「そうでしたか。ビューティ・イチ・ガガ……ですか。なんとなく聞き覚えがあるような……ないような」
須永は思案するが、思い出せない。
(ビューティか……美しさの基準はそれぞれだからなぁ……確かに美しい筋肉だけどさ……ところでイチってなんだろう。この世界の名前の付け方はまだよくわからないんだよね)
むしろ最初のビュティ・ガガの方が響きはよかった気がしなくもなかった。
「まあ、よいでしょう。ところで、得物はなしでよろしいのですかな? 」
「ああ、構わね……いや……構いませんわよ。武器壊されたくねーし……、いや壊されたくないのですわん。オホホ……」
とりあえずガガ……いや、ガガーランには演技力はないらしい。言葉遣いもめちゃくちゃだ。
(どうやら……演技は無理なようだな。しかし、1つ言いたい。──名前も変え、覆面までして正体を隠すつもりなら、色も変えた方がよかっただろうよ。──よりによって青とかありえん……なあ、"蒼の薔薇"のガガーランよ)
貴賓室のジルクニフは、ビューティ・イチ・ガガの正体が、アダマンタイト級冒険者"蒼の薔薇"のガガーランであることは看破していた。
依頼のために彼女たちが入国したことは当然把握していたし、1週間ほど前から帝都にいたことも知っている。
「ふむ。壊すつもりはないんですがね」
須永はしれっと嘘をついた。ちなみに過去3戦のうち、武王戦を除いて狙って破壊している。
「だからよ、そっちのルールでやろうかと思ってな」
「ほう……それは面白いですな。闘技場の通常ルールではなく……」
「ああ。アンタのいや、貴方様のお得意なプロレスルールで、勝負してやんよ……してさしあげますわ」
もう口調はぐちゃぐちゃであった。
「……いいでしょう。それでは、準備をしましょうか。スキル"
須永が1日3回まで使えるスキルを発動する。これは完全なる趣味スキルであり、使い手は少ない。なにしろ、リングを用意するだけのものなのだから。ちなみに初級と上級も存在するが、1日の使用回数はそれぞれ10回と1回に限られる。
スキルの使用により、闘技場の中心を囲うように、突如として四本の鉄柱が現れ、そこから三本のロープが四角形に張り巡らされた。
「うおおっ!」
突然のできごとに、観客は驚き、どよめきが止まらない。
「なんだと?」
ガガーランも口をあんぐり開け、見守ることしかできない。
そして、白いマットの
(これはロープブレイクが大変そうだ。まあ、次調整するとしよう)
そこは盲点だったようだ。
「な、なんだこれは……じい、魔法か?」
「いえ、魔力は感じませんな……」
珍しいことに、今日は主席宮廷魔術師フールーダがジルクニフに同行してきていた。
「マジックアイテムなのか……?」
「可能性はありますが……やはり魔力は検知できません……ですが、素晴らしいぃ!」
須永は進行役に何事かを告げる。
「場内の皆様にお知らせです。この試合は、双方選手の合意により、特別ルールを採用いたします」
一瞬の間があり、観客はどんなルールかと耳をそばだて、場内はシーンと静まる。
「この試合は、プロレスルールにて行われます!」
静寂ののち、「どぉおっ……」という地鳴りのような……歓声が巻き起こった。
「試合の決着は、相手の両肩をマット……床につけて、審判……レフェリーがカウントを3つ数える間押さえつけれは勝ちとなる、"3カウント"。ダウンさせて10カウントを数える"10カウント"。相手に参ったと言わせるギブアップ。そして、リング外での20カウント。最後になりますが、5カウント以上の反則で負けとなります。以上の条件による決着といたします」
須永の指導を受けている者以外にはあまり浸透していないルールである。インタビューでは答えていたので、読んだ人は知っているかもしれないが。
果たして、どんな反応になっていくだろうか。
「ここからは、反則についてご説明致します。通常闘技場では武器を使用できますが、このルールでは禁止です。凶器攻撃……つまり武器を使っての攻撃、拳による攻撃、目潰し、きんて……いえ急所攻撃は禁止となります。髪を掴むことや、指1本への攻撃なども反則行為です。それではまもなく試合を開始致します」
須永と、ガガーランはリングへ上がる。須永は久しぶりのロープの感触を確かめるように、ロープ間を走り、最後はロープに背中を預けて2度、3度と揺らした。
対するガガーランは、当然初めてのリングであり、ロープの硬さ、マットの硬さを慎重に確かめる。
「只今より、本日のメインイベント、"武神挑戦"時間無制限一本勝負を行います!」
進行役のアナウンスに観客達は、おもいおもいの声援を飛ばし、盛り上げる。
「まずは青コーナー、挑戦者……"た、戦う私は、世界でイチ番、う、美しい"……び、ビューティ・イチ・ガガー!」
戸惑い混じりのアナウンスに場内が笑いに包まれる。その気持ちはわかるという意味の失笑がほとんどだったが。
「しっかし、なんで、ビューティなのよ」
「似合わない」
「1ミリも似合わない」
「しかも本人が考えた候補は、キューティ、プリティ、ビューティ、クールビューティ……だったらしいのよね」
「全部似合わない……」
「絶対に、ナイトメア・シャドー・ランのがよかったのに」
「あいつがビューティとか、まさに
ドレス姿のラキュース達は、ひそひそ話で盛り上がるという離れ業を見せていた。
「赤コーナー……帝国の人々よ、これがプロレスだ。刮目せよ……プロレスの伝道師、帝国の武神……ダンディ・ドラゴン……ダンディー、すなーがー!」
須永は右腕を、軽くあげ紹介に反応する。
「レフェリー、トニー・カン」
白いシャツを着た短い髪の小柄な女性が、ガガと須永のボディチェックをして凶器がないか確かめる。もっとも須永は自らのアイテムボックスからいつでも取り出し可能であり、あまり意味はなかったりする。
なお、このトニー・カンは帝都出身女性であり、須永にレスラー希望で弟子入りしたのだが、レフェリーとしての素質を買われレフェリーとして修行。本日が急遽公式デビューとなった。なお、名前は当然
「シェイクアップ!」
一通り反則について両者に告げたのち、トニーは握手を促した。
「よろしく」
須永は右手を差し出したが……
「ふんっ」
ガガは、その手をはたいて握手を拒否する。
「Booー!」
ここは須永のホームリングだ。当然のようにブーイングの嵐である。
「OK。GO!」
トニーの右手が振り下ろされ、試合開始を告げるゴングがなった。