異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第12話 これが須永 だ

 

「今のはローリングギロチンドロップですな……」

 須永は喉を押さえて呻いている武王を見下ろす。ダメージはあるようだが、技を決められて凹んだ部分は、じわじわと元に戻ってゆく。

 

(……回復力があるってのは厄介だ。それでも、これがプロレスルールなら、10カウントはとれそうだなぁ……)

 なお闘技場ルールでは、降参を宣言するか戦闘不能と見なされるまでは終わらない。

 

「ぐぐぐ……」

 だが……武王は予想に反して、"カウント8"といったところで、立ち上がってくる。これは治癒能力だけではないだろう。

「思ったよりも頑丈なようですな。やはりトロールの肉体能力は侮れないか。そして、治癒……つまり自然回復……これは厄介ですね。トロールの強さはそこですなぁ」

「俺は武王……そう簡単にやられやしないさ……」

「ふふ、わかっていますよ……だから、試合を楽しみましょうか」

 須永は、すでにこの試合を楽しんでいたが、あえてそう声をかけた。

「楽しむか……そういう意味では今までで最高だがな。強敵と戦えるのは楽しい。たとえ命の危険があったとしてもだ」

「わかりますよ。私もそうです。あとは、どう勝つかを考えますよ」

「まるで、勝つのが当然だという言い草だな……」

 武王は、すでに実力差を感じていたが、まだ諦める気はなかった。

「ええ。私の負けはありませんぞ」

 無論命を奪うつもりはない。となれば戦闘不能に追い込む必要があるのだが……、簡単にはいかないだろう。心を折るのか、回復力を超える大ダメージを与えるのか……。

 

「そうはさせない。勝つ。行くぞ、<剛撃>」

 武王は切り札となる武技を発動し、最強フルスイングで須永をぶん殴る。いままでの一撃よりもはるかに威力のある一撃が須永を襲う。

「パワーだけに頼った一撃などっ!」

 須永は身をひるがえして、得意のローリングソバット! 受けよりも迎撃することを選択した。

「<流水加速>」

 武王はさらに武技を発動。攻撃速度が格段に加速し、須永の動きを捉えた。

「くっ……速度もかっ」

 ソバットが当たる前に、棍棒は……無防備な顔面へと容赦なく叩き込まれた。

「うあああっ」

「あああっ……」

 観客から、悲鳴と歓声があがる。

 

「おお、ダンディのソバットが当たらないとは……初めてじゃないか?」

「たしかに。マジかーやっぱり武王もやるよなぁ……どっちも……ば……場をよくみてるよ」

 レイナースの無言の圧力を感じ、化け物という言葉をバジウッドは飲み込み、無理やり言葉を繋いだ。

 

 

「な、なんだ……おかしいぞ……何が……」

 仕掛けた側である武王の顔が驚愕に歪んだ。それは手応えに違和感があったからだ。武王の予定では、もっと腕にずしりと響く一撃となるはずだったのだ。

「な、なんだとぉ……ば、馬鹿な……」

 違和感の正体は、直ぐにわかった。手にしていた愛用の棍棒が、ひび割れて、バッキリと真っ二つに折れてしまったのだ。

 

 

「うわあ……出たよ、武器破壊。これで3試合連続だ」

「……お前達がマスターすべきは、あの武器破壊なんじゃないか?」

「それは無理ってもんですよ。ダンディ曰く、あれは教えられる技術ではないそうですぜ」

 技であれば教えられるが、ダンディの武器破壊は単にレベル差からくる能力の違いから生まれたものである。よって教えたくても無理な話であった。

 

 

「ちょっと力をいれすぎましたかな」

 涼しい顔で、須永は自らの額を右手で撫でる。

「まさか……インパクトの瞬間に頭突きを?」

「正解です。まさか……あのような武技があるとは、かなり驚きましたがね」

 加速した棍棒が顔面に当たる直前に、ヘッドバットで迎撃していたのだ。つまりは100レベルのステータスに任せた荒業である。

 

