「風が気持ちいいですなあ」
須永は、涼やかな風の心地良さに思わず感嘆の声をもらす。
転移地点から歩くこと半日。ようやく森を抜けた須永は舗装された道……街道と思われる場所へと辿り着いていた。
「さて、どうしたもんですかな」
どちらに向かうべきなのか、どこへ向かえば正解なのかは、情報がない為わからない。
(未知を既知とする……か。ユグドラシルも手探りだったなぁ……)
飲食不要、疲労無効のマジックアイテムのおかげで、須永には肉体的な疲れはないのだが、知らない土地に加え不慣れな森中を警戒しながら歩むのは精神的に疲労するものだ。
「むっ……」
姿はみえないが、離れた場所から金属と金属がぶつかり合う音……剣戟が聴こえてくる。
「武器を持った者同士の戦いですか。どういう状況かわかりませんが、少なくても知性があるとみていいでしょうなぁ」
須永は音のする方向へと足早に進む。ようやく現地の人______人とは限らないが_________との初接触である。
(あれだな……)
見えてきたのは、馬車の中で震えている少女と、それを守ろうと扉を背に剣を振るって戦う金髪の女性剣士の姿だ。馬車の前方には、御者と思われる男性が、頭から血を流し倒れ伏していた。
(あの男性は……助かりそうにないか)
馬車を襲っているのは棍棒を手にした巨体の醜い顔をした亜人……オーガが3体と、人間より小柄な醜い顔をした亜人……ゴブリンが8体である。ゴブリン達は粗末な革鎧を身につけ、それぞれバラバラな武器を手にしていた。剣、斧、メイス……というようにだ。
「______困った人がいれば助けるのは当たり前_____でしたかな。確か、たっち・みーさんの口癖でしたかなぁ」
須永は、大会で何度か戦ったことがある、白銀の騎士の姿を思い出す。
たっち・みーは、ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】所属のワールドチャンピオンであった。
(実際彼には助けられたからなぁ。では、行くとするか)
須永は、華麗さを醸し出しながら走り出す。
◇◇◇
「くっ……」
オーガ達と交戦していた女剣士は、護りながら戦う難しさに歯噛みしていた。
一体一体の強さは彼女……レイナース・ロックブルズの力量であれば十分太刀打ちできるのだが、数の不利は否めない。
「お姉ちゃん、右!」
後ろから少女の震え声が聞こえる。
「ぬんっ!」
レイナースは即座に反応し、右側から剣を振り下ろしてきたゴブリンの右腕を切り落す。
「グゲッ」
「はぁあっ!」
返す刀で、呻くゴブリンの首を突き刺し、一体を屠る。
「単独でカカルナ。同時にヤレ」
一体のゴブリンの指示が飛び、レイナースは完全に囲まれてしまった。
「このっ!」
右に左にと剣を振るうが、多勢に無勢。倒すまではいかず、次々に襲いかかる攻撃を凌ぐのが精一杯になってゆく。
「チッ、こんな奴らにっ!?」
舌打ちをしつつ、ゴブリンへと剣を突き出す!
