MS IGLOO外伝「顎(あぎと)朽ちるまで」   作:三流FLASH職人

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第十四話 心の青山

戦場は整然とした機動戦へと変貌しつつあった。オッゴが小隊単位で編隊を組み、

ジムはボールと連携して狙撃と格闘戦を入れ替える。他の戦場から駆けつけたザクやリックドムは

オッゴの隙間から彼らを支援し、巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングを守る。

その戦場の最中心で、激しく機動し、戦う2機のモビルスーツ。

鮫の顔が描かれた盾を持つジャックのジムと、ジオン軍カスペン大佐の銀のゲルググ。

その激しい戦いに、誰もが横槍を入れることはできなかった。誤射して味方を討つ危険もあるし

なにより見惚れるほどの見事な機動戦、彼らはちょっかいを出すのではなく、二人に負けない

戦いをしたいと思い、他の敵と対峙する。

 

「やるな小僧!、だがそれだけの研鑽を経ていながら、何故だ!」

寡黙なカスペンが珍しく敵に問う。通常回線が開いている現在、間近で戦うジャックの存在は

息遣いまで感じられる。

「何がだ!」

ビームサーベルとビーム長刀で鍔迫り合いをしながらジャックが返す。

「停戦命令は聞いているはずだ、貴様ほどの技量を身につけていながら何故戦う、道理はわきまえぬか!」

それは説教のようでもあり、現在の状況にいたる経緯を説明させる質問でもあった。それを察してジャックが返す。

「道理?俺たちの居場所を、大切な人を奪い続けたお前たちがそれを言うか!」

自分の意見より、むしろ戦場の味方の本音を代弁するつもりで返し、続ける。

「コロニー落とし、地球侵略、各所の戦争、お前らの独立のためにどれだけの人が居場所を失ったと思ってやがる!」

鍔迫り合いを打ち払い、ゲルググの盾を蹴って距離を取る。しばし対峙し、カスペンが返す。

 

 

「青臭いな、小僧。」

思わぬ返答に顔がこわばる。反省や謝罪など期待してはいなかったが、その言葉には黙っていられない。

「なんだと!?」

「居場所とは作るものだ・・・我らスペースノイドが、常にそうしてきたようにな。」

「作る・・・?」

その言葉を咀嚼するのには、ジャックにはしばらくの時間を要した。

「人生至る所に青山あり、我々スペースノイドの指針となる、東洋の言葉のひとつだ。」

骨を埋める場所はどこにでもある、生まれ故郷にこだわらず、どこにでも行って活躍しなさい、という意味の諺。

「宇宙という過酷な環境、真空の恐怖、衣食住の確保、そんな敵と戦い続けて、我々はジオンという

『居場所』を築きあげてきたのだ、先祖から与えられたのではない、自分たちで作り上げたな。

その居場所の独立を願って、なにが悪いというのだ?」

カスペンの口調は、いつのまにか年少者を諭すものに代わっていた。素晴らしい技量を持つ若者なればこそ。

 

「我々が殺戮をしていないとは言わん、恨まれるのもむべなきこと。だが、それに溺れて未来を見ぬなら

貴様もそれまでの男でしかないぞ。」

言葉を聞くジャックは、それが憎むべき敵の建前でないことを感じ取っていた。それは目上の人の言葉、

かつての兄貴に教えられた言葉を聞く感情と、すごく似ていた。

「居場所がなくなったのなら探せばよい、作ればよい。失ったことを嘆くばかりでは何も変わらぬ!」

「・・・余計なお世話だ!」

盾を振って機動、スラスターを噴射し、ゲルググの右下を取り、サーベルを振る。

憎しみはもともと消えている。ただ、彼の言葉を連邦の兵士はどう取っただろうか、聞く余裕はあっただろうか。

そのサーベルを盾で止めるゲルググ。

 

「今は戦っても構わぬ、だがそうするならその恨み、決して未来に持ち込むな、貴様は貴様の先を見ろ!」

ビーム長刀を回転させ、ジムに切りかかる、ジムは盾で受ける、シャークペイントの横面が焼け、傷つく鮫。

もう言葉はいらない、言いたいこと、言うべきことは言った。あとは戦いが未来を決めるだろう。

 

―果て無き夢轍、照らす我が運命、燃え尽きること知らず、どこへ向かうのか―

 

回線から流れる歌が、少年戦士たちの心に染みる。生きたい、自分たちの向かうところを知るために。

それでも戦闘を止めることはできない、ここは戦場であり、彼らは未熟なれども職業軍人なのだ。

停戦命令の後でも、味方が危険なら身を呈して戦う、それが兵装を持つ国家軍人の業。

 

 

「ぬぅっ!」

カスペンが左腕を操縦桿からすべらせ、離す。彼は左手が義手であり、激しい操縦を

繰り返す実戦においてそれが操作ミスを引き起こす可能性は常にあった。

普段はともかく、目の前の若者はこのスキを逃しはしないだろう。

「もらった!」

ジャックがマシンガンを向ける。その時1機のオッゴが、スキを見せたカスペンのゲルググを庇う様に立ちはだかる。

「大隊長殿ーっ!」

芯の通った少年の声を聴き、一瞬ジャックは引き金を引くことをためらった。

2機を仕留める絶好のチャンスだというのに・・・。刹那を置いて意を決し、

引き金に手をかけるジャック。

「馬鹿者おっ!」

その時、カスペンのゲルググがオッゴを掴み、反転して自分の後ろに回す。

その勢いでさらに反転し、両手を広げてオッゴを庇うゲルググ、そこに殺到するジムのマシンガン。

 

「ジーク・ジオ・・・」

マシンガンを全身に受け、最後に主の絶叫を放ち、爆発する銀のゲルググ。

ジャックは常から狂信的に聞いてきたその言葉が、今回だけは全く違った意味に聞こえていた。

ジオン、彼らにとってそれは『無から懸命に築いてきた彼らの居場所』だったのだ。

だからジーク(万歳)と唱える。

 

―悲しみの地図なら、あまた風に散って、故なき日々の地図も、瞬く彼方よ―

 

彼を悼むようなフレーズの歌が、回線から流れる。ジャックは心に染みる感情を押し殺して、ビグ・ラングに向かう。

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