MS IGLOO外伝「顎(あぎと)朽ちるまで」   作:三流FLASH職人

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第十話 掌からこぼれる水のように

「諸君らの階級、所属は以上だ、なにか質問は?」

ソロモンのブリーフィングルームにて、壇上に上がっている指揮官から、部屋に座ってい

る30名ほどの士官に通達がなされる。

ジオンとの最終決戦と目されるア・バオア・クー攻防戦、「星一号作戦」に備えた最終部

隊編成、その会議場。

その一角にジャック・フィリップス「少尉」もいた。ほんの5分前から彼はこの階級と、自らの部隊の隊長を任じられた。

付く部下は5名、自分を合わせて6名の中隊クラス。彼に限らず、先のソロモン攻防戦の生き残りはほぼ全員が

先任として隊長クラスの地位に就くことになる。

 

それは連邦軍の如実な人材不足を示していた。もともとこの戦争は最近までジオン優位に進んでいた、それは

モビルスーツ等の兵器の差が主な原因であった。そこで連邦は兵器、特にモビルスーツの大量生産を重視してきた。

事実それは功を奏し、戦場をわずか数か月で地球から一気にジオン本国手前の月面周辺まで押し返した。

だがいくら兵器がたくさんあっても、それを動かす人間がいなければ意味がない。コロニー落としから初期の劣勢で

兵士の絶対数不足は軍にとって深刻な問題ではあった。そんな中、実戦経験者である彼らは連邦軍にとって

貴重な戦力であったのだ。

 

「質問がなければ、兵士の振り分けに入る、入ってきたまえ。」

後方のドアが開き、広くとられた部屋後ろのスペースにぞろぞろと人が入ってくる。会議のさ中、廊下で待機していたらしい。

しかし入ってきた彼らを見て、その部屋にいた先任パイロット達は驚きを隠せなかった。

あどけない顔、華奢な体、似合わない軍服、そう、子供だ。明らかに軍に所属し、戦争をする年齢には見えない。

100人以上が入室してきたが、おおよそ軍人らしい人間を探すのが難しいレベルだ。

「司令!こりゃ・・・なんの冗談ですか。」

年長の士官が壇上の人物に問う。無理もない、この士官の息子でももう少し年がいっているだろうから。

「彼らはみな、シミュレーションで上位の成績を収めた優秀者だ、志願兵だから意欲も高い。」

「そんな問題じゃねぇでしょうが!」

別の士官が吐き捨てる。なるほど、確かに若いと対応力も高いだろう。シミュレーションなら頭の固い大人より

彼らのような若者のほうが好成績をあげられるのも無理はない。

しかし戦争で部下として使うということは、彼らに「死んで来い」と言うことすらあるのだ。

まだ20年も生きていないような子供を戦火に放り込むというのか・・・

 

 

「彼らには志願した理由がある、ジオンを打倒したいという共通の認識が、な。」

司令の言葉に息をのむ士官たち。なるほど、彼らはジオンに恨みがある、つまり家族や友人、近しい人を

この戦争で亡くしているのだろう。

だが、だからといってやはり前途有望な彼らを前線に出すのは気が引ける。そんな空気を読み取ってか、こう続ける司令。

「決戦での戦力比は10対1と想定されている、とにかく数で圧倒する必要がある以上、人員は必要なのだよ。」

戦力差10対1、それはもう戦闘にもならないほどの圧倒的大差である。この物量作戦をもってすれば

敵の戦意を削ぎ、ろくに戦闘にならずに勝つことも十分ありえるだろう。

ただ、それにはまがいなりにもモビルスーツが動いてなければ意味がない、無人操作で戦闘できるような

機体は今の連邦にはないのだから。

「では、振り分けに入る、名前を呼ばれた士官は起立、そのあと呼ばれた新兵は起立した士官のもとに行くこと。」

「「はいっ!」」

「リチャード・アイン大隊長!所属兵、ニック・ノーマン一等兵、アルフ・リキッド軍曹・・・」

次々と名前が呼ばれ、起立した士官の机に少年たちが集まってくる。

「次、ジャック・フィリップス中隊長!所属兵ビル・ブライアント軍曹、キム・チャン一等兵、サーラ・チーバー一等兵・・・」

 

