「まずは、武神……ダンディ須永選手の入場です」
タ~ラ~タッタッタッタ~ ♪
音楽を流すマジックアイテムから、軽快な音楽が流れはじめる。
場内は初めての演出に戸惑っていたが、曲のイントロ部分が終わり、白いガウンを羽織ったダンディ須永が闘技場に入ってくるのが見えると大歓声と、曲に合わせた手拍子で出迎える。
(やはり、テーマ曲があると気分が違いますな……)
この思考は一般人のプロレスファンである須永のものなのか、プロレスラー、ダンディ須永のものなのか……須永自身にもわからない。
(ただ、"ダンディ・ドラゴン"にして頂きたいものです。武神は言い過ぎでしょう)
未だに武神には抵抗があったが、今更何を言ってもあとの祭りである。
本日の入場券は、対戦決定から2日後……試合3日前という急な売り出し方だったにも関わらず、なんと即日完売。急遽販売することになった立ち見当日券の抽選会はかなり殺気だっていたという。これは闘技場始まって以来の動員数だそうで、史上初の超満員札止めである。
(スター選手がいれば動員はあがるといわれていましたが、まさか自分がそうなるとは……)
そして、抽選に外れた人の中でも、幸運な人々はいた。彼らは会場近くの建物の中に集められ、須永が一時提供した中継アイテムセットによるこの世界初の同時中継を楽しむことができたのだから。
この日組まれた前座の数試合も観客の熱気に乗せられ、白熱した好試合が続出。これには観客も満足げな様子であった。
「いつもより、お客が熱かったな」
「後押し受けて、いつもより力が出せた気がするわ」
第2試合で勝利をおさめた出た双剣の戦士と、パートナーの弓使いの
(よいことです。彼らも見ているのでしょうな)
出場者は専用の場所から他の試合を見ることができる。そのためか、今日は希望者が多く。出場者はくじ引きで決められたということだ。
今日の須永のコスチュームをチェックすると、黒地に紫のサイドラインが2本入った新しいパンタロンに、色を合わせた黒のレガース。上半身は肘当てはなく、今日はオープンフィンガーグローブのみ。ただし、首には帝国文字で"武神 ダンディ須永"と書かれた薄い紫色のタオルを巻いていた。これは今回の新商品だそうだ。
(陛下……馴染みすぎです……)
グッズ開発は専門部署が立ち上げられ、ジルクニフも開発会議には顔を出すという。
「さあ、続きまして、挑戦者……の入場です」
ズーズン、ズーズン……重量のある何か、または恐ろしい何かが現れそうな……そんな重々しい曲が流れはじめた。挑戦者の強さを演出するような、そんな特徴的な曲だ。その曲に合わせ、ゆっくりした歩みで挑戦者が姿をみせる。
プロレスでは、挑戦者が先に入場し、王者を待ち受けるのが基本的な絵なのだが、須永はこれを逆にした。
(私は、この世界ではかなりの力を持つ、ボスキャラみたいなものらしいのでね)
ボスは待ち受けるもので、自ら現れるものではないというゲーム的な発想であり、挑戦者をフォーカスするという側面もあった。
挑戦者は、青をパーソナルカラーとしており、ドラゴンをイメージした、
武器を持たずに手ぶらで入場してきたが、須永モデルのオープンフィンガーグローブと黒のエルボーパットを装着しており、明らかに格闘戦を意識した姿と言えた。
「ほう……見事な体躯……ですな」
須永は挑戦者の立派な体格を評価する。須永のアバターとして造られた体や、武王の種族としての肉体とは違い、血のにじむ様な鍛錬を繰り返し、鋼を何度も鍛え直したかのような強靭な肉体。だからといってボディビルダーのように筋肉だけというわけではなく、彼女……そう、彼女が女性であるということを示す適度な脂肪がついており、体の線に女性らしい柔らかさを残す……まさに、理想の女……いやさ女子プロレスラーの体であった。
「……よう、いい夜だな」
試合前だというのに、まるで散歩にいくかのような気楽な口調であった。ただし、言葉とは裏腹に覆面から覗く瞳は鋭い。
「そうですな。この超満員の観客の前で、貴女と戦える……最高の夜になりますな。まぁ、まだ夕暮れ前ですがね」
「いいじゃねえか。もう夜みたいなもんさ。今夜は眠れない夜にしてやんぜ」
色気があるようなないような……違うシチュエーションなら勘違いするようなセリフである。……実際客席にいたドレス姿のラキュースは何やら赤面していたが、それには触れないでおこう。
「そう、敗北という、悔しさでな」
「覚悟はしておきましょう。ところで、レディ。たしかガガさん……でしたかな?」
須永のレディ扱いに一瞬目をぱちくりしたが、気を取り直し口を開く。
「俺……いや、私はビュティ・ガガ……じゃなくて、ビューティ・イチ・ガガ ですわよ」
名前と姿だけでなく、言葉遣いまで変えようとしているのか、激しくぎこちない。ぎこちなさのお手本のようだった。