「足らねえってことなら、いくらでも足してやる。ああ、釣りはいらねえぜっ!」
ガガーランが再び攻勢にでる。左手で須永の首をおさえつけると、右のエルボーを連打、連打、連打。
一撃、一撃に体重の乗ったエルボーが、須永の左頬へ何度も何度もめり込んでいく。
「どおりゃああ!」
この1発は、ぶつけるというよりは、飛び上がって落下しながら肘を叩きつけ、さらに体重を預けて押し潰すという感じに見えた。名付けるなら……エルボーと、体で押しつぶすボディスプラッシュを合わせた"エルボースプラッシュ"だろうか。
「カウントっ!」
そのまま押さえ込み、カウントを要求。トニー・カンレフェリーが素早く須永の頭側に、飛び込むように回り込みカウントをいれる。
「ワンッ! ト」
カウント2より前に須永はブリッジで返し、そのままガガーランを跳ね飛ばす。
「軽々と!?」
ラキュース達3人の声が重なる。
「クソッ、まだ足りねえかっ!」
「まずまずのエルボーですな」
須永はわざとらしく笑みを浮かべた。
「こんのやろーっ! 」
もう一度須永に掴みかかると、エルボーをまたもや連打する。
「まだまだまだまだまだまだまだまだまだァ!」
怒涛のエルボーラッシュだ。気迫溢れる連打が止まらない。
「いけーガガ!」
ラキュースが声を出す。
「それいけ、ビューティーッ!」
"戦う私は、世界でイチ番美しい"……その言葉通り、一心不乱なエルボー連打が、美しく光り輝く……ような気がする。
「シャアっ」
30を超える連打の末、ガガーランがタメを作って放つ渾身の一撃……だが須永は倒れない。
「おおっ!」
「エルボーは色々な打ち方があります」
須永が繰り出したのは、ガガーランの顎を下から、かちあげるように打ち抜く"エルボースマッシュ"。
「がはっ」
脳を揺らされ、ガガーランはたった一発で片膝をついてしまう。ここで倒れないところが、彼女の耐久力の高さ、そして体幹の強さを示しているのだが、彼女は知らない。この思わずついてしまった片膝の意味を。
なんとか倒れずに、片膝をつく。または、立ち上がるために片膝をつく……この動きは、自然に発生するものであり人間なら誰しも起こす行動だ。
しかし、そこに目をつけたある天才によって、ある時期以降のプロレスでは"片膝をつく"というのは危険なサインとなっているのだ。
「
ガガーランの左太腿を踏み台にし、野球のトルネード投法のように右腕を捻ってから、叩きつけるように放つ右エルボー! !
「ぐはっ」
まともにもらったガガーランは、ズズンという音とともに、リング中央に大の字に沈む。
須永の反撃に場内と中継モニターの前で歓声があがる。
「いくぞっ!」
須永は、青コーナーを指差す。そして、ダッシュしてコーナーポストを華麗に駆け登る。
「飛ぶぞっ!」
須永は右腕で力こぶを作ると、左手で肘を叩いてアピール。
「とおっ!」
場内に背を向けたまま飛び、ダウンしているガガーランの喉元へ右肘を突き刺した。
「出たあ! ダンディ須永の空中殺法、ダイビング・エルボードロップだあっ!」
「これは背面式ですね」
進行役と解説によるわかりやすい実況が入る。
「ぐえっ……」
呻くガガーランを無視するかのように須永は、今度は赤コーナーへと駆け上がった。
「行きますぞっ!」
右腕をクルクル回してアピールすると、またまた背中を向けて今度は高めに飛び、くるりと後方に一回転。
「出たぁムーンサルト!」
これは実況ではなく、
しかし、これは単なるムーンサルトプレスではない。腹部からプレスするのではなく、1回目のダイブと同じ体勢になって、再び肘を落としたのだ。つまり、半回転多い。
「ぐああっ」
須永のムーンサルトエルボードロップが決まり、ガガーランの動きが止まった。
「悔しいけど、強い……」
「あの体であの動き……只者じゃない」
「化け物かもしれない」
あのタフなガガーランが、ここまでボロボロになることが、3人には信じられなかった。しかも、今受けた技は、武器や魔法によるものではない。……様々な形の肘打ち4発だけなのだ。
「いいぞ、ダンディっ!」
「さすがだぜ。同じ入りから別の技……か」
ムーンサルトプレスを応用したムーンサルトエルボー。須永ならではのバリエーション技である。
「レフェリー、ダウンカウントを」
須永は3カウントではなく、ダウンカウントを要求する。
「オーケー、ダウン。カウント、ワンっ!」
「ダウンカウント。10カウント以内に立ち上がらないとビューティ・イチ・ガガ選手の負けとなります」
ルール説明のアナウンスが入る。須永はその間にニュートラルコーナーへ移動し、コーナーポストに背中を預けてガガーランを見下ろす。
「フォー、ファイブ」
まだガガーランは動かない。
「シックス、セブーン、エーイト」
「ガガっ」
ラキュースが大声で声援を送る。
「ナイン」
あとひとつ。
「テ……」
カウント9.5というところで、いつの間にか歩み寄った須永が、ガガーランを引き起こした。
「まだ終わるには早いですからな」
まだ足元が覚束無いガガーランへ、須永は逆水平チョップを叩き込む。
「ぐうっ」
呻くことしかできないガガーラン。
「……先程までの勢いはどうされたのですかな……その立派な大胸筋が泣きますぞ?」
この瞬間、地獄の門が開く音が、ラキュースには聞こえたという。