振り分けが終わり、それぞれの隊が個室に移動してブリーフィングを始める。

「ジャック・フィリップス少尉だ、30分前からな。じゃあ、時計回りに自己紹介を。」

ジャックに促され、順に紹介を始めていく。

「ビル・ブライアント軍曹です。ジム搭乗、隊長もずいぶん若いっすねぇ、俺19ですけど、いくつ?」

5人の中では比較的、軍人に見える長身の青年、とはいえ軍人を基準にすると単なるチンピラにしか見えないが。

「キム・チャン一等兵、ボール搭乗、17歳です。」

眼鏡をかけた、背の低い少年兵、色白で少し小太りな、戦うイメージが全く見えない。

「サーラ・チーバー、ジムのパイロットです。18ですけど、ご不満ですか?」

ブロンドの髪を目の前でかき分け、見下ろす長身の少女。これまた生意気そうな、そして扱いにくそうな娘だ。

「マリオ・サンタナ一等兵、ジム、17!」

それだけ言うと着席する、浅黒い肌の少年。礼儀正しいのか緊張しているのか・・・

「・・・あの、ツバサ・ミナドリ二等兵・・・ボール搭乗、16歳です・・・。」

最後におずおずと挨拶をする内気そうな東洋系の少女、なんとも頼りないこのメンバーの中でも一際頼りない・・・

 

「ちなみに俺は18だ、同じ世代だが、不満があるか?」

全員の紹介が終わってから、最初のビルの質問に答えるジャック。彼の意図は見え見えだ、かつて俺が最初サメジマの兄貴に感じた

頼りなさを感じ取っているのだろう、あえて挑発を向けてみる。

「年下っすかぁ!ま、いいや。戦場では己の腕ひとつですからね。」

「そうね、自分の身は自分で守らないと、ね。」

ビルとサーラが返す。暗にお前の指揮に従って命を落とすのは御免だ、と言っているのだろう、頼もしい限りだ。

だが2人に勝手をさせれば、他の3人がどうするか困るだろう。彼らを死なせないためにも統率は必要だ。

思えばサメジマの兄貴やエディさんもこんな苦労をしていたんだろうなぁ、彼らなりのやり方で。

 

 

ソロモンから艦隊が発進する、いよいよ星一号作戦の開始だ。一列に並べればソロモンからア・バオア・クーまで

繋がるのではと思うほどの大艦隊、搭載されているジムやボールの数もすさまじいものだ。

そんな中、ジャック中隊は突貫訓練を行っていた。艦隊速度が安定した時点で艦を出て、実戦形式の戦いをする。

6名の中隊なら、うち3名を率いる小隊長も必要だし、自分が戦死した時の指揮官代理も決めておく必要がある。

その資質を実戦練習で見極め、また彼らにもシミュレーションではない実機の操作を決戦までに身につけねばならない。

 

最初はジャックがキム、サーラ、マリオの3人と対戦。

もちろん結果はジャックの圧勝だった。3人とも少しは搭乗経験もあるようだが、まだまだ戦場に出せるレベルではない。

サーラもマリオもまだまだジムの基本ルーチンすら使いこなせていない、特別ルーチンを開発、搭載し、実戦で鍛えてきた

ジャックのジムとは比較のしようもなかった。キムの機体はボールだが、練度はそこそこの線に行っていた、小隊長候補かな。

彼らが母艦に補給に行くと入れ替わりに、ビルとツバサがやってくる。ジャックは気が付かなかったが、ツバサにはすれ違う時に

ビルとサーラが軽くコンタクトを交わしたように見えた。

「あ、あの二人、もしかして・・・」

 

「さて、お手並み拝見と行きますよ、中隊長殿。」

ビルは自信満々だ、性格からくるのだろう。ただ戦場という場においてこの性格がうまくハマれば伸びる可能性は十分ある

対戦をこの組み合わせにしたのも、ビルの自信家っぷりの影響を気弱そうなツバサにも受けてほしかったから。

ジャックはいつの間にか、彼らの隊長であることを自覚し始めていた。ルナツーからこっち、周りはみんな先輩で

誰かに何かを教えることなどなかったから。

この訓練が終わったら、サメジマの兄貴に教わった大事なことを5人に教えてやろう。

敵は恨むものじゃなく褒めるものだということ、殺しあう相手だからこそ、それは大切なこと、自分の人生を後悔しないために。

 

