ブラッドと極東支部との連合チームの活躍により、アラガミの大群はその数を減らしていった。今回の任務は黎明の亡都とその付近に集まっている、中型アラガミ”コンゴウ”の討伐だ。ナギはエミール、エリックと共に作戦エリアに到着した。
「目視できるのは一匹だけのようだな」
「コンゴウは聴覚が鋭い。戦闘が始まれば嫌でも集まってくるさ」
「そんじゃぁ、面倒になる前にさっさと片付けますか」
戦闘開始。エリックの砲撃を合図に、ナギとエミールが走り出す。背後から攻撃を受け振り返ったコンゴウ。そこへ二人が振りかぶった神機を叩きつける。
「せやぁっ!」
「どりゃああ!」
二つの重量級パーツの一撃がコンゴウを襲う。強引に囲みを突破するように転がったコンゴウだが、二人とも既に離脱しており、エリックもその直線上から離れていたため、誰もいない場所を転がっただけだった。
もう一度ナギ達に向き直ったコンゴウは、今度は背中のパイプで圧縮した空気弾を撃ちだす。それを躱しながら接近し、顔面を何度も叩き斬る。
「エミール!」
「了解した!」
弾切れを起こしたエリックの呼びかけに応じ、エミールはブーストハンマーからブラストへ移行。コンゴウの正面に立っているナギを巻き込まないようにパイプを狙い撃つ。しばらくするとエリックも射撃を再開、コンゴウのパイプが結合崩壊した。
「ガアアアアァァァァ!!」
コンゴウが胸を叩きながら咆哮をあげる。活性化だ。力任せに腕を振るいナギを殴り飛ばす。装甲で防いだナギだが、あまりの衝撃に腕が痺れるような感覚に見舞われた。
「当たったらまずいな……」
ブースターで加速したエミールが突撃するのを一瞥し、ナギは銃形態に切り替え距離をとった。狙いは頭部。ブラストで精密射撃は難しいが、ナギが選択したのは追尾弾。大まかな狙いさえつければ勝手に当たってくれる。連続で放たれたバレットはどれも同じ軌道を描いてコンゴウに直撃、その赤い面のような顔を砕いた。
「闇の眷属よ、終焉の時だ!」
最大の弱点のなった頭部をエミールのハンマーが殴りつける。コンゴウの注意がエミールに向いている隙に、ナギはチャージクラッシュの構えに入る。
「そこだっ!!」
コンゴウの顔がこちらに向くと同時に振り下ろす。頭上から強烈な一撃を喰らい、コンゴウは地面に叩きつけられた。
起き上がったコンゴウは体力回復を図るため逃げ出した。もちろん、逃がす気など三人には全くない。中盤からバレットの元となるオラクル細胞を温存していたエリックがロケット弾を放つ。コンゴウの背中に命中したそれは大爆発を起こし、再びコンゴウは倒れ込んだ。
ナギとエミールが一気に接近し、とどめの一撃を叩きこむ。
「きしどおおおおおおッ!!」
「はああああああああ!!」
ブーストハンマー使いの奥義、ブーストインパクトとナギのチャージクラッシュがコンゴウを叩き潰した。
『中型種が接近しています。侵入予測地点、送ります!』
倒した直後にフランから通信が入った。どうやら付近のコンゴウが戦闘音に気づいたようだ。
「さて、もう一匹いきますか!」
「何匹来ようと、騎士は屈しない!」
「華麗なる僕の、華麗なる伝説。まだまだ終わらないよ」
素早くコアの回収を済ませ迎撃準備を整える。戦闘時の連携にも徐々に慣れてきたナギ。自分の成長を少しずつ実感しつつあった。
二匹目のコンゴウも難無く討伐したナギ達。そこへまたフランから通信が入った。またコンゴウか、と通信に応答したナギだったが――
『緊急事態発生!種別不明のアラガミが接近しています!』
「……は!?」
「ナギ君、こっちだ!」
エリックの声と同時にズシン、と重い音が響き渡った。三人の視線の先にいたのは大型のアラガミ。白い体毛に身を包んだ狼のような姿。赤い触手が鬣のように伸びている。前足はガントレットのようなもので覆われていた。
「なんだコイツは!?」
「ナギ君は前衛を頼む!僕とエミールで援護する!」
「はいよ!」
ナギが走り出すと同時にアラガミも走り出した。四本の足で猛然と突進する。その速さはコンゴウの比ではなかった。
「くっ……!」
神機を振りかぶる前に衝突すると考えたナギは横へ回避しアラガミをやり過ごした。アラガミはすぐにナギへ向き直り、爪でナギを切り裂こうとする。ナギはバックステップでこれを避け、伸びている右前足を斬りつけた。
