「つーっ……いやーしっかし、すっげー効くなーっ! アンタの手刀、国宝級の武器よりすげーんじゃねーのか? …………たった一発で、体の芯までガーンと響いたぜ」
ガガーランは、打たれた部位を右手で抑えながら立ちあがる。足元はしっかりしており、そこまでのダメージはなさそうだ。そして、彼女の顔には笑みが浮かんでいた。強者と戦える喜びからだろうか?
「貴女も''なかなかの一撃"でしたな」
「"なかなか"かよ。チッ……ま、これは挨拶がわりさ」
2人はお互いにニヤリとする。手応えがある相手と、お互いが確信したからだろうか。
「さ、ここからだ。ガンガンいくぜーっ!」
「よいでしょう。こいっ!」
須永はやや腰をおとして身構える。
「オラああっ!」
ガガーランは、助走をつけて左肩からショルダータックルでぶち当たる。
「ぬっ」
それを須永も肩で受け止めたが、わずかに……そう半歩ほど後退してしまう。あのダンディが押し負けるのかっ……と、客席がザワっと反応する。
「よーし、もう1度行くぞー!」
ガガーランは、先程よりも助走距離をとり、勢いをつけてタックル!
「ぐっ」
今度は、2歩後退させる。
「ロープへ走れ。こいや」
須永は、左手でロープを指し示し、反動を使って助走をつけろと促す。
「なにっ? そんなこと知らねーし、お前が走れ、こらぁ」
ロープに囲まれた戦場は初めてなのだから、当然の反応だ。ガガーランは須永とは反対側のロープを指し示す。
「走れ!」
「お前が走れ!!」
もう1度同じやり取りを繰り返す。
「……いいでしょう」
須永はロープへと走り、反動をつけて同じように肩からタックルにいく。
「うおっ」
ガガーランはそれを耐えきる。下半身が安定しており、少々のことでは揺らがないようだ。
「おおっ、なんだあの女」
「ありゃ人間ですかい?」
場内のどこかから、そんな声が聞こえる。
「はん、その程度かい?」
ガガーランはやり方はわかったとばかりに、ここでロープへと走った。
(ふふ……返し技を出したくなりますが……)
久しぶりのロープを使った攻防に、須永のプロレス心が疼き、一瞬の間に返し技を何種類も思い浮かべる。
「痛……硬いんだな」
ロープへ飛んだガガーランは、試合前に触ってはいたが、勢いをつけた時のロープの硬さに驚いていた。
ロープは中に金属製のワイヤーが入っており、なれない人には痛いものだ。戦いなれているガガーランでも意識していないような、不意をつかれた痛みには弱い。
(……やるなら、こっちかな)
さすがに初めてロープに走った相手に対して、返し技は酷いかな……という思いで、須永は別の選択をすることにした。
「でやあああっ」
反動をつけスピードと威力を増加したタックルが、須永を襲う。
「せいっ!」
それを受け止め、須永は1歩も下がらずに弾き返した。
「なっ! なにいっ?」
自信を持って放ったタックルを返され、ガガーランは思わず尻もちをついてしまう。
「その程度ですかな?」
先程の意趣返し。須永は見下ろしながらニヤリと笑ってみせる。
「いいぞ、ダンディー!」
観客からの声援に須永は右手を軽くあげて反応を示す。余裕がある証拠だった。
「チックショー」
ガガーランは、ガンとマットを殴りつけて悔しさをあらわにし、ギロリと睨みつけたが、須永は相手にしない。
「コノヤロウ!」
ガガーランは、怒りに燃えた表情で、すっくと立ち上がると、両拳を握りしめて、エネルギーを手に宿す。
「おら、おら、おら、おら、おらああああっ!」
チョップを連打連打連打。左の逆水平と右の振り下ろしをランダムに打ち込み、須永の体を揺らし続ける。
「ぬっくっ、つぉっ」
軽く20発を超えるチョップの連打。その間一切スピードも威力も落とさない──いや、むしろ上がっている。──これは凄いスタミナだ。後半になるにつれ、場内の歓声が大きくなっている。
「シュッ!」
大きく両手を振り上げ、同時に振り下ろす。
……いわゆる"モンゴリアンチョップ"だが、この世界にモンゴルという地名はない。きっと名称も違うものになるだろう。
「ぐおっ」
渾身のダブルチョップで、須永は体勢を崩し、右膝をついた。
「どおぁぁりゃああ」
体重を乗せた右エルボーが顔面へと打ち込まれ、須永は背中からマットへと沈む。
「フォールだあっ」
先程、須永が見せたように両肩をおさえつけ、レフェリーにカウントを促す。
「OK、ワンっ!」
マットを1回叩くよりもやや早いタイミングで、須永はあっさり肩をあげ、フォールを返す。
「チッ、足りねえか。噂通りだな、こりゃ」
ガガーランに落胆の色はなかった。