「ヌガアアアッ!」
だが、死角から振り下ろされたのオーガの棍棒が、レイナースの剣に命中してしまう。
「ぐあっ……」
体重の乗った重い一撃をこらえきれず、レイナースの剣は大きく弾き飛ばされてしまった。
「し、しまった」
「お、お姉ちゃん……」
「くっ……」
希望を絶たれたと感じた少女の声を否定できず、レイナースは唇を噛み締め、篭手だけになった拳を握り身構える。
「殺セ」
チャンスとみたゴブリン達がじわりとにじり寄る。
「死ネ!」
「とおっ!」
掛け声とともに紫色の影が、空中で前方に1回転し、伸ばした右足で剣を振り下ろそうとしていたゴブリンの胸板を蹴り飛ばした。
「グギャッ!」
蹴られたゴブリンは、吹き飛ばされながら、粉々に砕け散る。
「!?」
レイナースは何が起こったのかと目を見開いた。
「……様子見のライダーキックだったんですがな……どうやら少しばかり、力が入り過ぎたようですな」
飛び込んできたのは、若干変わった服装の旅人らしかった。
「お嬢さん方、このダンディ須永が助太刀させていただきますぞ」
言うがはやいか、須永は右の前蹴りで斧ゴブリンの腹部を蹴り飛ばし、左手でメイスゴブリンの首筋にチョップを打ち込み、一瞬にして2体を戦闘不能に追い込む。今回は爆散してはいないが、ピクリとも動かないところを見るともう生きてはいまい。
(ただ当てただけなんだけどね……どうやらレベルは高くないようだ)
時計回りに一回転して右の裏拳をもう1人の斧ゴブリンの顔面に、さらにもう一回転して右足のローリングソバットで2体目のメイスゴブリンの顎を蹴り抜き、昏倒させる。
「やれやれ……ですな」
呆然とする残るゴブリン2体を逆ローリングしての袈裟斬りチョップと、さらに反転してのバックスピンエルボーで、打ち倒す。
「あとはオーガですか」
2mほど離れた位置にいたオーガ目掛けてジャンプして両足を揃えてドロップキックで顔面を打ち抜き、空中で身体を捻って華麗に着地してみせる。
「ニゲル」
ここで、ようやく事態を把握したオーガ2体が、背を向けて逃げ出した。
「ふむ……もう少し付き合ってもらいますぞ」
須永は素早くダッシュして、一瞬で追いつくとスライディングしてオーガの足を挟み込む。
「グオッ!?」
巨体を誇るオーガだったが、まるで羽毛のような軽やかさであっさりと後頭部から地面に倒れ込んだ。
「なんて、スピードとパワー……なの」
レイナースはようやく言葉を挟む。ここまでの須永の華麗な舞を踊るかのような動きに目を奪われていたのだ。
「さて、いきますぞ!」
須永は右拳を突き上げ、アピールをきめる。
「いっちゃえ!」
アピールにつられて、少女から声援が飛んだ。
(お、異世界初の観客ポイントゲットだね)
須永は、声援に答えるように頷くと、仰向けにダウンしているオーガの両足を両脇に抱え込んだ。
「フンっ!」
軽々と巨体を宙に浮かせると、そのまま右回りに回り出す。
「1、2、3……」
思わず数を数え始める少女。レイナースも途中からつられて数えだす。
「「6、7、8」」
「せやっ!」
ここで須永はジャイアントスイングしていたオーガを軽々と投げ飛ばした。
「!?」
オーガは凄い勢いで飛んでいき、逃げているオーガの背中に激突。
そのまま、二体とも悲鳴すら残さずに爆散してしまった。
「む、ちょっといい技を出したらこれですか……加減が難しいですな」
独り言ちる。ユグドラシルでのダンディ須永は、上限であるレベル100のプレイヤー。その身体能力はレベル通りに高い。
(どうやら、そのままの力で転移したようだな。今の手応えからすれば、ゴブリンもオーガも1桁レベルかな? そこの剣士はそれよりはだいぶ高いように感じるけど、この世界のレベルはどうなっているんだろうナ。ってなんでこんなに冷静なんだろうなぁ)
突然異世界に転移したというのにやけに冷静な自分に気づき心の中で苦笑する。
(ま、ダンディ須永の冷静って設定か、精神安定というスキルの効果なんだろうけど、それにしても、最初のライダーキック……やはり現実になると……ぐちゃって感触が……嫌な感じだよ)
「あ、あの……ありがとう……」
「ありがとう、お……お兄ちゃん」
金髪の剣士と、少女が頭を下げ、感謝の意を述べる。
「いえいえ……ご無事でなによりですな」
「たしか、スナガさんでしたっけ。私はレイナース・ロックブルズといいます。スナガさんは、お強いですわね」
「いやいや、たいしたことはありませんよ。少々護身術を学んでおりましてな」
須永は優しく微笑む。
(少々……冗談じゃありませんわ。私も腕に覚えはありますが、素手であのような芸当は無理ですわね。……というか、できる人間などいないと思います)
レイナースの心に嫉妬はなく、凄いものを見たと素直に思った。
「少々とはまたご謙遜ですわね」
「そうですかな。ま、良いでしょう。ところで、お嬢さん達はこれからどうされるのですか?」
須永は情報を引き出しにかかることにした。