MS IGLOO外伝「顎(あぎと)朽ちるまで」   作:三流FLASH職人

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第九話 ソロモンの時間、後編

「てえぇぇぇいっ!」

盾を内から外に薙ぐジャックのジム、カスペンのゲルググの胸元を盾先がかすめる。

その反動をアンバックに振り分けて宙返り、スラスターの噴射を合わせて

一気にゲルググの背面に回り込む。

「ぬん!」

腕の振りで後ろに向き直り、ヒートホークを打ち下ろして反撃するゲルググ、

しかしそれもジャックに、いやオハイオ・ジムには織り込み済みだ。

サメ顔の盾で受け止めると、それをいなし捌きつつ反転して蹴りを入れる、かろうじて盾で受けるゲルググ。

 

「くっ!」

カスペン大佐にとっての誤算は3つあった。ひとつは最新型モビルスーツ、ゲルググの操縦にまだ馴染みが薄いこと。

操作自体はザクと同じだが、反応速度や操縦桿の遊び、取り回しはまるで別物であり、違和感はぬぐえない。

2つにはこの宙域にまき散らされたビーム攪乱膜、ゲルググの特徴であるビームライフルやビーム長刀などのビーム兵器が

軒並み使えなくなっていること、やむなくザクの武器を携帯して出てきたが、照準も握りの感覚も合わない。

しかし彼にとって、そんな戦場での不都合など論じるに足りないことだった。

 

3つめ、この目の前の連邦軍モビルスーツ・ジムの、そして操縦者の恐るべき技量、これこそが脅威だった。

先読みをし後の先を取る、いわゆるニュータイプとは違う。とにかく先に動いてこちらに何もさせずに制圧を狙ってくる

その為の動きのバリエーション、行動ルーチン、普段からの練度がうかがえるというものだ。

防戦一方になりながらも、カスペンは冷静に反撃の機会をうかがっていた。

「あの盾を振り回すのが行動の起点になっておるな・・・そこから次の行動を読み違えなければ!」

何度目かの盾の大振りから機動をかけるジム、その瞬間にゲルググも動く。読み違えなければ性能はこちらが上なのだ!

 

ゲルググをジャックに任せ、ソロモン表面で戦闘する仲間のもとに向かうエディのジム、もうソーラーシステム照射まで時間がない。

すでに味方は片手で数えるほどに撃ち減らされていた、敵のモビルスーツ部隊はいまだに20機ほど健在、このままでは全滅も

時間の問題だ。部下たちを助けなければ!ここでエディは思い切った行動に出る。

「全員退避!ソーラーシステムが来るぞーっ!」

通信に絶叫するエディ、「通常回線」を「開いた」状態で、つまり味方のみならず敵にも聞こえるように。

敵味方が一斉に反応する。しかし連邦とジオンでその解釈は全く違っていた。

かろうじて生き残っている連邦兵、つまりエディの部下たちは、このままここに留まって戦闘を続けることが

確実な死を意味することを知っている、味方の攻撃によって。

ジオン兵にとっては違っていた。彼らはソーラーシステムの詳細を知らない。聞きようによってはここに連邦の新手が

来るようにも取れる。何より彼らの任務はこの地点の防衛、何が来ようと迎え撃ち、阻止するのが任務。

 

 

一斉に離脱するジム3機とボール2機、ザクやリックドムの多くはその場にとどまり、周囲を警戒する。

 

しかし反射的に逃げる敵兵を追おうとする者もいる、ザク3機とドム1機、その真っただ中に特攻するエディのジム。

追撃をしようとしていた所に、カウンターの体当たりを食らい激しく弾けるジムとザク、その自殺行為にも見える体当たりに

異常な空気を感じ、動きを止めるほかの追跡者たち。

システムのいくつかに異常を感じながらも、盾を振り回して白兵戦の機動を始めようとするエディ・ジム

しかし思うようには動けなかった、肝心の盾をさっきのゲルググの戦闘で捨ててきていたために。

次の瞬間、ドムのヒートサーベルがジムの腹を貫く、それを引き抜いた瞬間、別のザクのマシンガンがジムに集中する。

爆発までの数舜の間、エディは部下を少しでも逃がせたことに、ささやかな満足感を感じていた。

「ここまでか・・・ジャック、生き延びろよ・・・」

ソロモンに小さな爆発の光芒が咲く。そしてそれがまるでマッチを擦ったように、ソロモンの一角が明るく照らされていく。

 

カスペン大隊の精鋭たちは、何が起こったのかも分からぬまま、発生した太陽に焼かれ、溶けていった。

 

