満員の観客が見つめる中、先に入場した須永は、対戦相手である武王の入場を待っていた。
いつもより濃い紫のパンタロンに、同色の二ーパット、レガースとリストバンド。今日はいつもの左肘につける紫のエルボーパッドを外し、代わりに両肘に黒のエルボーパッド。手には同じく黒のオープンフィンガーグローブを装着。甲の部分には金の縁どりの赤文字で"龍"の文字が鮮やかに浮かび上がる。
現在闘技場では、須永モデルのレガースや二ーパッド、エルボーパッドが販売されており、それらのグッズが飛ぶように売れているとジルクニフから聞かされている。
(そのうち応援タオルとか、入場用ガウンのレプリカとか作られるのかも。なんならマスク被って試合した方がいいのかな?)
須永はそんなこと他愛もないことを考えていた。外装には投資しているので、バリエーションはまだまだある。
この試合が初お目見えとなったオープンフィンガーグローブは試合後に先行販売されるそうだ。
(陛下は、政治だけではなく商才もあるのか……)
なお、購入特典として須永のサイン会も行われると告知されている。
(だんだんプロレス会場みたいになってきたな。やはり最高権力者が理解者だというのは大きいよ。レイナースさんには感謝だな)
ここで歓声が一際大きくなる。武王が入場してきたのだ。
「なるほど……トロールとは聞いていましたが、戦闘型のウォートロールですか……これは厄介ですな」
須永は、入場してきた対戦相手を見て、若干険しい顔をする。ウォートロールは、トロールの亜種で戦闘に特化した種族だ。当然のようにトロールの種族的特徴として自然回復力を持っている。
(炎や酸には弱いけど、スーパーヒールモードじゃないと火吹けないからなぁ……)
ダンディ須永は基本的にベビーフェイスだが、裏の顔として、顔をペイントした"スーパーヒール"ダンディ須永という設定もある。毒霧や、凶器攻撃、火炎放射などを駆使して戦うことができるのだ。
先日のヘビーマッシャー戦で、その触りだけを披露しているのだが、まだまだあの程度ではない。
もっとも実際には外装が違うだけで中身は同じ。ノーマルのダンディ須永でも、そういった技を繰り出すことはできるのだが、こだわりとして基本的に使わないようにしている。
(さて、どう攻略しようかな……これは楽しみだわ)
エルヤーや、ヘビーマッシャーとの戦いよりも須永はわくわくしていた。
(だんだん
ダンディ須永のしゃべり癖が移っただけかもしれないが、転移の影響もあるような気がしていた。
「お前が、噂のダンデイ須永か……」
「……"武王"ゴ・ギン殿ですな。こちらこそ貴方の噂は聞いていますよ。今日はよろしくお願いします」
須永は右手を差し出した。
「ああ、楽しみにしている」
武王もそれに応え、両者はガッチリと握手を交わす。滅多にない綺麗な光景に場内から大きな拍手が送られる。
「ぶ・お・う! ぶ・お・う!」
「ダ・ン・ディ! ダ・ン・ディ!」
両者への声援合戦にも熱が入る。ややダンディコールが上回っているようにも感じるが、ほぼ互角と言えるだろう。
「お前達は、この試合をどう見る?」
ジルクニフは傍に控える四騎士に尋ねる。
「どうって言われても……どっちも俺ら四騎士が束になっても敵わない化け物ですぜ」
四騎士筆頭"雷光"バジウッドがまず口火を切る。
「……」
"不動"ナザミは首を激しく縦に振りそれに同意
「同じ化け物でも、まだ武王相手の方が我々でも戦える気がしますね」
"激風"ニンブルは冷静な判断を告げる。
「聞き捨てなりませんわね。ダンディ様を化け物などと……帝国中の女性を敵に回すことになりますわよ?」
"重爆"レイナースの言葉にその場にいた全員が驚く。
(ダンディ様?)
皆が同じ疑問を抱いたのは、なんとなく全員が感じていた。皆同じような顔をしていたのだから当然だろう。
「それは、"重爆"自身も含めてなのかな?」
代表して聞いたのはジルクニフである。
「……ええ。その通りですわね」
あっさりとした告白に皆目をぱちくりする。
「なにか?」
レイナースは、剣の柄に手をかけるのではなく、右手の四本指をピンと伸ばして身構え、殺気を込める。
「いや、よいことだと思うよ。私は応援するし、気持ちもわかるつもりだよ。だから、地獄突きは……"雷光"にしてくれ」
「ちょ、まてよ。陛下、それはねぇぜ……"重爆"化け物って言ったのは戦闘力的なあれだからな?! ダンディさん、めっちゃいい男だし、人気あるのはしってるからよ。……ほら、うちのカミさん達も言うんですよ……ダンディ様は強いし、カッコいい、惚れちゃう……とかさー。俺の前で言うなよって思うんだよなー。だから"激風"にだな……」
そっと背中を押してニンブルを前に押し出す。
「え、あ」
「まあ、よいですわ。最初の質問にお応えしますと、ダンディ様が勝ちますわ」
「私もそう思っているよ。何しろダンディは、この後サイン会があるそうだからな」
まるで人ごとのようなジルクニフの言葉に、(アンタが言うな! )という空気に包まれる貴賓室であった……。