「コクーンメイデン二体に、オウガテイル二体……。随分と簡単なミッションだね」
鉄塔の森を眺めながら、エリックは任務の内容を思い出す。既に神機使いとなって二年が経つ彼にとって、小型アラガミ四頭の討伐など簡単なことだ。
「それにソーマも来ている。今回は早く帰れそうだ」
数歩先にいる、フードを深々と被った無口な同行者に目をやる。極東最強クラスの実力者、ソーマ。弱冠十二歳で初陣を迎え、その後も他の神機使いを凌駕する身体能力で数々のアラガミを討伐してきた。
しかし、支部内では彼に対する悪い噂が広まっており、彼もまた他人を寄せ付けないような態度をとっているため、彼と親しい人間はほとんどいない。
エリックがソーマと関わるようになったのは、エリックが神機使いになってから半年ほど経った頃だ。一人で食堂にいたソーマにエリックが話しかけたことがきっかけだった。話しかけたといっても、「君を僕の相棒にしてやろう!」などと一方的なものだったのだが。
「この前入った新型クン、なかなか優秀らしいね」
「知らん」
「そうは言っても、少しは気になっているんだろう?何せ極東初の新型神機使いだからね」
「新型だろうが旧型だろうが、弱いヤツなら必要ない」
傍目から見ると仲が悪そうだが、ソーマとここまで会話できる人物は珍しい。大抵の人は話しかけても無視されてしまう。
「おや、噂をすればなんとやらだ」
こちらに近づいて来る足音に気づき振り返ると、神機を持った少女が駆け寄ってきていた。黒髪をポニーテールで結び、入隊時に支給されたであろうコバルトブルーの制服を着ている。
何より目立つのが、彼女が持っている神機だ。一瞥しただけではショートブレードの”ナイフ”とシールドの”支援シールド”という装備に見えるが、よく見ると刀の鍔に近い部分にブラストの”79式キャノン”が装着されている。
「君が例の新人クンだね。噂は聞いているよ。僕はエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。せいぜい君も僕を見習って、人類のため華麗に戦ってくれたまえよ」
「は、はぁ……。淡島ナミです、よろしくお願いします……」
いきなりのナルシシズム全開な自己紹介に少女――淡島ナミは困惑を隠せない。
「固くならなくていいよ。聞くところによると君と僕は同い年だそうじゃないか。……ソーマ、せっかくの後輩なんだ、自己紹介ぐらいしてもいいんじゃないか?」
振り返ったエリックが見たのは、全速力でこちらに走ってくるソーマの姿だった。
「エリック、上だ!!」
「え?……うわああああああああ!?」
上方を見るや否や、オウガテイルが飛び掛かってきた。強靭な両脚で両肩を掴まれ、エリックは地面に押し倒された。
さらに速度を上げるソーマだが、どう考えても間に合わない。ナミも突然の奇襲で完全にパニック状態に陥っている。助からない。もうオウガテイルの牙がエリックの眼前まで迫っていた。
――極東でゴッドイーターになる、だと?ふざけるな!あそこがどれほど危険な場所か知っているだろう!?――
――そんな危険な地でエリナが病気と闘っているんだ!可愛い妹のそばにいてあげるため、彼女を脅かすアラガミを殺すため、僕は極東で華麗なゴッドイーターになるんだ!!――
――いいか、フォーゲルヴァイデ家はフェンリルにそれなり影響力を持っている!お前が家督を継ぐことを理由に、適合試験は拒否させてもらう!――
――だったら、家督などいらない!そんなものよりエリナの方が大事だ!例え父さんの言うことであっても、今回だけは聞けない!!――
――今日も僕の勝ちだな、エミール――
――くっ、遂に負け越してしまったか……!だが!何度も同じ過ちを繰り返す僕ではないッ!この敗北を活かし、次の勝利を掴みとる!それこそが、我が騎士道!――
――……すまないが、勝負は今日で終わりだ。なぜなら僕は極東で華麗なゴッドイーターになるからね――
――何!?だが、フォーゲルヴァイデ家の家督はどうする?――
――妹が病気療養しているとうのに、のうのうと御曹司やってるわけにもいかんだろう?そうだ、君もたまには極東に遊びに来てくれ。エリナの寂しさも紛れるだろう――
(エリナ、すまない……!)