「さて、得物なしでどうしますかな?」

「まだまだっ」

 武王はぶっとい腕をぶんぶんと振り回し、左右の前腕部の内側で須永の顔面を打つ。その一撃の威力は、ミスリル級冒険者なら1発で戦闘不能になりかねない。

 ちなみに武王は知らないが、これは立派なプロレス技の1つである。

 

「ぬ、おっ」

 須永の体が、一撃ごとに左右に揺れる。

(……いわゆるベイダーハンマーか。……名付けるならトロールハンマー……いや武王ハンマーというとこかなぁ)

「くらええっ」

 10発ほど打ち込んだあと、ブンと音をさせて右腕が須永の首を狩りにくる。これはぶん殴りラリアットに近い。

「おっと」

 須永はその腕をとると、グルンと竜巻のような勢いで回転し、''竜巻"一本背負いで、武王の巨体を軽々と地面へ叩きつけた。

「ぐへっ……」

 初めて受ける投げ技は、武王の体に大きなダメージを与えていた。

「もう一丁!」

 須永は腕を離さず、もう1発竜巻一本背負い! 

 

「ぐううっ」

「いけますかな……」

 素早く立ち上がり、須永は武王のダメージを確認し、深いとみて一気に攻めることに決める。

 

「申し訳ないですが、回復する前に決めさせていただきますぞ」

 須永は武王の顔面を右手で鷲掴みにし、ギリギリとアイアンクローで締め上げながら、片手でその巨体を持ち上げた。

 

「グアアっ」

「いきますぞ」

 天を指差してアピールすると、武王を持ち上げたまま、体を旋回させ頭部から地面へと叩きつけた。

(名付けて旋回式アイアンクロースラム……ってとこかな?)

 さらに、須永はダウンしている武王を無理やり引き起こし、バックをとると武王の腰に手をかけて、真上に高々と持ち上げた。

 

「これが須永 だ」

 旋回しながら後ろへと投げ落としながら、武王の喉を掴み、喉輪落とし! さらに着地前に軽く両膝を腹部へと落とし、複数箇所に一気にダメージを与えた。

 

「グハッ……」

 衝撃で兜が弾け飛び、鎧はひび割れ……そしてついに武王の動きが止まった。

 レフェリーがいればダウンカウントをいれさせるところだが、この場には存在しない。ならば、ここで勝負を決めるしかない。

 

「決めさせていただきますぞ!」

 須永は、闘技場を囲う壁を軽快に駆け登り、両腕を頭上でクルクル回してアピールを決めた。

「ムーンサルト、いくぞっ!」

 技を宣言して、須永は闘技場に背を向けたまま壁を蹴り高く飛び上がる。

 最上段の観客の位置まで上昇すると、そこから縦にゆっくりと回転。月面宙返りをじっくりと……全ての観客の目を集めるように決めて、仰向けにダウンしている武王を押しつぶす。

 

「ごへっ」

 武王の巨体が、衝撃で跳ね……その後動かなくなった。

「気を失いましたか……」

 武王の体は徐々に回復しており、生きているのは間違いなかったが、もはや戦えまい。

 

「あなたは、まだまだ強くなれますよ。またやりましょう」

 気を失ったままの武王へ、偽りのない気持ちを告げた。

 

「ただいまの試合は、18分40秒、ムーンサルトプレスによる武王の戦闘不能により、勝者ダンディ須永!」

 

 須永を讃える歓声と拍手が雨霰のごとく降り注ぐ中、須永は天を仰ぐように両腕を広げて、しばらくの間……それを受け止めていた。

 

 そして、深々と一礼すると、倒れたままの武王へと歩みより、その体を抱きあげて、そのまま静かに引き上げていった。

 

 

 

 こうして、武王の敗戦により、武王の名は須永のものになるかと思われたのだが、武王はそのまま武王を名乗ることになる。

 

 そして須永は武王を超えた存在として、以後"武神"と呼ばれるようになった。

 本人は固辞したのだが、これは皇帝ジルクニフの強い意によるものであり覆ることはなかった。

 






第1章は、これが最終話となります。

インターミッション2話を挟み、新章開始予定です。
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