もう一撃を加える前にアラガミは大きく跳躍しナギを飛び越えた。再び距離を詰めるナギに対し、アラガミは動かない。だが、アラガミの足元が熱で溶かされたかのようになっていた。
「うおっ!?」
次の瞬間、アラガミが溶岩の塊を飛ばしてきた。咄嗟に上へ跳び回避できたものの、完全に予想外だった。
「……焦りすぎだな。もうちょい落ち着いていこう」
知らず知らずの内に前のめりになっていたようだ。無理に追いかけずに、様子見に徹することにした。回避と防御に専念し、隙があれば一撃を入れて離脱。次第に余裕が生まれ始めたナギはあることに気づいた。
「援護射撃がない……?」
最初は気づいていなかったが、後衛のエリックとエミールからの攻撃が一切ないのだ。二人を見ると、なにやら慌てた様子で神機を見ている。ナギはスタングレネードでアラガミの視覚を奪い二人のもとへ駆け寄った。
「すまないナギ君、神機が動かないんだ!!」
「な!?」
「発砲は疎か、変形もできない!なぜだ、我が神機ポラーシュターンよ……!?」
ナギは普段通りに神機を使用できている。変形も問題ない。何が起こっているのか分からなかった。アラガミの方を見るとこちらを威嚇している。視覚が回復したようだ。
「……二人は退いてください。多分、ブラッドの誰かど合流できるはずです」
「なにを言うか!仲間一人を置いて逃げるなど、騎士の所業ではない!」
「エミール、今の僕たちは神機を持っていないのと同じだ。……ここは退くしかない」
「くっ……!すまない!」
後ろ髪を引かれる思いでエリックとエミールは撤退した。ナギは神機を構えアラガミと相対する。震える足を無理やり動かし、ナギはアラガミに肉薄した。
アラガミの驚異的な身体能力を前にナギは防戦一方となっていた。強靭な筋力と体のバネ、さらには前足の発熱を利用した溶岩弾など、他のアラガミとは別次元の強さだった。ナギは肉体的にも精神的にも追い詰められていた。
「そこだっ!」
アラガミが両の前足で地面を叩く。全体重をかけた一撃を放ち、アラガミの体は完全に伸びきっていた。元の姿勢に戻るまでには時間がかかる。ナギはそう判断し神機を振りかぶった。
しかし、彼の判断は甘かった。
「ぐああああああ!?」
アラガミの前足が爆発したのだ。防御の回避もできなかったナギは大きく吹き飛ばされた。体から肉の焦げたような嫌な臭いがする。アラガミは爆風の反動で元の姿勢に戻っていた。
アラガミは自分の勝利を確信しているのか、ゆっくりとナギに近づく。ナギは立っているのがやっとの状態だ。
「…………ただで俺を喰えると思うなよ。そうだな、眼球の一つぐらい貰っとこうか」
ナギはまだ諦めていなかった。彼の頭に浮かんだのはナミの姿。自分をこれまで守り続けてくれた大切な家族であり、神機使いとしての最大の目標。まだ死ねない。死にたくもない。生への執念が彼の中で渦巻いていた。
「……はぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」
神機を肩に担ぎ、力を込める。形成された紫の大剣。おそらく、一撃が限界だろう。
アラガミが走り出す。この一撃で仕留めなければ喰われるという絶望的な状況。それでもナギは諦めない。今の彼は生きてここを切り抜けることしか考えていない。
その時、彼の中で何かが弾けた。
「せやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気合の雄叫びと共に神機を振り上げる。同時に放出された巨大な衝撃波がアラガミの顔を切り裂いた。
「グオオオオォォォォォォ!?」
アラガミの巨体が宙に浮き、悲鳴に近い咆哮をあげた。顔には深々と傷痕が残り、左目が潰れていた。
「はぁ、はぁ、まだ、立てんのか……」
一度は倒れたアラガミだが、すぐに立ち上がりナギに殺意を向けている。ナギはなんとか装甲を開く準備だけでもしようとするも、体に力が入らない。
「……はは、ここからどう――」
「うおおおおぉぉっ!!」
「おりゃああああぁぁ!!」
二つの影がナギを追い越しアラガミに飛び掛かった。ギルとロミオだ。さらにアラガミの背後からジュリウスとナナも参戦。形勢が逆転した。四人の集中攻撃を受けアラガミは踵を返し去っていった。それを見届けると、ナギの視界は徐々に暗くなっていった。