無意味だと分かりつつも、目を閉じ、歯を食いしばる。肉を食いちぎる音と同時に血が飛び散った。
――だが、痛みはない。生きている。目を開くと、オウガテイルの顔面を噛み砕く、捕喰形態の神機があった。
「ナミ君!?」
その神機はソーマのものではなく、ついさっきまで取り乱していたナミのものだった。ナミがオウガテイルの顔面を引きちぎり、一拍遅れてソーマの斬撃が胴体を切り裂き、オウガテイルは絶命した。
ナミは一気に脱力し、崩れ落ちるように座り込んだ。かなりの緊張状態にあったのか、肩を大きく上下させながら荒い呼吸を繰り返している。エリックが感謝の言葉を述べる前に、ソーマが彼女に歩み寄った。
「早く立て」
「わっ!?」
少し乱暴にナミの腕を引き上げる。しかし、足に力が入らなかったのか、勢いにつられソーマに抱き着くような形になってしまった。ナミは慌てて離れ、ソーマは背を向けてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「……アラガミの奇襲も、神機使いの殉職も、ここじゃ日常茶飯事だ。その程度でいちいち取り乱してたら、命がいくつあっても足りんぞ」
言い終わらない内に、ソーマの前方にアラガミの群れが現れた。オウガテイルとコクーンメイデンだが、数が想定されていたものより多い。合計十匹はいる。
「ナミ君、さっきはありがとう。とりあえず、まずは標的を殲滅しよう」
「分かったよ」
無言で走り出したソーマに続くように、ナミとエリックも動く。バスターブレードとタワーシールドという重いパーツを使用しているにも拘わらず、ソーマのスピードは驚異的なものだった。一気に群れの中心に入り込み、一振りで三匹のオウガテイルを群れの外へ吹き飛ばした。
そこへコクーンメイデンがレーザーを撃とうとするが、ナミとエリックの砲撃がそれを許さない。ある程度進むとナミは神機を剣形態へ変形。素早いフットワークと絶え間ない連続斬りでソーマに向いていた注意を引きはがした。
「自分がオウガテイルを引き付けるから、お前達はコクーンメイデンをやれ、ってことかな。全く、素直に口に出せばいいものを」
途中でソーマが六匹のオウガテイルを相手取りながら移動を始めた。エリックはそれを見ただけで彼の作戦を理解し、ナミにそれを伝える。ナミが一匹倒したことで残りはコクーンメイデンが三匹。ナミがバースト化でさらに速度を増したステップで撹乱し、その隙にエリックが砲撃を喰らわせていく。
「受け取って!」
「これがリンクバースト……!」
捕喰攻撃で得たバレット――アラガミバレット。それを味方に受け渡すことで発動するのがリンクバーストだ。これにより普段は自力でバースト状態になれない遠距離型神機使いもバーストできるようになる。
残るは二匹。ナミは一匹の背後に回り込み、その甲殻を切り刻んでいく。コクーンメイデンのレーザーは背後には対応していない。体内から飛び出す針も真後ろまで届かない。コクーンメイデンが向きを変える度にナミも立ち位置を調整し、優位な状態を保ち続けた。
「隙ありっ!!」
「華麗なるエリックシュート!」
ナミの神機がコクーンメイデンの甲殻を噛み砕き、もう一匹の頭部をエリックの放ったアラガミバレットが撃ち抜いた。四匹のコクーンメイデンは全て討伐された。
帰投待機中。相変わらずソーマは二人と離れた場所に立っていた。ナミとエリックがコクーンメイデンを討伐したのとほぼ同時に、オウガテイルの群れを殲滅したソーマが戻って来た。二人で四匹を倒している間に一人で六匹を倒したのだ。ナミは圧倒的な実力差を痛いほど思い知らされた。
「ソーマさん、強いね」
「ああ。でも、華麗な天才であるが故に彼は孤独だ。冷たいやつに見えるが根はいいやつなんだ。君も仲良くしてやってくれ」
「できたらいいけど……」
「初対面でいきなり抱き着けるなら大丈夫だろう」
「あ、あれはっ、その、足に力が入らなくて……!」
顔を真っ赤にしてあたふたとし始めたナミ。それを見てエリックは思わず笑ってしまった。
「……今回は本当にありがとう。可愛い妹の笑顔を守るためにここへ来たというのに、逆に彼女を悲しみのどん底に突き落とすところだった」
「似た者同士だね、わたし達。わたしも弟がいるんだ。だから、適合する神機が見つかったって聞いたときは嬉しかったなあ。これで口先だけじゃなくて、本当にあの子を守れるって思って」
最初は新人の付き添い程度にしか考えていなかった今回の任務。だが、ナミに命を救われ、改めて家族の大切さを痛感した。
「お互いもっと強くならないとね。よし、ソーマ!改めて宣言しよう!華麗なる僕は、いつか必ず君を超えてみせる!!」
「わたしも!」
「黙れ」
こうしてミッション「鉄の雨」は幕を閉じた。
「…………と、まあ、こんな感じだ」
今まであまり知ることがなかった、神機使いとしての姉の姿。そして、いかに自分を大事にしていてくれたか。ナギは少し照れくさくなった。
「ナギ君、君が生きているからこそナミ君はどんな苦難も乗り越えられた。これから先、いかなる状況でも決して生きることを諦めてはいけないよ」
「貴重な話、ありがとうございます」
数々の人の命を救い、自分を見守り続けてくれた姉。そんな彼女に少しでも早く追いつこうと、ナギは改めて決意した。
その後、フライアにつくまで延々とエリックの妹の話をされたのであった。