演説……には演の文字が入っています。
「さすがだ、ダンディ」
不意に場内に品のある声が響き渡る。
「武神の名に相応しいすばらしい試合だったぞ」
「ありがとうございます、陛下」
そう。声の主はジルクニフだった。皇帝直々の褒め言葉にダンディはひざまずいて礼を述べる。
ここで、クラシックのような荘厳な音楽が流れ……煌びやかな皇帝服姿のジルクニフが貴賓室に隣接した特設バルコニーへと姿をあらわした。これは今回から用意されたものとダンディは聞いている。
ジルクニフの周囲は、4騎士とフールーダが固めており、さながら"バハルスオールスター軍"といったところだろうか。
「やあ、帝国の臣民の諸君、調子はどうかな?」
まさかまさかの皇帝降臨に、観客席からは大歓声が巻き起こる。
「……ありがとう諸君。私が、この帝国の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ!」
警備のために場内に配置されていた近衛兵達が、「へ・い」といいながら右手で拳を握り左胸を2度たたき、「か!」で右上へと伸ばす。
つまり、「へ・い・か!」コールである。
4騎士達もそれに続き、場内が合わせる。やがて、大地を揺るがす大陛下コールが帝都中に響いた。
なお、中継アイテムなどにより、帝都全域に今は音声が聞こえるようになっている。よって、闘技場外からも爆発的な声援が聞こえてきていた。
「……うむ。ありがとう。さて、今日は大事な話をしようと思う……が、その前にだ! ひとつ、諸君に聞こう。 ……今日のプロレスルールでのダンディの試合、楽しんでくれたかな?」
皇帝の問いに、観客達は大きな拍手で応える。
「うむ、よくわかったよ。諸君、ありがとう。ところで、だ。もう一つだけ先に言っておきたいことがあるんだが、聞いてくれるな? 」
わあっという歓声と、拍手が当然のようにわき起こる。
「うむ。……まずは、素晴らしい試合を見せてくれた我らがダンディ……いや、ダンディ須永と……1人で挑んできたビューティ・イチ・ガガ……いやさ、"蒼の薔薇"のガガーランへ盛大な拍手を贈ろうではないか」
盛大な拍手の雨がリングへと優しく降り注ぐ。
「チッ。バラされたら仕方ねえ……気づいてやがったのか」
ガガーランは諦めて覆面をとった。その事にどよめきと歓声が上がる。
「よし、続いては2人を讃え力の限り名前を叫ぼうではないか。まずは、戦う姿が世界一美しいという蒼の薔薇のガガーランからだ。ガガーラン! ガガーラン!」
ジルクニフが自ら、ガガーランコールを贈り、場内からは地鳴りのようなガガーランコールが。
「くっ、くそっ……ありがとよ……涙が止まらねえ……」
負けた悔しさもあったが、この初めて受ける盛大なガガーランコールは、彼女の心を激しく揺さぶり、ガガーランは人目もはばからずに男泣きに泣いた。
「続いては、我が帝国が誇る……"ダンディ・ドラゴン"ダンディ須永へ。ガガーランの全てを受け止めたその強さに! ダーンディ! ダーンディ!」
天に届くような大声援があがり、遥か上空のロイヤルガードがビクリとする。
須永はコーナートップに登り、両腕を開いて空を仰ぐ。そして、声援が途切れたところで、飛びあがるとムーンサルトで両足から着地し、深々と頭を下げた。
「……かっこよすぎ……」
「ちょ、鬼ボス」
「鬼リーダーが乙女に……」
試合の余韻か、鬼リーダーに呼び方が戻っていた。
「さて、では本題に入ろう。プロレスルールでの試合、この闘技場は雰囲気が全く違っただろう? それは何故か!?」
今、皇帝が降臨したからだ! ではない。
「これが、皆が初めて体験する新しい文化だからだよ。諸君らは今日、ここで新たなる歴史の始まりを……新しい文化の始まりを見届けたのだ」
文化の始まりとはなかなか聞く言葉ではない。
「今までの闘技場の試合は殺伐としており、殺し合い……いや命のやりとりを楽しむ場だったろう? それは、それでよかったが、今日は違ったはずだ。ダンディの技に魅せられ、ガガーランの性別を超えた美しい戦いざまに声援を送った。違うかな?」
誰も否定はしない。できるはずもなかった。その通りだったからだ。
「そして、我々は先程戦い終わった両者を讃えた。こんなことが今までにあっただろうか? 否、ありえなかっただろう……今まで我々は勝者を讃えたが、敗者を嘲笑してきた」
勝者の代表である皇帝のセリフだけに真実味がある。
「しかし、だ。我々は敗者を讃えることもできるということを知った。これは我々の進化なのだ!!」
進化という言葉がスッと皆の心に染み込む。
「我々は進化し、今新たなる文化に気づいた。そしてそれを育てて行く必要がある。この、ルールの中で試合を楽しむという文化。そして、試合後は両者を讃えることは、この世界の中で我々にしか出来ていない」
確かにそうである。我々には出来ている!
