「よくここまでになってくれました。私は嬉しいですよ」
そういって須永は、目を閉じ10カウントが入るのを待った。
「ただ今の試合は18分40秒、ダブル垂直落下ブレーンバスターにより、勝者ダンディ須永!」
旗揚げ戦のメインイベントは、須永VSスメラギ&カスミノのハンデキャップマッチだった。これは今後タッグマッチを行うことを考えたテストでもある。今日試合はメイン以外全てシングルマッチで行われ、各自デビュー戦とは思えぬパフォーマンスを見せていた。これはメインに抜擢された2人も同様で、全員揃って驚異の新人と言えた。
スメラギとカスミノは同じ日に須永預かりとなった同期だ。2人は息のあったタッグワークで師である須永相手に善戦。
特に、コーナートップに座らせた須永を、カスミノが雪崩式スイングDDTでリングへ突き刺し、そこへスメラギが110キロを超えるヘビー級の体でダイビングボディプレスを決めたシーンはあわやという雰囲気になったものだ。実際にはカウント2.8くらいで返してはいたが。
これは "オリエンタルエクスプレス"と須永に名づけられた連携技で、以後彼らのフィニッシャーとして定着していく。個性の強い他のメンバーとは違い、タッグ屋として魅せていく道を選んでいくのだが、それは先の話だ。
旗揚げ戦のメインに相応しい確かな技術を見せた彼らだったが、次第に須永の術中にはまり、追い込まれていった。
そしてラストは、須永が格の違いを見せ弟子2人を同時に脇に抱えて持ち上げると、容赦なく真っ逆さまにリングに突き刺し、ノックアウト勝ちを決めた。受けの技術を信頼しているからこそ、あえて厳しくいったのだ。
「本日は帝国プロレスの旗揚げ戦にお越しいただきありがとうございました」
弟子2人は氷を首にあてながら、須永とともに礼をして、謝意を示す。
「我々はまだまだ小さな団体です。いつかは帝国の名に相応しい団体になっていきます」
場内から帝国コールがあがる。
「ありがとうございます。我々はこれからも精進して、よりよいプロレスをお見せすることを誓います。本日はありがとうございました」
須永が締めの挨拶を行い、観客も拍手でそれにこたえて、旗揚げ戦は無事に……。
「ちょっと待て。勝手に締めるんじゃない」
威厳のある声が響くと、場内からすかさず、陛下コールが爆発的な勢いで送られた。
登場テーマをかき消すほどの歓声の中、何故か汗だくになっている皇帝ジルクニフが、再びバルコニーに降臨。
「やあ、親愛なる帝国の臣民の諸君、声援ありがとう」
2度目ということもあり、ジルクニフの演説は磨きがかかっていた。
ジルクニフはプロレスを広めるために、地方巡業を行うことに決定したと告げた。
これにより、帝国プロレスは月1回の帝都興行と月2回の地方興行を軸に動いていくことになる。移動に時間がかかることを考えれば妥当なスケジュールだと思われた。
「そうそう、最後に一つだけビッグニュースがあるんだ」
ジルクニフはニヤリと笑い間をとった。
「次回の帝都興行から諸君がよく知ってるあの男が、この帝国プロレスに参戦することになったんだよ。当面は帝都興行のみの参戦になるかな」
誰だろうと皆が首を傾げた。
「陛下……まさか……」
「お、さすがはダンディ。もうわかったのかな?」
「……ここは、スーパーヒールダンディ須永の参戦ですな?」
スーパーヒールダンディ須永……それはダンディ須永の別人格として設定されているいわゆるヒールモードだ。旗揚げ前の特別インタビュー等でも存在は仄めかしている。
「いや、それはそれで面白いとは思うが……」
「違いましたか……残念、あれはあれで楽しいのに」
「ま、そのうちにな。さて、話を元に戻そう。で、新メンバーだが……あれこれ言うよりも紹介した方がはやいだろうからな。帝国プロレスの新メンバー……出てこいや!」
入場口にスモークが炊かれ……新しく作られた入場テーマがかかる。
「ぶおうボンバイエ! ぶおうボンバイエ!」という出だしから始まる、妙に高揚感のある曲だった。元々の曲はリアル世界の伝説のレスラーのものだという。ボンバイエはやっちまえとか、そういう意味らしい。
「紹介しよう。帝国プロレスの新メンバー、皆が大好きな武王ゴ・ギンだ」
「よろしく、ダンディ」
「ようこそ、武王」
リング上で握手を交わす2人。強力なメンバーが加わった。
「では、諸君今日はここまでだ。GOOD LUCKだ」
旗揚げ戦は無事に終わり、帝国プロレスは走り出した。