 

ジャックが何度目かの機動を開始した瞬間、ゲルググは腰からあるモノを取り出し、背後に放り投げる。

激しく機動してきたジムが、ゲルググの背後を取った時、それと接触する。

ザク用の兵器、クラッカー。モビルスーツサイズの手榴弾。

「しまっ・・!」

言葉を紡ぐ暇もなく、至近距離で爆発するクラッカー、吹き飛ぶジムに追撃の斧を振り下ろすゲルググ、勝負あった。

システムに甚大な被害を受け、パイロットも衝撃のGで激しく揺さぶられ、意識を飛ばす。

「手ごわかったな、褒めてやろう。」

とどめの一撃を加えんと構えるゲルググ、しかしその時、妙な光が視界に入る。

思わずふりむくカスペンは、信じがたいものを見た。

「な・・・」

ソロモンが輝いている、要塞の一角が、まるで太陽のように。わが精鋭たちが死守している区域が。

その光にあてられるように、失神したジャックが一瞬、意識をともす。

「ソーラーシステム・・・」

その光が消え、宇宙が再び闇に包まれるのに引き込まれるように、再び意識を閉じるジャック。

彼が最後に聞いたのは、一般回線から聞こえる、野太い声の軍人が絶叫しながら部下の名を呼ぶ悲鳴だった・・・

 

「リック小隊長!フレーゲル中隊長!応答しろ!ザガート軍曹っ!どこだあぁぁぁっ・・・」

 

 

懐かしい顔を見た。

叔父や叔母、その周囲の面々。故郷シドニーでの気の合う仲間、旧友たち。

働きに出てたサイド2、アイランド・イフィッシュの工場の仲間、口うるさい上司、同い年の片思いの女学生、

そしてサメジマの兄貴、サラミス級シルバー・シンプソンの乗員たち、その傍らにはエディ・スコット。

そんな大勢の集団が無表情でこちらを見ている。

ふと、一人の男がジャックの横を通り過ぎ、その集団に向かって歩いていく。

背筋の伸びた、少しやせた金髪の軍人。堅苦しい面もあったが、深い情を持つ司令官。

「・・・ワッケイン司令、エディさん、どうして、そっちに・・・」

彼らは遠ざかり、光とも闇ともわからぬモヤに包まれ、そして、消えた。

 

ジャックは目を覚ます。涙はなかった、ただ深い深い喪失感だけが彼を包んでいた。

上半身を起こし、辺りを目にする。、周囲には無数のベッドとその上に寝る患者。

「おっ、目が覚めたか。」

医師が声をかける、枕もとのカルテを手に取り、言う。

「お前さんは外傷は無かったよ、意識さえはっきりしてればもう大丈夫だ。」

「・・・ここは?」

「ソロモン、改めコンペイトウ、つまり連邦軍の占領基地だよ、その医務室だ。

ああ、戦闘は連邦が勝ったのか、と思うジャック。しかし自分の部隊は・・・聞こうと思ったが、この医師が知るはずも無いだろう。

そのままベッドから起きだし、医務室を出るジャック。

医務室の外は各人が慌ただしく動いている。占領したばかりの敵基地、彼らにもやることはいくらでもある。

彷徨った末、コンソールルームを見つけ、個人情報を画面に出す。

 

『エディ大隊長、エディ・スコット:戦死』

『第三艦隊司令官 ワッケイン:任務中、テキサス・コロニー方面』

 

 

・・・え?

一瞬の驚きの後、悲しみと安堵の両方の感情が押し寄せる。

サメジマの兄貴の意思を共に継いできたエディさんの死、それはソロモンがソーラーシステムで焼かれたのを見た時から

覚悟はしていた。実直で責任感の強い彼なら、あの場に部下を残して生き残ったりはしないだろう。

きっと部下をかばって逝ったろう、その姿を想像して目頭が熱くなる、兄貴とは違った意味で立派な人だった・・・。

 

ただ、嫌な夢を見た後だけに、ワッケイン指令が健在なことに安堵していた。

思えばルナツーで自分がかかわってきた人物では、もう彼くらいしか印象に残る人物はいなかった。

戦場の後方でふんぞり返っている偉いさんなど知ったことではない、ただ彼だけには生き残ってほしい。

戦争が終わって後、上層部として活躍するのは、ああいう人であってほしかった。

そのまま部屋を出て、自分の部隊の待機室を探しに歩いていく。

 

後に残ったコンソールの画面が、自動更新され、表示が切り替わる。

 

『ー第三艦隊司令官 ワッケイン、戦死ー』

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