第13話 カリスマ
「よーし、今の感じですぞー!」
須永の声が練兵場内へ響き渡る。今日行われているのは、騎士達による模擬戦である。模擬戦といっても気楽なものではなく、激しいものになることが多い。多少怪我をしても、魔法で回復できるし、真剣勝負だから身につくことも多いのだ。
今は2人の覆面をつけた騎士が、それぞれ模擬剣と軽装鎧をつけたまま対戦していた。模擬剣の刃は潰してあるが素材は通常のものと変わらない。切れないが、しっかり当てれば骨を折ることは可能だ。
ズルッ……
「し、しまったっ!」
青いスカーフを巻いた騎士が、床に落ちた汗に足を滑らせ、バランスを崩してしまった。
「もらったあああー」
そこを
「でえええっ!」
「おわあっ!」
不利な状況かと思われた青スカーフだったが、剣先を見切って最小限の動きで回避すると、振り下ろされた赤スカーフの腕をつかんで一本背負い! 竜巻のような勢いで回転しながら床へと叩きつけた。
「ぐえっ」
赤スカーフは受身はとったものの、威力を完全に殺すことはできなかった。
「ほう……」
観戦していた須永は目を大きく見開いたあと、スっと目を細め、より真剣な眼で青スカーフの騎士を見つめた。
「まだだ、ここで極めるんだよ」
そのまま、その腕を腕ひしぎ逆十字固め! 右腕が伸びたと同時に、カランと模擬剣が床に転がる音がした。
「あぎゃあああっ」
赤スカーフは空いている左手で床を数度タップし、ギブアップの意を示した。
「そこまで!」
須永が割って入り、技を解くように指示を出しながら、いつの間にか用意した氷袋を赤スカーフに手渡し、冷やすように伝える。
「なんだ、もう終わりなのか? 」
青スカーフは、若干不満そうに立ち上がると覆面を脱いだ。覆面の下から出てきたのは……。
「陛下、お見事でしたな。素晴らしいコンビネーションでしたぞ」
須永は青スカーフ……いや、皇帝ジルクニフへ拍手と賛辞をおくった。
「げ、姿が見えないと思っていたら、参加してやがった……いや、参加されていたとは……」
「"雷光''、何かな?」
驚いたバジウッドは、慌てて側へ駆け寄る。それをジルクニフは鋭い目で睨みつけた。
「……いや、まさか竜巻一本背負いを……さすがです陛下」
バジウッドはとりあえず賛辞を口にする。
「私が教えたのは、剣をかわしてからの投げ飛ばしです。投げ方は腰投げや、アームホイップ、それにフライングメイヤー……などがあると言う話をしておりました。他にも何種類も選択肢にありますが、その中から……"魅せる技"である一本背負いをチョイスされたのは陛下の美的センスですな。……しかも、それを"竜巻"に進化させるとは……プロレス的センスもお持ちのようだ。正直、これには心底おどろきましたな」
竜巻一本背負いからの腕ひしぎ逆十字固めは、須永の好む技のつなぎ方だ。無駄がなく次の技に入れるメリットがあるが、魅せられる分だけ難易度が高い。組み立てを参考にしたにしても、それをやってのけるのは、並じゃない。
「これくらいは造作もないことだ。……なにしろ私は、"皇帝"ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだぞ」
もちろん、これは皇帝しか口にすることしかできないちょっとしたジョークである。しかも、この場合、本人の立場と出来る出来ないは関係ない。
「ははーっ。お見逸れいたしました」
バジウッドと須永は、大袈裟に両手をあげてから、最敬礼をする。ちょっした日常の光景だ。
「さすがは陛下ですな」
「だな。さすがは俺らの陛下だせ。おい、負けたお前はバツとして城の外周10周な!」
バジウッドは、「グラウンド10周してこい!」のような気楽な口調で告げたが、この内容は厳しい。この城の外周を10周と云えばフルマラソンを軽く凌駕するだろうか。
「せめて、せめて内周にしてください……」
ガックリと肩を落とした赤スカーフの騎士の顔は、気の毒なくらいに青ざめている。
「……よし、では練兵場50周だ」
ジルクニフが決を下す。練兵場50周でも軽く2桁に届くだろう。緩和されたとはとはいえ、模擬戦で死力を尽くした後だけに厳しい内容と言えた。
「……!」
騎士達の間に不満の色が浮かび上がっているのを須永は感じ、一言申そうと口を開きかけたのだが……。
「……スタミナ強化は大事だぞ。お前は最後スタミナ切れで、剣速が鈍っていたからな……だから、私は見切れたのだ。……いざという時にそれでは困るだろ?」
いつになく、優しく告げるジルクニフ。あたりの空気が暖かく、優しく皆を包み込む。
その言葉を受けた赤スカーフの騎士が大粒の涙を零し、そしてこの場にいた全騎士が同じように泣いた。
「ひ、ひいかー」
「ぐす、陛下のお心……沁みました」
「忠誠を誓いまする……」
「うおおー、みんな走り込むぞっ!」
「そうだ。走るんだ!」
たった一言で、がっちりと騎士達の心を掴む。気づけば指示された騎士だけでなく、全員が全力で走り出していた。
(やれやれ、かなわないナ。指摘しようとしたことを見事に、それ以上の効果で伝えてくださったよう
一般人須永英光としても、そして皇帝直属のプロレスラー、ダンディ須永としても目の前にいる若き覇者を好ましく思う。
ジルクニフは、元々備わっているカリスマ性をさらに高めはじめており、支配者としてまた1つ成長していた。