「どことはいわないが、他の国の民を、貴族を見よ! 彼らには敗者を讃えることなどできやしない。何故か? 彼らはまだ進化する前なのだ。……なあ、これは悲しいことだとは思わないか?」
進化した自分たちと、変わらない他国の人々……。確かに悲しいことだと皆が思う。先に進化し優れている自分たちは幸せなんだと。
「そうだろう? 実に悲しいことだ。よって私はこの進化を広めるための努力をし、そして文化を広めようと思っている。だから、ここに宣言しよう。ダンディ須永を長とする"帝国プロレス"の旗揚げを!」
どよめきがおき、そして賛同を示す拍手が起きる。
「……今日、ここでガガーランが証明してくれたように、性別は問題にならない。そして、我々は武王を知っている。つまり種族も問題にならないのだ。よって、出自性別種族を問わずに、広く人材募集するつもりだ。ここにいる"雷光"や"重爆"のようにな」
雷光は平民の出身であり、重爆は女性だ。さらにはダンディ須永も出自不明である。
「我が帝国は歓迎する。力あるものを。もちろん力とは武力だけにとどまらない。役に立てる能力。それが力である。集え、力あるものよ。集え、力を欲し向上したいものも同様だ。私は皆の力を必要としているのだ。ともに良き帝国を創って行こうではないか!」
帝国コールが自然とわきおこる。
(どうだ、ダンディ。お前の想像以上だろう? )
ジルクニフは手応えを感じながら、口上の締めくくりにかかる。
「……では、今日はここまでだ」
さすがに皇帝に対し気楽に抗議の声はあげられないが、皆残念そうな顔をしていた。
「ありがとう。諸君らに幸運を。"GOOD LUCK"だ。帝国に栄光あれ! ともに栄よう」
ジルクニフはそう言い残すと、4騎士達を引き連れ姿を消した。
(陛下……全部持っていきましたな。やはり、陛下こそが帝国の至宝ですぞ……)
須永はジルクニフの才をさらに高く評価する。
「ところで、試合内容……皆様は覚えてますかなぁ」
須永は首を傾げることしかできなかった。試合後のやりとりまで含めてプロレスなのだが……今日のMVPは明らかに皇帝だろう。
タ~ラ~タッタッタッタ ♪
須永の入場曲が流れ、アナウンスが入った。
「本日はありがとうございました。ただいまの試合は、33分33秒、魂のスリーカウントにより、勝者ダンディ須永。今一度盛大な拍手をお願いします」
レフェリーが須永と、ガガーランの手首を掴み高々とあげた。
こうして、この世界初のプロレスルールでの試合は幕を閉じた。
後にこの試合は、伝説のファーストマッチと称されるようになるが、それはまだ先の話である。
今回で、2章最終話となります。
当初ジルクニフには普通の演説をさせる予定でしたが、プロレスに寄せようと思ったら、見事な寄り切り。
さすがです。