なるほど言うだけのことはある、ビルのジムの練度は5人の中でも飛びぬけていた。基本ルーチンをうまく使いジムをぶん回す、

これでサポートのツバサがうまく動けばジャックも不覚を取りかねないだろう、それを見越して接近戦に持ち込むジャック。

こうなるとさすがに練度の差が出る、ダイナミックなアンバックを駆使してのトリッキーな動きでビルを翻弄、彼の背中に

ペイント弾を打ち込む。

「くっ、くそおっ!」

「自分一人で何とかしようとするからだ、援護砲撃できるボールがいるんだから、たまに距離をとってその機会を作れ。

あとツバサはもっと動け、戦場では静止してると的になるだけだ。」

「は、はいっ・・・」

「じゃあ、もう一回いくぞ、お前らの機体がペイントで真っ赤になる前に一本取って見せろ。」

「イエッサー!」

「はいっ!」

たった一回の訓練で、ビルは少し従順になり、ツバサは強い返事ができるほどにはなった。そう、1の実戦は時に

100のシミュレーションを上回る価値がある、ジャックは今まで感じたことのない充実感を覚えていた。

 

 

―そしてその時、宇宙が輝いた―

 

 

その恐るべき野太い光の筒は、連邦軍艦隊のど真ん中を通過していく、恐るべき破壊と殺戮を伴って。

直径数キロ、長さ100キロにも及ぶ超巨大レーザーが、艦隊のど真ん中を焼き払って行った。

その光景にジャックも、ビルも、ツバサも、言葉を失った。確実なことは一つ、連邦軍艦隊の大部分が

壊滅したということだけだった。

 

突然、高速でその艦隊に機動するビル。

「うわあぁぁぁーっ!サーラ、サーラあああっ!」

絶叫しながら艦隊に向かうビル、明らかに取り乱している。その態度が逆にジャックを落ち着かせた。

「おい、待てっ!」

消滅した艦はともかく、ダメージを負った艦に不用意に近づくのは危険だ。止めに走るジャック。

「やっぱり・・・あの二人・・・」

ツバサは冷静に、しかし悲しい声で二人を見送る。

 

「サーラ!どこだ、返事しろおぉぉっ!」

爆風の熱波が残る空間で、サーラの姿を探すビル、しかし当然ながらどこにも見えない。

無理もない、彼らの母艦は艦隊のほぼ中央、つまり巨大レーザーのど真ん中あたりにいたのだ。

「落ち着けビル!この空間は危険だ、避難しろっ!」

すぐ右に半分吹き飛んだサラミスがいる、いつ大爆発してもおかしくない。ビルのジムの腕をとり、その場を離れるジャックのジム。

「離せ、離してくれっ!サーラが!サーラが・・・うわあぁぁぁぁーっ」

爆発するサラミス、その余波で少し前までいた空間が炎に嘗め尽くされる、まさに間一髪だった。

 

ツバサと合流する二人、ビルは未だに嗚咽を洩らしている。強気な彼にもこんなに脆い一面があったのか。

もっとも彼の態度を見れば、ビルとサーラの関係は容易に想像がつく。恋人同士か、それに近い関係だったのだろう。

それが戦争、愛しい者が簡単に消え去るからこそ・・・

「あ、あれ・・・?」

ジャックは自分が泣いていることに気づいていなかった。過去に故郷の仲間や兄貴が死んだ時にも涙はあった。

しかし今回は違う、彼らは自分が守るべき、そして大切なコトを伝えるべき部下だったのだ。

サーラ、キム、マリオ、この3人を失った事実、それはまるで掌ですくった大切な水が手の隙間からこぼれていくように

止めようのない悲劇を悲しむ感情だった、覆水を止められない自分の無力さを噛みしめる涙・・・

 

ジャックはソロモンで聞いた、銀色のモビルスーツ乗りの指揮官の絶叫を思い出していた。

あれほどの軍人でも部下が死ぬのは身を切られるように辛いのだ。

ジャックは声を上げずに、黙祷してさめざめと泣いた。短い間だったが、決して忘れたくない俺の初めての部下。

彼らを失った喪失感、それは「過去」ではなく「未来」の自分の居場所を削り取られたようだった・・・。

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