今日も騎士団の鍛錬を終えた須永は、皇帝ジルクニフの下へと向かう。
今のところ、武神としての活動ではない須永の仕事は、大きく分けると2つある。ひとつは帝国騎士団への武術指導であり、これは着実に成果があがりつつある。
現在、帝国は毎年のように王国と戦争を行っている。これは将来的な王国併呑を目指すジルクニフの戦略のひとつだ。
須永が指導に関わるようになってから、1度だけ出兵があったのだが、戦死者が前年に比べ激減。その分相手の損害は大きく増えている。これは、個の強化に成功したと成果と言えるだろう。
帝国騎士達は、職業軍人であり毎月のように経費はかかるが、常駐であるのが強みで、組織として強化ができるのがメリットだ。
対する王国は平民を無理やり集めただけの民兵で、レベル自体は相当低く、たんなる寄せ集めにすぎない。また、戦争の度に集めているので、組織的な強化は不可能だ。よって片方だけが強化されれば、差は広がることになる。
須永自身は、戦争には関わっていないが、次はわからない。
さて、もうひとつの須永の仕事は皇帝ジルクニフの警護である。
もっとも、警備の厳重なこの城でジルクニフを害するのは難しく、実際は単なる側仕えに近い。フールーダとともに、意見を求められることも増えてきている。
「待っていたぞ、ダンディ」
「お待たせいたしました、陛下。鍛錬に時間がかかりすぎました」
「かまわん。騎士団の強化は大事だ。人数も増えていることだしな」
人数の拡大にともない、鍛錬にはその分時間がかかっている。
「最近の新人は最初から学ぶ気が強いので、成長は早いですが」
「そうか、期待している」
「ありがとうございます」
須永は頭を下げる。
「そうそう。期待といえば、実は楽しみなことがあったのだ」
「楽しみなことですか?」
須永はオウム返しで聞き返す。
「そうだ。ダンディ、喜べ。お前の試合が決まったそうだぞ」
またもや国家の最高権力者である皇帝の口から、自らの試合予定を直接聞くことになった須永は、「それは重畳……嬉しいことですな」と答えながら、ふと考えてしまう。
(陛下から直接私の試合予定を聞くのは間違っているのではないか? 普通ならマネージャー経由で入ってきそうなものだけど……あ、マネジャーいないわ……。それに私は皇帝直属ということだから、間違ってはいないのかも……しれない)
違う世界で共通の常識となるわけもなく、須永は考えるのを途中で諦めた。
「それにしても久しぶりの試合ですな」
「武王ですらなかなか組んで貰えなかったのだ。それをこえる武神に挑むなど、そうそうはな……」
武王を倒してからはや4ヶ月。須永は、いつでも誰の挑戦でも受けると公言しているのだが、なかなか挑戦者は現れなかった。
しかし、稼ぎ頭である須永を遊ばせておくわけにもいかず、エキシビションマッチとして、月1度は模擬戦を組み、須永の勇姿を披露している。
「さて、ダンディ、今回の対戦相手だが……お前は、どのような相手だと思う?」
ジルクニフは、笑顔で質問してくる。こういう会話を楽しんでいるのだろう。
「そうですな……。私が
ヘビーマッシャー戦がそうだ。平原のような開けた場所ならともかく闘技場という閉鎖空間では、人数が多すぎても運用が上手くできない。それに、1人に多数で挑んでも同時に攻められる人数には限りがあるのだ。
「ふむふむ」
「……よって3人から5人くらいの腕利き集団。少なくとも冒険者でいう、オリハルコン級以上と見ていますが」
ちなみに武王とまともに戦えるのも、このあたりのランクからと言われていたらしい。もちろん個人としてではなく、チームで挑んだとしたらの話?だ。
「なるほどな。まあ、私もそのあたりから出てくると思っていたさ」
「ほう……違うので? 」
須永は対戦相手に興味を持ち始めた。
「まず、人数だが……相手は1人だそうだ」
「……なんですと?」
1人とは完全に想定外である。
「さすがのダンディも驚いたようだな」
「ええ。まさか1人とは……で、その男はどのような人物なんですかな?」
この須永の質問をジルクニフは、くくっという笑いで返した。
「……まさか。男ではない……のですかな?」
「その通りだよ。ダンディ、次の対戦相手は"女"だ」
ジルクニフは、楽しそうにそう告げた。