第26話 旗揚げへ向けて~逸材~
帝国プロレスの旗揚げは決まったが、メンバーをどうするのか……そこが問題だった。なにしろプロレスラーは、ダンディ須永しかいないのだ。
須永は騎士団や近衛達に指導してはいるが、プロレスラーにしようとしているわけではない。中にはセンスを買われ須永預かりとなっている者もいるにはいるが、人数が足りない。
(確か……旗揚げには最低6人選手が必要でしたか……。他団体から借りるなんてできませんし、提携する海外団体もない……)
そもそも須永は1ユグドラシルプレイヤーにすぎない。団体の旗揚げなどは古いゲームの知識しかなかった。
「これは……凄い人数ですな……」
軽い気持ちで入門希望者を見に来たのだが、想像を遥かに超えた人数が集まっていた。
「全盛期は何百人と応募があったそうですが、末期は2桁いくかどうか……でしたか。いやはや……これは……」
ざっとみても軽く1000は超えている。
「ダンディさん、これ、まだ第1陣ですよ」
さらりと告げたのはレフェリーのトニー・カンである。プロレスラーではないが、須永以外に現在唯一公式にデビューしている帝国プロレスの人間である。
「第1陣……」
須永はことが大きくなりすぎてビックリしている。この調子だと、団体の規模を遥かに凌駕し、軍になりかねない。
「ダンディさん、どうしましょうか」
「ご指示を」
がっちりとしたパワータイプと、色白なテクニカルタイプの2人が聞いてくる。彼らは、センスを買われプロレスラーとして育成されている愛弟子達で、スメラギとカスミノというリングネームを与えられている。須永の評価は高く、シングルマッチならミスリルには勝てると見ていた。
「軽いスパーでもと思いましたが……」
「無理そうですね」
「仕方ありません、自信あるゾ、それなり、あんまり に分けますか。基本やる気は買いますので、あくまでも今後の訓練のためのレベル分けをします。あんまり組はカスミノ、それなり組はスメラギにお願いしますかな。トニーは2人をサポート願います。私は自信あるゾ組と手荒な遊びでもしましょうか」
結果、自信あるゾ組は100人だった。
「よーし、いくぜぇ!」
あるゾ組で最初に須永が逸材と認めたのは、人ではなかった。詳細は省くが亜人である。やはり人間との基本スペックが違うことから耐久力、腕力、体力で圧倒的に上回っている。ただ、スピードはそこまでではない。
「ふふ……いいですな」
「くそぉっ……こんだけ殴ってるってのにまったく効いちゃいねえ……」
肩で息をしながらもその瞳はギラギラしている。
「まだ諦めていないようですな。では、プロレスを一つお見せしましょう」
須永は一瞬で相手の背に回り込むと、ぶっといふとももに足をかけ、瞳ギラギラの亜人の両腕をいとも簡単に捻りあげた。
「ぐああああっ!」
「脱出できますかな? この"パロスペシャル"プロレス的には"ウォーズマン式パロスペシャル"からね」
あえてこの表記になる理由は、すでにオリジナルのパロスペシャルがあるからだった。なお、オリジナルは仕掛ける側の向きが逆。背中合わせの形になる。開発者以外では、女子プロレスラーに使い手がいたそうだ。
「こ、こんな……も……の……」
だが外すことはできず、ギブアップするしかなかった。
「これが
須永は心の中で合格通知を出した。
2人目の逸材は、人間の男だった。もともと腕におぼえありで、実戦経験は豊富だが、素手戦闘慣れはしていないという。
「ズアッ!」
それでもなかなかキレのある蹴りと、半円を描くような抜き打ちチョップは即通用する魅力がある。
「やりますナ」
須永はフェイントをかけてから懐に飛び込むが、男はそれを察知したかのように的確にカウンターを打ち込んでくる。そういった攻防を数度繰り返す。
(なるほど、感覚が鋭いのでしょう。今までとはことなる動き……受けは苦手となるかも……)
懸念もあるが、逸材であることは間違いない。
「ですが……」
カウンターの右掌底に対し、須永はカウンターでその腕を掴み、飛びつきながら足を絡めくるんと回転させて、腕十字!
「カウンター返しですな」
外す術を知らない今の状態ではギブアップするしかない。
「避ける技術ばかりではダメですな。受けを学んでください」
プロレスの基本は攻撃ではない。受けが大事なのだ。
そして……この日3人目の逸材は……
「もらったあ!」
隙をついて隠し持っていたナイフで突いてくる。
「まさかの反則攻撃かっ!」
「4カウントまでは反則じゃないんでしょ?」
「ちがいますな。反則負けにならないだけですぞ」
須永は苦笑する。どうやらヒールに向いていそうだ。ルックスはベビー向きだが。
「そんじゃ、いくよー」
そう言ってもう一度ナイフでついてくる。
「甘いですな」
須永はいつの間にか手にしたパイプ椅子をフルスイングしてナイフごとぶっ飛ばした。
「あがが……そ、そんなもん……いつのまに」
手痛いカウンターにダウンしてしまう。
「悪いですなあ」
当然アイテムボックスから取り出したものだ。
「あなたは、もっと強くなります。武器なしでもね」
パイプ椅子を床に設置し、須永は腰を下ろした。
「そうそう、皆さん椅子は殴る道具でも、突く道具でもない。座るためにあるのですよ」
いや、今殴ってたよね? と皆が思ったが、言っていることは正しい。
「なかなか楽しくなりそうですな。選抜はあくまで現時点のものです。志願者はミッチリ鍛えますからご安心を」
逸材以外の1000人を超える練習生達は、まずは騎士団見習いとして鍛えていく。その中で光るものがあれば、須永預かりとして団体の練習生に。そこからデビューを目指してもらうことになるだろう。
こうして帝国プロレスは着実に人材を集めている。
この時点での選手候補
ダンディ須永、スメラギ、カスミノ
亜人の男、人間の男、3人目の逸材
旗揚げ6人確保できてますね。