。
「ナギ君、ウコンバサラとの交戦経験は?」
「ないです」
「そうか。僕の親友から聞いたのだが、アイツはああ見えて突進の速度が速いらしい。しかも、あの碇のような尾ですぐに方向転換をする。電気を操ることもできるそうだ」
「りょーかい。前衛は任せてください!」
ナギが最初に狙ったのは頭部。他のアラガミとは違い、前方に長く伸びている口に神機を叩きつけた。
「あんま手応えねえな……」
ここが弱点ではないと分かるとすぐに後退。次は短い脚に狙いを定める。しかし、期待していた程のダメージは与えられていないようだ。
不意にウコンバサラが数歩後ろへ下がり、二人へ向かって腹で滑るように突進した。二人は難無くこれを回避。誰もいない場所を通過したウコンバサラは尻尾で地面を削りながら減速し、二人に向き直る形で停止した。
「俺が正面で注意を惹きつけますんで、尻尾を破壊してください」
「分かった!」
もう一度ウコンバサラへ接近し、顔面を斬りつける。その間にエリックは後ろへ回り込み、尻尾を狙い撃つ。
前と後ろからの攻撃を受け、ウコンバサラは踏ん張るように、四本の脚に力を込める。だが、それは攻撃をこらえているのではない。背中のタービンが回転し、ウコンバサラの周囲が光り始めた。
「なんかくるな……!」
危険を察知したナギが装甲を開いた直後、ウコンバサラを電流のドームが包んだ。範囲内にいたなら一たまりもないが、範囲外にいるナギにとってはなんの問題もない。
「隙だらけだ!」
むしろこれ以上ない好機だ。チャージクラッシュの体勢に入り、電流が消えたと同時に振り下ろす。ウコンバサラの顎が音をたてて砕け散った。
「動きやすくなったろ?」
「華麗だ!」
怒りでウコンバサラが活性するが、二人の攻撃は止まらない。軟化した顎に神機を叩きつけるナギと、背後から砲撃を浴びせるエリック。終わりはすぐそこまで来ていた。
「終わりだ!」
二人同時に放ったロケット弾が命中し、思わず耳を塞いでしまうほどの轟音とともにウコンバサラを爆破した。そして、標的は二度と立ち上がることはなかった。
「さすが第一部隊隊員ですね」
「いや、まだまだ華麗と言うにはほど遠いよ。まだこの神機に慣れていないからね」
コアの回収を終えた後、ナギがかけた言葉にエリックは自嘲気味に答えた。彼の服と同じように、その神機は赤みを帯びた黒で塗装されていた。銘は”ラクシュリアンス”。ディアウス・ピターと呼ばれる、接続禁忌種に指定されるほどの強力なアラガミの素材を用いて作られたブラストだ。
「適合したばっかなんですか?」
「神機使いになったのは五年ほど前さ。最近、妹のエリナが神機使いになってね、その時に今まで使っていたパーツを彼女にあげたのさ」
兄妹そろって神機使い。自分と似た境遇にいるエリックに、ナギは親近感を覚えた。
「……元々エリナは病弱でね、静養のために叔母のいる極東に来たんだ。でも、一人でいるのが寂しかったらしく、毎日のように手紙を送ってきた。僕が極東で神機使いになったのは、そんな彼女の傍にいてあげるためだった。だから、彼女がゴッドイーターになると言い出したときは本当に驚いたよ」
「でも、守られっぱなしってのも、あんまり気分がいいものじゃないですよ」
「そういえば、君は確かナミ君の弟だったね」
「自分が普段通りの生活を送っている一方で、姉さんは死と隣り合わせの戦場にいる。そう考えると姉さんに申し訳ない思いでいっぱいだった。きっと、そのエリナって人もエリックさんの役に立ちたいって、ずっと思ってたんじゃないですかね」
エリナがどのような思いでエリックを見ていたか、ナミがどのような思いでナギを見ていたかは分からない。それでも、二人の会話は互いにとって意味のあるものだった。
『こちらギル。標的の討伐を――』
『騎士道精神の勝利だぁぁーーーー!!』
『……早いとこ合流しようぜ。これ以上コイツと二人きりはキツイ』
「はいよ~。……じゃ、行きましょうか、エリックさん」
「分かったよ」
帰投ポイントへ向かうと清々しい表情をしたエミールと、対照的に疲れ切ったギルがいた。ギルの疲労の原因がアラガミとの戦闘ではないことは間違いないだろう。ヘリに乗り込むと、エミールは先ほどの戦いでの自分の活躍(?)を語り出し、ギルは寝たふりをしていた。エリックは遠ざかっていく鉄塔の森をずっと眺めている。
「どうしたんですか?」
「ナミ君と初めて任務に出たときのことを思いだしたんだ。あの時、彼女がいなかったら僕は死んでいた。彼女にはいくら感謝しても足りないぐらいだよ」
エリックはナギの方へ向き直り、その日のことを語り始めた。
この小説内のエリックの服装はチェリーズベスト&ウェザードということでお願いします。神機は赤色の"レーヴェカノネ"です。